異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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シーレアン街道、旅の恥はかき捨てて編

13.旅には用意と用心が必要です

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 出国門前、俺達は荷物を抱え込んで今一度の確認をしていた。

「次の町までの食料!」
「よーし!」
「防寒具及び装備と地図!」
「あるぞ」
「そんで薬とかなんやかんや、よーし! ……忘れ物ないよな?」

 ブラックの助言も聞きながら道具を揃えて、ついにやってきました出発の日。
 と言っても防寒具を購入した日から一日経っちゃったんだけど、まあ朝早くから出発した方が長い時間移動できるし、怪我けが功名こうみょうと言う事にしておこう。
 とにかく、やっとオーデル皇国こうこく入りだ。

 結局ロサードには会えなかったが、首都のノーヴェポーチカに行けばまた会えるかも知れないし……まあ一期一会って奴だよな。
 眠って丸一日無駄にしちゃったんだから、それを取り戻すためにもキビキビ出発しなきゃならん。シアンさんを待たせちゃ悪いからな!

「それじゃ行こうか」

 俺はあらかじめロクにもみの木(っぽい模様)が織り込まれた赤の尻尾カバーを着させて、準備万端で出国門へと足を踏み入れた。

 ……ああ、それにしてもロク可愛いなぁ……。

 普通の靴下だと隙間ができるから駄目だなと思ってやめたけど、ファンシーな靴下に入ってるロクもきっと可愛かったよなあ……サンタさん柄の靴下からロクがちょろっと顔を覗かせてるのとか絶対可愛い。そう思うと返す返すも惜しい。
 いやそんな場合ではない。落ちつけ俺。

 一階のはしに有る出国門は、遊園地の出国ゲートにも似ている。煉瓦積みの凱旋門がいせんもんっぽいっていうか、中はデパートみたいなくせに妙にそこだけ物々ものものしい。

 この門は、これから入国する旅人達を威嚇いかくする役割が在るのだろうか。賑やかで先進的で明るい砦の街には似つかわしくない古びた煉瓦を見ていると、次に見える風景は厳しい物なのではないかと言う気がしてくる。

 恐る恐る門へと入り、薄暗い通路を進む。
 少し歩いた先には警備兵が立っていて、どうやらそこで改めて身分を尋ねられるようだった。でも、入国審査が厳しかった分、出国に関してはわりと緩いらしい。
 名前と行き先を尋ねられただけで、そのまま通されてしまった。
 ……いやまあ、俺達が特別なだけかもしれんが……。

「さっきの兵士達、すっごく緊張してたね……」
「シアンさんの御威光ごいこう本当すげー……」
「そうか? ウァンティア候の名であれば、もうちょっと凄いと思うんだが」

 荷物を軽々と持ちながら不思議そうに首を傾げるクロウに、アンタはどんだけ肝っ玉がデカいんですかと聞きたくなったが我慢する。

 普通、警備兵って「警備」って言っても国境の守り人なんだから、相当の使い手だしそれなりに厳しい人達なんですけどね……そんな人達が緊張する姿って、そうそう見られないぞ。これで物足りないって、クロウはどんだけ相手をビビらせてきたんだろうか……ああ、考えたくない……。

 少々身震いしながら歩いていると……前方に見える出口の光が近付いてきた。

 さて、どんな風景が待っているのだろうか。
 期待に胸を膨らませて門を抜けると――――。

「おおっ! なんというか…………えーと……山が青い!!」

 第一声がソレかと言われそうだが、ぶっちゃけそれ以上に目新しい物が無かったので仕方ない。トンネルを抜けるとそこは雪国でしたと言いたい所だったが、残念ながら出口の周辺は多数の馬車の駐車場(でいいのか?)になっており、巨大なロータリーのようで雪や冬の国っぽい風景はまるで見当たらなかった。

 なので、俺は視界の向こうに広がるつららが逆さになったような鋭さの青い山のつらなりをみて、山が青い! とクソ面白くも無い感想を漏らしたのだが。

「ツカサ君、無理して新しい所に来た感出さなくて大丈夫だよ、そんなもんだよ。ハーモニックに入った時も、砦周辺はあんまり気候が変わらなかったじゃない」
「でも気分的な物もあるだろ……小麦畑の国から再び草原の国だあーってだけじゃ何か魅力ないみたいじゃん」
「そんな無理に旅行地の良い所見つけなくても……」
「ツカサは良い所探しが得意だな」

 ええいうるさい。俺はとにかく新しい物を見たいんだよ。
 いいじゃないか青い山。キリマンジャロみたいで素敵じゃん。他の国じゃ見た事ない色だし、何より剣山かってレベルで尖ってるの格好いいじゃん。
 クロウもそんな子供を褒めるみたいな事言うのやめい。

「あのー、ツカサ・クグルギ様とそのご一行の方々でしょうか……?」

 青い山情報いるいらないで揉めていた俺達を見かねたのか、キッチリとした服装の壮年の男性が俺達に近付いてきた。
 確かに俺の名前だが……もしかしてこの人が馬車屋の係員さんだろうか。
 問いかけてみると、相手はにっこりと笑ってお辞儀じぎをした。

「お待ちしておりました。こちらに馬車を用意しております」

 おお、馬車の実物が見れるのか。
 ああそうだ、藍鉄あいてつに出て来てくれるように頼まなきゃな。
 久しぶりに藍鉄を召喚して再会のハグをかました俺達は、係員さんに誘導されるがまま馬車が並ぶ駐車場のある一画に移動した。

「クグルギ様のご注文通り、軽銀鋼けいぎんこうの中型馬車とディオメデの防寒具一式、そしてラフターシュカまでの燃料をご用意いたしております。ラフターシュカの支店には既に連絡をとっておりますので、返却は直接支店までお越しください。馬用の防寒具の取り付け方や馬車の事はこの冊子に説明が乗っておりますので、ご参考までにお使いいただければ幸いです」
「あっ、は、はい。ありがとうございます」

 馬車に乗る前に説明書までくれんのか。凄いな。
 雑誌サイズのでっかい説明書を貰って頭を下げる俺に会釈をしつつも、係員さんはテキパキと藍鉄に馬具を取り付けて、それからもう一つ大事な物を渡した。

「それと……こちらは馬車の扉を閉める鍵になります」
「鍵っすか?」
「はい。オーデルは土地柄馬車での移動が盛んですが、どこかに停車している時に良からぬ輩が馬車に押し入って物を盗んだりする事も有りまして……ですので、私どもの馬車は全て鍵をかけられるものにしているのです」
「へー……ありがとうございます」

 あれかな、車上荒らしみたいなもんかな?
 そういや他の国はヒポカム移動だし、基本的に馬車に追いつける乗り物を持っている人が少なかったから、そんな心配しなくても良かったんだよな。
 そもそも、徒歩で移動する事が多い訳だし、貴重品も持って行く事が多くて馬車荒らしなんて起こりようが無かったんだ。

 でも、馬車で移動するのが普通なら、重い貴重品や高価な物も馬車に乗せて運ぶ事があるだろうし、そんなモノが乗ってる馬車だったら強盗も喜んで襲っちゃうよなあ……。そりゃ鍵かけるわな。

 受け取った鍵を紛失しないようにと長い紐を通して首に下げると、係員さんはグッジョブとばかりに親指を立てた。

「ツカサ君、荷物はもう入れたよー」
「えっ、早っ」
「馬の手綱はどの方がお持ちになられるのでしょうか? 私が街道に出るまで誘導いたしますので、クグルギ様もお早くご乗車ください」
「ああ、御者ぎょしゃは僕がやるよ。ツカサ君、御者台に来るかい?」

 荷物を積み終わったブラックが、片手をあげて近付いて来る。
 もちろん俺も外の景色を堪能したかったので否応なく頷いた。クロウも座れたら良かったんだが、残念ながら大柄な大人二人は御者台に収まり切らない。
 クロウは残念そうにしていたが、俺が後で馬車の中に戻り、ブラックが夕方まで御者を務めると言う事で解決した。まあ、一人は寂しいもんね。

「それじゃ行こうか」

 言うなり、ひらりと身軽に御者台へと乗り込んだ相手にちょっとイラッとしつつも、俺も短い足を必死に上げながらえっちらおっちらと御者台に上がった。
 くそう、こういう時に感じる身長差とかほんと嫌い。

「ブルルルルッ」

 落ち込んだ俺の気配を察したのか、藍鉄は後ろを振り返って俺に「大丈夫?」と心配そうな目を向けてくれた。
 うう、ありがとう……俺の味方は君達モンスターだけだよ……。

「それでは、誘導いたしますのでゆっくりと付いて来て下さい」

 係員さんの言葉に従って、ブラックが藍鉄の手綱を軽くしならせる。
 するとゆったりとしたペースで藍鉄は動きだし、馬車の車輪が地面の小石を踏んでガラガラと音を立てながら回り始めた。
 思った以上に軽快に動いた馬車に驚きつつも、俺は馬車が目指す街道を見る。

 ベランデルンとは違う、整地されただけの土の道。その先には青い山とうっすら見える白い大地があって、否応なく景色が変わっていくだろう事を確信させた。
 首都へと続くシューデリカ街道は人の行き来が多く、モンスターも少ない安全な旅ができるとの事だったが……防犯対策だけはしっかりしなければな。

「それでは、いってらっしゃいませ!」

 街道を真正面に見据えた馬車に、係員さんが手を振る。
 俺達はその手に応えて振り返しながら、砦の街を旅立った。
















※次回と次々回は、戦闘とか旅の途中のコネタとか3P(未満)やりますヽ(゚∀゚)ノ
  その後新しい街に入るのでよろしくお願いします!
  雪の国たんのしー!\\└('ω')┘//
 
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