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神殿都市アーゲイア、甲花捧ぐは寂睡の使徒編
30.考える事が多過ぎると思考力が低下する
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――その後。戻ってきた領主の館の住人達に、俺達は今までの事を話した。
と言っても、最初に話したのは“事情を知っていそうな執事”とネストルさんにだけだったけど……俺達の話を聞くと、二人とも納得してくれた。
彼ら曰く、なんとなくだけどそういう予感はしていたのだそうだ。
特に執事は前任者から事の次第を聞かされて覚悟していたらしく、ネレウスさんが正気に戻って救われたと言うくだりで膝をついて号泣し、神に感謝していた。
そうだよな……そもそも、領主の父親と子供を世話する役目の人間が、地下神殿の事も父親の末路も知らないのは変だ。この執事は一番近くでネレウスさんの病状を見ていた人なんだし、もしかしたら彼だけは、何らかの方法で真実を知っていたのかも知れない。
そうでもなければ、俺達の話を聞いてすぐに納得なんてしないだろうしなぁ……。ネレウスさんが巨人になった、なんて夢みたいな話なワケだし。
でも、ネストルさん以外の人が俺達の話を信じてくれて良かったよ。
だってこの件は、流石にネストルさんだけではどうにも出来ないんだから。
やはり、今の状況を乗り切るには、大人の手助けが必要だ。ネストルさんは大人っぽいけど、色々な判断をするには幼すぎる。まあ、そのために執事に話してたって事なんだろうけど……ううむ、ネレウスさんも後々の事を考えて、色んな事を用意していたんだな。それを思うと悲しくも有ったが、まあ杞憂になったからそれは良いか。
これからは、ネレウスさんも息子をサポートできるだろうしな。
……しかし、そこまで考えると館の人達の今までの心境を想ってしまい胸が痛む。
「いつか主人が病気で死ぬ」という恐怖を抱えたままで、その不安を隠して今まで仕えていたなんて、かなりつらかっただろう。
実際、ネストルさん一人だけに俺達の世話を任せて、他の人達はネレウスさんの事を看てたわけだから、彼らも心配で堪らなかったはずだ。すべてを知っている執事でさえもほとんど付きっ切りだったんだから、恐らく彼らの認識では、もう病で死ぬのも時間の問題で、そのことに焦っていたんだろう。
だから、ついついネレウスさんを一人にしてしまっていた、と……。
そう考えると、執事がこの状況に物凄く喜んだのも当然かもしれない。
まあだけど、ネレウスさんが百眼の巨人になった事は、他の人には言えないだろうなぁ……。この街の人は忘れ去っているけど、でも「紫色を忌むべき色としている」という慣習は残っているワケだし、実際ブラックはその事に酷く傷つけられていた。
あの恐れようが、一朝一夕で治るとは思えない。
……伝承は消えても、慣習は残る。
例え「巨人」と化した事に驚かなかったとしても、彼らはネレウスさんの体に埋め込まれた無数の「紫の瞳」には恐怖してしまうだろう。
迷信だと解っていても、いざそれに直面すれば怖いと思ってしまうのが人間だ。
それに、この世界は迷信が真実にもなるような世界なワケだし……一歩間違ったら再びネレウスさんが恐怖の対象として討伐されかねない。
そうなると領主一族の命が危うい。俺は一族郎党全員処刑とか見たくないぞ。
だから、ネストルさんと執事以外の人間に教えるのはやめておいた。
せっかくネレウスさんが命を取り留めたんだから、なんらかの作戦を考えてから、他の人に正体を明かしたって遅くは無いだろう。
そんなワケで、ネレウスさんは地下神殿で親子の再会を果たし、ひとまずのところは丸く収まったワケだが……実際問題、ここでハッピーエンドでハイおしまいってはならないワケで……。
「結局の所、俺達がやらなきゃいけなかった【クレオプス】の病に関しては、未だに解決できてないし、しかもネレウスさんの事を報告するにしてもどう言えばいいのかって感じだし、そもそもあの胡散臭い王様にコレを教えて大丈夫なのかって問題もあるし……」
ああもう頭が痛い。
ベッドでゴロゴロしながら頭を抱えていると、隣のベッドに座っているブラックが、何だか不貞腐れたような顔をして「むう」と唸った。
「そんなこと言ったって、どうしようも無くない? だって、クレオプスの話はどう考えても『花の寿命による死』だろうし、そうなると解決方法はあの領主が祭壇に入って目を捧げるしかないんだよ。でも今の流れだと、それはもう無理じゃないか」
「うーん……そりゃ、そうだけど……」
「それに、報告って言ったって正直に言うしかないんじゃないの。どうせ隠したって全部後でバレるだろうし、巨人に関しての調査も行われるはずだ。その時に、僕達だって絶対尋問されるよ。そうしたら、隠す意味なんてなくなるじゃないか」
「ぐ、ぐうう……」
ブラックの言う事にぐうの音しか出ない。
確かにその通りだ。
クレオプスが何故あの場所にだけ生えるのかという事と、その毒性の理由を考えたなら……どうしても、結論が「呪いに満ちた目が種となり芽吹いたから」としか出て来ない。そうなると、クレオプスが次々に色が薄くなり始めたのは、ただ単に「土の中に埋められている目の寿命が尽きたから」と言うことになるし、それを解決するとなると……もう、アイディアが一つしか出てこない。
それに、巨人になったネレウスさんの件も何も反論出来ないのが悔しい……。
ああそうだよな、あれだけ騒ぎになったら、どう考えても調査の為に王都から兵士達が派遣されてくるだろうし、街の人に聞き取りだって絶対にされるだろう。
となれば、俺達が無傷で歩いて来た事も絶対に言われる。
なんなら「紫の瞳を持つ男がいた、巨人が化けた奴じゃないか」なんて言われかねない。いや、絶対に言われる。俺のこのなけなしの全財産を掛けても良い。
そうなれば、当然あの意地悪な王様の耳にも入るだろう。
館にも調査の手が入り、結局ネレウスさんは発見されてしまうし……これも最悪の場合、やっぱり彼が討伐されてしまいかねない。
今回の一件を隠しておくなんて、絶対に不可能だった。
ああでもそれならどうすりゃいいんだよぉ……。
言わなければネレウスさんが危ない。でも、正直に報告してもネレウスさんが無事に済むのかどうか解らない。そもそも、ネレウスさんは誰かに何かされて、あの姿になってしまったっぽいんだけど、その「黒いローブの誰か」もよく解らないし……。
「ああああ……もうどうすりゃいいんだよぉお……」
全てが丸く収まったハズなのに、俺達を取り囲む事情がすんなりハッピーエンドで終わらせてくれない。現実はなんて面倒臭いんだ。
でも、関わった以上どうにかしてネレウスさん達を救わないと……。
「ううぅう……」
しかし、何も思い浮かばない。
今日は色々あり過ぎて、もう頭がパンクしてしまいそうだった。
……ええと、とにかく明日もう一度ネレウスさんの様子を見て、落ち着いたらあの「黒いローブの誰か」の詳しい話を聞いて、それから王様への報告を考えて……
「もぉっ、ツカサ君たら!」
「えっ!?」
急に隣から強く声を掛けられて、思わず体がビクッと跳ねる。
どうやら知らない内に深く考え込んでいたらしく、ブラックが何度も読んでいるのに気付かなかったらしい。
いやあスマンスマンとブラックの方を向くと、相手は大股を広げて男らしく座ったまま、寝転んでいる俺を姿勢を低くして半目で睨んでいた。
「ツカサ君、部屋に戻って来てからそればっかり……」
「そればっかりって……」
「あの親子の事だよ! もーっ、ずっとそっちばっかりで、僕との約束なんて全っ然思い出してくれないじゃないかっ。ツカサ君のバカ!」
「バカってお前、大事なコトなんだからしょうがないだろ……」
今の俺達は思いっきり巻き込まれちゃってるんだし、今更無視なんて出来ないよ。
それに、ネストルさんを泣かせるのはもう嫌だ。子供は笑顔で居るのが一番いいんだよ。関わってしまった以上、俺には最大限あの子を幸せにする義務がある。
例え一時の縁だったとしても、そこは男の矜持としてキッチリしないと。
……しかし、俺のそんな気持ちはブラックにとってはどうでもいいようで。
「大事なコトってなに。僕より大事なこと? 僕との約束より大事なことなの?」
菫色の綺麗な目をドロドロとした暗い色に染めながら、ブラックは俺を見る。
姿勢を低くして座っているせいで、なんだかヤンキーめいた感じだが、まあ人相が悪人みたいだし仕方がないか……じゃなくて、僕との約束ってなんだっけ。
「約束って……」
そう言いかけて、俺は「アッ」と言いそうになるのを堪える。
――――そっ、そうだ、色々あり過ぎてすっかり忘れていた。
俺は、ブラックに約束しちまったんだ。
……落ち着いたら、ブラックを思いっきり甘やかすって……。
「思い出した?」
「ぅ……」
そ、そうだった……い、今更だけど、俺ってば何言っちゃってんだ……。
甘やかすなんて、どう考えてもロクな事にならないじゃないか。なんでこう、頭に血が昇ってる時にそんな約束ホイホイ取り付けちゃうんだよ俺は!
ブラックがまともな甘え方をするなんて、どう考えても有り得ないのにぃいい!
「あはっ……ツカサ君なんで顔赤くしてるの? あ~……もしかして、やらしいコト考えちゃったのぉ?」
「ばっ……! 違っ、そ、そんなワケあるか!!」
さっきまで睨むような顔だったのに、今はもうニヤニヤと笑っている。
この野郎、やっぱり怒ってるフリをだったのかよ。コイツはいつもそうだ。思わず頭にカッと血が昇って言葉が喉に閊えてしまうが、ブラックはそんな俺の様子をお気に召したのか、ゆっくりと立ち上がって俺のベッドに近付いてきた。
「嬉しいよ……ツカサ君、僕に“顔が赤くなるようなこと”をしてくれるんだね……」
「う……や……そ、そんな……」
「僕、悲しい事があっても、ツカサ君が甘やかしてくれると思って、ずっと我慢したんだよ……? ねえ……褒めてくれるよね……?」
そう言いながら、ブラックは俺に悲しげな顔を近付けて来る。
「う……うぅ……っ」
男らしい太い眉を悲しげに歪めて、綺麗な菫色の目を潤ませながら近付いて来る。
肩を掴まれたけど、震えるだけで何も出来ない。
ブラックに見つめられただけなのに、体が固まってしまったかのようだ。結局、俺は何も出来ずにベッドに優しく押し倒されてしまった。
「ツカサ君……僕のこと、たくさん甘やかしてくれるよね……?」
ベッドの浮き沈みに緩く体を揺らして沈む。そんな俺の視界の端に、ブラックは両手を付いて……再び、俺の顔へと自分の顔を近付けて来た。
……高い鼻梁に、逞しい輪郭。口は、なにかを期待するように小さく開いていて、その中に蠢く物を見たような気がして俺は思わず息を呑んだ。
知らずに、胸がドキドキしてくる。体が熱くなって、息がし辛くなった。
この感覚はもう、分かっている。
分かっているけど、どうしても恥ずかしくて、何も言えなくて。
「僕のお願い……聞いて……ね、ツカサ君……」
そう言いながら、ブラックは顔を近付けて……キスを、してくる。
「んっ……ぅ……」
少しカサついた、熱い唇。
ぐっとおしつけられると無精髭が当たって来てチクチクして、それが何故か俺の体を刺激するみたいで、思わず拳を握ってしまった。
――――ここで、こんな事されながらの「お願い」なんて、どう考えても……。
「ツカサ君…………」
そうは思うけど……ブラックにこうして触れられて、懇願されると……もう、俺は強く拒否する事なんて出来なくなってしまっていた。
→
※遅れて申し訳ないです…!!。゚(゚´Д`゚)゚。
次はエロです!(∩`・ω・´⊂)シュッ
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