異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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神滅塔ホロロゲイオン、緑土成すは迷い子の慟哭編

17.永い眠りの終わりに 1

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※すみませんちょっと時間が足りなくて書き切れなかった…分けます!(;´Д`)





 
 
 氷の城にこんなに人がいる所なんて、初めて見たかもしれない。

 そんな失礼な事を思ってしまう位、城の大広間に集まった妖精達の人数は凄い事になっていた。

 街の上位妖精達や、おそらく貴族なのであろうきらびやかな服装の妖精、それに森に居た妖精達も集まっていて、大広間は人でごった返している。
 「人族風の宴会」と言う事で、沢山の料理が並んではいるが……実際、妖精達はお菓子の方が好きなので、オーデル皇国のお菓子やいにしえのレシピに乗っ取った伝統的なものが多く並んでいて、人族様用の料理はわりと少なめだった。

 いやまあ当然だけどね、でもこうも甘いお菓子続きだと流石にキツいな。

 あと……大勢の妖精達に代わる代わる詰め寄られるのもちょっと……。

「あああ……ブラックもクロウもあんなに女子にもみくちゃにされて……」

 俺はその“詰め寄り”にいち早く危機感を感じてウィリー爺ちゃんの玉座の後ろに避難したので、今は安心して料理をウマーしているのだが……逃げ遅れたブラック達はと言うと、うらやにくらしい事に妖精の女子達に囲まれていた。
 二人とも顔が死んでいるが、それでも女子が群がるんだからムカツクよな。
 俺なんてまとわりついて来る奴は男しかいなかったのに……うぐぐ……。

「ツカサも仲間たちのように前に出たらどうだ。皆お前と話したがっておるぞ」
「い、いえ……俺はちょっと……。こう言うの向いてないんで……」

 ブラックとクロウが恨めしそうに俺を睨んでいるが、俺だって女の子にモテモテなお前らが憎くて仕方ないんだから御相子だろう。
 そんな事を思っていたら、とうとう中年どもは女の子の山に埋もれてしまった。

「ええのう。若い子にモテモテで」
「本当ですね……あとでブン殴っておきますわあいつら」

 どうせ後で「こんなの僕の本意じゃないよお」とか言い出すんだろうけど、俺にとっては可愛い女性にモテるだけで悪だ悪!!
 そのうえ女に興味ありませ~んなんて態度してるから余計にムカつくんだよ。

 何なんだお前らは、男としてのスケベ心は無くなっちまったのか!? 俺と恋人同士と言うのとは別にして、おっぱいには全人類が逆らえないもんだろう!?
 お前らはおっぱいで育ったのを否定する気か! 正気なのか!!
 いやそんな話じゃ無く!

 ああもうとにかくブラック達のモテ方が憎らしい。ちくしょう、この場に俺一人だけなら、女の子達も俺に振り向いてくれたかも知れないのにぃいい……。

「ツカサ、先程から凄い顔でギリギリしておるが……そんなに恋人達に嫉妬」
「違います。女の子を二人めしてやがるのに殺意を抱いているだけです」
「そ、そうか……だが、それは仕方がないとは思うぞ。あやつらとお主は“モテ”る種類が違うからのう」
「種類?」

 ウィリー爺ちゃんの後ろでコソコソとお菓子を摘まんでいた俺は、その言葉にちょっとだけ顔を出す。
 ざわつく会場で、ウィリー爺ちゃんは口に手を当てながら教えてくれた。

「あやつらは妖精から見ると精力がみなぎっておるからのう……妖精の女も人族と同じように、ほとんどが子を成すのを望む。それゆえに、精力が強い男は女の妖精に好かれやすいのだ」
「なるほど……」

 確かに、言われてみればブラック達は死ぬほど精力が強いもんな……。
 歳は俺の方が若いし下半身だって強いはずなのに、ブラックはそんな若い俺を二馬身にばしん三馬身さんばしんも突き離すくらいの絶倫王だし……。
 クロウも「獣人は一回のセックスで半日は消費するのが普通」とか恐ろしい事を言ってたから、恐らくブラックといい勝負だろう。
 そんなん俺が勝てるわけがないわい。化け物かよ。

 うむむ……要するに、妖精は大地の気や曜気から造られた種族だから、無意識に気の流れを読み取って、自然とブラック達にかれちゃうって事なんだろうか。
 なんか男として負けた感じがして余計に悲しくなるんだけど、あれだからね、俺が普通で基準であって、ブラック達が異常なだけなんだからね!?

「……じゃあ、俺がモテないのはブラック達がいるからなんです?」

 悲しくなる心を抑えながら問うと、ウィリー爺ちゃんは笑顔で答えた。

「ツカサの場合は、容姿もそうだが他人への接し方のせいで、子を成したいと思う者よりも“子を産ませたい”と思う者が寄って来るのだろう」
「え……っと…………」
「要するに、お主を嫁にしたいと言う下心がある奴らが来ていると言う事だ」
「勘弁して下さい……」

 思わず「はたきまわすぞ野郎ども」と素直に言いそうになった口を押えて、必死に柔らかい言葉に言い換える。本当にギリギリだった。

 いや、だってお前さん、俺を嫁にしたいって……。
 この世界じゃ男を嫁にするなんて普通の事だとは解っているが、しかし、直球でそんな事を言われるとやっぱりまだまだ拒否感が出て来てしまう。
 先程から女の子の事ばかりを考えていたので、ウィリー爺ちゃんの衝撃的な言葉が余計に心に突き刺さってノックダウンしそうだった。

 子を成したい女子がいるのに、俺に近寄って来るって……それ、俺の方がチョロそうって思われてるって事じゃないのか……?
 この世界の組み敷かれる男って、女よりチョロいと思われてるんだろうか……。

 それって男の沽券こけんに関わる問題なのではないかと悩んでいると、ウィリー爺ちゃんがぐるりと広間を見渡して、俺に話しかけてきた。

「ふむ、皆だいぶ酔いが回ってきたようだな。これならツカサが這い出ても大丈夫ではないかの」
「あ……確かに皆さんぐだぐだしてきてますね……」

 俺も玉座の影から周囲を見てみるが、確かに妖精達は酒を飲み過ぎたのか、大多数だいたすうがへべれけになっていて、陽気ではあるものの動きは鈍くなっている。
 これなら俺でも逃げられるかも……。

「さ、今まで食べられなかった分を食べて来ると良い」
「はっ、はい、ありがとうございます!」

 これはチャンスだとばかりに飛び出した俺は、先程食べれなかった人族用の食事を皿にめいっぱい盛り付けると、ありがたくムシャムシャ頂いた。
 ああ、甘いお菓子は好きだけど、やっぱ食事って言ったらこれですよこれ。
 しょっぱい肉にこってりのスープ! パンがパサパサだって構わない!!
 ビバ塩分、ブラボー脂肪分!!

 途中、背が低いせいでテーブルの料理を取り辛そうにしていたドワーフ的な妖精さん達にも料理を分けながら、思う存分堪能たんのうしていると、やっとこさ女子の山から抜け出したブラックがふらふらと俺に近付いてきた。

「つ、ツカサ君……いい度胸してるね……」
「いい度胸って何が。あ、お前もこの干し肉の和え物食べる?」
「わーいもちろん! ……ってそうじゃなくて!! 恋人が他の奴に取られそうになってるのに、どーして君は助けに来てくれないんだい!!」
「お前嫌だったら自力で抜け出せるだろ、大人なんだから。それに、あんな可愛い女の子達に囲まれてるのに、逃げるなんて何事だ。憎らしさは有っても助けようと思う気持ちなんぞ微塵みじんも起こらんわいコンチクショウ」

 俺はともかく、お前は“長年のケイケン”で女性を扱う方法も知ってんだろ。
 だったらそので適当にあしらえばいいじゃん。俺知らないもんね。
 恋人だろうと何だろうと、ヤリチン野郎の肩なんて持ってたまるか。

 そう思ってツンケンした態度でブラックを無視していると……何を思ったのか、またもやこのオッサンは勘違いし始めた。

「もしかして……またヤキモチ焼いてくれたの……?」
「はぁ?」
「ふ、ふふふ……。なぁんだ、そうならそうと言ってくれればいいのに~! んも~、ツカサ君ったら口下手なんだから~」
「何この人……なんでこんな自信満々なの……っておい! 離せ!! 飯が零れるだろバカ!」
「駄目だよ、僕を放っておいた罰だからね」

 何がバツだ! 人の気も知らないでニマニマして抱き着いてきやがって!

 思い通りになってたまるかと皿を持った状態で必死に抵抗するが、飯を零す事が出来ない俺の動きは自然と抑えられてしまい、難なく抱き着かれしまう。

 衆人環視の中で何をするかと威嚇いかくするが、そんな事で大人しくなるなら俺も苦労してないわけで……。

 なすすべもなく背後から抱き着かれる俺に、沢山の視線が突き刺さる。
 う、うう……お願いだから見んといてくだしあ……。

「ほらツカサ君、僕達のアツアツっぷりに全妖精が嫉妬してるよ」
「誰かこのバカに教育的指導して……」

 そうじゃねーよ非常識な行動にドンビキしてんだよ……。
 ああもうほら、お前を狙ってる女子妖精達が物凄い顔で俺の事を睨んでるじゃねーか……相手にもされてないのに、そのうえ憎まれるって俺可哀想すぎない。
 俺はただ女の子に順当にモテたいだけなのに、どうしてこうなるんだ……。

「おい、ツカサが困っているだろう。やめろこの変態」
「うおっ!?」

 背後で不機嫌そうな低い声が聞こえたと同時、俺の体が急に軽くなる。
 何事かと思ったら、なんとクロウがブラックを引き剥がしていた!

 でかしたクロウ……! と俺が褒めようとするより先に、少し遠巻きに見ていた妖精の男衆がやんややんやとクロウの事をはやし立てる。
 良いぞよくやったと言わんばかりの歓声に、俺はまた気が遠くなりそうだったが、必死に己を奮い立たせてさっと距離を取った。

「ツカサが困っているだろう、やめろブラック」
「こらっ、離せこの駄熊! 恋人なのに何を困る事があるんだよ!」
「宴の席で必要以上に仲睦なかむつまじくするのは、例え主賓でも好ましくないぞ」
「ぐっ……貴族みたいな事をいいやがって……」

 だけどブラックも一理あると思ってしまったのか、先程より声が弱い。
 俺には上流階級のマナーなんて良く解らないけど、何故かそういう事を熟知しているらしいブラックとクロウは、マナー違反を指摘されると真面目になってしまうようだ。やっぱそれもたっとい一族の教育の賜物たまものなのかなあ。

 だらしない恰好をしていても、ブラックは“導きの鍵の一族”と言う、超凄い一族の一人だったんだもんな……まあそりゃ礼儀はちゃんとしてるわな。
 行儀について怒られるとついつい反省しちゃう所は、ちょっと可愛いかも。
 ……じゃなくて。

「クロウ、そのまま抑えといてくれよ! 俺はちょっと中庭に出てくる」

 妖精達もぐでぐでの今のうちに、しこたま料理を持って逃げてしまおう。
 そう思って皿にボリュームのありそうな料理を乗せまくる俺に、暴れるブラックをいなしながらクロウが不思議そうに首を傾げる。

「庭に行くのに食い物を持って行くのか」
「ロクに食べさせてやりたいんだよ。いつ行こうかと思ってたけど、今がちょうど良さそうだと思ってさ。だから、後の事は頼むな」

 そう言うと、クロウはちょっとだけしょぼんと耳を垂らしたが、俺に頼られたのが嬉しかったのか、すぐに耳を立てて鼻息荒く頷いた。

「うむ、任せておけ」

 無表情でもムフーと息を漏らして耳を震わせる様に不覚にもキュンとしながら、俺はブラックにあかんべをしてその場を離れた。

「つっ、ツカサ君!」
「ふんだ、お前なんか女の子に囲まれてヘラヘラしてろ! ばーかばーか!」

 俺の気持ちも知らないで、更に女の子妖精達の好感度をさげやがって。
 しばらくそこで反省してるが良いわと高笑いを披露して、俺は山盛りの料理を抱えながら大広間から脱出した。
 後が怖いような気もするけど……まあ何とかなるだろう。俺悪くないし。
 それよりも今はロクだ。

 さあ、庭で待たせているロクに、早く料理を持って行ってやらないとな!









 
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