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聖都バルバラ、祝福を囲うは妖精の輪編
22.開放的ってそういう意味じゃなくてですね1
しおりを挟む旅程二日目。
昨晩はモンスターの襲来も無くぐっすり眠る事が出来、俺達は今日も順調に進路を進めていた。
昨日の事が有ってから、アドニスには微妙に変化が生じたようで、なんだか協力的になったような気がする。……とは言え、ブラックとはまだ犬猿の仲だしクロウとも必要以上の事は話していないけど、これはこれで進歩だよな。
相変わらず俺がブラックと話したらアドニスが次の話題を奪うように話して来たり、ブラックもそれに対抗して話題を引っ張って俺とアドニスに会話させないようにしていたけど、まあ手が出てないので良しとする。
口喧嘩出来てるならまだ仲が良くなる可能性はあるだろう。うん。
そんなこんなで進んでいると、前方になにやら鬱蒼とした森が見え始めた。
あそこが、この国に大地の気を流す泉……【神泉郷】がある森か。アドニスの話では森の端から端まで移動するのに一日かかるって事だったから、片道三日でぴったりだな。
森の妖精達の集落は神泉郷に近い所に有るらしいので、今日は大事を取って昼前に森の中でキャンプする事にした。
万が一迷ったら困るもんな。
てな訳で、俺は地図上に記されている川に水汲みに行ったり、今日もアドニスに付きっきりで果物や野草なんかの採取を手伝ってもらい、夕食を終えた。
夜も更けて来たし、あとはもう寝るだけ……なんだが。
「…………ねむれん」
大人達三人はそれぞれ距離を開けて木に寄りかかったり寝転がったりして眠っているが、とてもじゃないが俺は眠れた物ではない。
その理由はと言うと……ひとえに、身体が気持ち悪いからだった。
平たく言うと風呂に入りたいのだ。風呂に。
だって、俺は今日も筋肉を鍛えるために台車をゴロゴロしたり、精力的に夕食の食材を採取したりしていて、物凄く汗だくなのだ。汗臭いのだ。
今まで寒い所ばかり移動していたし、彩宮ではあまり動かない生活だったから、汗なんて出ようも無かったが……この妖精の国は違う。寒いとは言えど、この国の気候は外よりも暖かいのだ。
だもんで汗がだらだら出ちゃったりする訳で、そうなると服の臭いも何だか気になる訳で……自分で撒いた種だが気になって仕方がない。
だって、ブラック達はほとんど汗かいてないんだぞ。
その中で俺だけ汗だくで汗臭いってなんか嫌じゃん……。
森の妖精に会う前にどうにかしないと……川で水浴びでもするかな。でもなあ、肌寒いし風邪引いちゃいそうだし……。
うんうん悩みつつ弱火になっている焚き火を見やると、向こう側でスヤスヤ寝ているブラックが目に入った。
そうだ。寒いんなら、寒くないように川の水を温めればいい。
今なら三人とも寝てるから、誰にも邪魔されないぞ。炎の曜術の練習にもなるし一石二鳥じゃないか。ナイスアイディア俺!
よーし、そうと決まったらいっちょやってみるか。
俺は音を立てないようにじりじりと起き上がると、鈍足な自分の足にラピッドをかけて、音を立てないようにその場から離れた。
森の小川はキャンプから少し離れているから、多少音を立てても平気だろう。
こそこそと背後を振り返りながら川に辿り着き、俺はまず小川のすぐ横に風呂場になる窪みを作る事にした。
とは言っても非力な俺には地面を掘る事など出来ないので、グロウで木の蔓を使って穴を掘り、大きな葉っぱと石を敷き詰め水が零れないようにしてから、川の水をアクアで増やしてその窪みへと引き入れた。
ふっふっふ、二級ともなればこれもんよ。
今までこう言う風に使った事が無かったけど、ここまで上手く出来るんなら、俺にもサバイバル生活が出来るかもしれないな!
「さて、問題は炎の曜術だが…………」
うまく使えるかな。水を温める感じで……うーむ、こう言うのって名前が有ればはっきり使えそうなんだけど。
「俺、英語もあんまり得意じゃないんだよなあ……」
この世界の呪文は英語チックだけど、実際の所俺はゲームで使われているような単語とかしか覚えていない。だからと言って、この世界で簡単な単語じゃあ味気ないし、せっかくのファンタジーなんだからもうちょっと凝ってみたいし……。
「よし、そうだ! ウォームってのが有ったよな!」
ウォーム、つまり日本語で「あったかい」だ。
俺はブラックのように曜気をうまく扱えないから、自分の言葉でイメージを抑制して、徐々にその言葉に慣らして行こう。この世界の呪文や術の名は、脳内の想像を固定するという大事な役割が有る。だから、何度も使ってイメージを固定させるのは真っ当な練習法なのだ。
岩風呂の中に溜まった水に手を当てて、俺は早速水が沸騰して熱くなるイメージを作りながら、「ウォーム」と呪文の名前を唱えてみた。と。
「お、おお?」
なんか手の周辺があったかい。
これは成功したのでは? と思っていると……水がボコボコ泡立ち始めた。
ふ、沸騰……うわ!! そうだ! 沸騰させちゃ駄目じゃん!
沸騰して熱くなるイメージって、馬鹿か俺は!!
「うわちゃちゃちゃちゃ! ひいいっ、あ、あっためすぎたぁ!!」
慌てて水でうめて確認し、適温になった事に俺はホッとした。
はあ、ほんとびっくりしたよ……。
やっぱ駄目だなあ、ブラックみたいに炎の曜術を使い慣れてなきゃ一発で上手く行かないみたいだ。うーむ、やっぱ水と木の曜術以外も練習しなきゃな。
でもまあ、これで俺も段々とチート能力者っぽくなってきたかな!?
……風呂を沸かしたぐらいでって言われるとちょっと悲しいけど……うう、誰も突っ込んでくれる人がいないから悲しい。早く風呂入ろう。
「あ、そうだ。どうせだったら服も洗おうかな」
折角のお湯なんだし、水で洗うよりはマシなはずだ。
お湯が温くなってないか確かめつつ、俺は服や下着を素っ裸で洗い、適当にそこらへんの枝に掛けておいた。服が乾かないかもしれんので、そよ風を起こす術――【ブリーズ】を逐一かけておくか。気の付加術ってほんと便利だ。
掛け湯をして温度を確かめ、湯気を立てるお湯に爪先をそっと入れてみる。
そこから、ゆっくりと湯船へ腰を下ろした。
「っあぁ~~~……めっちゃ良い湯加減じゃんこれ……!」
露天風呂! まさしくこれは露天風呂ですよおっかさん!
なになに、俺ってば超完璧じゃないの。これは意外と第二の飯のタネになるんじゃないか? 湯船さえ用意できれば移動式風呂屋としてやっていけるかも。
元手は湯船代とか水代程度だろうし、それを考えるとめっちゃいい商売では。
ただ、問題点としては需要と排水した水をどうするかってのが……。
「うーん、カネにするとなると、ちょっと難しいかな?」
でも、緊急用の手段として考えておこう。こんなセコい商売に黒曜の使者の力を使うと怒られるかもしれないが、生きていく為なんだから許してほしいと思う。
大きな私利私欲じゃないから見逃してくれい。
「はー……しかし本当気持ちいいわ……」
石鹸があればもうちょっとスッキリしたんだけど、無い物は仕方ない。
こまめにブリーズを掛けて服を乾かしながらのんびりしていると、なにやら森の方からガサガサと音が聞こえた。
「…………?」
なんだろ。この国って動物はいないし……だとしたら、三人の内の誰かか、この森に棲んでる妖精かな。どっちにしろ逃げる事じゃないか。
もし相手が妖精で、風呂を作った怒られたら素直に謝ろう。
そんな事を考えながら音がした方をじっと見ていると、音の主が草木をかき分けてこちらへと姿を現した。
「あ、なんだ。クロウじゃん」
薄暗いから輪郭ぐらいしか見えないけど、熊耳の長身だからすぐ解ったよ。
なんだ、俺が居ないのに気付いて探しに来てくれたんだな。
「ツカサ、こんな所にいたのか……というか、なんだそれは」
「え? これ? 俺が自作した露天風呂だよ、露天風呂!」
目を丸くするクロウに作り方を説明すると、相手は熊耳をぴるぴると動かしながらおっかなびっくりと言った様子で湯船に指を入れたり出したりしていた。
「ふろ……ツカサは凄いな。こんな事まで出来るなんて」
「本当は完璧な岩風呂にしたかったんだけど、俺には作り方が解らなくてさ」
「それなら今度オレが作ってやる。ただし、土の曜気があればだが」
「あ、そっか。クロウも土の曜術師だもんな。じゃあ帰ったら頼むよ」
この際だし、クロウに土の曜術を習うってのもいいよな。
クロウならちゃんと教えてくれそう。
そう思いながらしゃがみこんでいる相手に笑いかけると、クロウは一度別の方向を見てから、俺をじっと見つめて来た。
「ツカサ、オレも入っていいか」
「別にいいけど……クロウって風呂好きだったっけ?」
「ツカサが入ってるから入りたくなった」
そう言いながら服を脱ぎ始める相手をぽかんと見上げる。
なんだろ、あれかな。人が舐めてるアイスが美味しそうに見える現象?
まあ、風呂に入ること自体は清潔になるから良い事だし、それは構わないが。
「あ、そうそう。ちゃんと体にお湯をかけてから入ってこいよ」
「湯を? 良く解らんが解った」
その場にぽいぽいと服を脱ぎ捨て、クロウは素っ裸で湯を体に掛ける。
恐る恐る足を付けるのが何だか可愛くてちょっと笑ってしまうと、クロウはムッとしたのか勢いよく湯船に入ってきた。
「ぶわっ」
だっぱんと音がしてお湯が思いっきり顔に掛かる。
てめー! なにしやがるかー!
「ぶはっごほっ、クロウ!」
「ツカサ、薄暗くてあまり雰囲気が出ないな」
「こ、この……いやまあいい。じゃあ蝋燭でもつけるか」
この国って月も星も無い世界なのに、夜は薄暗い程度で周囲がぼんやりと見えるから、灯りはいらないと思ってたんだけど……言われてみると確かに味気ないな。
俺は湯船に入ったままでバッグを探り、蝋燭台を取り出した。
水琅石のランプは重いからスクナビナッツに入れてて、取り出すのがめんどい。
炎の曜術のフレイムで蝋燭に火を灯して近くに持ってくると、ぼんやりと対面にいる相手の姿が浮かび上がった。
「む、やはり灯りが有った方が雰囲気が出るな」
「クロウって意外とそう言うの気にするタイプ……いや、そういう奴だったのか」
「父上が雰囲気を語るのが好きだったからな。野外風呂には酒とつまみと満天の星の群れが欲しいだとか、灯りは暗めの方が良いだとか」
「どこのオッサンもだいたい同じこと言うんだな……」
そう言うのを気にしだす境目ってどこからなんだろう……?
俺はまだオッサン臭くなってないと思いたい。だってほら、俺別に酒欲しくないし。体が綺麗になるだけで満足してましたし!
女の子にモテずにオッサンになるなんてそれはちょっと……。
「ツカサの父上はそう言う事は言わないのか」
「んー、俺、父さんと露天風呂入った事ないからなあ。ドラム缶風呂はあるけど」
「ど、ドラムガン? なんだその強そうな風呂は」
「いやえっと……あの、樽! 俺一人まるまる入れちゃう大樽の風呂のこと! 昔父さんに無理矢理入らされてさー。樽がたき火で熱くなって手を火傷しないかって怖いばっかりで、素直に楽しめなかったよ」
実際そんな事は無かったんだけど、まあヒヤヒヤするよな。
婆ちゃん家の五右衛門風呂だって、最初に見た時は浴槽まで死ぬほど熱くなるんじゃないかって怖くて、浴槽に手を置いてお湯に入れなかったし。
「ふっ、オレも昔風呂が嫌いだったから、野外風呂なんて冷たいばかりだと思って入りたがらず逃げたものだった」
「獣人って風呂とか苦手なの?」
「全部がそうという訳ではないし、父上は無類の風呂好きだったが、大抵の獣人はあまり風呂は入らないな。オレもあまり好かん。だが、ツカサが汚れるのは嫌だと言うから、オレも我慢してなるべく入る事にした」
「そ、そう……」
な、なにその「俺のため」って……。
ああもう、クロウってこういう恥ずかしい事を素面でさらっと言うから困る!!
い、いまだってこんなに近くに居るのに……。
「…………」
そ、そう言えば……俺達、二人とも素っ裸だったな…………。
これ……もしかしてちょっとヤバいのでは……。
→
※次はまあ予想通りえっちなことするのでご注意ください
意外とクロウの体がオッサンらしくワイルドなのでそこもご注意ください
あとツカサがあんまり嫌がってないです。申し訳ねえ
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