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竜呑郷バルサス、煌めく勇者の願いごと編
22.幸運とは色んな種類があるもので1
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「……というワケで、そっちも罠があるかも知れないから気を付けて……」
『いやどういうコト!? ツカサ君無事なのっ、無事なんだよね!?』
〝伝令穴”を発見して、無事ブラック達と連絡を取る事が出来た俺達は、今までの事を、多少やんわりした感じで伝えた――――のだが、やはりカンの良いブラックは俺の不穏な気配に気づいていたらしく、声を荒げて来た。
いや、無事です。回復薬も飲んだし自己治癒能力でなんとか皮膚も膜がうっすらと出て来た感じだし、そこまで心配するような事は無かったんですよ。
……と言っても、ブラックは納得しないだろうなぁ……特にこの格好……。
「えーと、少し服がボロボロになっちゃったけど、なんとかなったから安心して」
『ボロボロ……ッ。ま、まさか凄くいやらしい格好になっちゃっ』
「なってない! ちゃんと動きやすい服装になってるから安心しろってば!」
正解ではないが不正解でも無いセリフで必死に回避しようとするが、これから先に合流できるところがあるとしたら……これ、たぶん、すげえ怒られるよなぁ……。
というか、ブラックが騒ぎ出すのは目に見えている。
別にスケベな事になったワケでもないし、ラスターは俺を助けてくれたんだから、服の事で色々と勘繰られて変な火種になったら困る。だけど、今伝えてもブラック達の方の雰囲気が険悪になっちゃうだろうしな……。
色々と考えてしまったが、結局ポカをやらかした俺が悪いんだから、安全な場所で怒る方がブラック達にとっても安全なはずだ。
やっぱり隠しておいて、俺が後で土下座するしかないか……。
『ホントにぃ……?』
「安心しろってば。それにこの状況で発情するなんてラスターがやるはずないだろ」
そう言うと、ラッパ穴の中の声は数秒黙ったが、奥から唸るような音が聞こえた。
『ツカサ君、ホント僕以外の奴にはドンカンだよね……』
「は?」
『まあ、そこが良いとこでもあり悪いとこでもあるんだけど……』
「ドンカンなのが良い事ってどういうことだよ」
普通そういうのって悪い事じゃないのか。
いや、痛みに多少鈍感でいられる方が戦闘では有利なのかな?
しかし鈍感すぎると自分が死にかけているのすら解らなくなるともいうしなぁ~……なんて思っていると、ハァとため息が聞こえた。
『と、も、か、く! ツカサ君、あのクソ貴族と必要以上にくっついたらダメだよ。そんな事したら後で……』
『こらブラック!』
シアンさんの声が聞こえたと思ったら、なにやらヒッとブラックが悲鳴を上げる。
向こう側で何が有ったのか気になったが、それを問いかける前にシアンさんが交代してこちらに謝って来た。
『ごめんなさいねツカサ君……。まったくもう、本当にブラックったら』
「あ、いえいえ……」
『罠の件は了解しました。こちらも気にしつつ進む事にするわ。それと……ツカサ君、ちょっとラスター様を遠ざけて、耳を貸してくれないかしら』
「え? あ、はい。ラスターちょっと離れてて」
「何故だ」
俺の至近距離で話を聞いていたラスターが眉を顰める。
だけどシアンさんの言う事は絶対なのだ。さっさとご退場願おう。
俺よりデカい体をぐいぐいと押して仏頂面のラスターをなんとか遠ざけると、俺は「大丈夫です」と伝えてから耳をラッパの穴に寄せた。
『実は、今の私達の体力も少し心配な所があるの……。ほら、扉の入り口でブラックやラスター様が、曜気を吸い取られたでしょう? あの後、私も杯に曜気を思った以上に吸われたみたいで……どうやら遺跡の動力に使われているらしいけど、そんな大量に奪われるとは思っていなかったわ』
「えっ、だ、大丈夫なんですか?」
『幸いここには水が流れているから、水の中からツカサ君の曜気を貰えば問題ないと思う。ブラックも曜具があるからなんとかなってるけれど……でも、ラスター様は、そんな訳にもいかないと思うの。きっと私と同じように』
「ラスターが……?」
チラリと視線をラスターにやるが、とても疲れているような風には思えない。
だけど、アイツは大人だからなぁ。俺に気付かせまいと意地を張っているのかも。
もしそうだとしたら、俺よりラスターの方が危ないよな。
『だから、もし危険が有ったらツカサ君の曜気を分けてあげて欲しいの。ラスター様は、そういう所をブラックみたいに上手く見せられないと思うから……』
確かに、ラスターにブラックと同じような事は出来ないよな。
ブラックは俺の能力も知っているし、何より気心が知れた関係で、俺の力の危険な部分も気を付けなきゃ行けないところも知っているから、遠慮なしに甘えることだって出来るけど……立場があるラスターは知ってたってそうはいかない。
俺がラスターと同じ立場なら、曜気切れでピンチになっても「気合で何とかする」とか思っちゃって、人に頼ろうとはしないだろう。
男ってのは本来そんなもんだ。仲間だからこそあまり頼りたくないし、自分が凄く頼れるという事を示しておきたいから、ギリギリまで我慢してしまう生き物なのだ。
仲間だったら遠慮なく頼って欲しいけど、自分から頼りたくはない。
むしろ、常に頼られ尊敬されるような存在でありたい。他の奴に勝っていたい。
だから我慢して、困難を楽々耐えきってみせる。いや、そう見せてやる。
……それが、格好いい男ってヤツだから。
その矜持を失いたくないから、意地を張ってしまうんだよな。
ラスターだって、そういう譲れないものがあるに違いない。きっとピンチになって困っても、絶対俺には頼ろうとしないだろう。俺は、ラスターよりも弱いから。……だからこそ、俺から動かなきゃいけないんだよな。
どうせ今だって最低ランクで情けないんだ。出来る事があると言うなら、とことん情けなくなってやろうじゃないか。どうせ俺に失う物は何も無いんだ。それに、相手のプライドを守る事だって、そう悪いもんじゃない。
「わかりました。強引になってでも、俺から渡してみます」
そう答えると、シアンさんはどこかホッとしたように息を吐いた。
『ツカサ君もきっと前に出て戦いたいでしょうに……こんな事ばかりをお願いして、ごめんなさいね。だけど、この遺跡では貴方の【黒曜の使者】の力が最も重要なの。特に、今のラスター様には……』
「へへ、大丈夫ですよ。むしろ、重要とか言って貰えてやる気出ます」
『本当に貴方はいい子ね、ツカサ君……。じゃあ、頼みましたよ。ラスター様も私達と同じグリモアだから、背中に触れるだけでも曜気は吸い取れるはず……あまり来て欲しくはないけれど、その時がきたら……』
「はい! まかしといてください!」
しっかりサポートしてみせますよ、と勢いよく答えると、少し不安そうな声をしていたシアンさんはクスクスと笑ってくれた。
良かった、一応安心だなって思ってくれたらしい。
シアンさんは俺の異世界のお婆ちゃんになってくれた人なんだから、やっぱりここは格好いい事をしてお婆ちゃん孝行もしないとなっ!
まあ、そう言う時が来るとはあんまり考えにくいし、いざやって来たらブラックとクロウにヤイヤイ言われるだろうなとは思うけど……今は考えない事にしよう。
ともかく、俺の責任は重大なのだ。
もうポカなんてやらかしていられない。シアンさんにも頼まれたんだから、今からちゃんとラスターをサポートしないとな!
「よーし。……ロク、俺も頑張るから手伝ってくれるか?」
そう言いながら肩に乗っているロクに問いかけると、相手は嬉しそうにニコニコと笑って、キューと鳴きながらちっちゃくて可愛い両手を思いきり上げてくれた。
んんんんもうそれだけで可愛くて動悸がっ、息切れがっ。
「おい、もう良いか?」
「あっはいはい! じゃあシアンさん、俺達ちょっと休憩したら行きます!」
『ええ、また次の場所で会いましょうね』
その声の後、向こう側の扉が閉まる音が聞こえた。
何か背後からギャーギャー聞こえていた気がするが、面倒臭いからってシアンさんが無理矢理に終わらせてくれたみたいだな。
後が怖いが今はありがたい。
俺達も台座を元に戻して、この後どうするかラスターと向き合った。
「それで……休憩はするけど、どうする?」
「ふむ……そうだな、お前を追っている時に色々と果実を見かけたので、どうせなら夜食をここで食べる事にするか。いくら自己治癒能力があると言っても、体内の曜気が少し減っているからな。お前の体調が万全になるまで待とう」
あ、そうか。ラスターは人や物の気の流れが見えるんだっけ。
属性は分からないとは言うけど、でも自分が使える属性の気は判るわけだし、それを考えたら物凄い能力だよな。おかげで俺のゲージ低下もばれちゃってるけど。
…………俺もラスターの曜気残量ゲージが判ればいいんだけどなあ。
そうしたら、もうちょっと助けになるかも知れないのに。
この能力のせいでこっそり気を注ぐってのも無理だし……何より俺、木属性以外のラスターの属性って知らないしなぁ。
うーん……どうにか聞きださなきゃな……シアンさんに教えて貰えばよかった。
「どうした、急に難しい顔をして」
「あ、いや、なんでも……」
「さては……俺の顔が近くにある事で、自分の顔の平凡さを思い返してしまい悔やんでいたのか? ハハハ、安心しろツカサ。お前は美しくなくとも充分愛らしいぞ」
「だーっ! バカッ、バカこのバカ!!」
また頭のいい罵倒が出来ずにアホみたいな返しをしてしまうが、しかしいつも通りのラスターの言葉にちょっとホッとしてしまった俺だった。
……ま、まあ、ラスターはこういう奴だからな。
変にシリアスになられるよりも、こっちのほうが良いっていうか……。
「とにかく、あっちだ。さあ、言ってみよう」
「う、うん」
「キュゥー!」
ロクショウがちょっとだけヨダレを垂らしてピョンピョンしている。
その超絶可愛いモーションに一瞬天国に行きかけながらも、俺は首を振って、今度こそ罠に掛からないようにラスターの背後を慎重について行った。
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