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パルティア島、表裏一体寸歩不離編
30.レベルが低いと失神エンドになりがち
しおりを挟む神というものの存在を、貴方は考えた事が有りますか。
――神様って……お願い事を聞いてくれるアレ?
神に対しての人間とは、なんだと思いますか。
――願いを叶えて貰う存在……いや、神様を崇めて守ってもらう存在?
神と言うものは、何だと思いますか?
――何……って言われても……。
神と言う存在が存在するならば、世界は進化していると言えるのでしょうか。
――進化……?
神の掌の上の出来事であるなら、世界はその手の内に収まることになる。
それは進化と言えるのでしょうか。神が存在するのは有益でしょうか。
世界が進み続けなければならない存在だとすれば、神と言う存在は。
人の創造しうることのみを成す神と言うのは……
存在しては、いけないのでは?
「つ……く……つか……くん……つかさくん……」
「う……ぅえ……?」
なんか柔らかい。
何事かと思って瞼をゆっくり開けると、目の前にうねった赤髪と見慣れた無精髭がどーんと広がっていた。
「どわぁあっ!」
「良かった、気が付いた~!」
情けない顔でそんな事を叫びながら、ブラックが俺をぎゅうぎゅう抱き締める。
いや、おい、ちょっと待て。
ブラックが俺の側にいるって事は、俺助かったのか?
でもどうなったってんだ。
未だに状況が把握できなくて辺りを見ると、見慣れた調度品が見える。どうやら宿に帰って来たらしい。いや、帰って来たって……クロウ達はどうしたんだ?
それにギアルギンはどこ行った。クラレットや兵士達はどうなった?
ってか離れろこの変態中年。髭が痛いんですけど!!
「は、な、れ、ろぉおお」
「いやだぁあああ」
背中に回した手をケツに移動させんなこのスケベ!
アンタ本当に俺を心配してたの!?
もう色々信じられなくてブラックと激しい攻防を続けていると、がちゃりとドアが開く音がした。
誰が入って来たのか、と、入り口の方を見ると。
「お久しぶりね、ツカサ君」
声まで清廉で美しい、世界一美しいと言っても過言では無かろう美老女。
夢かと思う程の姿がそこに立っていた。
ちょっ、し、シアンさんじゃないですかー!
「えええっ、シアンさんいつの間に!? って言うかあの、俺どうしたんです。俺は加工場でギアルギンと一緒に……ってクロウは!? ロクもどうしたんです! もう何が何だか……」
「落ち着いて。全部説明するから。とにかくお茶を飲んで一息つきましょう。あとロク君はちゃんとバッグの中で寝てるから安心してね」
そう言いながら緑茶を手慣れた感じで淹れるシアンさんに、俺とブラックは顔を見合わせたが素直に従った。
体は怪我も無く健康だったので、俺はベッドから降りて席に着く。
当たり前のように俺の隣に座ったブラックに、シアンさんは少し苦笑しつつ茶を差し出してくれた。
はあ、お茶がうまい。
疲れてる時はちょっと甘いお茶でもいいかもね。
「……さて、ツカサ君。事の顛末を話す前に、聞いておきたい事が有るのだけど」
「あ、はい。なんですか?」
「あの建物の中で加工されていた鉱石は……なんだったか解るかしら?」
そう言われて、俺は茶を飲むのを止める。
色々な予測が頭をよぎったが、答えを聞いた方が一番早かろう。
俺は湯呑を置いて工場で見た全てを話した。
水晶が水に浸されていた事。その水晶をギアルギンに浴びせかけると、黒い煙のような光が湧きあがった事。そして、俺達が近付いた瞬間に全ての水晶が白く光り気を失ってしまった事を。
シアンさんとブラックは真剣な顔で聞いてくれて、話が終わると納得したようにそれぞれ頷いた。
「なるほどね……やはり、あの鉱山で採掘されていたのは黒籠石だったと」
「断定できるんですか?」
「曜気を籠めたタダの水晶は、煙なんて出さないわ。それに……黒い煙のような光なんて異常な物を作り出せる鉱石が有るとしたら、黒籠石以外にありえない」
「同感。それに、ギアルギンは水晶をあの熊に持たせようとしたんだろう?」
ブラックの問いに頷くと、ブラックとシアンさんは顔を見合わせる。
何もかもに合点がいったとでも言いたげな顔で。
「ツカサ君。黒籠石はね、曜術や気を扱える者は触れる事が出来ないんだよ」
どういう事だ、と眉間に皺を寄せる俺に、ブラックが説明する。
黒籠石という鉱石は、一つの原石の時は殆ど人体に影響がない。それ故に石ころと思われがちで、その違和感を感知できる土の曜術師しか黒籠石を識別できない。
だが、黒籠石は原石であっても寄り集まれば危険だ。
何故なら、黒籠石は原石であっても僅かだがその力を発動しており、術師の力を利用して、逆に術師が纏う気や曜気を吸い取るから。
「気や曜術を扱う者はね、無意識に周囲の曜気や気を取り込んで、体内で循環しているの。だから、自分が触れる物から、己の属性の曜術を取り込む事が出来る。……それは、レベルの高い人間ほど当たり前で自然な事なのよ。だから、それを一気に吸われてしまえば、その人の命に係わる事にもなる」
ただ、その感覚はかなり微弱であり、黒籠石も「自身の生育に使う為」に取り込むので、溜め込んで【瘴気】が生じる事は無いのだそうな。
だからこそ、黒籠石は見つけにくく育ち難い。
本当に希少な鉱石なのだと言う。
シアンさんの説明に、俺は色々と納得する事が有って深く頷いた。
だから、リタリアさんもあんなに憔悴していたのか。
あの黒籠石のペンダントは、もしかしたらリタリアさんの体内を巡っている「木の曜気」も吸い取っていたのかも知れない。
そういや、俺の世界にも「人間は気を纏っている!」なんて話が有ったよな。
この世界の人間は、そういう「気」に属性が溶け込んでるんだろうか。
だとしたら黒籠石なんて危険すぎるわな……。
じゃあ、それが理由で獣人達を使ったって事も有るんじゃないか?
彼らは曜術を使えないから、黒籠石にあてられる事も無い。それに人間より力が強いし、怪我をしても自己治癒能力ですぐ直ってしまう。
鉱山で採掘させるなら打ってつけだ。
「じゃあ……クロウ達があの場所に連れて行かれた理由の一つは……」
「ええ。十中八九黒籠石を採掘するためでしょうね。黒籠石は、曜術も気の付加術も使用できない人間が採掘し、土の曜術師が土塊を選別するという方法が一番安全な方法ですから」
なるほど……いや、待てよ。
土の曜術師はどこに居たんだ?
っつーか、もしクロウの奴なんか土の曜術っぽいの使ってたよな?
土の曜術師だったら力を吸い取られちゃうんじゃないか?
「あの……クロウは、土の曜術師じゃないんですか……?」
問いかけると、シアンさんは少し困ったように首を傾げた。
「うーん……調べてみないと、イエスとは言えないわね。あの場所には土の曜術師はいなかったし、だとすると彼しか考えられないのだけど……でも、獣人が曜術を使えるだなんて聞いた事がないのよねぇ……」
「あの、それと……クロウや獣人達は……」
「それは心配しないで。私の部下がちゃんと保護しました。クラレットや兵士達も確保して、あとは裁判にかけるだけよ」
ああ、それは良かった……。
でもやっぱり何がどうなったかは解らない。
「申し訳ないんすけど、一から順に話してくれませんか。俺、まだ何が何だか」
「ええ、そのつもりよ。ごめんなさい、主題のせいで先走っちゃったわね」
改めて話しましょう、と湯呑を置いたシアンさんに、俺は姿勢を正した。
まず、俺が攫われて、鉱山の入り口をクロウが壊した後の事だ。
俺達が加工場の方へと飛んで行ってすぐ、殆ど入れ違いでシアンさん達が現場に到着していたらしい。その頃には獣人達が兵士の生け捕りを完了させており、ブラックもクラレットをボコって気絶させていた。
引き渡しはスムーズに行われ、その日の内に坑道に残っていたハイオン達も確保されたと言う。
その時、俺とロクは丁度ギアルギンに対抗しようとしていた。
色々と時間が無くてロクとの会話の中だけで完結してたけど、実は俺達はクロウに呼びかける前に、ブラックとスクリープ達に「ここにいる」とテレパシーで伝えて貰っていた。
驚くなかれ、これはロクの提案なのだ。
俺の賢く可愛いロクは、万が一の事も考えて「ロクがみんなにしらせる!」と言ってくれたのである。もちろん意訳なんで、実際喋ってはないんだけどね。
と言う訳で、ちょうど乱闘が落ち着いた時に、ロクのレスキュー要請はブラック達に届いた。
しかし俺達は要請したすぐあと、黒籠石からの謎の光の発生に巻き込まれ、気を失ってしまっていた。ブラック達が駆けつけた時には、壊れた加工場で俺とクロウが倒れている姿を見ただけだったと言う。
でも、その場にはギアルギンの姿はなく、黒籠石も無かった。
そんな訳で、ブラック達は俺らを救出し一旦その場を離れたらしい。
今は、シアンさんの部下が応援を呼んで詳しく調査しているんだとか。
それはいい。それはいいんだが、あの、ギアルギンが居ないって……。
「もしかして、黒籠石を持って逃げられたんじゃ……」
「そこからがね、本題なのよ」
テーブルに肘を付き、手を組み合わせるシアンさん。
いかにも「悩ましい問題がある」と言いたげなポーズに、俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
「結果から言います。黒籠石は全て砕けていました。ギアルギンは、黒籠石の奪取という目的を果たせずに逃走したと考えても良いでしょう。ですが、私達は未だに彼を発見できていません。……恐らく捕まえるのは無理でしょうね」
「……えっ……と……あの……」
黒籠石がすべて砕けたって……どういうこと?
信じられないと言わんばかりに顔を歪める俺に、相手も困惑したような顔で軽く肩を竦めた。
「解らない。あの場に駆け付けた時、ロク君だけが目を覚ましていたのだけど……ロク君の能力……テレバシー、だったかしら。その力で見せて貰った光景は、驚くべきものだったわ。貴方達が黒籠石に近付いた瞬間、水晶がいきなり光って割れたのよ。それからしばらくして、ギアルギンが先に目覚めて逃げて行った。黒籠石のせいで、彼もかなり体力を消耗していたようだったから……貴方達に構ってる暇は無かったんでしょうね」
なるほど、だからギアルギンは俺達に何もしなかったのか。
いちかばちかで水晶をぶちまけて良かった……俺のやった事もそこまで無駄じゃ無かったんだな。いや、本当アレが黒籠石でよかった。
「しかし……終わってみると呆気ないもんだね」
ブラックの納得のいかなさそうな声に、シアンさんは姿勢を崩して笑う。
「作戦なんてそんな物よ。どんな頭のいい計画でも敗走すれば『失策』と言われ、どんなバカげた案でも成功すれば『妙案』と言われる。今回成功したのは、間違いなくツカサ君とロク君……それにあなたのお蔭よ」
「…………」
「貴方達が居なければ、獣人達は動けなかったでしょう。例え私達があの場所を“先に探し出せていた”としても、ギアルギンの事や首輪の事がわからなかったら、色々と面倒な事になっていたでしょうしね……」
……ん? なんか今、ちょっと引っかかったような。
「先に探し出せていたら」って、普通、事情を認識していたって時に使うよな。何も知らない事件に首を突っ込んだ時に言う言葉じゃないよな?
ブラックもその事に気付いたのか、胡乱な目でシアンさんを見た。
「シアン、さてはお前……最初から何が起こるか知ってたんじゃないのか」
あ。そう言えば……シアンさんって予知能力があるって、言ってたような。
まさかなとは思いつつ、ぎこちなくシアンさんを見ると、相手はとっても綺麗で美人さんな笑顔でにっこりとほほ笑みつつ……
「貴方達も今日はさすがに疲れたでしょう? 詳しい話は明日……そうね、朝食を食べながらでも話し合いましょう。クラレット達から聞いた話も加えないと、貴方達には解りにくいと思うから。それで、療養所の事も鉱山の事も……全てが分かると思うわよ」
堂々と、そう言ってのけた。
そう「絶対こうなるだろうな~なんて思って、バカンスとは名ばかりの調査旅行を俺達にプレゼントしました」と。そりゃもう、はっきり肯定するかのように。
「…………もうやだ。もう絶対お前の提案には乗らない」
ブラックは、机に突っ伏して泣きそうな声を漏らす
いつもならブラックを窘める俺だったが……今回は頷かずにはいられなかった。
シアンさん、本当勘弁してください。
→
※一応次の話で島編終わりです。獣人の行方も引き続き次で。
が、黒籠石とクラレット達の話はまだちょっと尾を引きます。
ラッタディアで良い感じでHしつつ、してぃあどべんちゃ(笑)になる予定。
アラビアンな踊り子の衣装って…いいよね……(´・ω・`)
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