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祭町ラフターシュカ、雪華の王に赤衣編
11.主人公=巻き込まれ体質の人
しおりを挟む※ツカサ達がまるで喋ってないです、すみません(;´Д`)
「あら……あなた…………ここへご案内した、旅人の方でしたわね」
リン教のシスターさんに怪訝そうな声でそう言われて、俺は今の自分の姿を思い出し、またうっかり黒髪を見せてしまったと顔を強張らせた。
そうだ、俺……今は帽子被ってないんだったぁああ!!
「あっ、あ、あの」
「なるほど……やはり黒髪の方でいらしたのね。ああ、ご安心ください。子供達の姿を見ていれば、貴方が善良なる神のしもべであると分かります。御髪のことは他言致しませんので構えずとも大丈夫ですよ」
「そ、そう、ですか……よかった……」
ツンケンしたクール美人さんな美貌だけど、やっぱりこのリン教のシスターさんは優しい。リン教に関してはよく解らないけど、こんなクール美人で優しいシスターさんがいる教会なんだから、きっと良い所なんだろうな。フヘヘ。
「ツカサ君がまた女にうつつを抜かしている……」
「上からいきなり怨霊みたいな声落として来るのやめてくれますブラックさん」
その「異性に色目を使うなんて」みたいな顔、おかしいからね!?
お前こそ数えきれないほど女と寝ておいて、それなのに美人を目の前にしてもハァハァしないって何だよ! おかしいのお前の方だからね!?
母さんと仲が良い俺の父さんですら、テレビでアイドルが水着を着てれば思わず目が行くんだ。それはもう男の本能、そして女性のおっぱいは元々男を誘うための宝物なんだ。即ち俺は悪くない。美女やおっぱいに目が行く本能が悪いんだ。
つまり俺は本能の申し子で、女性に対して理性が無くなるのは仕方が無くそんな男のサガを誰が止められ……そんな話してる場合じゃ無かった。
折角だからご一緒にどうぞとシスターさんに言われたので、俺達も子供らを連れてゾロゾロと礼拝堂の中に入る。すると、朝のお祈りを終えたのかギルベインさんとレナータさんが本を閉じているのが見えた。
そして顔をあげ、俺達の前にリン教のシスターさんが居るのを見止めると、彼女は少し申し訳なさそうな、恥ずかしそうな顔をしながらこちらに近付いてきた。
「こ、これは……ご挨拶もせず申し訳ありません、シスター・エレジア様」
そんなレナータさんに、エレジアと呼ばれたシスターさんは表情一つ動かさずに修道女服の裾をつまんで優雅に挨拶をした。
「こちらこそ、朝の礼拝のすぐ後に押しかけてしまって申し訳なかったわね」
「いえ……それで、今日はどのような御用で?」
「ん……それなのだけど……」
そう言うと、エレジアさんは少し躊躇い、しかしすぐに自分の感情を振り切るかのように冷静な表情でレナータさんにはっきりと用件を告げた。
「数日後、この街で『妖精の過ぎ越し祭』が行われるのは理解していますね?」
「は、はい。ですが、わたくしどもは今回も参加を見送らせて頂こうかと……」
「そういう訳にもいかなくなったのです。実は……今年の“ジェドマロズ”の担い手を受ける事になっていた司祭が悪い精霊に侵され、病の床に伏してしまいました。そのため、今回は特例として……貴方がたナトラ教に“ジェドマロズ”を行わせると街の議会での決定が出ました」
「え……?」
「つきましては、“ギフト”の確認と街路の把握、衣装の用意をお願いします」
な、なんだ。
レナータさんの顔が真っ青になってるぞ。それに、ギルベインさんもポカンと口を開けてエレジアさんを凝視している。
でもジェドマロズって何だよ。っつーかこの不穏な空気は何……?
困惑して子供達を見やるが、彼らも状況が解らないと言った様子で顔を見合わせていて、ジェドマロズについても何も知らない様子だった。
じゃあブラックなら知ってるかなと見上げてみたが、ブラックも知らないと言うように頭を緩く振ってしまう。ええ、知らないの。困ったなあ……。
頭上に疑問符を浮かべたハテナ集団と化している俺達を余所に、エレジアさんはキビキビと話を進めて行く。
「それに、中央広場にて行われる『祝福』行事での催し計画書の提出、精霊馬車として使用する馬車の確保に……」
「ちょ、ちょっと待って下さい! わたくし達には馬車を借りるお金もありませんし、祝福行事で行えるほどの術なんてなにも使えません!」
青ざめたまま必死に首を振るレナータさんに、教壇に着いたまま動けなくなっているギルベインさんも必死にコクコクと頷く。
二人が何に焦っているのかはよく解らないが、とにかく予想外のアクシデントに見舞われているのは間違いない。そしてそれは、今の二人には到底成功させようもない事なのだろう。感動屋のギルベインさんはともかく、普段は優しくて穏やかなレナータさんがあれほど焦って弁解しているのだから、相当厄介な問題なのだ。
しかし、クールなエレジアさんは表情一つ変えず言葉を続けて行く。
「なくてもやって頂くしかないのですよ。『妖精の過ぎ越し祭』は、一度担い手を引き受ければ七年は参加できない決まりになっています。それに、ジェドマロズの役は曜術師に限られている。けれどリン教会にはもう担い手がいないのです」
「で、ですが……」
ああ、レナータさんが涙目になっている。
子供達もそれに気付いてエレジアさんを睨み付けているが、相手が修道女であるためか、殴りかかる事も出来ずに俺の周囲でただ顔を歪めていた。
いや……他人に暴力を振るう行為は、レナータさんとギルベインさんが嫌がる事だろうから、必死に耐えているのかも知れない。
でも、レナータさんの焦った表情に我慢できなかったのか、ミレーヌちゃんまでもが涙ぐんで、俺のズボンをぎゅっと握っている。
俺は興奮を必死で我慢する子供達の頭を撫でて宥めてやりながら、話がどこへ転ぶのかをブラック達と一緒に静観する事にした。
エレジアさんは焦るレナータさんをクールに見つめているが……しかし、何故か悪感情と言うものはまるで見えない。
詫びるような表情もないが、しかし、決してレナータさんをバカにするでもなく、ただ彼女に事実を伝えているだけのように見えた。
「レナータ、落ち着きなさい。貴方の所の教義ではこういう場合に焦るのですか」
「ち、違い、ます……。ですが、しかし……」
「……急な指名ですし、元はと言えば私どもの落ち度で貴方達に負担を強いる事になりましたので、馬車に関しては今回は特別にリン教が費用を持ちます。しかし、祝福の儀は何としてもこちらでやって貰わねば困るのです」
「で、ですが……私は四級ですし、牧師様は……そもそも、曜術の発動に関してはとても不得手でいらっしゃいます……伝統に泥を塗る事になりかねません」
自分で言っていて不甲斐ないと思えて来たのか、レナータさんは顔を歪め俯く。
ギルベインさんも否定できないのか、ただ目を伏せていた。
エレジアさんはそんな二人を見ていたが……軽く拳を握ると、もう一度じっとレナータさんを見て、唐突にこちらに視線を放った。
「っ!?」
「私はなにも、教会の牧師や修道女でなければならないとは言っていませんよ」
「……え…………?」
凛としたその声に顔を上げたレナータさんに、エレジアさんは少しだけ目をやり、何故かちょっと困ったように視線を外すと再び俺達を見やった。
「祝福の儀は、教会の関係者であればいいのです。もとより、曜術師という存在が必要であるから、確実に曜術を使える教会の者にせよという理由で決められていた風習ですから……千年近い歴史の中で例外がなかったとは言えないでしょう」
「……エレジア、さま」
穏やかで大人っぽい優しい表情が普通だったレナータさんが、子供のような顔で呆気にとられたようにエレジアさんの名を呼ぶ。
エレジアさんは、そんなレナータさんの顔を見て何故かビクッと体を震わせたが、コホンと小さく咳払いをして「とにかく」と言葉を吐いた。
「とにかく、ジェドマロズの衣装と計画書を用意しなさい。いいですね」
「は……はい……」
「では、私も忙しい身ですのでこれで」
そう言いながら颯爽とこちらへ歩いて来るエレジアさんに、俺達は思わず道を譲ってしまう。彼女はそんな俺達……いや、俺にしっかりと目を向けると、小さく会釈をした。まるで「頼んだわよ」とでも言うように。
そうして、そのまま教会から出て行ってしまった。
……あれ、もしかして、エレジアさん…………。
「ツカサ君、彼女……」
「う、うん……あの会釈って多分……そう言う事だよな……」
何をやるんだか良く解らないが、祝福という儀式の担い手は、普通は牧師だけど実際は曜術師であれば誰でも良いらしい。
それをエレジアさんはわざわざ説明して、俺達を見たり、会釈したりした。
ってことは……。
「ツカサ、やっぱり面倒事に巻き込まれたな」
……ああ、そうだねクロウ……。
煩いって言って悪かったよ。もうなんて言うか、こうなると呪いでも掛かってるんじゃないかって気がして来たわ。
でも、俺達には一宿一飯の恩が在るし、それに……街の一大イベントらしき祭を失敗させちゃいけないよな。うん……。
「ツカサ君、やるの?」
うんざりしたかのようなブラックの声に、俺は観念してゆっくりと頷いた。
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