異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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祭町ラフターシュカ、雪華の王に赤衣編

28.約束はちゃんと果たしましょう

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 翌日、俺達はリン教会の人達の協力で、なんとか「荷物」という形で脱出すると、そのままリン教会から馬車を借りて出立する事となった。

 子供達との別れは昨晩済ませたものの、なんというかまあ凄かった。
 みんなが泣いて別れを惜しんでくれるのは凄く嬉しかったが、困っちゃったのはギルベインさんが子供達以上に泣いてしまった事だ。

 そりゃあ俺だって、素敵な人達と別れるって思うと結構泣けてきちゃったけど、あそこまで大号泣されると涙も引っ込んでしまう。子供達までギルベインさんの涙に気圧けおされて、冷静になってしまったくらいだ。

 全員で必死にギルベインさんをなだめてその場は収まったが、本当最後まで誰よりも感動屋なお爺ちゃんで参ってしまったよ。
 まあそんな所がギルベインさんらしいけどな。

 「また会いに来るから」と約束したけど大丈夫だろうか。カイン……じゃなく、アレクにこの胸の指輪を返すためにも戻って来るつもりではいるけど、再びやって来たらその時にはもうケロッとしてそう。
 それはそれでちょっと悲しいけど、寂しいと思われるよりはマシかもしれない。
 俺達は旅をしてるんだから、いつかは必ず街の人と別れることになる。だったら、悲しまれるより「また会いたいね」って思って貰える方が良いもんな。

 そんな事を思いながら、木箱の中でガタゴトと馬車に揺られていると、リン教に着いたのか司祭達が木箱を開けてくれた。

窮屈きゅうくつではありませんでしたかツカサ様」
「いや、大丈夫です。ありがとう」

 お礼を言って差し出された手を素直に取るが、やっぱりこの俺を見つめるギラギラ……いや、キラキラした目は怖い……。
 盲信的なお蔭で俺に危害を加える感じじゃないのはありがたいけど、でもホント他人に変な目で見られるのは怖い。俺は普通の高校生なんですってば。

 体で押し潰さないようにしていたバッグを整えながら、静かなリン教会の裏庭で思いっ切り伸びをしていると、同じく木箱から出てきたブラックとクロウが近寄って来た。

「ツカサ君、大丈夫? 変な事されなかった?」
「箱に詰まってるだけでどうやって変な事されるんだよ」
「え? 板の隙間から綿の突いた棒で色んな所こちょこちょしたりとか」
「そうかそうか、お前がド変態なのはよーく解ったから近寄るな」
「さすがは気持ち悪い事に定評がある男だ」
「ツカサ君はいいけどお前は人の事言えないだろクソ熊」

 殺すぞ、とお決まりの剣を抜こうとするポーズをとるブラックに、クロウはかかってこいやとばかりに腰に手を当てている。
 いつも通りの光景ではあるが、口喧嘩でなく肉体言語で解決しようとしている所を見ると、やっぱり二人もかなり鬱憤うっぷんが溜まっているみたいだ。やはり教会に閉じ込められたのが相当ストレスだったらしい。
 気持ちは解るがこんな所で殺傷沙汰はごめんですよお二人さん。

「皆さん、お怪我はありませんか? すみません、木箱しか用意できなくて……」

 ナイスタイミングで俺達に話しかけてくれたエレジアさんに向き直り、俺は二人を無視してにこやかに意識を逸らした。

「あ、はい大丈夫ですよ。と言うかありがとうございます、こんな大変な事お願いしちゃって……」
「いえ、ツカサさん達にはこのくらいではお返し出来ないほどの恩がありますし、司祭達もツカサさんの為なら馬車馬のように働くとか鞭で打たれても構わないとか申しておりますので」
「は、ハハ……」

 それ「貴方の為に働きたい」とかじゃなくてただ単に「俺に鞭を打たれたい」とか言う意味じゃないですよね、前者ですよねきっと。
 嫌な事を考えてしまったが忘れよう。話を変えることにする。

「それで……俺達が抜ける裏門ってのは……」
「もちろん準備しております。教会の中にありますのでこちらにどうぞ」

 俺達が事前に聞いた話では、エレジアさん達が馬車を手配して街道に回して置いてくれるという事だったが……教会の中に裏門が在るってどういう事なんだろうか。教会の中からしか行けないって事なのかな?

 不思議に思いつつもエレジアさんに教会の中に案内されて、教会の中に入る。
 俺達が歩き出すとオッサン二人もやっと喧嘩を止めたのか、後ろからついてきた。俺が離れると喧嘩を止めるようなので、これからはそうしよう。鬼の心だ。

「我が教会は、先々第皇帝の温情によって二百年前に大改装を行い、内部の構造を皇帝の宮殿と同じツァーリ様式に改築されたのです。ですので、有事の時には裏門から逃げると言う事も出来るのですよ」

 つぁーり様式ってなんだろう。ゴシック様式とかみたいな建物の形のこと?

 エレジアさんに聞いてみると、ツァーリ様式と言うのは内装の部分が特殊な構造をしている屋敷の事を言うらしく、豪華に飾られた人が暮らす「表」の部分と、下水道や使用人が通るための通路や、いざという時のための脱出路などが入り組んで存在する「裏」の部分がある、様々な仕掛けが施された俗にいう「からくり屋敷」を指すんだって。

 俺が話しているのは多分日本語……だと思うけど、でもこの世界でも国によって単語の違いはあるんだから、からくり屋敷がって言われててもおかしくはないよな。俺的にはちょっと違和感があるけど。

 あれだよな、要するに西洋の城でもよくある「隠し通路」が沢山あるんだよな。
 と言う事はからくり屋敷ではなく迷路って言う方が正しいんだろうか。うーむ、実際に見ないと解らないな。……なんてことを思っていると、エレジアさんはどんどん宮殿もびっくりの豪華な廊下を歩いて行き、何度か角を曲がって突き当りへ辿たどり着く。するとそこには、大きな絵が飾られていた。

「…………なんだか禍々まがまがしい絵だね」

 大人しくついて来ていたブラックが失礼にも本音を言うと、エレジアさんは苦笑してその絵を見上げる。
 俺達の背丈ほども有る大きな額縁に収められた絵画は、確かに恐ろしい。
 薄暗い闇色の大地に赤黒い空。その空の下からは戦火と思われる赤々とした炎が燃え上がっていて、いくつもの武器が地面に突き刺さっていた。
 その荒れ果てて人さえ消え去った戦場に、こちらを見下ろすように一人の人物が中央に大きく描かれている。

 銀の髪に、赤い目。可愛らしい中性的な容姿にも関わらず、いかめしい甲冑を身にまとい血を浴びて悪魔のように凄艶な笑みを浮かべる様は、俺達に言い知れぬ畏怖いふを感じさせた。

 宗教画のように繊細なタッチで描かれているからか、それとも骸骨に見える岩に片足をかけ、こちらに挑戦的な体勢を見せつけているせいか、何と言うかどうも真っ直ぐ見たくない絵になってしまっている。

 衆生しゅじょうに道を説くのが使命の宗教が、こんな禍々しい絵をどーんと大きなサイズで飾っているなんて、どう考えても恐ろしいとしか言いようがなかった。
 正直、ブラックが言った本音は俺も思っていた事なので何も言えない。

 ただただ真上を見上げんばかりに首を動かしていた俺達に、エレジアさんは苦笑したまま、さもありなんといったように肩をすくめた。

「このおかたが、我々が崇拝する混沌神リンです」
「ええっ、こ、この絵の人が」
「正確に言うと、人の姿を借りて顕現けんげんした状態……ですね。この絵は一見恐ろしく思えるかもしれませんが、我々にあだなす敵を滅したとされる時のお姿なのですよ。このような禍々しく描かれた混沌神リンの絵は、モンスターや怨敵を退ける絵として、貴族の家などには必ず一枚は飾ってあります」
「へー……魔除けって奴ですか」
「ええ。ですから……このような仕掛けがる事も」

 そう言いながらエレジアさんはどこか悪戯っぽく含み笑いをして、なんの躊躇ためらいもなく額縁の裏の方へと手を入れた。
 カチッ、と何かが動かされたような音がする。
 何かスイッチを入れたのかと思った瞬間――――いきなり絵画の下の壁が奥へ引き下がって落ち、そこから小さな隠し通路が現れた。

「うおお!? こ、これがツァーリ様式!?」

 すっげー! からくり屋敷だ、ホンマモンのからくり屋敷だ、すっげえええ!!

 思わず興奮して飛びついてしまった俺に、エレジアさんはクスクスと可愛らしい笑いを漏らす。

「ツァーリ様式は、基本的に皇帝一族や貴族が使うためのものですから。この街は職人ばかりの街なので、特別に皇帝が宮殿と同じ脱出路を作って下さったとか」
「なるほど。その脱出路があるから、神様の魔除けの絵が……」
「はぁ……金が有りあまってるんだねえ、皇帝ってのは」
「オレの国でもこんな事はせんな」

 感心する所そこですかオッサン達。
 いやまあ言われてみれば確かに、位の高い方御用達の建築様式を市民に下げ降ろすなんて「ようやるな」って思うけど……これもあれだろ、ノーブレスオブリージュとか言うやつなんだろ? 多分。
 市民の為を思うお金持ちは文句なしに偉い。と言う事にしておこう。

「さ、もう馬車が待機しておりますのでお早く」

 エレジアさんに急かされて、俺達は通路へと入る。
 すると急に明かりが灯り、俺達が行く道の先を煌々と照らし始めた。一瞬ラッタディアの地下水道を思い出したが、こちらの明かりは曜気などはまるで感じない、ただの純粋な光のように見えた。

 この世界の明かりは、基本的に【水琅石すいろうせき】という、水に触れると光る不思議な石や蝋燭によって成り立っているが、二つともこんな蛍光灯けいこうとうみたいな目がくらむような光量は出せない。とするとこの明かりは別の物で作られているようだが……何なんだろうな。オーデルも技術が進んだ国だと言うし、首都に行けば判るんだろうか。

 石壁の人一人がやっと通れる通路を上ったり下ったりしてしばらく進んでいくと、ようやく前方に一際ひときわ明るい光に照らされた扉が見えた。
 その重厚な鉄の扉を開くと、階段が現れる。一体どこへ出たのだろうかと思い、上開きの蓋のような扉を開けて外に出てみると……。

「うわっ!? そ、外じゃん!」

 突然目の前に現れたのは、真っ白な平原だ。
 慌てて背後を見ると、街を守る壁の大きな姿が見えた。
 そうか、ここ、街道から外れた街の外なんだ。

「なるほど、確かに“脱出路”だね」
「むう、寒いぞ」

 ぶちぶち言いながら出てくるが、ブラック達も少し驚いたようで周囲を見回していた。あの賑やかな街からいきなり外だって言うんだから、まあ当然だよな。

「さ、こちらです」

 エレジアさんの道案内に続いて、俺達はサクサクと雪を踏みしめながら街道の方へ進む。あらかじめ馬車に物資を積んでおいて貰ってるし(もちろんお金は払ったぞ)、街道に着いたら後は出発するだけだ。
 そう思うとなんだか名残惜しくなって、俺は高くそびえる壁を見上げた。

「…………」

 このすぐ向こう側に、ナトラ教会があるんだよな。
 笑顔で別れたし、最後の最後に子供達を順番に抱き締めたし、その時にアレクにもう一度本当の名前を言ってあげられた。だから悔いはないけど……だけど、やっぱりこれからの事を思うと心配だった。
 自分がこの場所から離れてしまうから、余計に。

 ブラックやクロウが言うように、畑がずっとあのままなら良いんだけどな……。それに、子供達に黙ってこっそり買って置いてきた服も、気に入って貰えてたら良いんだが。

 自分の事すらままならないってのに、人の心配をするなんて俺も偉くなったもんだが、でもやっぱり仲良くなった人達の事を思うと気にせずにはいられない。
 エレジアさんや司祭達がこれからもナトラ教会を守ってくれるって約束してくれたけど、何か有ったら困るから、後でシアンさんに頼んで世界協定に手紙を送っても良いようにして貰おう。
 そしたら安心出来る。物を作ったらアフターケアも重要だからな、ほんと。

「あっ、街道が見えてきましたね。ほら、あそこに馬車が停まってますよ」
「ああっ、ツカサ様ーっ、みなさーん! こちらでーす!」
「ひえっ」
「……あいつら先回りしてたのか……なんと素早い……」

 呆れるブラックの声の先には、出待ち隊と化したリン教のみなさんが……。
 いや、あの、騒がないで。本当騒がないで、バレたらどうすんの。

「お願いしますもうちょっと静かに……」
「あああっツカサ様を困らせてしまった!!」
「なんてことだ!」
「ツカサ様親衛隊一生の不覚っ!!」
「やめて、本当もう色々やめて……」

 お願い、俺泣きそうなの。背後でもブラックが人を殺しそうな顔してるの、だからもう本当色々やめて。親衛隊って何、いつそんなの作ったの。
 お願いだから解散して下さい後生ですから何でもしますから。

 そんな涙目の俺を見かねたのか、エレジアさんが今度こそ怒って拳を振り上げ、狂信者たちに強く怒鳴った。

「こら貴方達、もういい加減にしなさいっ! そんな事をいつまでも言っているとお仕置ですよ!!」
「ひいっ、シスター・エレジアが!!」
「鉄拳の聖女様どうかお許しを!」
「拳での愛の説法はもう我々の歳には厳しゅうございますうう!」

 ……鉄拳の聖女?
 ちょっとまって何か今物凄い単語が聞こえたんだけど……えっと……気のせいだね、気のせいだよね。クール清楚美女のエレジアさんが拳で殴るなんて、そんなの真冬の夜の夢だよね。
 いやまあそういう女性とお付き合いするのもやぶさかではありませんが。

「ま、まあえっと……後で私から言っておきますので……」
「本当にすみませんエレジアさん……」
「それより、あの……馬車はあの、ほら、用意しておりますので!」

 あっ、顔を赤くして話を逸らそうとしてるエレジアさん可愛い!
 控えめに言っても結婚してほしいがこの人は無理なんだよね残念……いや何も思ってません、何も思ってないから睨むなオッサンども。今回台詞が少ない代わりに睨みすぎだぞお前ら夢に出てくるからやめて。

「馬車はコレですね……って、なんか俺達が乗ってきた奴より豪華なんですが」
「中に部屋があるぞ。台所と寝部屋だ」
「大型馬車か……でも、僕達はこんな豪勢な馬車は頼んでないけど」
「これは私達からのお礼です。中には旅に必要な物と、それにツカサさんが甘い物がお好きとおっしゃっっていたので……そう言う物も積ませて頂いてます。馬は不要との事でしたが、こちらが勝手に大きな馬車を用意しましたので……負担を減らすためにディオメデを二頭用意しました。どうか使ってやって下さい」
「そんな、至れり尽くせりすぎて悪いですよ」

 嬉しいけどめっちゃ申し訳ない。
 慌てて手を振る俺に、エレジアさんは笑うと緩く首を振った。

「いいえ、これくらいは当然です。私や街への事はもちろんですが、あの回復薬の凄まじい程の効能は、我が教会の宝に等しいものです。それを無償で下さると言うのですから……これでも、まだ代価に足りないくらいです」
「そんなに……」
「ツカサ君の回復薬ってそんなに凄かったのか……いや、確かに店で売ってる薬とは比べ物にならないくらい効くけど」
「恐らく、こんな薬を作れるのは世界でも五人程度かと。……もしかして、ツカサさん自身も効能の程度が把握はあくできていなかったのですか?」
「はい……俺、旅ばっかりしてたんで……」

 そう言うと、エレジアさんは少し考えて頭を上げた。

「でしたら、首都の“国立植物園”に行ってみたらどうでしょう」
「植物園?」
「はい。そこには各国で引く手あまたの薬師であらせられる、名誉帝国臣民の木の曜術師様がいらっしゃると聞きます。彼なら、ツカサさんの薬の詳しい効能や、貴方が本当はどの等級なのかも教えて下さるかと」
「へえ……そんな人が……! 解りました、行って見ます」

 正直俺の力がどうかってのはどうでも良いんだが、回復量が段違いだって言われると店に売り難くなっちゃうもんな。どの程度の品質かを詳しく鑑定して貰って、それを元にわざと薬の質を落とす練習とかをしても良いかも知れない。
 植物園ってのも大いに興味があるし、本当に良い事を教えて貰った。

 改めてエレジアさんに礼を言い握手をかわわすと、彼女はくすぐったそうに笑ってくれた。ああ、最初はクールな表情の美人さんだなって思ってたけど、心を許した相手にはこんなに可愛い笑顔で笑う人だったんだな。
 レナータさんも、彼女のこんな所を好きだと思ったのだろうか。

 エレジアさんが、いつも一生懸命で穏やかで優しいレナータさんの事を好きだと思ったように、彼女も助けて貰いながらずっとエレジアさんの優しい部分を見てきた事で、彼女にあんな優しい目を向けるようになったのかも知れない。

 馬車に乗り込んで俺に「出発準備が出来た」と呼びかけるブラックに頷くと、俺はもう一度エレジアさんと握手をして、彼女を応援したくて一言だけ告げた。

「エレジアさん」
「はい」
「レナータさんも、きっと貴方の事が好きだと思うよ。だから、頑張って」

 そう言うと、彼女はきょとんとして目を瞬かせていたが……やがて、顔を真っ赤にすると、泣きそうな笑顔で深く頷いた。

「博愛を司る女神の御使いにそう言って頂けると……勇気が出ます。こちらこそ、何から何まで本当に、ありがとうございました。是非またこの街にお越し下さいね。次はリン教が……この街が、全力でおもてなししますから」
「楽しみにしてます」

 この世界で百合なカップルに関わったのは、これで二組目だけど……こちらはリリーネさんとタイネのような結末にならなそうで本当に良かった。
 「同性を恋愛対象として好きになるのは当たり前」って言う世界観は、正直な話俺にはまだよく理解出来ないが、でも、二人が幸せならそれでいい。

 ナトラ教は博愛主義だし、恋愛の一つや二つは聖職者でも大丈夫だろう。
 そう思いながら、俺は御者台ぎょしゃだいに乗り込んで彼女達に別れを告げた。

「さよーならー!」

 手を振る人達がどんどん遠くなっていく。
 俺もみんなが見えなくなるまで手を振ると、やっと落ち着いて前を向いた。
 隣にはブラックがいる。祭りが終わってからのブラックとは違って、今は何故だかご機嫌だ。わずらわしい監視生活から解き放たれた事に開放感を覚えているのかな、と思っていると、ブラックは不意にこちらを向いてニコリと笑った。

「これでやっと二人っきりになれるね、ツカサ君」
「後ろにクロウも居るし、ロクもいるから三人と一匹だろ」
「やだなあもう、今は御者台で二人っきりだろう? ツカサ君言ったじゃないか、二人っきりの時はイチャイチャしていいって」

 げっ、そう言えばそんな事言ってたな。
 恐怖の生活で添い寝やイチャイチャも有耶無耶うやむやになってたからすっかり忘れてた。うわ。でも約束しちゃったし、約束しちゃったしなあ……。

「ま、まって。ロクがいるって。今は外だし」
「誰も向こうからやってこないし、そもそもロクショウ君は寝てるじゃないか。あの熊男も馬車の中だし二人っきりだよ。ね?」
「う……うぅ……」

 うなる俺の肩を抱いて引き寄せると、ブラックは俺の頭に自分の頭を乗せる。
 帽子が押し潰され頭のてっぺんから温かさが伝わって来て、俺はなんだか気恥ずかしくて身を縮ませた。

「…………人が来たら、離れる」
「うん。じゃあ、夜になったらまたイチャイチャしようね」

 そう言いながら俺の肩を抱いた手の力を強くするブラック。
 何が何でも逃すまいとするようなその腕に、反発心が湧かないでもなかったが、今までの事を考えると突き離す事も可哀想で、俺は仕方なくなすがままになってやった。……まあ、その、ご褒美だ。ちゃんとやってくれたしな。

「ツカサ、オレとの約束も忘れるな」
「そうそう、約束はきちんと守らないと……ね」

 ああ、背後からなんか聞こえた。俺をご機嫌で抱いてる奴の口から、何か企んでいるような低い声が漏れた。
 そういやこいつら、とんでもない事ばっかり俺と約束してたんだっけ。

「…………約束って、こんなに重くて逃げ出したくなるもんだったかな……」

 アレク達とした約束と、ブラック達とした約束がまるで違うような気がする。
 もしかして、大人になると約束って重たくなるものなんだろうか。

 そんな事を考えて、俺はこれからの旅程を思い気が遠くなった。











※次は首都・ノーヴェポーチカ編になります。最後のレギュラー一人と、
 わりと重要な話が続く予定……ですがとりあえず街ではそれと関係なく
 いちゃいちゃするのでよろしくお願いします。二人にいちゃいちゃさせたい…
 O(:3 )~ ('、3_ヽ)_
 
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