異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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彩宮ゼルグラム、炎雷の業と闇の城編

18.遠距離だと久しぶりに恋人に会う時妙に心配になる

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「サロンの隣には遊技場とか客間が有ってさ、結構豪華なんだぜ。俺は使った事はないけど、あそこならヨアニス達もすぐ解るんじゃないかな」
「ふーん」
「んじゃなかったら、アドニスとロサードが居る部屋で待つか? あいつが何か色々持ち込んでるけど、ごちゃっとしてるから逆に居心地良いかも」
「絶対ヤダ」
「もー、じゃあどこで話すんだよ! さっきから気のない返事ばっかり……」

 サロンを離れたはいいが、さっきからブラックはガシャガシャ鎧を鳴らすだけで、ちっとも部屋に入ろうとしない。誘ったのはこいつだというのに、さっきからずっと廊下を二人で歩いている。
 せっかく時間が出来たってのに、かぶとも脱がないで何考えてんだこいつは。

 ……いや、別に良いですけど。どーせ後で会えるんだし、別に今話さなくたって良いですけどね俺は! 怒ってないよ!

 でも本当、こんな事してたら時間なんてあっという間に過ぎるだろうに、本当になんでずっと歩き回ってるんだろう。
 まだ何か怒ってるのか? それとも抜け出したは良いけど、話す事も別に無かったなって今頃気付いて時間稼ぎしてるとか?
 そんなバカな。自分から誘っておいてそんな事する?

 …………もしかして俺、愛想尽かされてるとか……。
 い、いや、そうじゃなく。だから、何で歩き回ってるだけなのかって事をだな。
 ああもうブラックが何がしたいのか解らなさ過ぎて、変な事ばっかり考えちゃうんだけどもう。なんなんだよ本当にぃ……。

「へえ、ここから外を見られるのか」

 こっちの気も知らないで、ブラックは廊下の窓から見える街並みを物珍しそうに眺めている。相変わらず顔が見えないので、どんな事を考えてるのか解らないからどうしてもモヤモヤしてしまう。
 いつもなら、解りやすすぎるぐらい表情に出る奴なのに……。

「ツカサ君ここから外見た事有る?」
「ん……まあ……」
「凄いよね。この国の動力って、一体どうなってるんだろうか。石炭でまかなってるにしては煙が出ていないし……見たところランプの明かりも水琅石じゃない」
「……」

 な、なんだ。今その話する必要ある?
 て言うか、そんないつもやってるような会話するために連れ出したの?

「どうしたのツカサ君」
「んっ!? え、あ、いや、べ、別に!?」

 なんだよ、フルフェイス兜の状態でこっちみんな! いやむしろアンタ本当にこっち見てんの!? 目線がどこにあるか解んないんですけど!
 ああもうちくしょう、何か調子狂う……。

「しかし随分と不思議な造りの宮殿だね。ツカサ君ここで生活して何日目?」
「えっ……何日だろ……色々立て込んでたし、そんなの考えた事なかったよ」
「ふーん……」

 それだけ聞くと、ブラックはもう窓の外の光景に興味を失くしたのかまたガシャガシャと歩き出した。そうして、今度は適当にそこら辺のドアを開け始める。
 一体何がしたいのか解らなくて戸惑いながらも付いて行くが、ブラックはドアを開けては締めてを繰り返してちっとも落ち着いてくれない。
 どっかの部屋で話そうって言ったのに、なんなんだよもう。

 しばらくそれを続けていたと思ったら、ブラックはある部屋で急に手を止めた。

「ああ、ここにしようか。……別に、使っちゃいけない部屋ってないんだよね?」
「う、うん……」

 やっぱり二人でゆっくり喋れる部屋を探してただけなのか?
 頷きつつも困惑する俺の手を掴むと、ブラックはそのまま部屋に引き入れた。
 そうして俺を押し出してドアから離すと、律儀りちぎに鍵を掛ける。
 ……まさか、ここでヤるとか言わないよな……。他人の家でえっちすんのなんて嫌だぞ俺は。いやでも、この部屋はどうやら応接室らしく、ベッドはない。

 猫足の椅子が二脚添えられたテーブルが一組あって、周囲には大人しめでセンスの良い調度品やソファが置かれている。何より、テーブルの前には常冬の国特有の大きな暖炉が有り、その暖炉の上にはリン教の神様に祝福されているような騎士の絵画が掛けられていた。
 なるほど、ここなら確かにゆっくり話せるかも……やっぱブラックは二人だけで話せる場所を探してたんだな。何だよもう、あせって損したわ。

 暖炉の中を物珍しそうに覗いている真っ黒な鎧の兵士の背中にホッとすると、俺はテーブルの椅子に腰を掛けた。すると、ブラックは俺の動きに気付いたのか暖炉を観察するのをやめて近寄って来る。

「んもー、違うでしょツカサ君。こっちだよね?」
「え、え?」

 また抱え上げられて、そのまま降ろされたのは二人掛け用のソファだ。
 ああ、なるほど。一緒に座りたいってことか……。
 意図が判ると何だか妙に恥ずかしくて頬が熱くなってくる。そんな俺に小さく笑って、ブラックはやっと兜を取った。

「っぷはー……。はあ、もう本当この兜息苦しいんだよなあ……」
「じゃ、じゃあ早く取っちまえばよかったじゃないか」

 ぶっきらぼうに返すと、ブラックはアハハと笑いながら俺との距離を縮めた。
 そうして、唯一露出している顔を俺の頭にすり寄せて来る。

「ん? なに? 兜で僕の顔が見えなくて不安だった?」
「ばっ……何言ってんだお前は!」
「んんん可愛いなあもうツカサ君はぁあ~っ」

 ブラックが俺の頭に頬擦りするたびに、視界の端にちらちらと鮮やかな赤い髪が映る。頭のてっぺんから響くオッサンの唸り声は正直煩かったけど、その声と髪色を見ると、不覚にもホッとしてしまって。
 さっきまで恥ずかしいくらいに動揺していた自分の言動も相まってか、拒否すると余計に自分が馬鹿な事を考えてたように思えてしまい、俺はブラックの成すがままにされるしかなかった。

 それに気を良くしたのか、ブラックは「すん」と鼻を鳴らすと、俺の髪に鼻を摺り寄せて徐々に顔を下へと移動させて来る。

「っ……」
「ツカサ君の匂い……ちょっと違う……。彩宮って花の香りの石鹸使うんだね」

 言いながら、ちくちくした感触が耳に触れる。その後に柔らかいものが耳の内の起伏に触れて、俺は思わず息を呑んでしまった。
 久しぶりに耳に感じる他人の肌は、あまりにも生々しい。
 ぎゅっと体を固くしてしまった俺だったが、ブラックはそんな俺をもっと動揺させるかのように下へと移動して、顎の骨をなぞるように唇を滑らせて来た。

「ちょ、っと……ブラック……っ」

 いつもとは違う触れ方に、思わず声が上擦ってしまう。
 けれどブラックは俺のそんな声に熱い鼻息を漏らして、更に俺を煽るかのように軽く音を立ててキスをした。

「ツカサ君……っはぁ……ほんと、可愛いね……」
「もっ……ばかっ……! は、話するんじゃなかったのかよ……!」
「うん。そうだよね……でも、やっと二人っきりになれたと思ったら、恋人としては触れずにいられないじゃない?」
「う……」

 こ、恋人……。ほんとに……?
 何か妙な態度だったのは怒ってるんでもなんでもなかったのか?

 だって、その……いつものアンタだったら、すぐに部屋にしけこんで今みたいに鬱陶うっとうしいくらいにかまって来るのに、今日はそうじゃ無かったから……なんか、変に焦って心配したって言うか……いやいやいや待てよ俺、それってもしかして……俺もを期待してたってことなのか?
 そんなバカな。そりゃ、お、俺だって、ブラックとは恋人だって思ってるけど、なんかそう言うのってすげー女々しいって言うか、なんか格好悪くないか。

 男ならどんと構えて、相手の事を信用してやるもんだろう。
 なのに俺ってば無意識に今みたいな事を期待して…………

「うわっ、わっ、ま、待って、待って待って待って!」
「なに? 今更顔真っ赤になっても遅いよぉ。ほんとツカサ君はいつまで経っても処女臭いんだから……。まあそこが可愛いんだけどね~」
「処女臭いってなんだコラァ!」

 ケツの処女なんてお前に散らされて久しいってのになんだその言い草は!
 つーか俺男なんですけど、処女臭いの意味が解らないんですけど!!

 何だかもう恥ずかしくて堪らなくなってブラックを引き剥がそうとするが、しかしそれが出来ていたら苦労はない訳で。

「もう話は終わったはーなーせーぇえええ」
「やだなあ、まだ何も話してないじゃないかー。……ここには誰も来ないんだし、今からゆっくりと、彩宮での話を僕に聞かせてくれてもいいんじゃないかな……?」

 そう言いつつブラックは一度俺の顔から離れると、人懐っこい笑顔をわざと見せつけるようにニッコリと笑った。

 ああもう、いつもの通りの無精髭生やしただらしなくて勿体ない中年の顔だ。
 離れてたって何も変わらない、いつも通りの態度で俺に迫ってくる相手だ。

「…………ここですんの、イヤだからな」

 強い口調で拒否しようと思ったのに、ブラックのそのいつもの笑顔を見ると怒りが萎えてしまって、変に拗ねたような声音になってしまう。
 だけどブラックはそんな俺に一層嬉しそうに笑うと、俺を安心させるかのように頬に軽くキスをして来た。

「大丈夫、ここではセックスしないから……」
「……ほんとに?」
「うん。……だって他にも、ツカサ君と仲良く話す手段はあるだろう?」

 意味ありげに顔を歪めて、ブラックは頬に触れていた唇をゆっくりと耳元へ移動させる。そうして殊更ことさら低く潜めた声を吐き出しながら、ゆっくりと俺の耳朶じだを唇で食んだ。

「は、っ、ぅ……話すっ、手段って……っ」
「恋人同士だから出来る事って、あるよね……?」

 笑う熱っぽい息が耳に吹き込まれて、俺はぞくぞくした感覚に震える。
 こういう時の声のブラックは、ロクな事を考えていない。
 考えていないけど……今の俺では、ブラックを拒む事なんて出来なかった。

 本当に、非常に悔しい事だが…………
 俺だって、ブラックにもっと触れて欲しいと思っていたから。












※次は*相当の描写アリマス
 
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