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パルティア島、表裏一体寸歩不離編
4.和風のお菓子と嫌な雑談1
しおりを挟む今回ばかりは、ちゃんとした台所で造った方が良いだろう。
という訳で、宿に帰ってきた俺は、宿の人に厨房を借りれないかと頼んでみた。もし借りれたら、火の始末とかが楽になるので助かると思ったのだ。
ダメもとでの頼みだったのだが、以外にも支配人の人は快くオッケーしてくれた。どうやらシアンさんの紹介というのが強い効力を発揮しているらしい。ううむ、これがコネの力って奴か……。
まあ貸してくれるって言うんなら遠慮なく使おう。
と言う訳で、ぴっかぴかのキッチンでいざお菓子作りスタート。
「えーと……まずはイモを蒸かさなきゃな」
今回俺が作るのは、婆ちゃんがサツマイモで作ってくれた芋団子だ。
俺がガキの頃によく作ってくれたんだけど、今でもサツマイモが収穫できる時期に行くとコレを出してくれる。婆ちゃん曰く、芋団子は親父の好物なんだそうな。
昔の人ってイモとかバナナ好きだよな。
そんなお菓子だけあって、芋団子は作り方がめちゃめちゃ簡単だ。
イモを蒸かして、柔らかくなったら潰して、そこに牛乳やらお好みで砂糖やバターを加えて練って丸める。そしたら出来上がりだ。
本当に団子にするなら粉とか必要だけども、俺にはこの世界の何の粉を使ったら団子が出来るかまだ把握できてないので今回はパス。
まあ、イモだけでも素朴な味で美味しいから何とかなるだろう。
「蒸し器……はやっぱないか。鍋とザルで作って……」
俺はまずシダレイモの皮を剥き適当にぶつ切りすると、大鍋とザルで造った簡易の蒸し器で芋を蒸した。以前綿兎の森で扱った時は、そこそこ弱火でも火が通っていたから、様子を見つつ取り上げる。
数分で蒸し上がったシダレイモは、串が簡単に通るくらい柔らかくなった。
焼くより蒸した方が熱が早く伝わるのか。変な植物だな本当。
「そんですり潰して……えーっと、ここにココナツミルク……じゃなかった、ハナヤシのジュースと砂糖を加えて……」
ハナヤシのジュースは甘さ控えめなので、少し多いかなと思う量の砂糖を投入。
ついでに蜂蜜も入れよう。これはブラックとロクの為のお菓子だしな。
混ざり具合と味をみつつ、団子に出来るぐらいの硬さを考えて混ぜ、俺は出来たタネを掌で丸めた。試しに一つ食べてみる。
「ふむ……やっぱサツマイモっぽくはならないけど……しっとりしてて柔くてこれはこれでウマいな。お茶かコーヒーが欲しい。焼いたのも一応作ってみるか」
軽く焼き目がつくまで鉄板の上で転がしてから食べてみると、表面は少し硬めになり、中が柔らかくなってさらに美味くなった。甘味も増したし、焼いた方が良いなコレは。試行錯誤してみた甲斐が有ったぜ!
「あのー……」
「ん? あ、料理長さん。すんません使わせて貰って」
「いやそれは良いんですが……その料理は一体なんなのですか……?」
いつのまにか厨房の外に居た若い料理長が、恐る恐る俺に近付いて来る。
その目は確かに俺の芋団子に向いていて、相手の言わんとする所を全て理解し俺は芋団子を差し出した。
「これは芋団子って言います。沢山あるんで、一つどうですか?」
そう言うと、料理長は一瞬戸惑ったものの、ゆっくりと芋団子に手を伸ばした。
暫くしげしげと眺めたり匂いを嗅いだりしていたが、やがて思い切ったように口に投げ込む。そうしてモグモグと咀嚼して、料理長は目を見開いた。
「う……うまっ……!? な、な、なんですかこれ! 私こんな甘くてホクホクで美味しい物初めて食べましたよ!?」
「あ、そっか……こっちはイモ食べない文化なんですよね」
「そうなんですよ! そうか……芋ってこんなに美味しい物だったんですね……! イモなんて野蛮な料理に使う物だと思っていましたが、こんなに上品な菓子にもなるとは知りませんでした……クグルギ様、貴方は凄い料理人ですね……!」
ええ……。ちょ、ちょっと、この程度の料理でそこまで褒められると逆に恥ずかしいんですが……。俺は婆ちゃんの芋団子に少しアレンジ加えただけだし、お菓子ならもっと凄い物がある。
でも、褒めたくなる気持ちは分かるだけに何も言えなかった。
この世界にはお菓子っぽい物って少ないし、貴族のパーティーでも甘い物と言えば砂糖がバリバリに使われただけのひっどい物しか無かった。
だから、芋団子が珍しいのは解る。わかるんだけどさ。
なんかこう、実際べた褒めされるとかなり居た堪れない……。
褒めるならチート小説みたいにすげー料理作ってからにして。
「えーと……その、まあ、蒸して丸めるだけなんで……」
「だけ、だなんてとんでもない! いやあ世界は広いと思い知らされますよ本当に……ああ、美味しい、手が止まらんっ」
ギャー! 全部食べないで料理長!!
でも厨房貸して貰ってる手前何も言えない!
とか焦っていたら、またもや背後からの視線を感じた。しかも今度は、大勢。
まさか……と思って振り返ると。
「や、やべえな……美味そうなんだが、あれ」
「手作り、手作りっすよ先輩! 可愛い子の手作り料理食えるんすよ!」
「バカ! 聞かれたら警戒されっだろ!」
「いいな~……手作りのお菓子いいなあ~……」
「ハァ、ハァ……え、エプロン……お、お、お料理……」
十人くらいの若い男の料理人達が、入り口の所で積み重なってこちらを見つめている光景がそこに有った。
ああ、お菓子。お菓子美味しいもんね。
さっきからイモの良い匂いしてたもんね。
だが最後の誰か、オメェ何考えてんだ。気持ちは分かるけど、エプロンハァハァするなら女子一択だろ。もうやだこの世界、変態と呼ばれてもいいから元の世界に帰して。男に掘られたり性的な目で見続けられるのよりナンボかマシです。
「おい煩いぞお前ら!」
「だってずるいっすもん、料理長ずるいんすもん!」
「そーだそーだ男の子の料理でしかも手作りとか!」
「奥さんに言いつけてやるー!!」
「そ、それは勘弁して! あのぉ、クグルギ様……申し訳ないのですが、もう少し分けて頂けないでしょうか?」
性的な目で見られないのならもうそれで良いっす。
結局今さっき作ったのは全部料理人達の腹に入る事になり、俺は改めて芋団子を作らなければならなくなってしまった。
まあ、出来たてって訳じゃなかったし、いいか。
ブラック達には温かいのを持って行ってやりたかったしな。
料理人達は競うように俺の芋団子を貪っていたが、やがて満足したのか礼を言うと蜘蛛の子を散らすようにささっと消えてしまった。
料理長曰く、俺と顔を合わせると照れるからだろうの事だったけど、俺としては意識される方が逆に怖いのでやめて頂きたい。
「それにしても、芋団子本当に美味しかったです……珍しい物を食べさせて頂き、本当にありがとうございました」
「いえ……こっちこそ、美味しいって言って貰えて良かったですよ。ハハハ……。お茶とかあれば、もっと良かったんすけどね~」
「お茶、ですか……ちょっとお待ちを」
料理長がなにやら思いついたのか、棚をごそごそしている。
何を見せてくれるのだろうかと思っていたら、俺にやけに綺麗な小さい木の箱を取り出して中を見せてくれた。中には、急須と細かく刻まれた何かが入っている。
その匂いを嗅いで……俺は目を見開いた。
「これ、緑茶だ!!」
お茶っぽいものなんてラスターの家でしか飲んだ事ない。だけどこれは、完全に俺の世界と同じお茶の香りがした。
急須だって、婆ちゃんが使ってたものと完全に一緒だ。
「ヒノワという国ではリョクチャと言うらしいですね。世界的には、グリーンティと言っております。茶の木はヒノワでしか育たないので、他の国ではこの緑茶は途轍もない高級品なのです。ですが、素晴らしいお菓子を教えて頂いたので……お礼としてこれを持って行って下さい」
「えええちょ、そ、そんな」
そんな前置きされて素直に貰えるわけないじゃん!
慌てて手を振るが、しかし料理長は強引に俺に木の箱を持たせてしまう。
「ご心配なく、貴族のお客様用に沢山備蓄しておりますので」
「そ……そうなんですか?」
「ええ、だから遠慮なく持って行って下さい。そのお菓子はお茶があれば更に良いのでしょう? だったら、クグルギ様のお連れ様に出してあげてください。お連れ様のために、一生懸命そのお菓子をお作りになったんですから」
「う……そ、それは……」
そうだけど。そうではあるんだけど。
しかし、そう言われるとなんかこう……納得いかないっていうか。
「さ、もうすぐ夕食を作らねばなりませんのでお早く」
料理長にそう言われると今更突き返す事も出来ず、俺はそのお茶セットと芋団子を持って厨房を追い出されてしまった。い、いいのかなあ……芋団子作っただけでこんな高価なモン貰ったりして……。
急須はどう見てもお茶専用っぽかったし、緑茶もこの世界では高価ってことは……金貨二十枚くらいは必要だったりして……うわ、考えたくない。
ま、まあいい、貰ったもんは大切にしよう!
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