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帝都ノーヴェポーチカ、神の見捨てし理想郷編
2.お菓子と犯しは違います*
しおりを挟む果実が入ったクッキー、干し寒苺、べっこう飴のような黄金色のキャンディに、弾力のある食感だけどマシュマロみたいな甘いゼフィール。
硬めに焼かれたのだろうみっしり詰まったケーキには、様々な果実が練り込まれている。恐らくこの世界のパウンドケーキみたいなものだろうか。
なんにせよしっかり甘くておいしそうだ。
俺は誰も入ってこないように内側から鍵を掛けると、いそいそとポットとカップを用意して、早速麦茶を沸かした。
ヘヘヘ、いざという時のためにこっちにも用意して置いて良かった。
曜術で水を出し火を起こして暖かい麦茶を作り、カップに注ぐ。
こうしてみると実に立派なおやつの時間ではないか。
男むさくて物が散乱してる寝部屋でってのがちょっと勿体ないが、それでも甘い物はどこで食べたって美味しい物だからな。
俺は手を合わせると、この世界に甘味がある事とコレを馬車に詰め込んでくれたエレジアさんに感謝を捧げた。
「エレジアさん、本当にありがとう……! よーし、それじゃあいただきまーす」
夕食にはまだ早いから、おやつ扱いでいいだろう。
まずは味が想像つかないパウンドケーキから食べてみようと思い、ナイフで薄くケーキを切るとその一切れを食べてみた。
「ん…………んんー! うんまいコレ!」
しっとりした重めのケーキって感じだな。ケーキだけじゃちょっと単調だし甘い気がするが、中に練り込まれている干した果物の甘酸っぱさが良いアクセントになっていて、余裕で半分くらい食べてしまいそうだ。
寒い気候だし賞味期限はまだこないだろうから、これは後でゆっくり食べよう。
麦茶を飲んで口を落ち着かせると、俺は色とりどりのゼフィールが入った瓶を取った。砦で買ったゼフィールとは違って、色々フレーバーがあるみたいだ。
試しに緑色のゼフィールを食べて視ると、スッとするような清涼感が微かに口に広がった。これは……ミントっぽいな。ハーブ系の味なのか。
ピンクのはイチゴ、オレンジのは柑橘系、茶色のは何かと思ったら、チョコじゃなくてアメリカンチェリーみたいな味だった。なんだろ、モロに欧米っぽい味。
もちろん全部美味しいが、味の元ネタが判らないと美味しさが充分に味わえなくてちょっと勿体ないな。
「でも美味いな~。こんなに美味い菓子ってもしかして初めてでは?」
ライクネスのラスターの屋敷で食べたお菓子は砂糖が多くて辟易したってのに、このオーデルのお菓子は不思議と全部美味い。
プレインと並ぶ技術大国だし職人ばっかりの国だから、やっぱり切磋琢磨して色々と研究してたりするんだろうか。こっちの国は「素材の味で勝負!」なんて事は出来ないんだろうし……うーむ気になる。
てか、このお菓子美味しいんだから輸出すりゃいいのにな。
「そしたら、マズい食事でも満足できるのにな……」
メシは不味くとも美味しいお菓子が溢れる世界。
そんな夢のある世界を考えて、ほうと溜息を吐く。
俺もご多分に漏れず日本に居た時はポテチだのコーラだのがおやつの定番だった人間なので、そういう体に悪そうな世界に憧れてしまう。
おやつが大好きな人間なら、誰しもが好物で出来た世界を一度は夢見るものだ。ヘンゼルとグレーテルは偉大だよな。俺もポテチの壁とか欲しい。
ああそうだ、この上ポテチとか出されたらもう大変な事になりそう。
でも久しぶりに食べたいなポテチ。
俺が知ってるイモ類は薄く切るのに適さないから、未だに作れてないんだよな。
「サツマイモもサトイモも好きだけど……やっぱ、ポテチを作るならジャガイモだよなあ……どこにあるんだろう、ポテチに適した芋は……」
甘いのも大好きだが、こう甘味欲が満たされると、次はしょっぱいものが食べたくなる。この際せんべいや歌舞伎揚げでもいいんで食べたい。
あれどうやって作るんだっけ。ああ素朴なしょっぱさが恋しい。
せめてどこの国でもお菓子だけは美味しかったらなあ。
「でも世界中にこんなんなったら、食べ過ぎて筋肉付く前に贅肉ついちまいそう」
ただでさえ俺は後方支援で、武器もほとんど動かなくていいクロスボウになっちまったってのに、これじゃブタになるわ。
いかんな、こういう世界だからこそ節制を大切にせねば……。
「ただでさえオッサン達がムキムキなのに、俺だけデブって言うのはちょっと……やべーな、まだ大丈夫だよな……」
急に腹の肉が気になって、摘まんでみようかと手をやると……
いきなり背後から手が突き出て来た。
「ん~? どれどれ、僕が確かめてあげよう」
「ひぎゃぁあ!?」
でっかい手に服の上から腹をむにっと摘ままれて、思わず悲鳴が出る。
こ、この手って、この手ってまさか!
「ぶ、ぶ、ブラック!?」
「鍵かけてるから拗ねちゃったのかなーと思ってたのに、一人でこっそりお菓子を食べてたなんて……ツカサ君も案外ちゃっかりしてるよねえ」
ぎゃーそうだった、コイツは金の曜術師でもあるから鍵かけたって意味がないんだった! バカバカ俺の馬鹿、何で荷物で念入りに封鎖しておかなかったんだっ。
「は、離せ酔っ払い!」
「酔ってないってば。うーん、柔らかいけど別に太ってはいないかな?」
そう言いながら背後から俺に覆いかぶさり、ブラックはむにむにと俺の腹肉を両手で揉む。遠慮なしに揉むもんだから痛くて、俺は背後のブラックの額をべしべしと掌で叩いて攻撃した。
「このっ、ばかっ、揉みすぎで痛いってば!」
「痛いんなら肉が薄い証拠だね、まだ太ってないみたいで良かった! はぁー、それにしても本当ツカサ君の肌って柔らかいなぁ~」
「ちょっと、もっ……バカっ! 肉集めながら揉むなって、偏ったらどうする!」
「じゃあいっそ偏った肉を胸の所にまであげちゃえばいいよ」
「男の俺がおっぱいつけてどうすんじゃい!!」
揉んでも楽しくないおっぱいなんていらんわい。
いい加減にしろと強めに額を叩くと、ブラックはぶちぶち言いながらやっと手を離した。だが、その手は引き下がる事は無く、今度は俺を抱き締める。
「なにしてんだよ」
「いや、イチャイチャしようかと思って」
「クロウと二人で楽しく酒飲んでたんだろ、酒とイチャイチャしてろよ」
「ん? 焼いてる? ツカサ君お酒に焼いてるの? もー、可愛いなぁ~!」
背後から酒の臭いが充満した息を吹きかけられて、俺は思わず顔を顰めた。
焼いてるっていうか、心底ウザイから部屋から出て言って欲しいだけなんだが、ブラックにはそんな事を言っても無駄だしなあ。ヘタしたら地雷を踏むし。
それにこの野郎、酔ってはいないみたいだけど、度数の高い酒を飲んだせいでいつも以上に陽気でウザくなってるみたいだ。
調子に乗らせたらロクな事にならなそう。
……何とかしてこの腕の中から脱出せねば。
どうやって引き剥がそうかと考えていると、ブラックは俺の肩に顎を乗っけた。
じょりじょりした感触が肩口に伝わって来て、なんだかぞわりとする。
そんな俺の反応に気付いているのか、ブラックは小さく鼻で笑うと、俺の首筋にゆっくりと唇を寄せて来た。
「っ……!」
「ごめんねえ、ツカサ君……そうだよね、仲間はずれみたいで寂しかったよね」
「んっ、だから……っ、違うって、ばか……っ」
「はぁ……高い声、ほんと可愛いね……。ごめんねツカサ君……今からたくさんかまってあげるから……」
既に荒くなった熱い息でそう呟きながら、ブラックは舌でちろちろと首筋を何度もなぞる。濡れた柔らかい舌の感触はあまりにもくすぐったくて、我慢したいのに体が勝手に動いてしまう。俺は冗談じゃないと身を捩るが、酔っていても力量差は歴然としたもので、俺を拘束しているブラックの腕はビクともしなかった。
「ぁっ、んぅ……っ! ちょっ、も……構わなくていいって……!」
「だーめ。一人さびしくお菓子食べてるなんて、ツカサ君が可哀想だもん」
「クロウも今一人だろっ!!」
「なんで僕がアイツに構わなきゃいけないのさ。僕はツカサ君の恋人なんだから、ツカサ君を構うのが仕事なんだよ~……」
そんな事を言いながら、ブラックは俺の上着の中に手を入れて来る。
まさかここで一発やるつもりなのか、それは困る。まだお菓子片付けてないし、それに夕食どうすんだよ。お前とやったら絶対半日は動けなくなるんだぞ。
「やっ、ばかっ、だめ……!」
温かい掌がもぞもぞと動き、ゆっくりと上へ這い上がってくる。
その二つの手がどこへ向かうのかなんてもう分かり切っていて、俺だってそこに触れられるとヤバい事くらいもう痛いほど理解していた。
だから腕を掴んで引き下げようとしたのだが、やっぱり無駄な抵抗だった。
「ん~、ツカサ君は本当にえっちな所以外は意地っ張りなんだからなあ」
「え、えっちな所ってなんだよ!」
「そうだねえ、例えば……ここかなっ」
ブラックの指が一気に上がって来て、いきなり俺の両乳首を指できゅっと摘まんだ。それのどこがえっちな所なんだと、本当なら言うべきだったのだが。
「ふあぁぁあっ!」
「ほーら、可愛い声が出るじゃないか。色だってこんな可愛い色になって、すぐにつんつんしてくるんだから……本当ツカサ君の乳首ってえっちだよねえ」
「ひぁあっ、い、や……だめっ服捲るな、ぁっ、んうぅ……!」
「最初はヤダヤダって言ってたのに、ほんとツカサ君乳首を虐められるの大好きになっちゃって……。ああ、たまらないなあ……」
スケベオヤジっ、バカっ、お前らが執拗にいじくるから敏感になっちまったんだろうが! 誰がこんなとこ好き好んで開発するかよ!
俺は棒さえこすりゃ満足なノーマルだったんだっつーのに!!
しかしそう怒鳴りたくても、背後から両方の乳首を軽く引っ張るようにしてくりくりと捏ね繰り回されると腰が疼いてしまって、俺はたまらず目をぎゅっと瞑って首を振る。うぅう、い、今ならわかる……これは「らめぇ」って言っちゃってもしょうがない……あのネタ画像もう笑えないぃ……。
「んうぅ……っ、ん、んやぁっ、も、だめっ、ち、ちくび弄らないでぇ……っ!」
「ツカサ君、そこは『弄らないで』じゃなくて『苛めないで』の方が興奮するんだけどなぁ……今度からそう言ってね!」
「ばかぁあっ!」
あーもーちくしょうキモい高い声しか出せない自分が痛ましい恨めしい!!
こんなので反応しちゃうなんて泣きたい、ブラックの野郎すっかり俺の体を開発しちまいやがって、どう責任とってくれんだよ!
「あはは、睨まない睨まない。乳首は嫌なの? じゃあここは……?」
「ふぇっ……?」
酒臭くて熱い息を首筋に吐きつけながら、ブラックは片方の指をするすると下へ降ろしていく。そうして、臍の窪みにぐっと指を入れ込んで、抜き差しを始めた。
「んぁあぁ!? ひ、い゛っ、やらっ、そ、そこだぇっ、は、腹苦しいっ」
「さっきお菓子食べてたから余計に胃に響いちゃうかな?」
「ん゛っ、ぅんん……! だ、だからっ、しちゃ、だめ……っ」
「吐いても良いから続けたい……とか言ったら駄目?」
「んん゛んん゛ん゛っ!!」
何を言ってるんだお前は、ふざけてんのか。いや最初っからふざけてたな。
吐くまで臍に指突っ込みたいってなんの冗談だ、お前はそんなに俺を拷問に掛けたいのか。ふざけるなと口を必死に結んで叫ぶと、ブラックは笑う。
こんちくしょう、俺の必死さが伝わっていないのか。
イラッとして俺は背後のブラックの鳩尾に思いっきり肘鉄を食らわせた。
「うぐっ!!」
この行動は予測していなかったのか、ブラックは思わず手を止めて固まる。
その隙に俺は相手の腕の中から抜け出して逃げようとしたが、腕を取られてそのまま転がされてしまった。
「は、はは……ごめんごめん、怒っちゃったね」
そう言いながら、ブラックは俺を仰向けにすると圧し掛かってくる。
俺に攻撃されたと言うのにウォッカのおかげでまだご機嫌なのか、赤ら顔を俺に近付けてきた。
「ツカサ君……ね、キスするから許して……」
「っ……」
ば、ばかじゃないの。
そんな事で俺が許すわけがないじゃないか。酒臭いだらしないオッサンのキスなんて、誰が欲しがるんだよ。
顔赤いし、目はとろんとしてるし……なんか……その……。
「あ、照れてる」
「照れてない!!」
「んふふ、ほんと可愛いなぁ……ツカサ君、大好きだよぉ」
「っ、んぅ……っ」
唇が、合わさる。
すぐに入って来た舌は独特の味になっていて、上顎から伝わり目の奥をじわじわと熱して涙腺を絞るような感覚に俺は眉を顰める。
ああ、これ、酒の味だ。ブラックの舌から、唾液から、口の中にまだ少し残っていた酒の香気が伝わって来てるんだ。
……こんなの、まるで口移しみたいじゃないか。
そう思うとどうにも恥ずかしくなって、俺は喉を締めてぎゅっと体を縮めた。
閉じた脇が熱い。股の間なんて、とっくに大変な事になっている。
悔しいけど、ブラックにいやらしい事をされるだけで、俺の体はもうそんな風に情けない事になってしまうのだ。
「っ、はぁ……はっ……んむ……ぅ……」
「……ん……っ……」
薄らと目を開けると、目の前に目に焼きつく程の赤い髪が見える。
頬を擽るその毛先がもどかしくて、俺は眉根を寄せてブラックの服を掴んだ。
「はぁ……ツカサ君、この程度でそんなに蕩けちゃってるのに……まだセックスしたくないの……?」
もう我慢するのはやめようよ、と言わんばかりの勝ち誇った微笑みを浮かべて、ブラックは俺を見下ろしてくる。
そりゃ、余裕でご機嫌なアンタと比べたら、俺は息も絶え絶えで酒を飲んでないのに顔が真っ赤な状態なんだ。どう見たって余裕はないだろう。
だけど、本当にこのままだと困る。夕飯が作れない。
せっかくのライ麦パンが勿体ないし、お菓子だって放置したままだと固くなる。
でも、こんな事やってたら絶対に最後には挿れられちゃうし、ご機嫌な状態を崩したらどんな酷い事されるか解んないから怖いし……。
そう思ってちらりとブラックの股間を見ると、酒を飲んでいるというのにそこはもうパンパンに膨らんでいて、俺よりも酷い状態だった。
ねえ、年齢と酒量を考えてもありえない高さなんだけどあの聳え立つ山。
ブラックに俺の世界の常識をぶつけても無駄だと言うのは解っているが、しかし恐れずにはいられない。この人本当どうなってんの。
「ツカサ君、もうここまで来たらやっちゃおうよぉ」
「う、うぅう……」
だめ、それだけは絶対に駄目。
負けるな俺、ダメ人間に流されたら終わりだ。
俺は理性的な大人にならねば……!
俺の息子なんざ放ってりゃ収まる、そりゃ、その、興奮してない訳でもないけどいつまでも流されてちゃ男としては不甲斐ない。
俺だって、主導権を握れるようにならねば。このまま流されててたまるか。
ブラックにされるがままで居られるか、俺だって出し抜いてやる!
そう思って、俺は恥を捨てる覚悟を決めた。
「ツカサ君?」
「…………こ……ここじゃ……やだ……」
「ん?」
潤んだ目で、ブラックが首を傾げる。
思わずどきりとしたが必死に抑えて、俺は赤ら顔のままでブラックを見上げた。
「だ、だって……街についたら、ベッドがあるし…………誰にも邪魔されずに、その……で、できる……し……ブラック、一回だけじゃ……足りないんだろ?」
だったら、何の役目も無くゆっくりできる宿屋の方が、望みを叶えてやれる。
そんなような事を言って、上目遣いで相手を見つめると。
「……か」
「か?」
「そ、そうか……ツカサ君もそ、そんなに、そんなに僕とセックスしたかったのに、我慢してくれてたんだね……?」
ギラギラとした光を灯した据わった目で、俺にのしかかっているオッサンが俺を見ている。いつの間にか顔はこれ以上ないってくらいに近付いていて、またもや酔ったオッサンの息が俺の顔を撫でていた。
あ、ああ。やばい。怖い。
だけどここで頷かないとやばい。
小さく頷くと、ブラックはそれはそれは嬉しそうな顔をして何度もキスをしてきた。
「んんんんん! 可愛いっ、可愛いなあ可愛いなあもぉおおっ! 解ったよ、宿屋の柔らかいベッドの上で思う存分セックスしようねぇ! 僕もツカサ君を寝かさない勢いで全力で頑張るから!!」
「…………は、はは……た、たのしみだなぁ……」
どっちにしろ地獄には変わりないけど、夕飯をないがしろにするよりはましだ。
そう考える時点で俺もちょっとイカレて来てるのかも知れないが、こいつの恋人な時点でもう今更かも知れないので考えないようにしよう。
「あの、でもな、時と場合は考えような?」
「解ってる解ってる。あ、そうだ、ノーヴェポーチカには蔓屋の本店があるそうだよ。折角だから、行ってみようか」
「え゛」
「楽しみだなぁ~! ツカサ君、常冬の国の夜は長いんだから、楽しいセックスになるように楽しい道具をいっぱい買おうね!」
買おうね! じゃねぇえええええええええ。
俺をヤり殺す気なのかお前は! 俺もう逃げて良いかな!?
こんな事になるならここで一発決めときゃよかった……と思ったけど、良く考えたらどうせ同じ事になってたんだろうから、そんな事言っても無駄か。
むしろ今の俺の行動は正しかったんだ。正しかったうえで、未来は決まっていたのだ。そんなもんどう回避しようがどうしようもない。
ああ、本当なんでこいつこんなに性欲が強いんだろう。
植物園にいったら、性欲減退の薬草がないか探してみよう……。
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