異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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祭町ラフターシュカ、雪華の王に赤衣編

27.願っても叶わない事はある

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 ジェドマロズの大役を見事にやりとげて、数日後。
 ナトラ教の偉業はすぐに街に知れ渡り、教会の周囲は物凄い事になっていた。
 ……何が物凄いって、人がだ。

 例えば、礼拝する観光客や寄付をしに来る街の人が次々やって来たり、子供達を養子にしたいと申し出る人達が現れたり……とにかく沢山の人が教会にやって来て、朝の礼拝もままならないレベルで大騒ぎになってしまったのである。

 そのうえ、何故か俺達が壁際の区域の人達の支援をしたのがバレていて、俺達に一言お礼が言いたいと言う人達まで殺到し、ここ二日は来客対応で休む暇すらなかった。

 見かねたエレジアさんと司祭達が、ナトラ教会に駆け付けて色々と手助けしてくれたお蔭で、とりあえずは事態が収束したのだが……まさかこんな大事になるなんて思わなかったよ。
 いや、一目置いてくれるだろうという算段はあったけど、まさかここまで反響があるとは思わないじゃん? こうなるって自信がある方が逆に凄いと思うが、とにかくこの状態は完全に予想外だったのだ。

 あと、それと物凄く困った事がもう一つ……。
 それはと言うと……。

「あぁ~~~なんなんだ何なんだ何なんだろうなぁあのクソッタレな覗き野郎どもはぁああ!!」
「お、落ち着いて下さいブラックさん! 汚い罵詈雑言ばりぞうごんが子供達に聞こえてしまいます教育に悪影響ですー!」

 教会の礼拝堂の奥。食堂に集まって、俺達は今日もうだうだとくだを巻いている。見えない敵に怒鳴りまくって地団太じだんだを踏むブラックも、最早見慣れた物だ。
 しかしおだやかで平和主義者な聖職者のレナータさんが、そんなブラックを野放しにしておくはずはなく、慌てて近寄り自制をうながす。
 だけどブラックも最早我慢の限界なのか、レナータさんに言われて口をつぐんでもわった目でフーフーと粗い息を吐いていた。

「アイツらのお蔭でツカサ君とちっともゆっくり出来ゃしない……くそっ……もういっそ出て行って一人ずつ殺……」
「おおお気持ちは解りますが、あの本当落ち着いて……。外に居るブラックさんやツカサさんに会いたいと言う人達の事は、リン教の司祭様達がちゃんと抑えて下さっていますから……」

 ……そう。
 もう一つの困った事とは、外部の人の異常な干渉かんしょうだった。
 子供達や、この教会に用がある人達とは別の……俺やブラックに対して興味を持った人達の度重たびかさなる不法侵入と覗き行為に、俺達は悩まされていたのである。

 まあ、ブラックは解るよ。格好良かったもんな。
 そもそも髭剃って真面目な顔してりゃ普通に格好いいオッサンだし、美女なんて掃いて捨てるほど抱いてきたレベルの男だし、そんなのがあんな格好いい鎧を着てパフォーマンスしたんだから、惚れる奴の一人や二人出て来るだろう。

 ……焼いてませんよ。当然の事だから俺は別にどうとも思ってません。
 そもそもコイツ元々女ったらしだし。気にしてないです。気にしてないったら!
 ゴホン、とにかくそんな事はどうでも良いんだ。
 ただただもう、一部の熱狂的な人達が不法侵入してくるのが嫌なんですよ!
 だってあの人達なりふり構ってなくて怖いんだもん!!

 真夜中に窓がガタガタとなったと思ったら、その隙間から覗こうとしていた人と目が合った時の俺の恐怖をお分かり頂けるだろうか。
 礼拝堂の、ステンドグラスに成りきれない“色つき曇りガラス”に何人もの顔の影が浮かび上がり、その顔全てが俺達をじっと見ていると言う光景を想像して頂けるだろうか。

 控えめに言っても、怖いです。気持ち悪いです。
 レンタルDVDのアレですか。呪いのナントカってDVDに映ってるアレですか。
 やめて下さい俺そういうの苦手だって言ったでしょ!!

 人には言えないが、泣いちゃったしちょっとちびっちゃったし、本当にもう男の尊厳そんげん失いそうだから止めて欲しい……。

 そんな熱狂的なブラックのファンに加えて、俺……もとい“ウサミミの孫”を探す目が笑っていない人達とか、俺に気付いて「君、兎ちゃん? ウサギちゃんだよね?」と詰め寄ってくる大人の男とか現れるんだぞ。怖い以外に何の感情を抱けばいいって言うんだ。あとなんで俺の方は男ばっかなの。

 恋は盲目もうもくとはよく言ったもんだが、盲目過ぎて人の迷惑を考えないのは本当に勘弁かんべんして欲しいよ……これじゃ出発したくても出来ないし本当に困ったし、俺も限界値越えて泣きわめきそうなので本当やめて。これ以上、俺の男としてのプライドをぶっ壊さないで。

「それにしても、困った事になったな。これでは出発できんぞ。予定では役目が終わったらすぐにこの街を出発する予定だったのに」

 俺達が恐慌きょうこう状態になっていても、さすがのクロウは落ち着いている。
 いや、ただ単に自分には被害がないので安閑あんかんとしているだけかもしれないが、でもパーティーにはこういう奴が一人は必要だからな。
 全員発狂してたんじゃどうしようもない。

 けどやっぱ出来る事なら代わって欲しいと思いつつ、俺はクロウに頷いた。

「そうなんだよな……これ以上ここに滞在してても迷惑かけるだけだし、なんとかして脱出したいんだけど……」
「僕も早くこの街から離れたい……」

 やだブラックがゲッソリしてる。こんなブラック見るの初めて。
 そうか、お前もやっぱりオカルトちっくに人にせまられると辛いのか。まあそりゃそうだよね。怖いもんね……。
 今回ばかりは同情するよとブラックの背中をさすっていると、俺達の様子を見かねたレナータさんが助け船を出してくれた。

「あの……この際ですし、脱出もリン教のかたに手伝って頂いたらどうでしょう」
「と言うと……」
「例えば陽動とか、物に隠れて脱出とか……。どんな事をするにせよ、今のにぎわいでは人に見つからずに脱出するのは難しいと思うんです。なので、数には数と言う事で、リン教に協力を頼めば多少強引でも脱出できるのではないかと……」
「数には数か……そうしてくれれば確かにありがたいけどね」
「エレジア様にはわたくしから相談してみますので、どうかお気を確かに」

 疲れ切ったブラックの声に、レナータさんは「頑張って!」と言わんばかりに両手で拳を作ってぐっと力を入れるような仕草をする。
 レナータさんの仕草は可愛いなあとなごむ俺に、ブラックは盛大な溜息を吐いたが……もう突っ込む気力も起きないのか、寝るとだけ言い残して寝部屋へと戻って行った。

「…………重症だな」

 意外そうに呟くクロウに、さもありなんと息を吐く。

「ブラックも相当参ってるみたいだし、子供達にも迷惑かけらんないから早くしなきゃな……。レナータさん、申し訳ないけど頼めますか。俺達もう動けそうにないので……」
「ええ、心得ておりますので、ご安心ください。ツカサさん達は、子供達と一緒に休んでいて下さいね。礼拝堂から先には決して通しませんから!」

 ああ、頼もしい……真の聖母は貴方ですレナータさん。
 情けないけど、今は彼女にすがるしかない。礼拝堂で新しい信徒への説法に忙しいギルベインさんや、狂信者と化したリン教の司祭達、そしてエレジアさんにも迷惑をかけてしまうが、ずっとこんな事になるくらいなら恥を忍んで頼みます。

 やる気に燃えて食堂を出て行くレナータさんを見送って、俺は再び溜息を吐いた。ああ、なんかくさくさするなあ。これじゃ昼飯も美味しく食べられない。
 子供達と一緒に食べるんだからそれはちょっとなあと思っていると、クロウの腹が代わりにぐうと鳴った。お前さんタイミング良過ぎませんか。

「…………腹が鳴った」
「おイモ……バターテかすけど、食べるか?」
「ん。頼む」

 かすだけなら数分で簡単にできるし、サツマイモとほとんど同じ味のバターテはおやつにも最適だ。
 そんな甘い芋が大好きなクロウは、俺の言葉に耳をぴこぴこと動かした。
 ああ、癒されるなあ……。

「じゃ、持ってくるからここで待ってて」

 クロウの正直な熊耳にちょっとだけ気分を持ち直す事が出来た俺は、早速台所へと向かい倉庫からバターテを取り出した。
 ここ数日、教会の裏庭に作った畑に行けてないが、土の状態はどうなってるんだろう。枯れてなきゃいいんだけどな……。

 そんな事を思いつつ、俺はイモを洗うと蒸し器を取り出す。

 蒸し器とは言っても、大鍋の底に水を張ってザルを置いた代用品なのだが、これが結構ちゃんと使える。野菜を蒸せるのはもちろんだが、なんちゃって燻製とかも出来そうだ。まあ俺にはとても出来はしないが。

 そうなんだよなあ。俺が料理上手でスイートポテトとか作れたら良かったんだけど、悲しいかな俺はお菓子作りなんて全然興味が無かった男だ。
 教科書やネット小説で知った知識がほとんどの俺に、そんな高度な料理をやれと言う方が酷だろう。……いや、世間一般的には簡単なんだろうが、俺はエロ方面にしか興味がない普通の高校生なんで……。

 まあ、それはともかく、今はイモだ。ふかしイモを作るのだ。

 ザルの上に芋を乗せて、鍋をかまどにセットする。あとは火を付ければ、ふかしイモは簡単に出来上がる。本当はバターなんかが欲しい所だが、この世界では乳製品は手に入りにくいので仕方ない。

 しばしイモが蒸されるまで覗きこんで待っていると、誰かが後ろから俺を呼んだ。この声は……カインかな?

「どうした、カイン。お腹すいたのか? まだ昼じゃないから我慢だぞー」

 まあクロウは別だが。あの人は沢山食べないと倒れる系の人だから……。
 そんな事を考えながらカインに言うと、相手は予想外だったようで目を丸くして顔を赤らめながら必死に否定した。
 あれ、違うの。

「そ、そうじゃなくて、その……」
「ん?」
「さっき、もうすぐ出て行くって話を聞いちゃって……」

 ああ、食堂での話を聞いていたのか。
 カインも祭りが終わってからはずっと教会の奥に居て隠れていたから、そろそろ外に出たくなって歩き回ってたんだな。
 そう思うとちょっと可哀想になって、俺はカインに近寄った。

「うん、用意ができ次第ね。これ以上居たら余計に迷惑掛かりそうだから」
「そんな……その……俺、ツカサ兄ちゃんが居なくなると……悲しい。みんなだってそうだよ。多分、リュースタフなんて大泣きすると思う」
「あはは、あの子だっこ大好きだもんな」

 前髪で銀の目が隠れたリュースタフは、俺にだっこして貰うのが大好きだった。
 クロウの抱っこの方が高さも安定感も抜群だしで、そっちの方が良いと思うんだが、何故かリュースタフとカインは俺に引っ付くのが好きらしい。
 よくわからんが筋肉嫌いなのかな。ミレーヌちゃんはキャッキャしながらクロウに肩車されてたのに。

 そんな事を思い出しながら苦笑する俺に、カインは少し眉を下げる。

「……本当に行っちゃうの?」
「ああ。俺達にも、旅をしなきゃ行けない理由があるからね」

 大部分は、俺のこの能力のため。でも今は、クロウの父親を探す為だ。
 どちらにせよ一つの場所に長く留まってはいられない。
 カイン達と仲良くなれたのに別れるのは悲しかったけど、でも永遠に会えない訳じゃないんだ。大丈夫だよと頭を撫でる俺に、カインはどこかむずがっているような表情をしたが……ぐっと堪えて俺を見上げた。

「首都に、いくんだよね」
「ああ」
「……だったら、コレ持って行って」

 そう言ってカインが取り出したのは、小さな輪っか。これは……子供用の指輪だろうか。金の輪に古代文字のような複雑な文様が彫ってあり、中央の台座には淡く光る虹色の水晶が嵌め込まれている。高価な品だと一目で解る指輪を差し出した相手に、俺は思わず首を振った。

「駄目だよこんな高そうなモン!」
「良いから。……俺にはもう、必要のない物だから」
「でも、必要ないなら換金したら結構なお金になるんじゃ」
「それは俺も考えたけど……でも、これは換金できないんだ。だから売りたくても売れなくてずっと隠し持ってた。俺が持ってても何にもならないから……だから、貰ってよツカサ兄ちゃん。……俺、兄ちゃんに持っててほしいんだ」

 必死な顔で訴えて来られると、俺には拒否なんて出来ない。
 子供用の指輪は俺のどの指にも小さすぎて入らないが、紐に通して首にかける事は出来るだろう。遠慮しながら受け取るが、それでも何故コレを俺にくれたのかが解らなくて、俺はカインに意図を訊いた。

「どうして俺にこの指輪をくれたんだ?」
「今のノーヴェポーチカは……旅人にかなり厳しくなってると思う。だから、もし兄ちゃんが困った時に必要になると思って」
「この……指輪が」

 指輪とカインを見比べながら言うと、相手はしっかりと頷いた。

「もし、誰かに……あのブラックっておっさんみたいな変な奴から逃げる事になったら、この指輪を下民街にある酒場にいる『ボリスラフ』って名前の男に見せて。そしたらきっと良くしてくれるから」
「……首都って、今そんなにヤバいのか?」

 そう言うと、カインは難しそうな顔をして目を伏せた。
 何故あまり情報も入ってこなさそうなこの教会の子供が、そんな事を知っているのか。そして、どうして唐突にそんな事を言いだしたのか。
 解らない事は沢山あるけど……多分、聞いちゃいけないんだろうなと思った。

 指輪の事だって、もしかしたらこれは母親の形見なのかもしれない。
 だけど、カイン自身が手放すと決心した事なのだから、そこを追及しても仕方ないだろう。多くは聞かない事にするけど、でも首都の様子だけは気になる。

 いつも大人顔負けの冷静さを持つカインの目から見た首都は、どうなっているのか。それが知りたくて腰を屈めた俺に、カインはゆっくりと視線を合わせると口を開いた。

「ツカサ兄ちゃんは黒髪だよね。御使い様……いや、ナトラ様と一緒の」
「うん……」
「何故だか良く解らないけど、四年くらい前から炎雷帝えんらいてい……この国の王様が、急にこの国の人同士で結婚したんじゃ生まれない髪色の人をどっかに連れて行くようになったんだ」
「この国の人同士って……黒髪ってこの国じゃ生まれないのか?」
「そう。あと、銀髪も生まれないけど……とにかく、そんなの他の国でも当たり前なのに、炎雷帝はそんな人達ばかり捕まえるようになった。俺には何をしているか解らなかったけど……でもあいつの事だ、悪い事に使ってるに決まってる。だから俺、ツカサ兄ちゃんには捕まって欲しくないんだ」

 その炎雷帝という皇帝が何をしているのかは解らないが、カインにはどうやらかの皇帝が「悪い事」をしているという確信があるらしい。
 もしかして、カインは首都で暮らしていた子供だったのだろうか。
 そうなると街の人間にまで悪評が知れ渡っていると言う事になるが……。
 何にせよ首都も長居は無用みたいだな……まあ、俺達が行くのは世界協定の支部だし、シアンさんに頼んでなるべく外出を控えればどうにかなるか。

「分かった。……じゃあ、この指輪は“預かって”おくよ」
「ツカサ兄ちゃん」
「……きっと返しに来るから、その時にまた会おうな」

 そう言って藍色の髪を優しく頭を撫でると、カインは目を細めてしばし黙った後――俺にギュッと抱き着いて来て、首に顔を埋めた。

 やっぱりカインも寂しいんだな。
 バターテの甘い香りのする台所で抱き締め返してやると、カインは俺の耳元で俺にだけ聞こえるような小さな声で呟いた。

「…………違うんだ」
「――――?」
「俺の本当の名前は、アレク。アレクセイ……カインじゃ、ないんだ」

 そう言って俺に抱き着く力を強くするカインに、俺はふと前に台所であった事を思い出した。あの時はレナータさんが駈け込んで来たので話を中断してしまったが、もしかしてカイン……いや、アレクは、自分の真名を教えようとしてたのではないだろうか。
 甘えても良いと俺が言ったから、本当の名前で読んでほしくなったのだ。

 それはそうだろう。アレクは母親にちゃんと本当の名前を呼んで貰えていたのだから。今まで偽名の方ばかりで呼ばれていた事を考えれば、優しかっただろう彼の母親が呼んでくれた名前を言いだせなかったのは、物凄く苦しかったに違いない。

 でも別れる前に知る事が出来て良かった。
 俺はアレクの背中を優しくさすってやると、彼の名前を呼んだ。

「アレク、教えてくれてありがとうな」
「もっと、もっと呼んで」
「アレク。アレク……」
「……あり、がと……ツカサにいちゃ……」

 子供って自分の欲望に素直に生きてると思ったけど、そうじゃ無いんだな。
 思えば俺のガキの頃だって、ままならない事に我慢して泣き喚いて、結局どうにもならなくて諦める事が増えて行ったような気がする。
 そこで我慢を学ぶんだろうけど、子供からしてみりゃそんなの知ったこっちゃない。我慢すればする分だけ辛くて悲しくなっていくだけだ。
 それを爆発させずに、今までずっと子供達のリーダーをやっていたアレクは、本当に強い子だなと思う。

「ツカサ兄ちゃん」
「なんだ?」
「本当にまた、会いに来てくれる?」
「ああ、もちろんだ」

 こんな高価そうなものは貰えないから、と笑う俺に、アレクは俺の首下でちょっとだけ笑って、それから――――俺の頬にちゅっと音を立ててキスをした。
 ……ん? キス?

「あ、アレク?」
「俺、仕事頑張るよ。ツカサ兄ちゃんに貰ったもの全部大事にする。教会だって、きっと俺が建て直して見せるから……だから……あの変なおっさんが嫌になったら、いつでもここに戻って来て。そしたら、俺がツカサ兄ちゃんを守るから」

 変なおじさん、とはまたよく言ったもんだ。的確すぎる。
 だけどまあ、アレクから見ればブラックは気難しくて優しくなくて、それなのに俺が素直に恋人だっていう変な人だもんな。

 守るって、愛想尽かした時の駆け込み寺って事かな。いや、実家かな?
 なんにせよ、何の思惑も無く俺を守ってくれると言ってくれる弟が出来たのは、とても嬉しい事だ。血縁関係の無い他人だとしても、慕ってくれるならそれはもう家族でしょう。ライクネスの湖の馬亭の人達だって、俺にとってはこっちの世界の大事な家族みたいなものだしな。

 でも残念な事に、今ブラックに愛想が尽けるなら、俺はアイツの恋人なんてやってない訳で……だから、ここに“駆けこむ”のはだいぶん先になりそうだ。

 その前にこの指輪を返しに来る方が早そうだと思って、俺は苦笑しながらアレクの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。








※次回でラフターシュカ編おしまいです
 
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