異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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アタラクシア遺跡、妄執の牢獄編

15.最上階に来てはみたものの

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「…………ホントに行くのか……?」
「だって、そのためにこの遺跡に来たんでしょ」
「そりゃそうだけど……」

 レドのことに関するわだかまりも無くなったし、俺達の目的は黒曜の使者の力を制御する手がかりを見つける事だし、第六層に行かない理由はない。
 だけど、俺としては恐怖の鬼ごっこなんてやりたくない訳で……。

 あああ、心臓がバクバクする、死にそう。
 でももう第六層への階段を登り切っちゃってるんですけどねー!

「それにしても、第六層にはがいないなんてね。驚いたよ」
「うん……俺も最後には凶暴なモンスターと戦うもんだとばかり……」

 最上階って言ったらラスボスが控えてるのが普通だと思ってたんだけど……レドに倒されたのかな? まあ何もないなら良いんだけど……。

 そう思いつつ俺達は最上階の部屋に入ろうかと扉の前に立ったのだが。

「…………あれ? なんか扉が開かないんだけど」
「どれどれ……ああ、なるほどね」
「なるほどねって?」
「コレ、導きの鍵の一族の血がないと開かないみたいだ。……まあ、禁書って言うぐらいだから、封印はしてあるだろうと思ったけど……ちょっと待ってね」

 言うなりブラックは自分の指の腹を小さく切って、扉の中央にある本当に小さなくぼみに血の玉が膨れ上がった指を押し付けた。
 すると、扉が一瞬赤く光り――――中から、カチンという控えめな音がした。

「……これでいいかな? さ、入ろうか」
「あ、自動ドアとかじゃないんだ……まあいいけど」

 いきなり扉が開いたらレド達にバレそうだからいいけどさ。
 ブラックと二人でじわじわと扉を開いて、出来た隙間から周囲を確認しながらこっそり忍び込む。第六層も同じような部屋だと思って、俺は目の前に広がる本棚の列を確認したのだが……その部屋は、少し他と様子が違っていた。

「あれ……」

 目の前には、相変わらず前方左右にずっと本棚が並んでいる。
 しかしその列は五十にも満たない。部屋の広さは下の階の三分の一程度であり、所蔵されてる本はかなり少ないようだった。

 そしてもう一つ、この最上階には特異な部分が有る。
 本棚の列の先に、白く輝く階段が有り、上の方にはなにかの祭壇のような場所が造られているのだ。祭壇には陽光が降り注いでいて、厳かな感じがする。
 十字の御印なんてどこにもかかってないのに、何故か俺は大聖堂に来たかのような緊張感を覚えていた。まあ、外見は確かにゴシック建築な教会っぽかったけど、まさかこんな祭壇が有るなんて思いもしなかったよ。

「あの祭壇の向こうにどこかへの入り口が有るね。レドとやらの気配はないみたいだけど……あの奥にでも行ってるんだろうか?」
「マジ? じゃあ、今がチャンスじゃん。ブラック、早い所見つけて帰ろう」
「うん。でも……くだんの本、どうやって見つけたらいいんだろうね」
「……あ、そういえば……」

 今更な話だが、ブラックにも把握できない言語は有る。俺にいたっては、今現在この世界で使われている文字を読むので精一杯だ。
 もしナトラーナ文字みたい難解な古代文字で「ロールプレイングゲーム」という本が書かれているとしたら、俺達にはどうしようもない。
 せめてどのあたりに有るかが分かれば探すのは簡単なんだけど……。

「うーん……年代順とかに並んでたりしないのかな? っていうか、ここの本って禁書ばっかりなの?」
「いや……恐らく創成期に近い文書とかも置かれてるはずだけど……そもそも、禁書自体数は少ないはずだから、ひとまとめにしてどこかに封じられてると思うんだけどなあ……」
「となると……やっぱ、あの祭壇の奥……?」

 うえーん、やっぱレド達に近付かなきゃなんないんじゃんかー。
 思わず情けない顔を擦る俺に、ブラックはアハハと笑いながら頭を掻いた。

「ま、まあでもほら、この本棚のどこかにある可能性もあると思うよ。禁書が力を帯びた本なら、僕達曜術師には何かしら感じられるだろうし……とにかく、ここの本にざっと触れてみて、変な感じがしないか調べてみようよ」
「別の属性だと、波動的なモンって感じられないんじゃないの?」
「それは曜気の話だよ。ツカサ君だって、誰かが術を使う時に体がザワつくことが有るだろう? アレは、周囲の曜気が動いてるのを感じてるからなんだ。だから、自分の属性じゃない曜気は見えはしないけど、術の気配くらいは感じられるよ」
「そうなんだ……」

 俺は集中すれば全部の曜気が見えるから、そんな事考えもしなかった。
 全部を持ってるからって、全てを気付けるって訳じゃないんだな。
 ……じゃあ、まあ、古代文字が読めない俺でも探せるかもしれない。

「やってみっか」
「その意気だよツカサ君! さ、やってみよう!」

 出来るだけ声を潜めて、俺達は注意深く移動する。
 ロクもまだ起きてくれてるけど、今回は逃げる時におっことしたら嫌だから、ウェストバッグに入って貰っている。こんな場所で離れ離れになったら、もう永遠に会えなさそうで嫌だもんな。ロクは絶対に俺が守る!

「ロク、静かにしててな」
「キュー」

 ロクも状況が解ってるのか、ちょっと小さな声で鳴く。
 はぁ~、本当可愛いってのは正義。

「まずはこの端から見てみようか」
「よっしゃ、じゃあ俺はあっちの方から探すから、ブラックはこっちを」
「了解」

 どれがロールプレイングゲームって本かは分からないけど、やるしかない。
 そんなこんなで俺達は禁書を探し始めたのだが……これが、思った以上に大変だった。だって、全部の本が俺には解らない文字のタイトルなんだぜ?
 中身を見ないだけ確認は早かったけど、それでも本棚は軽く五十を越えてる。
 手を当てて「何か」を感じるだけでもえらい大変だ。

 それでも俺達はレドが戻ってこない内にと思い、必死こいて調べたのだが。

「…………うーん……それらしいものは見つからないな」
「一応いくつか中身も調べてみたけど……これといって変な本はなかったね。僕が読める古代文字の本も、貴重ではあるけどいたって普通の本だったし……」
「……じゃあやっぱ、禁書は別の場所にあるのかな」

 あの、レドがいそうな祭壇の通路の奥に……。
 ああヤダ。絶対やだ。これラスボスと対決する時に通る通路みたいじゃん。
 ゲームなら絶対通路の前にセーブポイントある奴じゃん!!

 戦闘だけは絶対にごめんだぞと思いながら、俺はブラックにダメモトで聞いた。

「なあ、アタラクシア図解になんか書いてないのか?」
「あ、そっか。ちょっと待ってね」

 俺には読めない文字で書かれた何百年も前の地図には、何かヒントが載っていないのだろうか。大きな紙を開いてじっとながめるブラックを見守りながら、俺は一縷いちるの希望に祈った。出来ればもう探索はごめんですぅう……サーチも鑑定もネットで見た小説ほど精度がよくないこの世界じゃ、頼りはもう図解様しかないんですぅ……。

「……ふむ……この、第六層の図……良く見ると色々と文字が書き加えられているね。ツカサ君、ちょっとこれを見て」

 俺がもだもだしている間に、ブラックは何かに気付いたのか床にひざまずいて図解を広げる。そうして最上階の図を指すと、横に書かれたメモを読んだ。

「ここには、こう書いてある……『最上階・禁書の間。超越者のみが力を示す事を許された場所。人を惑わす真実の集う禁断の地』……ってね」
「禁書の間って事は、ここに目当ての本も?」
「多分ね。超越者のみが力を……って所は、多分生半可な力を持つ者じゃ入れない、特別な所って意味だろう。もしかしたら、あの祭壇は禁書を封印するための物かも知れない。僕達のがあるとすれば、間違いなくあの祭壇の奥だよ」
「……あぁ……やっぱりか……」

 やっぱあの通路の奥に行かなくちゃいけないんスね……。
 解ってたけど、図解に頼らなきゃ行けなくなった時点で解ってたけどさあ!

 だけどここまで来たら行かなきゃ始まらない。
 でも、レドが居るであろう場所にどう乗り込むか……。

 考えあぐねていると、ブラックが禁書の間の図を見ていぶかしげに片眉をしかめた。

「これ……なんだろう」
「え? なに?」
「ツカサ君、見て。この禁書の間の奥に、四角い空間が有るように見えない?」

 そう言われて見てみると、部屋の奥の方に確かに小さな真四角のスペースが有るのが見えた。しかし、その空間には特に説明もなく、部屋からの通路があるようだが点線で繋がれているだけだ。

 もしかして、隠し扉の向こうに更に部屋が有るって事なのかな。
 でも何の説明もない最奥の部屋って……なんか嫌な予感しかしないぞ。

「大きさから考えて……かなり小さな部屋だね。倉庫か何かって訳でもないと思うけど……ここだけ説明がないってのも気になるね」
「お宝部屋とか……なんか一番ヤバそうなものを封印してるとか……」
「ありえるね。禁書の間にわざわざ休憩室を作る訳もないし……」

 と、ブラックが言葉を繋げようとしたと同時。
 バン、と音がして、何か恐ろしい物を見たかのような悲鳴が祭壇から聞こえた。

「えっ、な、なに!?」
「この声……まさかレドって奴かい?」

 ブラックに聞かれて、俺はもう一度注意深く声を聞く。
 しかしこの気弱さが混じった悲鳴はレドの声とはまるで違っていた。
 これは恐らく……ベルナーさんの声だ!

「た、たぶん従者の人の声だと思う。でもなんでいきなり……」
「もしかしたら何かの禁書が暴走したのかもしれない。ああ、そうだ。このまま待ってたら、レド達も罠にかかって死」
「待たない!! 大変な事になってたらどうすんだよ、ホラ、行くぞ!!」
「えぇー……」

 ああもう本当他人に対しては冷たいなお前!
 もし見殺しにしたってなったら、夢見が悪いじゃんか。例えこっちを恨んでる人でも、こんなに近い場所に居るのに助けなかったら良心が腐りそうでヤだし。

「とにかく行くぞ!」
「あーもー本当思い通りに行かないよねぇ」
「それは言いっこなし!」

 この世界に来てからというもの、作戦通りなんて八割方成功してないけど、それでも誰かが大変な目に遭ってるのを見過ごすよりはずっとマシだ。
 なにより……レドはブラックの事を誤解しているだけで、根はそんなに悪い奴じゃない。ベルナーさんだって普通の気の弱いオッサンなんだ。そんな人達なのに助けないなんて、それは男が廃るってもんだろう。
 俺はブラックの腕を引っ張ると、祭壇の奥の通路へと走った。









 
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