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波乱の大祭、千差万別の恋模様編
14.酔っ払いは始末に負えない
しおりを挟む※すみません、えらい長くなったので※なシーンは次回に持ち越します…
(;´Д`)言う事二転三転してて申し訳ないです……
まずい事になった。やっぱりまずい事になってしまった……。
「あああ、だから酒飲むのは反対だったんだよぉおお」
「今更言っても仕方ないよツカサ君、勝手に飲みだしたあいつらが悪いんだし」
「それで丸く収められたら苦労はしねーんですけど!」
「オレを呼んだかツカサ」
「くろうはくろうでもそっちじゃねえええええ」
今更ベタな聞き間違いすんな!
ツッコミたいがそれも堪えて、俺はとにかく会場を見回した。
「あぁあ……ベリファント船長どこ行っちゃったんだろう……」
そう。まずい事になったとは、まさにそれ。
最年長のベリファント船長がでろんでろんに酔ったまま「ちょっとしょんべん」と言って席を立ち、そのまま戻って来ず行方不明になってしまっているのだ。
だから、まだ理性が残っていた師匠とリリーネさん、そして俺達三人がさきほどから会場周辺を探してるんだけど……数十分探してもその姿は見つからない。
お爺ちゃんが存外遠くまで徘徊していて驚く事は田舎ならあるあるだが、しかしそれを今やられても困る訳で。しかも今あのお爺ちゃんは酔ってるんだから、何をしでかすか分かった物じゃない。
まあ、歴戦の勇士でも酒に酔ってバカをするものなので、今回のベリファント船長の行方不明は徘徊と言うより酔っ払いの失敗談の方なのだが、相手がご年配だとどうしても田舎のパワフルお爺ちゃんの方に妄想が偏る。
「ツカサ君、そっちに船長居たアルか!?」
変な事を妄想している間にも師匠は探してくれていたらしく、駆け寄ってくる。
俺は師匠に否定の形で首を振って、船長が見つからなかった事を示した。
「ダメっす。この会場の近くにはいないみたいですね」
「そうかアルか……じゃあやっぱり遠くまで探しに行くしかないネ……しかし困った、松明要員が足りないアル」
もう日も暮れてしまった森の中を見ながら、師匠は困ったように頭を掻く。
しかし俺は師匠の言葉の意味が解らなくて、どういう事かと首を傾げた。
「松明要員ってなんスか?」
「要するに炎の曜術師アルヨ。こんな事で油を消費する訳にもいかないアル。だから、炎の曜術師が居てくれたら少量の油で炎が長く灯せるんだけどネ……」
とか言いつつ、師匠がチラリとブラックを見る。
ブラックはさっと俺の後ろに隠れたが、その程度で師匠が諦めるはずもなく。
「ブラックさん、あなた限定解除級でフレイムはお手の物だったアルネ」
「い、いやしかし僕は」
「今は一大事、貴重な戦力であるベリファント船長を失う訳には行かない、そしてココには酔っ払いばっかりでツカサ君にオイタする人はいないし、用心棒のクロウさんも居るアルネ……!」
「う、うう、いや、しかし一番危ないのがこの熊……」
「さあ松明をもって探しに行くアルヨ!! ツカサ君、リリーネちゃんと留守番を頼むアルー!」
「は、はいー」
「ああぁあツカサ君んんん」
俺を挟んでごにょごにょ言い合ってると思ったら、師匠はその背格好に見合わぬ怪力でずるずるとブラックを引っ張って行ってしまった。
ブラックが俺に助けを求めていたような気がするが、この場合お爺ちゃんの安全が最優先だろう。許せブラック。後で適当に褒めてやるから。
「んぁ……? 変態はどうしたツカサ……」
「え? あれ? クロウ、寝てたのか?」
さっきまで起きて一緒に船長を探してたってのに、どうしたんだろう。
一升瓶程度じゃ酔わないと言っていたのに、もう酔ったのだろうか。
不思議がる俺の目の前で目を擦りながら、クロウは大丈夫と緩く頭を振った。
「久しぶりの酒だったせいか、なんだか酔いが早かったらしい……いつもなら一瓶程度じゃ酔わないんだが……」
「うーん……言われてみれば顔が赤い気がする」
クロウは浅黒い肌なので良く解らなかったが、顔を近付けて良く見て見ると確かにクロウの頬にはしっかりと赤みが差していた。
変だな、酒はあと半分も残ってるのに。
「クロウ、その酒ちょっと貸して」
「んん? ん……」
喋るのも億劫なのか、赤い顔でフラフラしながら酒瓶を渡す相手に、俺は不安になりつつも瓶の中の酒の匂いを嗅いだ。
伝わって来た香りは、ラム酒の香りだ。最初に嗅いだ一升瓶の物と何ら変わりはない。しかしその中に妙な違いが在るのを感じて、俺は眉根を寄せた。
「何だこの臭い……」
ツンとしていて、それでいて木を加工して作る液剤のような特徴的な臭い。
ペンキっぽい臭いというか……いやこれ、前に嗅いだこと有るぞ。
ニスに似た変な臭い。確かこの臭いって……。
「ちょ、ちょっとこの酒零すぞ」
「んー……」
酩酊状態でぴこぴこと耳を動かす相手に断って、俺は周囲に置いていた小皿の中に酒を少し注いだ。ラム酒と言うのなら、おおよそ酒ではない色にならないはず。だとしたら、この器の中の液体。濁った青に染まっているこの液体は……。
「…………もしかしてコレ……流木藍……?」
指の先を小皿に浸して舐めた俺は、その推測が正解であると確信した。
流木藍……その名前は忘れられようはずもない。
なにせこれは、ライクネスで俺の回復薬のニセモノを着色するために使用された染料であり、リタリアさんの病を悪化させていた原因でもある物なのだから。
しかしどうして酒に……。
もしかして、猫や犬がペンキなどの匂いを嫌うみたいなもので、クロウも流木藍みたいな臭いのする物には身体的異常が発生してしまうんだろうか。
そう言えば、熊はガソリンやペンキなんかの液体に酔っぱらうって話があったな。アレみたいな事か?
「クロウ、もしかしてお前……こういう臭いのする液体が苦手なのか?」
「うぅ……? 良く解らないが、なんていうか……ベーマスにある“ウミノロイの木”という木がこんな臭いで……オレ達の一族は……そこに行くなと言われて……」
ふにゅ、と言いながらそのままクロウは倒れてしまう。
「うわ!? く、クロウ!?」
もしかして失神したのかと慌てて抱き起したが、相手は実に気持ちの良さそうな顔をして、目を閉じてころころと首を動かしていた。
こ、この野郎、泥酔状態だってんならそう言えってんだ。心配して損した。
「おいコラ、寝るんならちゃんと寝るって言って寝ろっつうの!」
そのまま放り出してやろうかと思ったが、優しい俺はそんな事は出来ず、ちゃんとその場に座らせてやった。……自分で優しいと言うなと突っ込まれそうだが、酔っ払いの世話は自分を褒めなきゃやってられないんです。うう。
しっかし……クロウってば、いつもは無表情なのに……酩酊状態になると途端に頬が緩んで、ふにゃふにゃの顔になるんだな。
そういう顔を見るのはちょっと楽しいかも。
顔立ちはオッサンだけど、まあ、美形だし熊耳だし顔が緩みまくってたらそりゃ可愛くも思えるわな。うん、一般論だぞ。決して俺がオッサン好きになって来てる訳じゃないからな。他のオッサンは可愛いと思わないからなマジで。
そんな事を思いながら、水でも持って来てやるかなと腰を上げようとすると。
「つかしゃ」
「な、なに」
「しょんべん」
「だーっ!! ここですんなよ酔っ払いぃいい!!」
これだから酔っ払いはもう、もう!
我慢しろよと何度も言いながら慌ててクロウを立たせると、俺はクロウの腕を肩に回して支えながら森の中へとクロウを連れ出した。
幾らなんでも女性がすぐそばに居る所でやらせるわけにはいかん。
俺は手ごろな木を見つけると、そこで用をたせとクロウを立たせて自分は後ろを向いた。別にみて恥ずかしいもんじゃないが、まあ、見たくないし。
同性の下半身なんて三次元で好き好んでみたいとは思わんわい。
「ツカサー……後ろにいるかぁ」
「はいはいいるいる。良いから早くやれよ」
なんか声じゃない嫌な音が聞こえて来たが無視。
……しっかし、なんで酒に染料が混ざってたんだろう。
他の一升瓶にも流木藍が入ってたら、ブラックやリリーネさん達は気付くよな。と言うか、さっきラム酒を飲んだ時ブラックは変な味はしないって言ってたんだから、他の瓶には染料が入って無かったのは確かだろう。
だとしたら、染料はクロウの物だけに入ってたって事になるけど……偶然にしては意味不明だし、染料のみが入ってたんじゃなくて酒と混ぜられてたって事は誤飲目的だよな、やっぱ。
しかし、誰かが故意に染料を混ぜたとして、こんな臭いがする酒なんて誰も飲むはずないし……まさか、クロウに飲ませるためってんじゃないよな。
だとしたら、なんでクロウをべろんべろんに酔わせる必要があるのか……。
「ツカサ、終わったぞ……」
「はいはい、ちゃんと振って仕舞ったか」
「うん、途中挟んだ」
「お前良くさらっと言えるな!!」
いくら体力最強の獣人族と言えど、大事な息子を挟んだら痛いだろ普通!!
思わず振り返ってクロウのクロウは大丈夫なのかと見てしまったが、幸い腫れただの血が出ただのと言う事はなさそうだった。いや血でてたら死んでるよね。
つーか平然とまだ酔えてるのが凄いよアンタ。
「クロウ、お前痛くないのか……」
「痛い……? ふむ……痛いなら、ここが痛いぞ」
「ん?」
どこだろうか、と再び探そうとしてクロウの顔を見上げようとすると。
「ふが」
変な声を出しながら、クロウがいきなり寄りかかって来た。
「うっ、お、お前酒臭いって……! これじゃ歩けないだろ、ちゃんと立てよ!」
クロウに抱き着かれるのは嫌じゃないが、酒臭いのは嫌だ。
しかし無理に引き剥がそうとする俺の態度にクロウは何か勘違いしたらしく、俺を腕の中に閉じ込めて強く抱きしめながら首筋に鼻を押しつけて来た。
「うぅぅ……ツカサ、ツカサは、オレが嫌いなのか……」
「はい!? いや、嫌いじゃないけど、酒臭いのが嫌って言うか……」
「イヤなのか……嫌いなのか……」
「ち、違うってば、も、ちょ、ちょっとちゃんと立って……」
クロウはブラックと同じくらい長身でブラックよりも筋肉が付いているせいか、体重をかけられると重くて動けない。
どこか正気ではない声と熱い息が首筋にかかり、クロウがかなり酔っている事を知るが、俺にはどうにも出来なかった。
「ツカサ……ツカサぁ……」
甘えるような、自棄になったような口調。
ブラックとは違う、低いが若さを含んだ声は、俺をやけに焦らせた。
――こんな所をブラックに見つかったら、大変な事になる。
そればっかりが思い浮かんで、俺は必死にクロウの腕を引き剥がそうともがいたのだが……それは、クロウを更に焚き付ける事にしかならなかった。
「やっぱり、オレが嫌いか。オレに触れられるのは、嫌なのか……」
「そ、そうじゃ無い。そうじゃないってば!」
もう、なんで解ってくれないんだよ!
俺はアンタを嫌いな訳じゃないし、抱き着かれるのもなんともない。
ただ、酔っ払いと酒臭いのが嫌で、ブラックに見られると困るから拒否してるだけなんだってば!
「クロウ!」
「ツカサ……ツカサぁ……」
酔った声が、耳元で俺の名前を呟く。
俺がその声音にびくりと肩を竦ませたのを感じたのか、クロウは俺を抱き締める腕を強めて、その場に押し倒した。
「っ!!」
どすん、と体に衝撃が響いて、俺は思わず目を瞑る。
「ツカサ……」
やけに声が、息が近い。
思わず目を見開いた先に有ったのは、紫がかった深く黒い青の髪。
状況が把握できていない俺の口には柔らかい物が合わさっていて……――
「んっ……ぅ……!?」
それがキスだと分かった時には、もう俺の退路は断たれてしまっていた。
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