異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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シーレアン街道、旅の恥はかき捨てて編

7.アンタが何考えてるか解らないのが怖い

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 ベランデルンに来てだいぶん経つが、街道を歩いていると毎日思う事がある。
 それは、この国が一番美しいのはやはり夕方だと言う事だ。

 この国の小麦畑は水平線までずうっと続いていて、それが夕方の橙色だいだいいろの陽光に照らされると、まるで黄金のように綺麗に輝く。
 大地が金の海に変わる瞬間は総毛立つほどの美しさだ。
 婆ちゃんの家の近くの棚田も、秋になると稲穂がキラキラ光って本当に綺麗だったけど……この世界の畑は、スケールが違う。
 本当に絶句するほどの風景になるのだ。

 だから、俺はそんな風景を見るのが好きだった。
 ……いや、今の場合に限っては、そっちを見るしか場が持たないというか……。

「…………」
「………………」

 ブラックに「デートしたい」と思わず口走ってしまってから、一時間。
 俺は顔を真っ赤にしたままで何も言えず、ただ、黙りこくったブラックと人気ひとけのない場所を選んで歩き回ってる事しか出来ていなかった。

 いや、デートってこういうんじゃないってのは解ってます。
 自分から言いだした事に責任を持てって言うのもごもっともです。
 でも、仕方ないじゃないか。恥ずかいって気持ちは、どうしたってコントロール出来ないんだ。それに、そもそも「デート」っていうのが何したら良いのか解らなくて、どうしようもないんだよ。

 現代なら映画でもドライブでもなんでも思い浮かぶけど、ここ村じゃん。
 賭場と酒場しかない小さな村じゃん!

 俺の記憶の中に「村デート」って言う単語は存在しなかったんですけど!
 婆ちゃんたちどうやってデートしてたの!?
 小麦畑とか今までずっと歩いて来た道だし散歩する意味がないし、本当世の中の恋人はどんなデートしてんだよぉおお……。
 ああもう、童貞とののしるなら罵ってくれて構わない。
 構わないから、俺にどうしたらいいのか教えてくれよ。

 そもそも、ブラックが喜ぶ事ってなんだ。
 俺がベタベタする以外で、コイツは何を喜んでくれるんだ。

 酒はダメだ。料理なんて今の状態で作ってもブラックは「食べない」って言うだろう。だからといって媚びれば、こいつは「本当に僕のこと好きなの?」って逆に離れて行くに違いない。うたぐぶかい奴は、こっちが必死になればなるほど「取りつくろってる」と思うのだ。……まあ、確かに取り繕ってるには違いないが、好きだって気持ちまで疑われるのはイラッとくるよな。
 好きだからこそ取り繕ってるのに、なんで信じてくれないのか。

 俺がアンタにすがりつく理由なんて、大人のソレみたいに体裁や事情ありきのもんじゃないだろうが。それを知ってるくせに疑うんだから、本当に面倒だ。
 だけど、面倒だと思っても、嫌われたくない気持ちの方が今は強くて。

 ……でも、ブラックが俺に不信感を抱いた状態では、俺が出来る行動は全部裏目に出てしまう。料理も駄目、甘えるのも駄目、しかし放っておくのも駄目……。

 一体、どうしたらブラックに俺の事を信じて貰えるのか。
 最悪の場合、「俺の事好きにして……!」と言う方法もあるが、それでもコイツは信じてくれないだろうな……。

 信頼していればしているほど、一度疑念を持てばその想いは際限なく付きまとう。
 だから信じ続けるってのは難しいんだと解ってはいるが、それをいた先人には「ならどうすりゃいいんだよ、解決法を教えてくれよ」と八つ当たりしたくなる。

 人間の内面性を語るだけなら誰にだってできるよ。
 だけど、その自分の中の事を自力で解決できる人なんて少ない。短時間で答えを出せる人なんてもっと限られる。少なくとも恋愛初心者で頭の悪い俺には無理だ。
 でも、だからって諦められたらこんなに苦労してないわけで。

 嫌われたくないから、何でもする気でいるのに。
 なのにどうしてその思いを「取り繕ってる」と取られてしまうんだろう。

 もういっそ、いつもみたいに乱暴に引き寄せて好き勝手してくれたらいいのに。
 だったら、俺だって覚悟を決めてアンタに……って何考えてんだ。

 あーもー俺悩むの苦手なんだってば。
 神様でもなんでもいいから、アドバイスしてくれよぉ!

 そんな事を思いながら歩いていると、また人の多い場所へ出て来てしまった。
 村は狭いので、人通りが少ない村の周辺を数十分も歩いていればすぐに人通りの多い中心へと戻って来てしまう。

 じゃあアンタラ何回そのルートをお散歩してたんですかってのは、お願いだから聞かないで。

「…………また、戻ってきちゃった……」

 思わずボソッと呟いてしまった言葉に、視界の端にいたブラックがぴくりと反応する。聞かれてしまったと思って咄嗟とっさに相手を見たが……その顔は、もうさっきのように不機嫌な物ではなかった。

「……ブラック」
「…………ツカサ君。宿、戻ろうか」

 声も落ち着いている。俺に対して何も怒ってはいない。
 いや……怒るのにすら疲れたくらい……俺の事呆れてるのか……?

 顔を歪めてしまった俺に、ブラックは穏やかに微苦笑すると肩を揺らした。

「ごめんね、僕も大人げなかったね。もういいから、帰ろう」
「で……でも……」

 俺、何もしてないよ。アンタに謝っても居ないし、好きな事させてやれてない。
 二人っきりの時間を作っても、サービスの一つも出来なかったのに。

 やっぱり、怒ってる? 俺の事もうそんなに好きじゃなくなったんだろうか?
 わかんない。こんなアンタ初めてで、わかんないよ。

「……僕と一緒に帰りたくない?」

 目を細めてそう言われ、俺はびくりと体を飛び上がらせて慌てて首を振った。
 そうじゃない。違う。ちゃんと言わないと。

「ち、違う……!」
「ん」
「だって、俺、まだ何も……」
「いいから。……ね」

 ブラックの目が、ゆっくりとに歪む。
 笑顔のはずなのにその顔は何故か怖い物に思えて、俺は何も言えずにただ頷く事しか出来なかった。

「さ、行こうか」

 手を掴まれて、引かれるように歩いて宿屋に連れ戻される。
 どうしよう。ブラックが何を考えているのか、まるで解らない。

 まだ怒っているんだろうか。それとも本当に許してくれたのか。
 今は背中しか見えなくて想像する事すら出来なかった。

 せめて、この手首を掴む手が俺の指の間に滑り込んでいたら、ちょっとは希望が持てたのに。そう思いながらも黙って付いて行くと、ブラックは宿屋に着くなりそのまま食堂の方向へと歩き出した。

「ぶ、ブラック?」
「ごはん。食べようか」

 にっこりと笑うその笑顔は、いつもの表情だ。
 だけど、何だか妙にそれが違うように思えて、俺は心臓がぎゅっとなった。
 何が違うかは厳密には説明できない。だけど、何故かそのブラックの笑顔が毎日見ていたホッとするような物じゃないような気がしたんだ。
 でもそんな事言えないし……。
 ああもう、ブラックってば何考えてるんだろう……。

「二人っきりで……メシ食うのか?」
「うん? まあ、あの熊が居なかったらね」
「そ、そっか。……なら、いい」

 その程度なら別にいいよね。向かい合ってメシを食えば、ブラックが何を考えているか解るかも知れないし……それに、腹がふくれたら落ち着いてくれるかも。
 手首を握る手が少し痛いのだって、きっと、悪い意味じゃないはずだ。

「ああ、ここが食堂かな」

 そう言いながら、ブラックは俺を連れて開けっ放しの扉の中に入る。
 夕方を少し過ぎた時間の宿屋の食堂は、随分ずいぶんと人が少ないようだった。
 やはり、この宿も食事の配膳は夕方前くらいからだったようだ。

 前に宿屋に泊った時もそうだったが、こういう村の安宿や簡易の宿泊施設の食事は、量を重視していて味はあまり考えていない。だから、少しでも冷えればその分味がマズくなるので、宿泊者達は夕方になった途端に食堂に殺到するのだ。
 なので、夕方を少し過ぎれば食堂は落ち着いて人もまばらになるというワケ。

 まあ、ゆっくり食べたい俺達にとっては好都合だけどな。

「……あの熊公はいないみたいだね」

 く、クロウ……ごめん、この場にいなくて良かったと思ってごめん……あとで何か美味しいモノ作ってやるから……!
 心の中で精一杯謝りつつ、俺はブラックと一緒にトレイを持って並ぶ。
 配膳の方式は普通に学校の給食と一緒なので、戸惑う事は無い。

 旅の途中で食べる食事よりもだいぶん質素な夕食を受け取った俺達は、壁を背にした席に座った。俺は別にどこの席でも良かったんだが、ブラックが自然とそっちに行ってしまったので、付いてきた形だ。

 まあ、背後を誰かに狙われない配置ってのもアリだな。
 色々と心配事が無くなって少しほっとした俺は、ブラックの向かい側に座ろうかと対面の席へ行こうとしたのだが。

「ツカサ君、こっちにおいで」
「え? う……うん」

 別に長机じゃないし、どうでもいいけど……。
 素直にブラックの隣に腰かけると、相手はにっこりと笑って塩味の薄いスープを飲み始めた。なんだろ、よく解んないけど……近い方が良いって思ったのかな。
 気にせず食事をとっていると、向こうから見知った奴がやって来た。

「おう二人とも来てたのか。相席すんぜー」
「ろっ、ロサード!?」

 ちょおおおっ! こ、この大事な時にぃいい!!
 またブラックが不機嫌になるんじゃないかと慌てて顔を見やると。

「やあ、ロサード。商売はもう終わったのかい」

 そう言いつつ、にこやかに笑いながらブラックは穀物パンを口に入れていた。
 ……あれ。セーフ……? セーフなの……?

 この笑顔にはロサードもビックリしたようで、おっかなびっくりと言った様子で頷きながら、ブラックの言葉に答えていた。
 俺もどうしたらいいのか解らず目を白黒させていたが、とにかく機嫌が直ったのだろうと判断して、安堵あんどしながら引き続き食事を続ける。
 その間も、ブラックは俺を見る事なくロサードと話を続けていた。

 なんか俺の事なんか眼中にないって感じだけど……まあ、隣には座らせてくれてるんだし、きっと怒ってはいてもまだ嫌ってはいない……はず……。

 ロサードと世間話をしながらいつの間にか食事を終わらせているブラックを横目で見つめつつ、俺はのどに入って行かない穀物パンを咀嚼そしゃくしながら目を泳がせた。
 目のやり場がない。と言うか……居場所が無い。
 ブラックが座れと言ったから座ったけど、俺、どうしたらいいんだろう。

 やっぱりこのまま無視され続けるのかな。
 だったら、流石に俺も心が折れそうなんだが。

 でもなあ、不機嫌にさせたのは俺だしなあ……と思っていると。

「っ……! …………?」

 いきなり太腿ふとももにぞわりとした感覚を覚えて、俺は慌てて下を向いた。
 すると。

「ぇ…………」

 思わず、声が出る。何故ならそこ……俺の太腿には……大きくて筋張った武骨な片手が、いつの間にか乗っていたのだから。

 これ……これって……ブラックの手だよな……。

 思わず相手を振り返ったが、しかしブラックは俺の事なんて気にもしていない。
 ロサードとの話に盛り上がっているのか、目もくれなかった。

「……? ぇ……?」

 どういう事だ。
 怒ってないって事なのか。
 それとも、どこかに行きたいと思ってた俺を牽制けんせいした?

 こうやって俺の太腿に手を置いてるって事は、嫌ってはいないんだよな?
 だったら……だったら、許してくれたってこと……?

 そう考えて無意識に嬉しくなってしまったのか、俺の心臓は急に激しく脈打ち始めた。ゲンキンな奴だ。本当俺って奴はもう即物的でどうしようもない。
 でも、あの、太腿に手をやられるって、なんかこう、性的なイメージだし。
 どうしたってソッチの事を考えてしまう訳で……!

 いや、いかんいかん。これはあれだ、手が離せないからに違いない。
 それに俺の事を気遣ってくれてるって事なんだよな。そうだ、きっとそうだ。
 不埒ふらちな想像をしてはいけない。そう考えたと同時――その武骨な手が俺の股間に滑り込んだのを感じて、俺は思わず跳ねてしまった。

「ひっ……!」
「あ? どうしたツカサ」

 流石に俺の反応に気付いたのか、ロサードがこっちを向く。
 だけど「股間に手が滑りこみました」なんて言える訳も無くて、俺はぎこちない笑みで笑いながら何でもないですと首を振った。

「ちょ、ちょっとスプーン落としただけっす」
「そっか? で、それでよぉ、この村の兵士達と来たら……」

 ロサードが俺に興味を失ったのを見て、ブラックは滑り込ませた手を動かし、俺の股間をぐっと包み込む。急所を余す所なく覆ったその暖かさは否応なく俺の感覚を高め、俺は耐え切れずぎゅっと足を閉じて手を挟み込んでしまった。

 その行為に反応したかのように、ブラックの掌が俺のモノを包み込むようにうごめき、軽く上下に動き出す。
 動きは布越しで緩やかなものだったけど、でも、目の前や周囲に他の人が居る場所でこんな事をされているのが恥ずかしくて、俺は食事もままならず身をすくめて突っ伏してしまった。

「っ……ぅ……」

 嫌だ。こんな所で、こんなことするなんて。
 ロサードが目の前にいる。絶対にばれる。それに、向こうには知らないが何人もいて、メシ食ってんだぞ。
 もし俺達の机の下をみたら、何してるか解っちまうじゃねえか。
 こんな所で悪戯されてるなんて知られたら、もうここに来れない。

 そう思えば思うほど掌に擦られた場所が熱くなっていく。
 突っ伏した顔も赤くなって、もう引き上げられなかった。

 まさか……まさかこれ……ブラックの仕返しなのか……?
 俺が何も言えなかったから、意趣返しにこんな事してるのか?

「っ……くっ…………」

 だったら、責められない。どうしようもない。
 拒めばブラックは俺の事をもう信じてくれなくなるかもしれない。恋人を拒むのかと怒って、また無視されてしまうかもしれない。
 そうなるくらいなら……まだ……耐えた方が……。

「っ……!」

 節くれだった太い指が、布の上からきゅっと俺のものを掴む。
 それだけで声が出てしまいそうで、俺はぐっと歯を食いしばった。
 絶対に、誰かに気付かれてはいけない。そう思って。

 だけど、そんな俺をあざ笑うかのように、ブラックは涼しい顔でロサードと会話をし続けていた。




















※よ、予定よりちょっと過激にしてみたんですがどうでしょう…
 次もう最初から最後まで※展開なのでご注意ください
 (´・ω・`)変態や…
 
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