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ベランデルン公国、意想外者の不倶戴天編
5.自分にとって一番大事な事は※
しおりを挟む※ちょっと控えめ(当社比)なセッスス\\└('ω')┘//
俺が何も言えずに固まっているのを良い事に、ブラックは俺の背中を押して、有無を言わす事も無くさっさと部屋に戻って来てしまった。
相手が何を期待しているのかなんてもう分かりきってるわけで、それを考えるとベッドが二つある普通の部屋ですら、なんだか恥ずかしい物に思えてくる。
「ツカサ君……」
「っ……!」
部屋に入るなり、背中から抱き締められて思わず体がびくつく。
「期待してくれてるのかな。嬉しいよ」
「ば、ばっきゃろ、期待じゃなくてびっくりしただけで……!!」
必死に否定するけど、ブラックは俺のどもった言葉にくすくすと笑うばかりで。
意識している事を気取られてしまったのが悔しくて、俺は口の内側を噛んだ。
ぐう、だって、そりゃ仕方ないじゃん。
相手が性欲丸出しで抱き締めて来てんだ、何度やられたって意識しちまうよ。
「あぁ……可愛いなぁ……」
低い声で感慨深げにそう言われて、顔がまた熱くなってくる。
がっしりとした腕に力が入る度、相手の熱と興奮が伝わって来て逃げたくなる。
だけど当然逃げられるはずもなく、俺は背後から抱き締められたまま、ずりずりと引き摺られるようにベッドの所まで連れて行かれてしまった。
大股、ダサい! オッサンそれダサいから!
と言いたいのはやまやまなんだが、今の俺では何を言っても声がひっくり返ってしまいそうなので、何も言えない。
そのままブラックのベッドに座らされて、俺は目を逸らす。だがブラックは意外な事に隣に腰かけて来て、俺にぴったりと肩をくっつけ寄り添って来た。
め、珍しい。こんな雰囲気になると、コイツなら押し倒すか股間からのアングルで俺を見上げさせるものだと思っていたのに。
はっ、もしやコレが勉強の成果の一端だというのか。
「ブラック……」
「ツカサ君、こっち向いて」
顎を捕らわれ、半ば強制的に相手の方を向かされる。
至近距離で見たブラックの顔は、なんともだらしがない。でも、悔しいけどやっぱりコイツの顔は格好良くて。野性的でありながらも整った顔は、見ているだけで心拍数を勝手にあげやがる。
「今日は、なるべく負担を掛けないように……だよね」
「……ぅ……お、おう……」
「じゃあ、恋人らしく……」
そう言って、ブラックは軽くキスをしてきた。
なるほど、そうだな。恋人ってのはキスからえっちを始めたりするもんな。
でもあんまり濃密な奴じゃないんだな、と思っていると、ブラックは角度を変えてより深く貪ろうと俺の唇を食んできた。
冷静さを装おうとしているのに、すぐに求めるように舌で閉じた口を撫でてくる相手の行動に、どれほど自分を求めているのかが感じられて背筋がゾクゾクした。
だけど、それは決して嫌な感覚なんかじゃ無くて。
「んっ……ぅ……」
ちろちろと舐められる感覚が堪らなくて口を少し開くと、舌が差し込まれる。
その動きを無意識に追う間に、俺はベッドに押し倒されていて。上から注ぎ込まれるブラックの唾液と俺の唾液が飲み下せず、軽く咳き込んでしまった。
「んっ、ぐ……っく、っ、は……」
「あ、ごめん……っ」
またやり過ぎちゃう所だったよ、と言いながら顔を離すブラック。
その口から唾液の糸がつぅっと伝うのが見えて、俺は居たたまれず顔を背けた。
ああもう、何でそんなベタなエロ漫画みたいな……いや、現実にあるから漫画になってるのか? ああもう解んない。現実のえっちなんてコイツとしか知らないし解んないよそんなの。
「恥ずかしがらないで、ツカサ君……」
唾液を拭って、ブラックは俺の頬に軽く口付けをする。
それだけの事でも俺は恥ずかしくて仕方なくて、この期に及んでまだ情けなく顔をゆでだこ状態にしてしまった。ああもう、何回もやってる事なのに。
なんでこう、恥ずかしいんだろう。男らしく据え膳になれないんだろう。
いや違う。これは約束だから。
俺がやりたいんじゃなくて、ブラックがヤろうヤろうとせがむから。
だから、俺は仕方なくケツを貸すだけで。
決してこれが恋人だから当然の事だと思ってやってる訳ではないわけで!!
だから恥ずかしい……ってそれもどうなの。恋人としてはオッケーなのか?
「ツカサ君、服を脱がすね」
「えっ、あ、ま、待って」
「ダメ。ツカサ君は恥ずかしがると長いんだから……そんなに長引かせると、僕も我慢が効かなくなっちゃうよ。だから今日は考えるの禁止」
「うぅ……」
何度もやってりゃ、そらぁ俺のパターンも解るよね。そうだよね。
でも恥ずかしいのも考え込むのもクセなんだから仕方ないじゃないか!
男ってのはだな、一々理屈を付けないと動けない時も有るんだよう!!
「ツカサ君の服を脱がすの久しぶりだな」
「一々そう言う事言うなよ!」
「しーっ、ロクショウ君起きちゃうよ」
そう言いながら、ブラックは手際よく俺の服を脱がせていく。
考えるの禁止とか言われたせいか俺は抵抗も出来ず、そのままパンツまで脱がされてしまった。な、なんか久しぶりにベッドで素っ裸になった気がする……。
当然、素っ裸なんて久しぶりなんだから恥ずかしいワケで、無意識に膝を立てて股間を隠す俺に、ブラックは「仕方ないなあ」なんて微苦笑を浮かべながら自分の服の襟元を緩めた。
「ぁ……っ」
「僕も脱いだら、恥ずかしくないよね?」
少し笑いを含んだ声で囁き、ブラックは服の合わせを解いて行く。
然程もたつく事も無く上着をベッドの脇に捨て、中に着ていたシャツのボタンを外す。そのシャツの隙間から肌色の起伏が見えて、俺は息をのんだ。
「――――っ」
顔が勝手に熱くなる。
な、なんでだろう。何で今更ブラックの裸を見てこんなになってんだ。
風呂場での情事がフラッシュバックしたから?
それとも頭が茹だって混乱してるから?
どっちだか判らない。だけど、不覚にも……不覚にも、俺は内心、ブラックの雄々しい身体や、圧し掛かって来る時の表情を見てると……格好いい、とか、思ってしまっているようで。そんなこと今まで思ってなかったのに、何故か俺は異様に心臓を高鳴らせていた。
か、格好いい? 格好いいのか?
そりゃたしかに、ブラックの顔は昔のドラマの俳優みたいに男らしく整ってる。体も中年なのにしっかりと筋肉がついてるし、リボンで結んだウェーブがかってる長い赤髪も俺としては羨ましいくらいに似合ってるわけで。
普段は褒めないけど、そりゃ、ブラックがイケメンなのは知ってるよ。
だけど格好いいだなんて。しかも、こんな時にそんな世迷言を考えるなんて。
俺ってばなんで急にそんなこと……ブラックがいつもと違って余裕だからか?
ああもうなんだかよく解らん! 何でこんなにもどかしいんだ俺の心臓ぅうう!
「下も脱ごうか?」
「うぐ……い、いい。っつーか聞いて来るなよ……」
またあのでっかいのを見せつけられたら、今だと憤死しそう。
着衣エロが好きな訳じゃないけど、自分だけが裸でも二人とも裸でも恥ずかしい。ブラックの下半身なんてまともに見てらんないよ。
「そういう初々しい所も大好きだけど……そろそろ慣れて貰いたいなぁ」
初々しいってなんだよ。こんな事の玄人になってたまるかチクショウ。
ふざけんなと睨んでみるが、素っ裸の状態では笑われるくらいが関の山で。
「これからでいいから、こうして触れ合うのも好きになってね」
優しい声が耳元で聞こえて、柔らかな感触が首の筋を辿って胸まで下りてくる。
鎖骨から下へと動く度に音を立てながらキスを繰り返し、その度にびくつく俺の反応を愉しむようにブラックはヘソの辺りまでキスを続けた。
「っ、ぅ……ブラック、ちょ、っと……」
「好きな子には、キスを沢山あげた方が良いって聞いたんだ。でも普段はツカサ君ちっともさせてくれないから……今の内にたくさんしてあげようと思って」
「だ、だからってアンタ、口じゃなくて体って」
「僕はツカサ君の全部が好きだからね。出来れば、色んな所に……ううん、許されるなら全身にキスをしたいよ」
ヘソのあたりにあった顔が、急に俺の片腕を取って軽く引き上げる。
何をするのかと思ったら、俺の二の腕に頬を寄せて来た。
「この柔らかくて気持ちがいい腕も」
そのまま、唇を滑らせて鎖骨の中央の窪みに移動しちろりと舐める。
「あっ……!」
「可愛い声が出て来る喉も」
小さく出された舌が、そのまま体の中央の線をなぞる。
濡れた感触に背筋が続々として身を捩る俺に構わず、ブラックはそのままヘソに辿り着いて小さな穴の周辺をちろちろと煽るようになぞった。
「っ、や……そこっ……」
「普段は見えない、清潔で綺麗な形のおへそも」
穴を舌で突かれる度に、下半身に不都合な感覚が蓄積されていく。
他人が触れない場所というのは、これほど敏感になってしまうんだろうか。そう思う位に、舌が這う度に体が勝手に熱くなっていった。
「っ……も、やだっ、って……くすぐったぃ……!」
「くすぐったい? あはは、ツカサ君の嘘つき。……でも、ツカサ君は偉いよね。体を拭く事しか出来ない時でも、おへそまでちゃんと綺麗にしてるんだから」
「だっ、そ、それは……当然っ……ん……」
「おかげでこの穴も存分に愛してあげられる……ま、汚くても気にしないけど」
気にしろ!! っつーか俺の世界ではヘソも洗うように教えられるから!!
それより何でヘソ、なんでそんな所舐めまくるんだよバカ、バカバカバカ、変な扉開いちゃったらどうすんだよ、ヘソが性感帯とかエロ漫画でもそんなに見かけねーよどこ開発しようとしてんだこのスケベ!!
「っあ……あ、ぃや、だっ……だめっ、くすぐった、ひっ……ば、か……!」
「声がだんだん高くなって来てるね……ツカサ君たら、おへそまで感じるようになっちゃったのかな」
だめだ、これ以上舐められてると変な事になる。
下半身に、内臓に近いだけに、ダイレクトに感覚が伝わってくるんだ。
後ろを探られてる時とはまた違う、内臓を伝い直接下半身の神経を触られるような感覚。胸も弄られてないのに、ブラックに思わぬ所を愛撫されているという事も相まって、俺のきかんぼう(色んな意味で)は着々と持ち上がり始めている訳で。
舐められ、唇で穴の縁に触れられる度に、下腹部がきゅんとしてしまう。
くすぐったさが段々とその感覚に支配されてきて、俺は青ざめ首を振った。
さ、さすがにヘソで完勃ちはいやですぅうう!
「ぶっ、ブラック……!」
「ん? なんだい」
「今日は焦らさない、って……いった……だろ……! 明日、俺薬草探しにいくんだから……!!」
「うん。野山をデートして街の中でもデートするんだ。楽しみだなぁ」
「んも、ば、バカ!! 解ってるんならっ、長引かすな、ぁ、っぅあ……!」
人が喋ってる途中にヘソに吸い付いてんじゃねえオッサン!!
あとデートじゃねぇから、お前が勝手に付いて来るだけだから!!
これにはさすがの俺も我慢ならず頭を掌で叩くと、ブラックはいててとか少しも痛くなさそうな口調で言いながら苦笑した。
「ははは、ごめん。ツカサ君とこんな風にセックスするの久しぶりだから、存分に味わいたくって……でもそうだね、焦る事はない。今日は言う通りにするよ」
ちゅっと頬にキスして、ブラックは裸の胸で俺を抱きしめる。
分厚くてなおかつ熱い相手の肌をリアルに感じて、俺は一気に心拍数が上がってしまったが、ブラックはそれを知ってか知らずか胸を合わせたままで俺の下腹部に手を伸ばしてくる。
「んっ……」
少しかさついた武骨な指が、足の付け根から徐々に這い寄ってくる。
その感触は肉だけの柔らかい下腹部を沈ませながら、緩く頭を上げた俺のモノの根元までゆっくりと近付いてきた。しかし、指はそのまま半勃ちのモノを触る事も無く、ブラックは根元の周辺を撫でるだけで。
あまりに長い間撫でるものだから、俺は焦れてつい詰ってしまった。
「またっ……何を焦らして……っ」
「あ、いや、違うんだよ。嫌だったらごめん」
「いや、別に……ってか、違うってなに。じゃあ、何なんだよ」
「……えーっと。言っても怒らない?」
「…………」
それって俺が怒るような事を言うって前フリだよな?
……まあ、良かろう。何を言われるかしらんが、黙ってても先に進まないし。
言ってよし、と頷くと、ブラックは気が楽になったのか笑顔で言い放った。
「あのね、ツカサ君ってすね毛だけじゃなく陰毛すら生えてないんだなぁって!」
…………うん、それな。
そうな。俺もいつかはそんな事言われそうだなと思ってたよ。
でもな、生えてますよ。
砂漠のオアシス程度にはちゃんと慎ましい毛が生えてますよ。
けれどもね、そんな事言われたら流石に俺も沸点過ぎる訳でね……。
「お~ま~え~はぁ~~! 無邪気な笑顔で人のコンプレックスを軽く滅多切りにしてきやがってぇええええ」
「いでででで! ごめんごめんごめっ、だっ、だって子供みたいでかわいっ」
「んなこと言われて嬉しい訳ねーだろうがァっ!! 大体てめぇも毛が薄かったら不名誉だと思うだろこのショタコン中年!! お前の股間も剃毛すんぞ!!」
頭をげんこつでグリグリやるのはブラックでも有効らしい。
ざまあみろ、俺の昔からの心の傷を思い知れ。
首から下の毛が薄いせいで「え? お前まだ成長してないの?」とか「やーい! お前永久脱毛女かぶれー」とか意味不明な中傷をダチから受けた時の、俺の密かな心の痛みなどお前は解るまい。剛毛も中々に辛かろうが、永久脱毛女かぶれとか言われるのも地味に傷付くんだぞおい。未だに言葉の意味が解らんけど。
「わっ、わかった分かったごめんってば! でも、僕は君のこういう所も含めて、全部が好きなんだよぉっ」
「なっ……」
な、何をいきなり。
思わず固まった俺の手をぎゅっと握り、ブラックは潤んだ目で見つめてくる。
「僕は、ツカサ君の全部が好きなんだ。でも、全部って言っても伝わらないから、ちゃんと言おうと思って……。バカにしたんじゃないんだ。ツカサ君の体が、僕にとっては最高に興奮するものなんだよって教えたくて……」
「う……」
そんな捨てられた犬みたいな顔やめろよぉ。
アンタ元からモサいから、余計に同情引くじゃん本当卑怯だなあもう!
「解ってくれた……?」
「…………ど、どこで勉強したんだよ、そんな言い草……」
「ん、いや……どこが好きかって事をたくさん伝えてあげれば、相手も喜ぶよって人から聞いただけさ。……でも、伝わったみたいで良かったよ。僕、あんまり人を褒めた事ないから……ツカサ君に嫌われたらどうしようかって思っちゃった」
……そら、その……憎からず思ってる相手に「ここが好き」って沢山言われたら嬉しいけど……なんか、卑怯じゃない?
言う事の端々に「俺だけ」とか特別感出したり、他人と殆ど関わってませんって可哀想な所だしたり……切なそうに綺麗な目を潤ませたり……。
無意識でもわざとでも、こんな時にそう言う事言うのって、ずるいよ。
そんな事言われたら、何も言えなくなるじゃんか。
「僕の勉強の成果、褒めてくれる?」
「ぅ……」
犬のように「撫でて」と言わんばかりの目をして、俺を見つめてくる中年。
そこまで明け透けに“ぼくは頑張りました!”という態度を見せられたら、流石に俺も無視はできない訳で……。
「…………えらい、えらい」
ぎこちなく言って頭を撫でてやると、情けない顔はすぐに笑顔に変わった。
「えへへ……」
「アンタ大人でしょうに、なんでこんな事されたがるの……まあ、いいけどさぁ」
「だって、ツカサ君は僕が甘えても受け入れてくれるから嬉しくて……」
「……他の女とかに甘えたりしなかったのか?」
「んー……その時は、こういう欲求とか無かったからなあ……」
え。色んなお姉さんや女の子と遊んで来ておいて、胸に顔を埋めてぐりぐりすらやらなかったと。真なる母性に触れなかったと申すかこの男は。
信じられんとばかりに鳩が豆鉄砲食らったような顔をする俺に、ブラックは照れたように笑いながら、再び俺をぎゅっと抱きしめた。
「ツカサ君に会ってからだよ。こんな風に、子供みたいに甘えたくなったの」
「え……?」
「キミが僕を受け入れて、抱き締めてくれた時から……もっと触れたり、ツカサ君に抱き締めて貰ったり、撫でて貰ったりしたいなぁって思ってたんだ」
抱き締めたって……あの、ゴシキでの事か。
あの時のブラックは酷く落ち込んで泥酔してたから、俺もなんとなく子供みたいだからって抱き締めた訳だけど……あのくらいで、ブラックは受け入れて貰ったと思ったのか。ただ、慰めたいからって抱き締めただけで。
「……人に抱き締めて貰った事って、あるか?」
触れた胸と胸から、互い違いの鼓動が伝わってくる。
驚くほど同じくらいに駆け足で脈打つ心臓の音を聞きながら問うと、ブラックは俺の髪に顔を埋めて頭を振った。
「女を抱いた時に、抱え上げたりしたりして……そう言うのは有ったけどね……。でも、違う。ツカサ君のは、違うんだよ。うまく言えないけど……僕にとっては、あの時に抱き締めて貰ったのが……初めて抱き締めて貰えたって思えたんだ……」
「そう、か……」
なんだろう。解るんだけど、解らない。
ブラックの寂しさや切なさは痛いほど分かるのに、何故「そう思ったのか」っていう所が理解出来なくて、物凄くもどかしかった。
俺がブラックの過去を知らないからだろうか。それとも、俺の思考が未熟で理解出来ないからか。そうだとしても、気持ちが理解出来てしまった以上、俺にはもうブラックを拒む事など出来なかった。
だって、こいつ……本当に、ずるい顔するから。
「ごめん、話が長くなっちゃったね。続きをやろうか」
「ん…………」
心音が離れていく。その事に少し寂しさを覚えたが、俺は口を噤んだ。
「放って置いたから、ちょっと萎えちゃったかな」
心配そうに言いながら、ブラックは体を下へとずらしていく。
それが何を意味するのかなんてもう解っていて、俺は期待に体を震わせた。
「ツカサ君、足開いて……」
「…………」
恋人、なんだから……素直にやるべきだよな。考えるなって、言われたし。
太腿に手を掛けられて、優しく足を広げさせられる。
俺が抵抗しなかったことにブラックは嬉しそうに顔を綻ばせ、半勃ちのままの俺のものを思いきり頬張った。
「んぁっ……!」
急に暖かい口内に包まれて、思わず声が出る。
無意識に手が口を覆ったが、ブラックは構わずに舌を絡ませて唾液を絡めながら欲望をそそり立たせようとして来た。
「っ、ん……ふ、ぅ……っうぅ……っ」
筋を嬲り、ねっとりとカリのくびれを伝う舌に、体が勝手に震える。
少し収まっていた衝動はすぐにその動きに反応して、疼きと共に完全に熱を取り戻してしまっていた。
旅をしていると、性欲なんてそっちのけで行動する事が多い。だから、こうして触れられると余計に体が感じてしまい、どうしようもなくなってしまうのだ。
俺は元々年相応に性欲が強い。二次元をオカズに結構な回数自慰をしていた猿だったんだ。そんな俺がオナ禁して他人にどうこうされてるんだから、我慢できる訳がない。そうだ、最初から無理だったんだ。
だから、ブラックの執拗にも思える自身への愛撫は、そんな性欲猿な俺を簡単に煽ってしまって。
「っあ、ぅ、あ……あぁあ……! っ、ふぁ、あ……っ」
舌が、口の中が、気持ちいい。もっと舐めて、強く扱いてほしい。
そんな身勝手で浅ましい欲望が脳内でぐるぐる回り、自然と腰がブラックの口に押し付けるように浮いたり動いたりして来る。どうしてか、いつもなら恥ずかしい事が、今はあまり恥ずかしく思えなかった。
「ぷはっ……ツカサ君、そろそろこっちも欲しいんじゃないかな?」
そう言いながら、ブラックは小瓶を取り出して自分の手に垂らす。
見慣れた液体が示す所は、もう分かりきっている。だけど抵抗する事も考えられなくて、俺はただこれから行われる事に身を引き締める事しか出来ない。
ブラックの言葉に答えられずに見つめていると、相手は嬉しそうに目を細めた。
「足、閉じないね。いい子だ」
俺の様子を見て、何を言いたいのか解ったのだろうか。
ブラックはゆるく開いた両足を少しだけ優しく開き、俺の腰を掴んで浮かせた。
大きな手に捕まれた腰に釣られるように、足が膝から曲がった状態で持ち上がる。不安定さが辛くて膝から下で頑張って下半身を支えるが、ブラックはすかさず下に枕を入れて負担を減らしてくれた。
少しほっとしたが、考えたらこの体勢って股間を見せつけてるポーズな訳で。
その事に気付いて赤面した俺に、ブラックはあやすように呟いた。
「大丈夫、大丈夫だよ。この方が同時にしやすいんだ。少しの間、我慢してね」
「ど、同時に、って……」
どういうことだ、と言おうとしたと同時、先走りを垂らして放って置かれた物を頬張られて、俺は反射的に大きく体を波打たせた。
いきなり背筋を駆け上った快楽に甲高い声を上げるが、ブラックは容赦なく音を立てて吸い付きつつ、濡れた指で後孔を撫で始める。
同時にってそう言う事かよ、と思わず意識して締めてしまったが、力を入れると前の方の刺激が余計に強くなってしまい、俺は自爆してしまった。
「ふはひゃふ、ひかあういえ」
「ふあぁっ、しゃべっ……な……! だめっ、ちょ、一緒はだめだってぇっ!」
必死に止めてくれるように頼むが、ブラックの指はもう止まらない。
前を存分に舌で舐めまわされて意識がそちらに集中している間に、ずぷりと指が入って来てしまった。
「ひぁっ!? やっ、だめっ、いれなっ、あ、あぁああっ……!」
せめてどっちかにしてくれと手を伸ばすが、腰を高くあげられていては、そこにむしゃぶりついている相手の頭に手が届かない。
その間にも指は二本三本と増えて、大仰な水音を立てながら俺の中を慣らす為に穴を広げて蹂躙して行った。
「っあぁあ! や、だぇっ、してる途ちゅ、ぅっあ、あぁっ、うひろっ、や、あ、ひああぁ!!」
自身を襲う舌と口で扱き上げる刺激と、暴れる指が擦りあげる前立腺の刺激が、体中に電気が走ったような強烈な快楽を俺に打ち込んでくる。
前が、後ろが、引っかかれ、舐められ、撫でられる度に頭がちかちかして、先端を吸い上げられて前立腺をぐりぐりと押し付けられると、もう耐えられなくて俺は嬌声を上げて善がり狂う事しか出来なかった。
「ま、ぇっ、も、いっちゃ、ぶら、っぅ、いっちゃ、からぁ……!!」
「っ、ん……! ぷはっ、待って、まだダメだよ」
「あ、ぁああ……な、んで、なんでぇ……」
もう少しでイケそうだったのに。
「待って」と言ったくせに、そんなもどかしさが俺の頭をかすめて、蕩けた顔になっていた俺は悲しさに顔を歪めた。ブラックはそんな俺の頬を優しくさすると、微笑んだままでゆっくりとズボンの合わせ目を解く。
「辛いよね……でも、我慢して…………今日は一回しか出来ない約束なんだから、僕もツカサ君と一緒にイきたいんだ……」
そう言って取り出したのは、血管が浮く程張りつめた、俺のモノなんて比べ物にならないくらいに大きな赤黒いもの。俺を犯す、ブラックのペニスだ。
いつ見ても、その大きさには言葉が出ない。
けれど、最早ソレに慣らされてしまった俺の体は、引き抜かれた指の代わりに、その凶器が突き立てられるのを待ち望んでいて。俺の意志とは関係なく、ぱっくりと開いたまま緩く蠢いてブラックを誘っていた。
「ぶら、っく……」
「うん……解ってるよ……一緒に気持ちよくなろうね、ツカサ君……ッ!」
腰を掴んで、ブラックは膝立ちのまま――勢いよく、怒張を捻じ込んできた。
「っあぁああああ!!」
「あっ……くそっ、駄目だ……や、優しくするって言ったのに……っ!」
何を言っているんだこいつ。
あ、あれか、もしかして優しくするって言ったのを守ろうとしてたのか。
なのに、こんな風に性急に押し入ってしまったから悔やんでるのか。
……そんなの、気にしなくていいのに。
俺には。今の、俺には……。
「い、ぃ……から……っ」
「え……?」
息が荒い。内部から圧迫されて、うまく声が出せない。
だけど、この情けなくて一生懸命な相手にどうしても伝えたくて、俺は苦しさに眉を顰めながら必死にブラックに言葉を放った。
「あん、たが……っ、ぅ……がんば、ったの……わかってる、から……っ」
「ツカサ君……」
「い、っかぃ……だけ……だぞ……っ」
「解ってる……解ってるよ……頑張る、ちゃんとやるからね……!」
初めてのセックスじゃあるまいに、なんで俺達、こんな会話してるんだろう。
でもどうしても言ってやりたくて、あんたの努力は無駄じゃないよって、言葉を忘れる前に伝えたくて、どうしようもなかったんだ。
だって、あんな寂しそうな顔見せられて……俺のために一生懸命頑張ってくれたのを知ったら、このくらいで怒る事なんて出来なかったから。
「っ、ブラッ、ク……ぅ……」
「うん……わかってるよ。ゆっくり……一回だけだから、ゆっくりやるね……っ」
自分に言い聞かせるように何度も呟きながら、ブラックは腰を押し進める。
その度にぎちぎちに広げられたナカが擦れて、俺は身を捩ってすすり泣いた。
久しぶりの体内を満たす感覚はあまりにも刺激的で、体中の肌が粟立って黙っていられない。嫌悪とはまったく違う、待ち望んでいたとすら思えるようなその熱と苦しさに、俺はいつの間にかゆるく腰を動かしてしまっていた。
それが嬉しかったのか、ブラックは情けない顔で笑いながら、ゆるゆると緩急をつけて腰を引き、再び奥まで俺を貫き始めた。
「っ、あ゛っ、ふあぁあっ! ……ぅああ、はぁっ、あ……っあぅう……」
「んっ……ぅ……っく……こ、れ……結構……っつらいね……」
確かに、いつもは突き破らんばかりの勢いでがつがつと奥まで突いて来るから、このもどかしい動きは逆に辛い。神経がバカになるような快楽の波より、じわじわと内側を侵食していく緩やかな快楽のほうが拷問のように感じられた。
だけど、何度も繰り返す内に、そのもどかしさも理性を溶かすほどになって。
ぎりぎりまで引き抜かれ、長く前立腺を擦られ奥まで突かれるという新たな快楽に、俺は簡単に籠絡してしまっていた。
「ひっ、あ、あぁああ……あ゛ぁあ……あ、ぁ……やぁあ、あ、ぁ……」
「ゆっくりやると……こんな風に泣くんだね……っ、あは……」
「も、っと……も、ぁ、あぁああ……!」
「ん……? もっと激しいのが良い……?」
ブラックの言葉に、俺は涙に濡れた目で相手をみやる。
「ツカサ君は……っ、普段の僕の方が、好きなの……?」
深い場所まで熱を収めながら嬉しそうに言う相手に、必死で頷いた。
緩やかな刺激は今までにない快楽を教えてくれたが、しかし、いつもの情熱的で激しい動きに慣れてしまっていた俺は、最早それでは我慢できなくなっていた。
ブラックの年甲斐もない切羽詰まった行為が、いつの間にか俺の体に染みついていて、俺自身もそうじゃないとダメになっていたのだ。
だから、もう、早くしてほしかった。
いつものブラックが、欲しかったんだ。
「お、ねが……っ、ぁ……も、いかせてぇ……っ!」
涙で顔をぐちゃぐちゃにして、必死に懇願する。
その俺のみっともない姿を見て、ブラックは。
「…………ツカサ君……君のそう言う所が、大好きだよ……っ!!」
俺の体を抱き起すと、強く抱きしめて下から思いきり突き上げた。
「ふあぁあっ!? ひっ、あ、あぁああっ、あ゛、ぁ、は、ぁっ、ぅあぁ……!」
「ツカサ君……ッ、ツカサ君、ツカサくん、つかさく……っ」
名前を何度も何度も呼ばれながら、抱き締められてずぶずぶと深い場所まで突き立てられる。その激しい律動は俺が待ち望んでいたもので、俺は強烈なまでに感じられるブラックの動きに顔を緩ませて、逞しい身体に縋りついた。
最早、考える事も出来ず、虚勢を張る事も出来なくて。
「あっ、ぅああっ、あ、す、き……っ、こっち、っ、が、好きぃ……っ」
「嬉しいっ、うれしいよ……っ! っ、く、僕の事を受け入れてっ……ツカサくっ、好きだ、好きだよ、ツカサ君……っ!!」
「らぇっ、あ、あぁあっ、はげし、っ、ひっ、あっ、あぁああ……!!」
ブラックの体に俺のモノが擦れて、中でブラックのモノが更に張りつめる。その規格外の軛は、限界まで俺の体を突き上げてめいっぱいに体内を満たした。
あまりにも激しい抽挿に、俺は背を逸らせて体を痙攣させる。
それすらも、俺にとっては心地良かった。
「ツカサ君、一緒に……!」
ブラックが限界を訴えて、俺のモノを思いきり扱く。
既に爆発寸前だった俺は、その暖かい手のひらに包まれた瞬間にどくんと大きく脈打った。
「ひぁあぁ! あっ、ぅああぁ……っ、あ……――――ッ!」
声が掠れて、音もない悲鳴が喉から絞り出される。
それに釣られるかのように射精していた俺の中で……ブラックも、溢れるほどの白濁を体内に打ち付けていた。
「っ、はぁ……はぁ……っ」
「ぅあ……っ、あ……ぁ…………」
俺の絶頂とは違い、ブラックの絶頂は二度三度と中に大量の飛沫を叩きつける。今の体にはその感覚すら辛くて、吐き出される度にびくびくと体を震わせた。
ブラックはそんな俺を抱き締めて、そのままベッドに倒れ込む。
「……はぁ……ぁ…………」
「んっ……ぅ……」
ブラックの荒い息に合わせ、結合した部分から何かが漏れ出してくる。
太腿を伝って落ちる白濁にすら敏感になりながらも、俺はブラックから離れたくなくて分厚い胸に顔をくっつけた。
どうしても、そうしたかったのだ。
「ツカサくん……大好きだよ……」
「ん…………」
整わない息を二人で互い違いに吐き出しながら、抱き締めあう。
普通なんて判らないけど、でも……
俺には、それがこの上なく幸せな事のように思えていた。
→
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