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パルティア島、表裏一体寸歩不離編
3.島の名物とおひとり散歩
しおりを挟むと、言う訳で。
昼食後、俺は早速パルティア島の台所たる港の市場にやって来たのだが。
「うーん……そもそもお菓子って何作りゃいいかな」
軽く言ってみたは良いものの、この世界の材料で作れる俺の世界のお菓子って何が有るんだろう。果実は基本生食、味付けはおおざっぱ……というこの世界では、バニラエッセンスなんて物が有るとは思えない。
市場の露店にもやっぱりお菓子作りの材料は無く、俺は困ってしまった。
果物なあ……。別に美味いって訳じゃないけど……。
「いや、シュクルの実は美味かったな。でも……あれだって、そこらへんに普通に生えてる木じゃ無いみたいだし」
白くて丸いシュクルの実は、綿菓子のような甘い味がした。口当たりも軽くて、果物だと言われなければ少し固めたわたあめにしか思えないくらい美味しい。
今も非常食として種とかを大事に取ってるけど……ココで生やすのは環境破壊っぽくてちょっと。俺まだ枯らす術の方は覚えてないんすよ。
「どっかに何かないか……おっ?」
しばらく歩いていると、道沿いになにやらのぼりが立っているのが見えた。
人が集まっているので何の店だろうと見てみると、そののぼりには『パルティア名物・ゆだりみずたま』と書かれていた。
茹だり……水玉?
実物が想像出来ない名前だが、人が集まってるって事は美味しいかも知れない。
「おばちゃん、ゆだりみずたま一つ下さいな」
「あいよ、ひと箱銅貨五十枚ね!」
うげっ、一般人の一日の食費の半分って……高過ぎだろ!
いやでも観光地だし人気あるし、それくらい普通か。
大人しくお金を払うと、おばちゃんは箱状に組んだ葉っぱを手渡してくれた。
熱いから気を付けて、との事だったが、暑い国で熱い物って中々シビアだな。
「ゆだりみずたま……ってこれ……もしかして、ゼリー?」
箱の中には、小さくて丸い透明な物体が並べられていた。
“みずたま”ってゼリーの事だったのか。
木製の小さなフォークで刺して食べてみると、食感は少しもっちりとしていて、ゼリーというよりかはわらびもちに近い感じに思えた。
ソースは粗く潰して砂糖を加えた野苺を使ってるな。砂糖を沢山いれたからか、酸っぱさをそんなに感じない。結構うまいや。
「でもなんで茹だり? 冷たくして出せば滅茶苦茶うまいのに」
店員さんに訊いてみると、この「みずたま」は冷やすと溶けてしまう性質らしく、その為「みずたま」にするには茹でるしかないのだと言う答えが返ってきた。
ゼリーっぽいから動物のゼラチン質から作ったのかと思ったけど、「みずたま」は植物由来のものなんだって。
じゃあゼリーみたいにならないよなあ。
しかし、この名物はうまい。
何か役立つかもしれないし、一応原料の植物はチェックしておこう。
にしても……ほんとこの世界には不思議な食い物が沢山あるよな。冷えたら溶けちゃうから持って帰れないが、ロクやブラックにも食べさせてやりたい。
一人で食べちゃって悪いとは思うが、お菓子を作るヒントを探す為だ。
許してくれよな。
「ふぅ……しかし、なんかわらびもち思い出しちゃったなあ……。食べたいけど、ココにはきな粉もないもんなあ……せめて団子とか……そっか、団子もいいな」
スイーツ、とか言っておきながら和風だけど、俺はお菓子作りは初心者なんだし丁度いいんじゃなかろうか。
和風ならいけるぞ。俺は婆ちゃんと団子を作ったりしたからな!
クッキーとかだとバターやら牛乳の代わりを見つけなきゃいけないし、今まで旅をして来て俺はそんな素晴らしいモンを見つけた覚えはない。ここは簡単にできるお菓子で手を打っておこう。しかし、その為には材料を探さねば。
ここで探すのは、俺が以前使った事のある「シダレイモ」というイモだ。
そう、木の枝から直接根っこが生えてる、あの長芋に似た変なイモ。あれは味が里芋に近くて適度に柔らかかった。それに俺の世界の食物と似た物なら、使わない手はない。
「あとはー……えーと、そうそうハナヤシの実と砂糖! それは市場に有ったし、後はイモさえあれば完璧だ!」
ハナヤシの汁はココナツジュースに似てたし、この世界でも砂糖は砂糖。
何とか出来る気がして来たぞ!
やる気満々になった俺は、早速市場に戻って最重要なイモを探してみた。
数々居並ぶ店を、勢いに任せてざっと見てみる。
……が、残念ながらそれらしいものは見つからなかった。まあ解ってはいたが。
シダレイモを見るまでは、イモなんて見た事も無かったもんな。
それでも諦めきれず市場のおっちゃんにイモは無いかと聞いてみると、次のような答えが返ってきた。
「イモか……北の方では食ってるって話だが、俺達は食わねぇなあ。ああ、でも、保護区の周辺で前に気持ち悪い根っこの木は見つけた事あるぜ。あれがシダレイモってんだな。保護区の手前だし、採取出来るんじゃねえかな」
あるんかい! じゃあ行くわ!
まあ地域柄食べないなら放置されてるもんだよね。
まだ日も高いし、保護区のある森は街からすぐだったので、俺は早速行ってみることにした。元々薬草の材料も欲しかったし、まあこれも一種の買い物だろう。
街外れまで人力車で移動し、俺は周囲を気にしながら森に入った。
「保護区……って言っても、森全体が保護されてる訳じゃないんだな、やっぱり。よっしゃ、じゃあいっちょ探してみっか!」
森の木々はやっぱり南国風で、野生のハナヤシの木や広い葉を茂らせた南国植物が沢山自生している。一応携帯百科事典で調べてみたが、どれも保護されるほどには珍しくない植物で、採取しても問題はなさそうだった。
にしてもやっぱ土地が変わると森も変わるなあ。
ジャングルっぽくてちょっと楽しい。
「おっとモギ発見! ロエル発見! ここにもやっぱり生えてるもんなんだな~。回復薬がはかどるはかどる……っと。おお! あったシダレイモ!!」
おっちゃんの言うとおりだったぜ、ありがとうオッチャン!
早速近付いて、枝から何本かボキボキ折らせて頂く。でも、今日使う量だけな。俺はアイテムボックスは持ってないから腐らせちまうし、何よりも大事なのは取り過ぎない事だ。
自然の恵みに感謝しつつ、ロエルやイモはそれぞれ空いているスクナビ・ナッツに入れた。モギやハナヤシの実でウェストバッグがパンパンだったから、圧縮収納できるアイテムは本当助かる。
ナッツがなければ背中に背負ってかなきゃならなかっただろう。
沢山採取したし、今日はこの位にしておくか。
そう思って、ふと前方を見ると――何やら遠くの方にロープが見えた。
あれがもしかして保護区って奴かな?
「…………どんな植物があるんだろう?」
見るくらいなら、いいよな。怒られないよな。
監視員とかも居ないみたいだし、ロープを越えなけりゃいいだろう。
そろそろとロープが張られている場所まで近付く。等間隔に打たれた木の杭の間を太いロープが通っていて、俺が近付いた場所には看板が立っていた。
「ふむふむ、希少植物保護区につき、関係者以外立ち入り禁止……。まあそらそうだよな。でも……それっぽい植物はないな」
そう言えば、保護区って言ってもその線引きってどうしてるんだろ。
保護区の外に生えてるなら希少植物も採取していい……って訳じゃないだろうが、森全体を保護してないのってなんかヘンだよな。地元の人の生活も考えてそうしてるんだろうか。って言うかそもそも、誰が保護区に認定してるんだ、これ。
気になって看板の下の方をみやると。
「……えーと……パルティア島議会と、リュビー財団……って、連名?」
この世界にも財団とかあるんだ。なんか近代チックだな。
何の思惑が有ってかは判らないけど、パルティアの人にこのリュビー財団ってのが協力してるんだろうか。ライクネスじゃ聞いた事ないけど、ハーモニック限定の有名企業とか?
財団が協力してるんなら、珍しい植物観察ツアーとかやってないかなー。
「あ、そうだそうだ、ガイド本を買おうと思ってたんだ! 見学ツアーがないか後で確かめてみようっと」
折角のバカンスなんだし、ちったあそれらしい事もしないとな!
ブラックはつまらないと言うだろうけど無視無視。
さて、素材が新鮮なうちに街に帰って買い物するか。
と、俺が踵を返したと同時。
「……?」
ガサリ、と遠くの方で音がして、俺は思わず振り返った。
「…………あれ?」
ロープの向こう。保護区とされている場所に、なにか人影が見えた。
いや、影じゃない。はっきりと人が見える。
じっと見つめてみると、それは大柄でブラックと同じ位背の高い男だと言う事が判った。密集した木々に遮られて服装までは解らないが、紫がかった黒に近い青髪と、浅黒い肌は木漏れ日に照らされてはっきりと視認できる。
「作業員とか、監視員かな」
それにしては、肩口まで伸ばしたボサボサの髪はおかしいけどな。
なんか、森で暮らしてる野人みたいだ。と、思ってたら、相手は俺に気付く事も無くふらふらとまた森の奥へ入って行ってしまった。
……本当に監視員かな。
あれってもしかして、通報した方が良かった系?
でも、手ぶらだったし……泥棒だったらもっとコソコソしてるよな。
色々考えたけど、結局見て見ぬふりをする事にした。
警備隊に知らせてたら帰るのが遅くなるし、ブラックに心配させちまうもんな。あのふらふらした様子なら監視員に捕まるだろう。つーか面倒事はごめんだ。
遅く帰ったら何されるか解らないし、この島では絶対そう言うの嫌だからな。
俺はバカンス楽しみたい。休息がしたいんだ。
と言う訳で無視! 無視決定!
「さて、早いうちに帰らないとな。回復薬も作りたいし、やる事は色々あるぞ」
ロクやブラックの様子も気になるし、変な事考えてないで早く帰ろう。
気にはなったが、考えても仕方ないと自分を制して、俺は街へと戻った。
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