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帝都ノーヴェポーチカ、神の見捨てし理想郷編
15.酒場での悪乗りはやめましょう
しおりを挟む俺達を誘ってくれた謎の男……ボーレニカさんは、面白い経歴の持ち主だった。
下民街で酒場を営んでいる退役軍人で、腕がなまるといけないからと、時々この闘技場に通って対人戦を行っているんだとか。
下民街には退役軍人もいる……と聞いていたけど、まさか出会う事になるとは思っていなかったので、ちょっと驚いてしまった。
まあ、言われてみれば、ボーレニカさんは浅黄色の男らしく刈り込んだ短髪でコートの上からも判るようにムキムキしていらっしゃるヒゲの渋いオッサンだし、軍人と言われると納得してしまうが、この世界にはこんな人ごまんといるしな。
でも、退役したとはいえ軍人に面白いと言って貰えると、ちょっと鼻が高い。
だから、ボーレニカさんに「俺の酒場に連れて行ってやる、常連はみんな立派な武人か生き字引だぜ」と言われた時には、酒場で飲み明かすカッコイイ屈強な戦士達の話が聞けるかも知れないと喜んだのだが……。
「…………なんだこれ」
しかし、現実は無情だった。
今俺の目の前には、スルメイカの足みたいなつまみを口にひっかけながら、大ジョッキになみなみと注がれた酒を飲みまくっているオッサン達が居る。
ブラックはまあ、許そう。こいついつもこんなんだし。
クロウもまあ、そう言う時ってあるよね。冬の国のお酒はとても強いのか、浅黒い肌を赤くしてワハハハとか言ってるけど、悲しいお酒よりはマシだよね。
だが、そんな二人と俺が座っているテーブルを囲む屈強なオッサンおじいちゃん達までもが、面倒臭い感じでべろんべろんに酔っぱらってガハガハ笑っているのはどういう事なんでしょう。
お酒臭いです、煩いです、帰りたいです。
そりゃあ酒場って所は、楽しくお酒を飲む処だ。悲しいお酒もあるだろうけど、仲間がいるならワイワイやるだろう。だけどね、さすがに俺も周囲をみっしりとオッサンで囲まれたら泣きたくなってくる訳でね……。
「あの……どうしてここには女の子がいないのでしょう」
酒のおかわり(大ジョッキ)を持ってくる店主のボーレニカさんに問いかけると、相手はガハハと笑いながら胸筋を張って頭を掻く。
「いやー、前は雇ってたんだけどよぉ。あまりに男むさくって鼻が曲がっちまうってんで、次々に辞めて行くもんだから、もう諦めて男だけにしたのさ」
ああ、確かに。すげー男むさいもんなこの店……。
汗臭いし強烈なアルコールの匂いがするし、それが地下にあるこの酒場の通気性のなさとマッチしてえらい事になっているのだ。
これじゃ百戦錬磨のおばさんでもやってけないだろう。
構造上臭いが籠るのは仕方ないけどさあ、でもさあ、筋骨隆々なオッサン達が地下でギチギチに詰まって酒飲んでるのもどうかとおもうよ俺は!
「それにしてもよく飲むなあ、こいつらといい勝負じゃねーか」
ジョッキをテーブルに置いた途端にぐいっと煽って喉を曝すブラックとクロウに、ボーレニカさんは快活な笑い声を吐き出す。
周囲も二人の飲みっぷりが気に入ったのか、やんややんやと囃し立てた。
「いいぞ兄ちゃん! もっと飲め!」
「いやー、よその国の野郎がここまで飲めるたぁなかなかやるな」
「よし、ワシの奢りじゃもっと飲め! 飲み比べじゃあ!」
騒ぐ常連客のオッサン達に気を良くしたオッサン二人は、ニッコニコの笑顔で空になった大ジョッキを見せつけていた。
だーもーオッサンばっかでややこしいなもう。
つーか飲むな! どんだけ飲んだと思ってんだよ!
「もうっ、お前らいい加減にしろよな! どう考えても飲みすぎだぞ!」
「あはは、ツカサ君たら心配性だなぁ~。大丈夫だって、ココにいる人達が奢ってくれるって言うんだからいいじゃないか」
「そうだぞ、人の好意を無にする事は出来ん」
「お前らこういう時に限って人の気持ちを慮りやがってぇええ」
お前らこのオッサン達が怖くないのか! ここは同性愛が認められた世界だぞ、酒に酔わせてどっか連れ込まれたらどうすんだ!
このオッサン達、どっちかって言うと俺よりアンタらみたいなガッチリしてんのが好きなんじゃないの。これ本当に酔わせてどっか連れ込む気じゃないの。
ヤバい怖くなってきた俺帰って良いですか。濃い衆に揉まれるのは勘弁です。
「それにしても嬢ちゃんは飲まねえんだな」
「おうだらしねえぞ、冒険者だって言うなら飲めよ嬢ちゃん」
は? 嬢ちゃん?
ちょっと待てどこに女の子が居るってんだよ。
「嬢ちゃんってどこに」
「またまた冗談がキツいな。嬢ちゃんも冒険者なんだろ? だったら、酒の一つや二つ飲み干せねーと冒険者とはいえね」
「俺は男だぁああああ!!」
何勘違いしてんだこの肉ダルマどもおおおお!
俺のどこが女に見えっ……いや待てよ。さてはコイツら、ガタイが良くない奴は全員女扱いとか言うアレなのか。ひ弱な奴は男と認めない軍人気質って奴なのか!
よーし分かったこれは明確にバカにされてるんだな怒って良いよな。
「おいおいおめーら間違うなよ。そこのカワイコちゃんは男だぞ、しかも中々筋が良い射手なんだから、変な事言ってるとぶっ飛ばされるぜ」
そう言いながら、また酒がなみなみと入ったジョッキを持ってくるボーレニカさん。その言葉に、俺達を囲んでいた屈強な男達は目を丸くして互いを見合う。
なんだよ、信じられないってのか。
思わず顔を顰める俺に、ブラックが赤い顔でヘラヘラ笑いながら肩を揺らす。
「仕方ないよねぇー、ツカサ君はホント可愛いんだもん」
「そうだな、ツカサは可愛い。愛らしい」
「女装とか似合わないはずなのに何故か妙に似合っ」
「わー! わー!! バカバカ何言ってんだこのダメおやじどもー!!」
思わず二人の酒臭い口を塞ぐと、オッサン達からドッと笑いが起きる。
ぐうう畜生バカにしやがってえええ。
「だが本当に男なのか? アンタ達と体格が違い過ぎるじゃないか」
「冒険者にしちゃあ小さすぎるよなあ。成人してねぇんじゃねーの?」
「男か女かわかんねーのもいるもんなあ」
そりゃ大胸筋という武器を振りかざすオッサン達に比べたら、俺は貧弱なのかもしれないが、しかしだからと言って女には絶対見えないだろう。
この人達ガチムチしか居ない酒場に居すぎて感覚がおかしくなってるんじゃないのか。てか見ないで。俺の方一斉に見ないでブラックとクロウの方見てて。
思わず視線を逸らす俺を余所に、ブラックは上機嫌で手をひらひらと動かす。
「まあ確かに、ツカサ君は童顔だから女の子に見えるかもしれないけどー……」
そう言って、何をするかと思えば……いきなりテーブルの脇から俺の手を取り、強く引っ張ってきた。
「うわっ!?」
何も覚悟していなかった俺は当然引き寄せられて、椅子から立ち上がってしまう。ブラックはそのまま俺をホールドすると、軽々と膝に乗せた。
「ちょっ、何してんだ!」
「良いから良いから……で、みんなツカサ君が男か女か判らないんでしょ?」
うなじにブラックの息がかかる。反射的に身を固くした俺に笑って、ブラックは俺の体を深く自分の膝に座らせて腰に手を回すと。
「これなら判るかな」
楽しそうに呟いた次の瞬間――――ブラックは、思いっきり俺のコートを開いて、上半身が丸出しになった俺の姿を周囲に見せつけた。
「っ、ぁ……――――!?」
ちょ、な、い、いつの間にコートの留め具を外しっ……て言うか何してんだこのオッサン、なんでこんな場所で露出ショーせにゃならんのだ!!
「ばかっ、やだって、なんでこんな事っ」
「見た目で解らないなら、あとは胸か股間みせるしかないじゃない」
「だからって人の恥を見せつけるやつがあるかー!!」
クロウに引き裂かれたままの俺の服は、もはやベスト程度の機能しか果たしていない。だから、コートを開かれたら上半身素っ裸だ。
つまりそれは、俺が攻撃を受けたって事な訳で……ブラックとクロウが無傷なのを考慮したら俺が負けたって事がバレちまうじゃねーか!
退役軍人や生き字引がいる場所でそれを見せつけたりなんかしたら、絶対に笑われるし「ハハハ小童め」とか思われるに決まってる。
ちくしょー、お前なんて辱めをぉおお!
「おいおいこんな筋肉付いてないのが男とか冗談だろ」
「いや、確かに骨格は男だが……本当にこれで成人してるのか? この体つきは十四五の子供じゃないのか?」
「しっかし……やわっこそうな体してんなあ」
周囲のオッサン達は、御開帳された俺の体をじろじろと見ている。
残念な服装については何も言っていないので、多分みんな俺のしょーもない体にびっくりして意識がそっちに行ってないんだろう。
それはいい、負けた事をからかわれないのは良かったんだけど……。
なにこの視線。なんなのマジで。
全員がじーっと自分の胸のあたりを見ているっていうのが、やけに居心地悪く思えてくる。女じゃあるまいし、胸なんて見られてもどうってことないはずなのに、どうしてか視線を浴びる度になんだか居た堪れなくなってきて。
視線から逃れようと少し身を捩ったが、視線は外れてはくれなかった。
「も、もう分かっただろ、俺は男だって……!」
早く終わって欲しくてそう言ったが、誰も答えてくれない。
背後に感じるブラックの熱い息以外は何も聞こえなくて、あんなに騒がしかった酒場はいつの間にか静かになっていた。
……な、なにこの空気……。
「本当に男か? だってほら、乳首なんか赤ん坊みてーな色じゃねえか」
「柔らかそうだな」
「ここまでウブそうな乳首してるともうよくわかんねえ」
周囲の男達の目が、俺に……と言うか、俺の胸に注がれている。
俺の、お、俺の乳首に……。
「寒くて勃って来たな」
ぅう……。
「小豆みてーだなー、俺の指じゃ押し潰しちまいそうだ」
ううぅう……。
「さ、触ってみたら解るんじゃねーのか」
うぅうううう……!
「おい、ツカサ君に触るのはさすがに……」
「ううううぁあああバカー!!」
「ゲフゥッ!!」
もう耐え切れなくて思いっきり背後のブラックの鳩尾に肘鉄を食らわせると、俺は赤面して泣き叫びながら人をかき分けて酒場の扉から脱出した。
何だよ何だよ何なんだよもぉおおお!!
なんだ今の、なんだったんだよ今の空気は!!
俺が自意識過剰だっただけかもしれねえけどアレ絶対に犯す感じの雰囲気だったよね!? ちょっと待ってよアンタらの好みはブラックとクロウだったんじゃないの、俺戦力外でしょなんで凝視してたの!
もうやだ、この世界もうやだ!
一分一秒も酒場に居たくなくて階段を駆け上がると、俺はコートが開かれたままだったことに気付き、街に出る前に直そうと足を止めた。
やべえ、さすがに寒いしこのままだと俺が変態扱いされる。
慌てて前を詰めていると、後ろから慌てたような声が追ってきた。
「おおい、坊主! すまん、すまんかった! あいつら最近艶芸小屋にばかり入り浸ってやがるから、すっかりスケベになっちまって……」
「ボーレニカさん」
振り返った階下には、大きな体を揺らして必死で追いかけてくる酒場の店主の姿が在った。その後ろから、なんか赤いのと獣耳生えたのが追って来てるけど無視しよう。男らと一緒に息を呑んでた事を俺は忘れねえぞ。
「す、すまん……本当にもてなすだけのつもりだったんだが……坊主みてえな奴が酒場に来たのなんて、酒場娘が辞めちまって以来だから、あいつらも妙に浮き足立っててな……」
「俺はてっきりあそこの人達はブラック達に興味がある物だと」
「馬鹿言うなよ。お前さんも興味津々で見られてたのに、気付かなかったのか? 異性愛主義でもなけりゃ、大抵の奴は逞しかろうが貧弱だろうが、好みだったら男女構わず欲情するもんだぞ」
「えぇ……」
じゃあ俺もそう言う目で見られてたんですか。やだ怖い。
この世界俺の常識が通用しない所が多々ありすぎるってば。
今更ながらに青ざめる俺に、ボーレニカさんは心底申し訳なさそうな顔をして、俺の肩を優しくぽんと叩いた。
「そうか……お前本当純情なんだな……。悪かった、あいつらにはよく言っておくから、許しちゃくれねえだろうか……」
「いや、まあ……元はと言えば、ブラックがバカな事をしたのが悪いんだし……。その、俺も油断してたんで……」
そう言いながらボーレニカさんの背後でまごまごしてるブラックを睨むと、相手は酒が抜けたのかしゅーんと縮こまってしまった。
おう反省しろこんちくしょう。
「じゃあ……許してくれるのか?」
俺達のやりとりに気付かず窺うように俺を見るボーレニカさんに、俺は頷く。
すると、相手はパァッと顔を輝かせて俺の手を取った。
「ああ良かった……! 招いといてこの体たらくじゃあ、このボーレニカ一生の恥になる所だったぜ……! しかしこのままじゃ申し訳ねえな」
「いえ、そんな……あのオッサン達がタダ酒たらふく飲ませて貰いましたし」
「いーや、坊主はまだ何も奢られてねえだろ。それじゃ俺の主義に反する。そうだな……おっ、そうだ! じゃあ、酒がダメなら女はどうだ?」
「おんな?」
何その急な展開。と思いつつも「女」と聞いてしまったら、俺のスケベ心は一気に萎え状態から興奮状態に変わってしまう訳で。
女と言うのはどういう事だとボーレニカさんを見上げると、相手はニヤッと笑って、ぐっと親指を立てた。
「おっ、やっぱイケる口だな坊主! よっしゃ、じゃあ……俺がとっておきの艶芸小屋に案内してやるぜ! お前も良い夢見てこいよ」
艶芸小屋。艶芸……ってことは、夢のストリップショーですかー!
「行きます行きます喜んで奢られさせていただきますぅううう!」
「……ツカサ君、立ち直るの早過ぎる…………」
「女体よりオレ達の裸に興奮してほしい……」
おいこらそこ酔った勢いで変な事言わない。
まあどうでもいいや、やったー! 思わぬタナボタで女体がみれるぞー!
乳首も出してみるもんだな。二度とやらないけど、えっちなお姉さんが見れるんだし今日の事はまあいっか! 何でも水に流しちゃいますとも。
よーし、初めてのストリップ楽しんじゃうぞー!
→
※次回ちょっと女体描写がありますがご了承ください
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