異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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北アルテス街道、怪奇色欲大混乱編

13.いつもなら絶対に見せない姿で1

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※す、すみません思ったより長かったんで分けました……ヒィイ…:(;^ω^):


 
 
 ブレア村の村長の家のお風呂は、彼の趣味が詰まっている。
 と言うのも、この世界の風呂と言うのは部屋の中に作る物であり、日本の旅館に良くある「洗い場と露天風呂」という組み合わせにするのは珍しい事だからだ。
 村長は冒険者から聞いたその風呂の構造がえらく気に入ったらしく、だから大枚はたいてこのような豪華な風呂を作ったんだって。

 そう言われてみると、ラスターの屋敷のでかい風呂もパルティア島の浴場も普通に屋内だったし、露天と言えばゴシキ温泉郷だけだった気がするな。
 しかし想像だけでこうも見事な露天風呂を作れるとは、左官屋さんの腕がいいのかそれとも冒険者の話か村長の想像力が素晴らしいのか。まあなんにせよ、村長の趣味のお蔭でこうしてお湯を頂戴できるのだから文句はない。

 俺は脱衣所で手早く服を脱ぐと、腰にタオルを巻いて洗い場に足を踏み入れた。

「おおーっ、これはまたゴシキに負けず劣らず趣味が良いなー」

 流石にあそこまで広くはないけど、木の板の壁の中に小さな庭を作って、東屋の屋根の下に石造りの風呂を設置した所は実に日本の露天風呂っぽい。
 地面も石畳だし、本当に本格的な造りだ。
 ただ、板の向こうはすぐ森と山になっているらしく、眺めは悪いとの事だったが、個人的にはそこには文句はない。風呂が在るだけ滅茶苦茶ありがたいからな!

 早速洗い場に向かう俺の後ろで、ガラガラとだらしない音で扉が開いた。

「あー……ほんとに本格的な露天風呂だねぇ……」

 ぽやっとした声を出しながら入って来たのは、股間も隠さずにぱだかおけだけ持って来たブラックだ。髪も結んだままで、なんて言うかなっちゃいない。
 風呂に入るのになんだその格好は!

「こらブラック! そのまま入るなよ、体を洗って入れよ!」
「えー、そんなのヒノワだけの決まりごとじゃないか」
「だっ……お前さては、他の風呂場でも体洗って入ってなかったな!? おいコラこっち来い! ってか下隠せ、見苦しい!」
「みっ、見苦しいなんて酷い……! 僕の分身はいつも君を突き上げて悦ばせてるのに、それをみ、みぐるしいなんて」
「わーっ!! 分かった分かった、謝るからこっち来い!」

 外に聞こえたらどうするんだと慌ててブラックの手を引いて、俺は強引に相手を洗い場に座らせた。そうして、ブラックの髪を縛っているリボンを解いてやる。
 ゆるく縛っていたせいなのか、リボンは簡単に外れて赤い髪が背中に広がった。

「え、髪解くの?」
「リボン外さなきゃ髪洗えないだろ」
「い、いいよ髪洗うのなんて……面倒臭いし、第一そんなに汚れてないだろう?」

 そう言いながら髪をまとめようとするブラックに、俺は目を細めた。

「……あんたさては……髪も無精で伸ばしてたんだな?」

 俺の低い声に、ぎくりと肩を竦ませる中年。やっぱりそう言う事かよ。
 最初はファンタジー世界では一般的な髪型だからとか、伝統とかでそうしてるんだとか考えてたが、良く考えたらこのオッサンは無精髭を生やした残念な中年だ。
 装飾品の何たるかも解ってない相手が、意味あって髪を伸ばしてる訳がない。

 赤い長髪ってファンタジーっぽくて結構好きだったんだけど……そういう理由で伸ばしてるなんて、なんか残念な気分だよ。ブラックに「格好いい髪型だ」なんて言ったら調子に乗るだろうから、今まで言わなかったけどさ。
 思わず溜息を吐いてしまうと、ブラックは不満げに肩越しに振り返る。

「だって、一々髪を切るのも面倒だし……短髪だと髪がうねって余計に変に見えるから嫌だったんだ。長いとマシに見えたから、ずっとそうしてるだけさ」
「ふーん……勿体ないなあ、綺麗な色なのに……。ほれ、洗うからお湯んで」
「え、つ、ツカサ君が洗ってくれるの?!」

 目を見開く相手に、なんだかなあと思いつつ俺は頷く。

「アンタに任せたらお湯かぶるだけで済ませそうだし。いいからほら、正面向いて」
「う、うん」

 あからさまに声がはずんでる相手にむずがゆい心地を覚えつつ、俺はブラックの髪にお湯をかけると、濡れてもなおうねる髪に石鹸の泡を擦りつけた。
 長い髪を洗うのも他人の頭を弄るの初めてだけど、まあ何とかなるだろう。
 そんな事を思いつつ頭のてっぺんから石鹸で泡立てて、絡まる髪の毛をなるべく引っ張らないように丁寧にいて行く。

 ブラックの髪の毛は柔らかいのにしっかりしていて、白い石鹸の泡の中でも赤くきらきらと光っていた。

「…………」

 悔しいけど、やっぱ格好いいなあ……。
 ウェーブがかった長い髪って基本は悪役ばっかだけど、貴族っぽいし強キャラにも多かったから結構好きだったんだよな、俺。もちろん自分がこの髪型になりたい訳じゃないが、ほら、強そうだし、豪勢な服も似合っててなんか格好いいしさ。
 日本じゃこんな髪型似合う人も少ないし、俺には物珍しく見えるんだよな。

 そんな髪の毛を洗っていると思うと、なんだか不思議な感じがした。

「ツカサ君……すっごく気持ちがいいよ……」
「そーかよ。ほら、目ぇ開けると泡が入るから閉じてろって」
「うん」

 語尾に音符マークでもつきそうなくらい浮かれた低い声。
 口調は果てしなく子供っぽいのに、声も、体も、髪も顔も、ブラックは大人だ。

 濡れて艶めいた髪が張り付いたたくましい背中も、髪の隙間から見えるしっかりと筋張った太い首も、俺より長い時間を生きて来たという事を感じさせる。
 後ろから見ても、ブラックの腕はバランスよく筋肉が付いていて、力強そうな肌の隆起が体力が有るという事を嫌と言う程見せつけていた。

 何もかも、俺とは違う。
 コイツの前じゃ絶対言いたくないけど……ムカつくくらい、格好いい。

 自分でも変だと思うけど、ブラックの髪を洗っていると不思議と普段は考えないようにしていた事が次々と浮かんで来てしまう。
 俺も酒の匂いで少し酔ったのかな。
 それとも、普段とは違う事をしているから雰囲気に呑まれてるのか。

 まあそもそも、初めて会った時に不覚にも今とあんまり変わらない事思っちゃったんだから、仕方がないんだろうけどさ。第一印象って凄いよほんと。
 自分の感性に少々不満を抱きつつも、俺は指の腹で優しくブラックの頭を泡立ててやる。それが気持ち良かったのか、相手はふぅと溜息を吐いた。

「ねぇ、ツカサ君」
「なんだ?」
「僕ね、初めて人に髪を洗って貰ったよ」

 その言葉に、一瞬ぎくりとする。
 ……初めてって……そんなはず、無いと思うんだけど。
 だって、子供の時に親に頭を洗って貰ったりするよな。貴族なら使用人とか。
 それをすっとばして初めてって……。

 まさか、とは思ったけど、それを言い出してもどうにもならない。
 忘れてるだけならいいが、相手の傷に触れるような事になると嫌だ。
 気付かないふりをして、俺はぶっきらぼうに返した。

「そうかよ。で、感想は?」

 俺のちょっと不機嫌な声に、それでもブラックは嬉しそうに笑う。

「すっごく気持ちいいよ。好きな人に髪を触って貰うのって、こんなに嬉しくなるものなんだね……。ツカサ君の手って、とっても優しくて……いつまでも洗ってて貰いたいくらいだ」

 髪の隙間から見える横顔は、やにさがって楽しそうに緩んでいる。
 こんな大柄な体して、オッサンの顔して、そんな無邪気に笑うとか。
 大人のくせして、この程度でこんなに喜ぶとかさ、あんた本当ずるいよな。

 普段は俺の事からかうくせに。好き勝手やる癖に。
 こんなでっかい図体して、ゴツい腕で俺の事捕まえて、いい雰囲気なんて欠片も作らずに、いつも……――。
 …………なんか……なんていうか。

「…………」
「ツカサ君、どうしたの?」

 急に、胸がまたドキドキしてきた。
 素っ裸の時に変なこと考えたからだろうか。急に顔が熱くなってきてヤバい。
 だ、だめだ。これ以上余計な事考えちゃいけない。

 俺は必死に頭を振ると、湯船からお湯を汲んでブラックの頭にかけた。

「ぶはっ」
「はいっ、後は髪の毛を上にあげて体を洗っておしまい! それは自分でやれよ」

 俺は自分の体を洗うと宣言して少し離れて座り、石鹸を泡立てる。
 ブラックは名残惜しそうに俺を見ていたが、調子に乗ったら怒られると思ったのか、素直に言う事を聞いて髪の毛をまとめ始めた。

 頭と体を洗いながら、俺は横目でその様子を見る。
 ……そういえば、ブラックが髪をアップした所も見た事ないな。どんな風になるのかちょっと気になって、相変わらず脈打つ心臓を抑えながらちらりと覗き見た。
 しかしブラックはそんな俺の期待とは裏腹に、もそもそと髪をまとめてリボンで縛ろうとしては、失敗したり髪が絡まってオタオタしたりで全然先に進まない。

 俺が髪を洗い終えて体をこすり始めても、ブラックは弱り顔で四苦八苦して髪をまとめようと必死に頑張っていた。
 ブラックって器用なはずなのに、こんなことは苦手なの。

 最初はちょっと面白いと思ったけど、いつまでも同じ事をしている相手を見るとイライラしてくる。胸の鼓動が収まってないのも相まって、俺はいつも以上に気が短くなってしまっていた。

「ええいもうしょうがないなあ!! ほら、俺が髪を上げといてやるから、さっさと体を洗っちまえ! いつまで経っても風呂に入れねーだろ!」
「あっあっ、つ、ツカサ君ごめん、ありがと」

 だあもう変な所で不器用なんだから。ドキドキして損したよ。
 ……そうは思うけど、やっぱりまだ心臓はしずまってはくれない。

「ばっと洗っちゃうから、早く一緒にお風呂入ろうね」
「お、おう」

 ブラックが体を洗い始めると、俺は目のやり場がなくて困ってしまった。
 だって俺、今はブラックの髪を上げてて動けないし、しかも背後に立ってるもんだから……ブラックが足を広げてたら、その、み、見えるし!!

 早く終わってくれないかなと視線を逸らすが、俺の視界の広さは中々の物だったのか、顔を背けていても視線の端にブラックの体が見える。
 お湯に濡れて水琅石の明かりに照らされている肌が、なんだか艶めかしい。

 女じゃないのに、柔らかい肌でもないのに、動くたびに伸縮する筋肉を見ていると勝手に体がじりじりと焼けてくる。胸の鼓動は最早収まるどころか激しくなっていて、焼けるような感覚は段々と俺に嫌な事実を自覚させていった。

「ぅ…………」

 なんか、変だ。おかしい。
 ブラックの裸なんて別に何度も……は見た事ないけど……でも、見た事有るし、何より男でオッサンの裸だ。俺が欲情できる要素なんて何一つない。
 なのに、なんだか息が荒くなってきて。
 じんじんする感覚が、腹の下に集まってきて。

「もうすぐ終わるからね、ツカサ君」

 欠片もいやらしさのないほがらかな声なのに、その低くて渋い声が耳に届くと体が勝手に震えてしまう。赤い髪が手に絡む感覚さえも熱をあおって、俺はどうしようもない衝動に身悶えた。

 駄目だ、完全に体がおかしくなってる。
 ブラックに触られてからならまだしも、こんな、相手が素面の時に俺だけこんな風になってるなんて。こんなの嫌だ。おかしい。俺の体どうなっちまったんだよ。
 まさか、俺もブラックの裸を見るだけで興奮しちゃう変態になっちまったって事なのか。そんなバカな。だって俺、さっきまでは、普通だったはずなのに。
 こんなこと、あるはずないのに。

「~~~~っ……」

 否定したい。自分の衝動は嘘だと思いたかった。
 だけど、自分の股間の現状を見てしまったらもう否定する事すら馬鹿らしい。
 涙目の視界に映る布はもう軽く膨れていて、言い訳もできない状態だった。

 ブラックが自分の体に掛けるお湯が、俺の体にも掛かってくる。
 それすら感覚が尖り始めた体には辛くて、髪を持つ手が大いに震えた。

「これで、いいかな」

 ブラックが、桶を置く。
 体がこちらを向こうとしているのに気付いて、俺は思わず息をのんだ。
 振り向かれるのが怖くて、俺は即座に髪を離して湯船に逃げ込もうとする。
 だけど、熱を帯びた体はもう言う事を聞かなくて。

「っ……ぅ……」
「さぁ、これで風呂に入れるよね! ツカサく…………」

 ん。と、最後まで言えずに、ブラックが笑顔のまま固まる。
 恥ずかしい。もう、見られてしまった。だけど、それ以上に俺は。

「……っ、ブラッ、ク…………」

 勝手に切ない声が出る。情けなさすぎる自分の声にすら俺は熱を煽られて、悔しくて体をよじった。そんな俺の変化に気付いたのか、ブラックが無邪気な顔から徐々に欲を含んだ表情になっていく。

「ツカサ、くん……」
「俺……なんか…………っ、へ、変……で……」

 荒い息のせいで、言葉が上手く伝わらない。
 変なタイミングで興奮して、ハァハァ言ってるなんて、こんなの俺じゃない。
 これじゃブラックと同じだ。俺はそんなキャラじゃないのに。
 泣きたくなって喉が痛くなるが、そう思えば思う程体が火照ってしまう。

 そんな俺の現状を見たブラックは、目を丸くしながらもごくりと喉を鳴らした。

「どこが、変なのかな……?」

 ~~~~~っ、ばかばかばかばかばか変態性悪しょうわるこんちくしょうぅ!!
 言わせるのか、この場面でそんな事言わせるのかよアンタは!!

 バカ、最低、本当こいつ、嫌い。

 そうは思うけど、でももう俺は体の中でくすぶる熱に侵されていて、頭の中の冷静な部分とは裏腹に……とんでもない事を、言ってしまっていた。

「……っ…………ぜん、ぶ……全部、おかし、ん、だってば……!」
「ぜ、全部……?」
「っ、も、だから……だから、なぁっ、ブラック……!」

 泣いてるようなぐずぐずの声を出して、俺はブラックの手を引く。
 だけど俺の中の理性は流石にまだ残っていたのか、その手は下へ行く事はなく、俺の心臓の辺りへとたどり着いた。
 痛いくらいに激しく脈打つ、隠しようのない場所に。

「つかさ、くん……」
「……っ、も……解れよ、ばかぁ……!」

 俺がもしブラックなら、こんな誘い文句なんて「解るか」ってツッコミを入れて怒っただろう。
 女の子なら可愛いけど、俺じゃ、こんなセリフ三文の価値もない。
 だけど、ブラックは。

「…………分かった……わかったよ、ツカサ君」

 真剣な声で呟いて、俺の手を握り返してくる。
 そして、俺を抱き締めた。

「今から…………思う存分、犯してあげるからね……」

 ブラックの欲情した低い声が、俺の耳を犯す。
 その声に、俺はただ待ち望んでいたかのように震える事しか出来なかった。










 
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