異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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聖都バルバラ、祝福を囲うは妖精の輪編

21.相手の事を知りたいと思うのは

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 妖精の国【リングロンドヤード・ヴァシリカ】は、同じ領土にあるオーデル皇国こうこくとは違い、そこかしこに緑が芽吹めぶいている。

 空は薄紫の見慣れない色をしているが、それでも俺達の視界に広がる風景は、外の世界に存在する豊かな緑とまったく変わらない。

 だけど、この国は少し妙だった。

 これだけ豊かな緑にあふれた世界なのに、まるで大地の気が感じられず、薬草などの多種多様な植物が生えていない。行く道がてら周囲の植物を見てみたのだが、草原はイネ科の草みたいな葉っぱで埋まっているものの、しっかりと茎が伸びた草は一つも無く、ただ芝生しばふのように一定の大きさを保っている。所々に生えている木々も同じ高さのものばかりだった。

 つまり、全ての植物の成長がある特定の時期で止まってしまっているのだ。
 ……何故、こんな不自然な事が起こっているのか。
 それをアドニスに聞いた所、これには理由が有るとの事で説明してくれた。

 この国の国土はそこそこ広く、豊かな緑もこうして存在するが、実際の所、外の世界ほど自由な場所ではないらしい。
 神泉郷しんせんきょうから湧き出る気は王が管理し分配するため、余剰分よじょうぶんなど存在しない。毎日決まった量だけが妖精に送られるが……それは植物達も同じだ。
 この世界の植物は「余計に気を消費しないように」と管理され、同じ段階で成長が止まるようになっているんだとか。

「普通はそんな事は出来ませんが、代々王とのある血族には、特定の存在の時間を停止させる能力が有るんです。だから、生命の成長を操ったり、妖精を新たに生み出す事が出来るのですよ」
「へー、じゃあ、アドニスも王族だから【氷縛ひょうばく】って術が使えたんだな」
「ええ。ですが、それも王族の血がなせる業ですけどね。私達とは別の血族が王に成れば、能力は剥奪されて氷縛の術は使えなくなります。……ああ、そうなると、この皇国の北西部にある【永遠の氷河】も溶けだして大変な事になりそうですが」

 鍛錬たんれんのため、ラピッドを使いつつガラゴロと低速で台車をく俺に、アドニスは肩をすくめてあきれたような声で振り返る。
 その言葉に、俺の隣で心配そうにしていたブラックが片眉をしかめた。

「永遠の氷河って……東から西までを長く覆っている氷と雪の地帯か。人が決して住む事の出来ないというあの……」
「そうです。ご存知でしたか」

 意外そうに言うアドニスに、俺は引っ掛かりを覚えて首をかしげる。
 その単語、以前に聞いた事があるんだよなあ……。

「御存じっていうか、なんか聞き覚えが……あっ、そっか! どっかで聞いたこと有ると思ったら、永遠に溶けない氷のある場所のことか!」

 そうそう、そうだよ。やっと思い出した。
 俺達がまだ出会いたての頃、ゴシキ温泉郷でそういう話を聞いたんだ!
 そこで【永遠の氷河】の氷を入れた水筒の曜具の事を知って、プレイン共和国に行ってみようか~なんて気楽な事を喋ってたんだっけ。
 すっかり忘れちまってたけど……そうか……あの氷の効果はジェドマロズであるウィリー爺ちゃんの術にるものだったんだ……。

 でも、永遠の氷河って場所は、話を聞く限りロシアにある永久凍土地帯みたいなものなんだよな……。だとしたら、オーデルの人達にとっては迷惑なものだ。
 なのにどうしてそんな物をウィリー爺ちゃんは作ったんだろう。

「なあアドニス、どうしてそんな場所をウィリー爺ちゃんは作ったんだ?」
「私にも詳しい事は解りませんが、その昔神に命じられて作ったそうですよ。その氷河地帯が存在する事こそが、神にとっての望みだったらしいですから」
「へぇ……神が……」

 やけに神話染みて来たが、ジェドマロズの存在がかなり昔から認知されてるって事は、ウィリー爺ちゃんは軽く数千年生きてるって事だし……有り得ない事じゃないよな。そもそも、爺ちゃんは『原始の二十七士』の一人らしいし。
 神様に望まれて、神様に直接つくられた存在なら、命令されるのもしかりだ。
 でも、そんなはた迷惑な命令を下した神って、どの神様なんだろう。

「その神様の名前って解る?」
「そこまでは……けれど、我々を作った母神ナトラとは別物のようですよ」
「えっ、ナトラって神様が妖精を作ったの」
「ええ。だから、王は神族を通じて時折ナトラ教になにやら支援をしているみたいですね。人族であっても、同じ神を信仰する人々には甘いのでしょう」

 そんな事もしてたのか。
 じゃあ、王様だけは人族の世界との交流を絶ったわけじゃ無かったんだな。
 まあそうでもなければ、妖精の国に引きこもった存在が、人族のために兵をひきいて出てくる訳がないか……なるほど、そういう風に繋がってたとは驚きだ。
 しかし、ナトラって神様は色んなところに出て来るんだなー。

「まさかこんな所にまで神様の手が加わってるとはビックリだ」

 驚く俺に、ブラックが苦笑しながら頬をゆるめる。

「何言ってるんだいツカサ君。この世界は神様が作った物なんだから、種族だって何だって神に造られたに決まってるじゃないか。まあ、今の時代は神様の御威光とやらが身を潜めてるせいか、そんな話なんてちっとも聞かないけどね」
「あ……そっか……ここには神様が実際にいるんだっけ……」

 俺達の世界は神様なんて居るんだか居ないんだかって感じだから、神様が作ったモノとか神の啓示けいじとかって存在をにわかには信じられないけど……この世界は言ってみればファンタジーだ。何もかもが有り得ない事で満ちているのだ。

 妖精もエルフもいるんだから、そりゃ神様だっているだろう。
 そもそも、シアンさん達が肯定してる存在なんだから居るに決まってるわな。

 でも、俺は神様を一度も見た事が無いからなあ……うーん、こう言う所が異文化交流って感じがするよ。現代人の俺はどうも神様を信じられないらしい。
 ……まあ、信じられない一番の原因は、この世界に落とされた時に神様と出会わなかったからなんですけどね。

 …………こんな事で神様不信になる俺もどうかと思うが。

「日が暮れて来たな」

 クロウの声に、空を見上げる。
 薄紫色の空が前方の方からゆっくりと重い青紫色に染まり始めていて、確かに夜が近い事が解った。太陽が無いから夕方になった事が解りにくいが、この国にもちゃんと一日っていう概念があるんだなあ……。
 しかし太陽もないのに明るいってのはほんと不思議だ。
 今更な疑問だが、この空間って誰が作ったんだろう。やっぱ神様?
 妖精の国って不思議なことだらけだなあほんと。

「この辺りに河原があったはずです。そこで一泊しましょうか」

 地図を確かめながらアドニスが言うのに同意して、俺達は進路から少し外れた所にある河原へと移動した。

「ほー。外の世界と変わらず水は流れてるんだな」
「当たり前ですよ、妖精だって生物ですからね。さて、夕食ですが……」
「あ、それはウィリー爺ちゃんに用意して貰ったから大丈夫」

 台車から荷物を降ろしてくれているクロウの所に向かい、俺は食べ物の入った袋を取り出す。三日程度の道のりなのでそこそこの量の食糧を用意してくれているのだが……。

「…………すくない」

 今日の夕食の分の食料を取り出すと、途端とたんにクロウがしょぼんと熊耳を垂れる。
 城の人達が用意してくれた食料は、確かに三日分十分な量が有るのだが……それはあくまでも「俺達には充分」という量だ。毎日大量のご飯を食べるクロウからしてみれば、一人分の夕食はかなり少なかった。

「確かにクロウが食べるには少ないよな……」
「ツカサ……これ以上に食料はないのか?」

 無表情なくせに熊耳をぺそっと垂らして残念そうな雰囲気を醸し出してくるクロウに、思わず動物好きの本能がうずく。うう、クロウの横にクロウの熊バージョンの姿が見える……うるうると目を潤ませている悲しげなくまさんの姿が見える……!
 俺にはこの熊さんを無視できる忍耐スキルはない……っ。

「じゃあちょっと待ってろ! アドニスに、この周辺に何か食べられる物が無いか聞いて来るから。な?」
「むぅ」

 ああもうズルい。本当に獣人はずるい!!
 何で俺が熊耳がついただけの中年にキュンキュンしなくちゃいけないんだと思いつつも、しょぼんとするクロウの頭を撫でて、俺は先程の場所に戻った。

「あれ、いない」

 俺と一緒に川を眺めていたアドニスが見当たらない。
 ブラックの所に行ったのかと思い、たき火を起こしてくれているブラックの所へと行ってみるが、そこにもアドニスの姿は無かった。

「ブラック、アドニスここに来た?」
「え? 来てないと思うけど……来ても覚えてないと思うから知らない」
「お前なあ……まあ良いや。俺、アドニスに何か食べ物が無いか聞いて探してくるから、ちょっと火の番を頼めるか?」

 そう言うと、ブラックは不機嫌そうな顔をして俺に振り返る。

「なんでそんな事するんだい。食料があるのに」
「仕方ないじゃん。クロウの夕食の量が足りないみたいなんだ。外敵が居ない国だって言っても、万が一が有るだろ? これ以上食料を分ける訳にもいかないし、出来る事はしておきたいんだ」

 ブラックは思いっきり不満げに顔を顰めたものの、俺の言う事にも一理あると思ったのか、軽く頬を膨らませながらも不承不承ふしょうぶしょう頷いた。

「解ったけど……遠くまで行っちゃ駄目だよ、ここも大地の気が無くて索敵が使えないから、探すのに時間がかかるし大変だからね」
「おう、解った」

 まあいざとなったら召喚珠しょうかんじゅがあるから大丈夫だろう。
 とりあえず、河原の周辺には人影が見当たらなかったし……草原にもいないっぽいから、少し先の方に在る小さな林でも探してみるか。

 ブラックにはお湯やら夕食の準備を頼み、俺は草原の方から林に回り込んだ。

「しっかし、こういうのも久しぶりだなあ……。ブラックと初めて別の街に行った時も、こうやって林とか探検したっけ」

 あの時はパシビーっていう柿の味がするツタニンジンを探したんだよな。
 ロクもまだ丸一日起きてるくらいに元気で、俺にパシビーのありかを可愛く教えてくれて…………うう、いかん。なんか悲しくなってきた。

 ロクが眠ってる理由は「成長のため」だって思ってたから、長い間眠ってても何も心配してなかったけど……ああ言われるとやっぱり不安だ。
 俺と一緒に居たいからという理由が本当なら、俺がロクに対してなんらかのかせを付けちゃってるって事だよな? でも俺、ロクに一緒に居て欲しいとは思ったけど、ロクを苦しませるような事なんて……。

「…………考えてても仕方ないか……」

 物凄くモヤモヤするけど、これ以上考えたって答えは出てこない。
 ウィリー爺ちゃんが何かを知っているって言うんなら、早くヨアニスを生き返らせて、城に帰ってその事を聞かなければ。

「ロク、もうちょっと我慢しててな」

 今までのほほんと軽い考え方をしていた自分が憎らしいが、ここでいきどおっていても仕方ない。今はまずやれる事をするのが大事だ。
 バッグの上からロクが寝ている部分を撫でて、俺は林の中を探索した。

 林は、上部にだけ枝が生える樹木の群れによって作られており、ちょっとした杉林すぎばやしに似ている。枝が少ないせいかわりと視界が開けていて、人を探しやすい。
 アドニスは居ないかと探していたら、川辺の方に銀色の光を見つけた。

「おーいアドニス」
「おや、ツカサ君。夕食の用意はどうしたんですか」

 ああ、別に何かしてる訳じゃ無かったのか。
 植物の研究者だからか、杉林が気になって見に来ただけみたいだ。

 近付くと、アドニスはフードを脱いだ状態でこちらに振り返ってくる。
 人がいないから顔を出したのか。やっぱフードを被ってると息苦しいよなあ。
 気持ちは解るぞと思いつつ、俺はアドニスの問いに答えた。

「いや実はさ、クロウが夕食の量が足りないっぽくて……ここらへんに何か食べられる植物がないか、アンタに聞こうと思って追いかけて来たんだ」
「私にですか」
「だってアンタ木の曜術師で研究者だろ? それにこの国には詳しい王子様だし」
「まあ、それはそうですが……」

 なんだなんだ、やけに消極的だな。
 やっぱ髪の毛の色が変わると性格が大人しくなるのかこいつは。

「弱気っぽいじゃん、アンタらしくない」
「君に『らしくない』と言われるとは予想外でしたねぇ。……ま、いいでしょう。そこまで期待されているなら、考えない訳にも行きませんし」
「良い方に取るなぁ」
「悪い方に取られたいんですか?」
「人のあしとって楽しいか貴様!」

 きぃっ、こんちくしょう、調子に乗り始めたらすぐこれだよ。

 やっぱ機嫌のいい時は、あの黒に近い緑色の髪の時のアドニスまんまだ。
 今の自分の姿が好きじゃないみたいな事を言ってたけど、それもあって本調子じゃなかったんだろうか。……でも、元々の自分の姿が嫌いって……なんか悲しいな。俺にはどっかのイケメン王子様にしか見えないし、俺がもしこの姿に転生したら「イエーイ女の子ひっかけ放題だっぜー☆」とか喜ぶんだけどなあ。

 なんだかんだで俺のお願いも聞いてくれてるし、自己中な性格の矯正きょうせいは無理だとしても、せめてブラック達と仲良くなれるようにしてやりたいんだがな……。
 ブラックもクロウも初対面の印象は最悪だろうけど、仲良くなったら絶対に友達を見捨てないタイプっぽいから、理解しあって欲しいもんだけど。

「じゃあ、期待にこたえるためにも探しましょうか」
「お、おう」

 考えていると、アドニスは林の中を歩き始める。
 あれやこれやと植物の事を聞きながら、俺は林の木々が落とした松ぼっくりに似ている木の実を拾い集めて行く。

 この木の実は、茶色になって松ぼっくりらしくなってしまうともう食べられないが、枝から落ちたての緑色のものは茹でて食べられるらしい。
 アドニスの話では、この木々は昔から妖精の国にあるものだが、今となっては実を食べる事もなくなり、樹も木の実も名前を忘れ去られてしまったんだとか。

「この国は、そういう物が多いんですよ。私達は曜気やアニマさえあれば生きていける。だから、木々に目をらす事も無い。空を見上げる事も無い。享楽のために食物を食べて日がな一日寝ているばかりで、景色が変わらない事を疑問にも思いません。……当たり前ですよね。私達は死ぬ事もないうえに、この閉じた国しか知らないんですから。……疑問に思わねば、考察が生まれる事も無い」

 青い実を優雅な仕草で一つ拾い、アドニスは俺の手に実を落とす。
 どこか冷えた声音に、俺は相手がその事を心底嫌がっている事を感じた。

「……だけど、アンタは沢山の事を知ってる。妖精の国の事だって、色々と調べたんだろう? だから、こうやって俺に色々教えてくれてるんだし」

 腕一杯に木の実を抱えて見せると、アドニスは口だけを緩く笑みに歪めた。

「私は幸運でした。片親が外から来た人間でしたからね。……母様かあさまは、私に色々と教えて下さいましたよ。草木の事、空の事、自分を取り巻く環境に存在する、かけがえのない色を生む存在の事を。……あの丸太小屋は、母様が父に頼んで作って貰った別荘なんです。幼い頃は、母様と二人でよく小屋に籠ったものでした」

 ああ、そうか。だからキノコハウスじゃなかったんだ。
 アドニスのお母さんは、オーデル皇国の貴族だった。だから色々な事を知っていたし、緑の無い国で育っても植物に詳しかったんだろう。
 ……そっか、アドニスの研究の切欠きっかけは、お母さんだったのか。

「なんかちょっと、安心した」
「……?」
「だって、アンタ緑化緑化ってそれだけしか言わなくて、何が目的でなんでそう突っ走るんだろうって思ってたし……アンタのこと、今まで全然解んなかったからさ。ちょっとだけ知る事が出来て、大事なものが有るんだなって解って良かった」

 見当違いな言葉かもしれないけど、でも俺はアドニスの人間らしい部分をやっと見つけられたような気がして、少し安心したんだ。
 ずっと昔に別れてしまった母親の事を、今でも大切に思っている。だからこそ、アドニスは植物を研究する人間になったんだろう。切欠が何であれ、その事を今もずっと覚えているって言うのは、自分の心に何か大切なものが有る証拠だ。
 信念が有る奴は、嫌いじゃない。

 だからそう思って素直に自分の思いを伝えたのだが、アドニスは呆気にとられたかのように目を丸くして俺をじっと見つめていた。
 な、なんだよ。感動薄れる顔しやがって。

「私に興味が有ったんですか、きみ」
「はあ? 今更な事いう!?」
「いえ…………今まで、こんな話を真面目に聞くものなどいなかったので……」

 あ、そっか。アドニスの立場なら、やっぱ薬師や研究者としての質問ばかりになるだろうし、この国では王子様なんだから、こんな事聞かれないよな……。
 いやでも、仲良くしようと思っている奴の話を聞くのなんて普通じゃないか?
 そりゃまあ友達に親子関係なんて聞いた事ないけど、相手が話してくれるんなら俺だって真剣に聞いてやろうって思ってはいたし……な、なんか面と向かって驚かれると恥ずかしくなってくるんだけども。

「べ、別にいいじゃん! あ、アンタ一応物凄い薬師なんだし、物知りなんだしさ、そんなスゲー奴ならこう言う事知りたい奴だってごまんといるだろ!」

 聞いて驚け、俺の国では「世界の偉人」とかいう学習漫画があるんだぞ。
 偉人や凄い人の生い立ちを紹介するドラマだってあるんだ。日本人はそう言うのをチマチマ見るのが好きなんだよ、悪いか!
 いやまあこんな事言ったってアドニスには理解して貰えないでしょーが!

「そんな奇特な人族なんて君ぐらいしかいないと思いますが」
「いや、そんな奇特な人がいっぱいいたから、子供が沢山生まれてるんだと思うんですが……」

 相手を知りたいと思う人が沢山居たから、お互い解り合って仲間が出来たり結婚したりするんだろう? それが無かったら国なんて出来てないよ。
 つーかおめーらみたいなのばっかり居たら人類滅亡するわ。

 胡乱うろんな目でアドニスを見る俺に、相手はほがらかに笑った。

「ははは……! ああ、そうですね。そうかもしれない」

 お、おう? なんかやけに機嫌が良いな。

 自然に触れてリフレッシュしたのかなと思っていると、アドニスは俺を優しい眼差まなざしでじっと見つめて来て、細くしなやかな指で俺のほおを撫でた。

「…………」

 金色の目が、優しく揺らいでいる。
 今まで見た事の無かった穏やかな顔に面食らっていると、相手は綺麗な微笑で俺に笑って見せた。

「まったく、君は本当に不思議な子ですね」

 声すらも、穏やかで暖かい。
 まるで……本当に、物語の中に出てくる、美しい妖精みたいだ。

「っ……そ、そんな事言われても……うれしくない…………」

 なんだか熱が上がって来て、指や視線から逃れるように顔をそむけてしまったが……相手はただ嬉しそうに笑い声を漏らしていた。








※次はクロウとアレコレする話
 
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