異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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裏世界ジャハナム、狂騒乱舞編

17.怪しい場所というだけで変な想像をしてはいけない

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 俺は男だ。決して女子ではない。
 ……が、正直ここの所の強制女装で、悲しくも意識が揺らぎつつある。

 男なら、拒否する時には「やめろ」と言うだろう。だが、今の情けない姿の俺は恥じらいながら「やめて下さい」が関の山だ。派手に男らしく動いてはいけないという制約もあり、俺はなんだかもう自分が何をしてるか解らなくなってきていた。

「ルギ君、良く似合ってるよ……そのドレス」
「あ、はい……ありがとう、ございます……」
「白のフリルと薄い青の対比が映える服が、君には似合う。そう思っていたが……何度見ても本当に可愛い。今日もそのドレスを着て来てくれて嬉しいよ」
「いえ、その……せっかく頂いたものですから……」

 とか言いつつ、俺はちょっと恥ずかしそうに顔を歪めてうつむいてみる。
 もちろん、俺の心の声はこの表情とは真逆である。

 ドレスなんぞ、これっぽっちもありがたくない。
 ありがたくないし、こんなモンを男の俺に贈って来てどないすんじゃいオラこのボケカス……なーんて暴言を吐きたいけど、貰い物だからこう言うしかない。
 贈り物に罪はないし、好意で貰ったものをけなすわけにも行かないし。

 でもさ、口先だけの感謝でも、何度も言っていたら本当にありがたいような気がして来るから不思議だよな。
 人はそれを洗脳と言うが、流石にそうなりたくはない。

 いや、まあ、ぶっちゃけもう洗脳されてもおかしくないんですけどね。
 だって、俺はあのドレスを貰ってから一週間ずっと、そのドレスとかつらを着用してシムラーと色々な所をデートしているんだもの。恋人のように振る舞ってるんだもの。そう、告白っぽい事を言われたあの日からそう日も経ってない内にな……。

 …………性急なのはいいよね、話の流れが速くなるし。

 でもね、一週間ほとんどまるごと女装ってのはキツいと思うんだぁ俺は。
 俺もう男用のパンツの感触忘れかけて来てるんですけどウフフ……。
 ウフフじゃねーよ本当泣きたい。ブラックより我慢してて偉いぞ俺、耐性は中年越えだ。でも何も嬉しくないよ体力の方で中年越えしたいよ。

 ちくしょう、このままじゃ男としての尊厳を失いそうだ。
 女装してメシ屋とか観劇とかデートとか本当勘弁して。
 って言うかいつ尻尾出してくれるんですお兄さん。

 そう思いながら、そろそろ十回目に届こうかというデートに出かけようとすると、シムラーが不意に俺の腕を引いて耳打ちをして来た。

「ねえ、今日は特別な秘密の場所に行こうと思うんだけど」

 秘密の場所?
 思わずシムラーの顔を見ると、相手は綺麗な青い目を細めて笑う。

「このジャハナムでも、選ばれた一部の人しか入れない場所さ」

 そう言って、歩き出すシムラー。俺は慌てて隣で歩幅を合わせながら、内心首を傾げた。ジャハナム自体がもう秘密の場所みたいなものだけど、それ以上の場所ってあるのか?
 考えて、ふと本来の目的が脳裏によみがえる。

 ――――件の人物は、ジャハナムの秘密劇場に……。

 秘密。秘密劇場。
 もしかして……シムラーはそこに俺を連れて行ってくれる気なのか。だとしたらスゲーラッキーじゃん。これって棚ボタ? それとも、辛く苦しい女装生活を送る俺を見て、神様が可哀想にと思い恵んでくれた奇跡なのか?
 どちらにせよ、行かない手はない。

 仮に地下劇場では無かったとしても、そんな秘密の場所が複数あるのなら話している内に話題に出て来るはず。今はトルベールの依頼の方が重要になっちゃってるけど、情報収集できるならやらない手はない。

 どうせ後ろにはブラック達が付いて来ててくれてるんだし、いざとなったら俺には隠し玉が有るもんね。今回は大丈夫だ。なんたって今付けてる腕輪に、秘密兵器を仕込んでおいたのだから!!

 ……いやまあ、正直言うと今までブラックに指摘されるまで、存在忘れてたんだけどね……秘密兵器……。だって、おいそれと使っちゃ迷惑だなって思って大事にしまっておいたから、ドタバタしてたら忘れちゃってて……ぐう。

「ここを曲がるんだよ」
「は、はい」

 色々考えている途中に支持されて、ロボットのごとく従う。
 どんどん路地裏に入って来たけど大丈夫かな。ジャハナムは表通りも神に焼き尽くされそうな腐敗具合だから、別に路地裏には危険なんか感じないけども。

 ええもう俺他人の性行為見ただけじゃ動じませんよええ。
 お蔭で俺はもう三次元のえっちに幻想が持てそうにないです。いやむしろ、家のベッドで美少女とにゃんにゃんというのが、至上の幸福にすら思えてきたよ。
 普通だ。やっぱり普通が一番なんだ。

「だから俺の女装も余計に異常に思えてくるんですケドネ……」
「何か言ったかい? ああほら、ここだよ」
「えっ……この裏路地のドアが……?」

 ここだよ、と指さされたのは、古いレンガの壁に嵌め込まれた鉄扉。
 ドアには何も書かれておらず、鉄扉はかなり年季が入っているのか所々サビが浮いていた。確かにおいそれと入れそうにない気がするけど……これが秘密の場所?

 どういう事かと戸惑いながらシムラーを見上げると、相手はまた嬉しそうに笑って鍵を取り出した。複雑で、複製するのはかなり面倒そうな鍵だ。
 それを差し込んで鉄扉を開けると、シムラーは俺に「どうぞ」とお辞儀をする。

 立ち止まっている訳にも行かないので入ってみると、そこはこの前の観劇の受付みたいな場所が有った。深紅の絨毯に、褪せたワインレッドの壁。とても格式高い雰囲気は、やっぱりあのオペラハウスに似ている。
 でも、入った部屋はかなり狭い。受付だけだからかな。恐らく、受付横の通路の奥が本当の目的地なんだろう。

 受付を済ませているシムラーをぼーっと見ていたが、やがて彼は俺を手招きしてあの通路へと誘った。

「さ、行こうか」
「ここは一体……」
「まあまあ、行ってみたら解るから。面白い物が見れるよ」

 面白い物……エロい美女なら大歓迎だけど、スプラッタな闇の闘技場とか可哀想なオークションは見たくないぞ。どう考えても悪趣味だ。
 シムラーは今の所普通の紳士的なデートばっかりしてるから、大丈夫だとは思うけど……でもどうなんだろう。ヤバい。怖いやつだったらすぐ帰ろう。

 内心ダラダラと汗をかきながら、通路を歩く。
 短い通路の先に、また扉。
 その扉を開いて中に入った途端、物凄い歓声が耳に飛び込んできた。

「うわっ!?」

 反射的に耳を塞いで、何が起こっているのかと真正面を見る。
 広い部屋。その部屋を埋め尽くす物を見て――――俺は、目を丸くした。

「ここ、って……」

 ルーレット盤に群がる紳士淑女に、カウンター席でトランプのような札を取引して一喜一憂する人々。部屋の中には常に叫びと歓喜が溢れ、欲望を満たす物が全て用意されていた。
 高級な内装の部屋で繰り広げられる、金と欲にまみれた華やかで俗な光景。

 その光景を見た事が有った俺は、思わず呟いた。

「カジノ……いや……賭場?」

 賭場って言うよりもカジノって言った方が良いレベルの場所を背に、シムラーは笑顔で頷く。カジノの意味は解ってないだろうけど、賭場と言う言葉は理解してくれたらしい。

「そうだよ。ここはジャハナムで唯一、森羅万象しんらばんしょうを賭けられる場所さ」
「……もしかして、今日はここで賭け事をするんですか?」

 そう言うと、シムラーは表情を崩さずに朗らかなままで首を振った。

「ははは、幾らなんでもルギ君の前では失敗を犯しそうな事はやらないよ。私は臆病だからね。それに、コレは楽しくないよ。私達が楽しむのは別の事だ」
「じゃあ、一体何をするんです?」

 賭け事じゃないとしたら、なんでカジノに来たんだろう。
 首を傾げる俺に、シムラーは手を伸ばす。そうして肩にわだかまっていたかつらの髪の一束を俺の耳に掛けて、ゆっくりと口角を上げた。

「絶対に失敗しない……さ」














※ここには以前、
 「今後の展開でモブ姦やクロウとのエロはどこまでならOKか」との
 アドバイスを求めるコメが入ってましたが、5月10日に締切ました!
 ありがたいアドバイスを頂いた結果は、5月13日の近況ボードに
 書いておきますので、宜しくお願いします(*´ω`*)
 
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