異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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首都ラッタディア、変人達のから騒ぎ編

8.古代遺跡・地下水道―1日目・食事―

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※ダンジョン探索するってかただのお食事回になってしもた…(´・ω・`)


 
 
 一日目は歩き通しだったものの、それほどの危険もなく終える事が出来た。
 モンスターが出るかもしれないとブラックに脅しをかけられたけど、思った以上に序盤の地下水道は安全だったようで、セインさんも鼻歌交じりにコータスさんの隣を歩いている。

 聞くところによると、この辺りは数えきれないほど沢山の学者が調べた場所とのことで、人の出入りが頻繁すぎてモンスターも近寄らないのだそうな。
 「まあ、人が頻繁に出入りするって事は、それだけ発見し尽くされた場所って事だね」とコータスさんが残念そうに言っていたが、戦闘が無いのは俺としてはありがたい。わりと用心して道具は多めに持ってきたけど、使う必要はなさそうだ。
 今のところは……だけど。

 そんなこんなで俺達はどんどんと地下水路を進んで行った。
 通路を照らす明かりを頼りに右へ左へと曲がり、幾つもの交差路を抜け、時には通路が割れて崩れた場所を越え進む。
 通路が崩れてる場所には武器の傷の痕なんかが有って、ああやっぱりモンスターが潜んでるんだなと俺は暗澹たる気持ちになった。
 綺麗な通路の先にいきなり崩壊した場所が有るから、おかしいと思ったんだ。

 でも、戦闘の痕がほとんど残ってないって事は、モンスターは実際少ないのかも。うん、ならば低レベルな俺でもなんとかなるかも知れない。
 でも怖いからいつでも雑草の種を掴む準備はしておこう。

 俺は木の曜術が使えるので、植物さえあれば【グロウ】で思い通りの形に植物を成長させる事が出来る。なので、キチンとしたイメージを固めて術を使えば、大抵の草で弓矢を作れるのだ。

 木の曜術師ってのは完全インドア派で、冒険者になる奴は稀な上に冒険者になっても後方支援でパっとしないらしい。でも、曜術と武器をうまく両立出来れば、俺だって戦える。伊達に地味な術を練習したりロバーウルフ退治で経験値積んできた訳じゃないんだ。

 水の術も……水路がすぐそばに在るし、すぐ使える程度にはマスターしてる。
 だから、怖いけど戦えるのだ。俺はライクネスにいた頃の俺じゃないぞ!
 ……正直、下水に触れるのは抵抗があるから水の曜術は使いたくないが。

「ああ、見えてきましたよ。あれが休憩所です。もう日も落ちている頃でしょうし、今日はあそこで食事にしましょう」
「ほお……あれが……」

 前方をみやると、殊更明るい空間が見えてくる。
 そこは円形の広場で、驚く事にそこの天井は明々と光り輝いていた。
 天井の明かりは太陽の光みたいで、地下だと言う事を忘れてしまいそうになる。
 それに、休憩所の広場には不思議な事に色んな植物が生えていて、まるでそこだけが小さな庭のようだった。

「あ……こっから道が分かれてるんですね」

 広場に足を踏み入れると、広場の周囲を迂回して流れる水路の向こうに壁が見えた。そこには、幾つかのぽっかりと空いた通路が造られている。
 どうやら、休憩所っていうのは水路の交差点でもあるらしい。

「休憩所は、最も多くの水路が交差する地点に作られてるんだ。ここで人が休んでいたのか、それとも水の流れを監視していたのかはまだ解明されていないけど……でも、こんな綺麗な所で水を眺める仕事をするっていうのは気分が良さそうだ」

 確かに、広場には公園の水飲み場みたいな形の噴水があるし、煮炊きしてた様子のある煉瓦が剥き出しのスペースも残っている。
 俺達は一か所しかない狭い石橋を渡り、広場へたどり着くと荷物を降ろした。
 畳にして十二畳くらいかな。旅館の大人数部屋レベルの広さだ。

「今日のメシは俺が作るぜ」

 フェイさんが自分の荷物袋を探りながら言う言葉に、セインさんやエリーさんは笑顔で頷いている。それでいいかと俺達も聞かれたので、素直に頷いておいた。
 他の冒険者の作るメシって実は初めて食べるんだよな。

 ブラックは俺に任せてばっかだし、他では街での食事しかした事がない。
 冒険者ってのは、基本的に携帯食で食事を済ませてるみたいだったから、冒険者メシってのにはありつけてなかった。
 でも、フェイさんが作ってくれるとなれば期待は高まる。

「フェイさん、俺手伝う事ない?」
「おっ、ありがてえ頼むぜ。先生がたや俺んとこの奴らは、ちっとも手伝ってくれねーからな。お前いい嫁さんになるぜ」
「嫁にはなりたくないけど、冒険者メシってのが気になるんで」

 後ろでなんか黒いオーラだしてるブラックに聞こえるように、そりゃもう大きく返答する。はいはい、この世界は男同士で結婚オッケーな世界ですからね。
 もう慣れましたよ。俺は絶対願い下げだけど。

 やっぱり花嫁は幼な妻。いや、美しいお姉さまでもいい。とにかく女だ。
 純白のドレスは女性にこそふさわしい。

 まあそれは置いといて。
 俺とフェイさんは煮炊き用の場所に来ると、固形燃料を設置した。
 これに火打石で火をつけると、火力は弱いがそこそこ安定した炎が出る。

「あー、しまった。ここには木がねぇんだ。薪がねえと火力がないな」
「木か……」

 雑草の種に混ざってないかな。
 ごそごそと探すと、雑多な種の中に木の実から取り出したような大きい種が見えた。これなら育つだろうか。邪魔にならない程度の場所に移動して、俺はその種にグロウをかけた。

「えーと……おーきくなあれ、おーきくなあれ。っと……【グロウ】!」

 頭の中で某隣のナントカの映画のワンシーンのように伸びあがる樹木をイメージしつつ、俺は跪いた。そうして周囲の植物の曜気を取り込みながら、手の中で種に曜気を籠める。すると。

「おっと」

 手の中で力強く指を押し返す感触がして、俺は慌てて種を地面に落とした。
 その刹那、種が割れて芽が伸び勢いよく木が成長していく。あっと言う間もなく木は立派な幹を成し、広場の端にしっかりと根付いてしまった。
 それどころか、その木には白くて丸い実のようなものがなっている。

「う、うわー……やりすぎた」
「坊主、お前凄いな……しかもこれシュクルの実じゃねーか」
「シュクルの実?」
「別名砂糖の実だ。生で食えるからいいおやつになるぜ」
「マジっすか」
「シュクルの木の質は燃料としても最適だぜ。いやしかし……木の曜術師ってのは凄いもんだな。一気に植物を成長させちまうんだから」

 そうなのかな。てか、前やった時はこんな急に成長しなかったはずなんだが……もしかして、俺ってば木の曜術もスキルアップしてるのかな。
 実は技術レベルカンスト目の前だったりして?
 凄く気になる。ステータスが有れば解るのにー! めっちゃ歯がゆい!

「よし、んじゃ料理を作るぞ」

 フェイさんがそう言って取り出したのは、なんとハム。
 ヒポカムの肉じゃなくて、カムタートルというモンスターの肉を使ったもので、この肉は熱すると柔らかくなる不思議な性質を持ってるらしい。
 ただ、カムタートルは冒険者じゃないと倒せないので、保存食として流通する事は無いんだとか。

「カムタートルのハムは、軽くあぶって少し柔くしてから切る。表面は木の幹みてーだけど、中は淡い桃色で綺麗だろ。この色が残る程度の火力に抑えとかねーと、カムタートルの肉は溶けちまうんだ」

 そう言いつつ、フェイさんは人数分に切った分厚いハムに塩胡椒を軽く擦り込んだ。胡椒は粒胡椒で、俺が持っている粉タイプとは違う。
 もしかして自分で採取したんだろうか。
 じっと観察する俺にフェイさんは得意げな顔で、少しハムを切り取った。

 その欠片を、平たい板のようなフライパンに落とす。
 何をするのかと疑問符を浮かべた俺に構わず、フェイさんはフライパンを思いきり焚火の中に突っ込んだ。すると、ジュワっという音がしてはじける音が続く。
 炎の中からフライパンを引き出すと、肉は溶けてなくなっていた。
 代わりに、香ばしい油の匂いが鼻に伝わってくる。

「なるほど、油がわりにしたんですね」
「おう。油なんて食う以外じゃ荷物になるだけだからな。どっかの国には油が出てくる便利な実が有るって言うが……まあ、カムタートルのハムがありゃ事足りる。ここにさっきのハムステーキを乗せて焼くんだ。モギみてーな香草とか、付け合せがあれば飽きなくていいんだが……」
「あ、俺タマグサとかリモナの実持ってますよ」

 使わないかもしれないがと思って持ってきた野菜が役に立った。
 フェイさんの前に差し出すと、相手は心底嬉しそうな顔をして俺の頭をぽんぽんと叩いた。

「でかした! いやー本当お前さん気が利くな……曜術師としての腕も申し分なさそうだし、俺の所のパーティーに勧誘したいくれえだよ」

 うーん、嬉しい事を言ってくれる。
 ってか、健全な兄貴肌キャラは初めて出会ったかも。今まで出会った冒険者ってセクハラしてくる奴ばっかりだったもんな……。

 顔はちょっと怖いけど、フェイさんとは仲良くなれそうだ。
 なんてことを考えていると、後ろから俺に何かが抱き着いてきた。
 うげっ、重いっ。

「ツカサ君、誰のパーティーに入るって?」
「だーもーお前は一々煩い! 社交辞令を真に受けんな!!」
「は、ハハ……おっと、もう出来上がる。先生、人数分の皿下さい!」

 そうして出来上がった冒険者メシは、俺が想像していたものよりももっとずっと美味そうな食事になった。なんたってハムステーキだ。今の俺にとってはかなりのごちそうと言える。
 にしても……この世界の冒険者って、実は結構美味しい物食べてるんだな。

 皿の上に肉の油と一緒に乗せられる、こんがりと焼けたハムステーキ。
 こんなものを見せられて、冒険者メシを嗤える人はどこにも居まい。

 桃色の肉に適度な焼き目が付くと、こんなに食欲がそそられるんだと驚くばかりだ。食べてみると、柔らかいハムは二三度噛むだけでほろりと溶け、後には旨味の油が残るばかり。粒胡椒と塩が優しく濃厚な旨味の良いアクセントになっていて、これで醤油でもあればご飯が何杯でも進みそうだった。

「焼いたリモナの輪切りと一緒に食うと、また違う美味しさがあるね」
「タマグサも脂っこいハムの付け合せとして申し分ないわ。ツカサちゃん、あんたお手柄だね!」

 ゆっくり味わうコータスさんに、親指を立てて褒めてくれるエリーさん。
 セインさんは既に何度もおかわりをしていて、みんな喜んでいるようだった。
 ブラックも不承不承と言った様子だがぺろりと二杯平らげている。
 おいお前ら食い過ぎだろ。まあいいけどさ!

「キュー」
「ん? どした?」

 ロクが口をもごもごさせながら、肩から降りる。
 何事かと思ったら、マグナの方へと近寄って行った。なんだろうと見てみると、マグナはあまり食が進んでいないようで、肉を半分ほど残していた。
 軽く焼いたリモナとタマグサだけはしっかり食べてるけど……なんだろ。
 実は肉が嫌いって訳でもなさそうだが。

「なんだ、お前」
「キュー」
「……これか。欲しいならやる」

 肉だけが残った皿を、惜しげもなくロクの頭に乗せるマグナ。
 くっ……クール野郎め……。
 一瞬イラッとしたが、ロクが嬉しそうに戻ってきたので睨むに睨めない。ぐううイケメン有罪だけどロクに分けてくれたのはありがとう! お礼言いますね!

「あ、あのマグナ……さん。……ロクに分けてくれて、ありがとう」

 恐る恐る、言うが。

「付け合せが少ない」

 それだけ言うと、マグナは水飲み場の方へすたすた歩いて行ってしまった。
 んで、水を飲んだ後にシュクルの実を何個かとってむしゃむしゃ食べ始める。
 ほーう。そう来るか銀髪イケメン。肉よりも果物ってか。お前は妖精気取りか、ぶっとばすぞコラ。フェイさんが一生懸命作ってくれたってのに。

「つ、ツカサ君抑えて抑えて」
「だってブラック! あいつ料理人に対しての誠意がっ」
「キュッ、キューキュー!」
「ほらほら、ロクショウ君だってなだめてるんだから、ね!」

 ぐうううう。ロクにまで宥められてたら抑えない訳にはいかないけども。
 畜生、あいつとは仲良くなれる気がしねぇ。
 なんて俺が歯をぎりぎり噛み締めていると。

「ほら、ツカサ君。これ美味しいよ」

 ブラックが人懐っこい笑みで真っ白な丸い実を差し出してきた。

「シュクルの実……」
「ツカサ君が作った物は、何でも美味しくなるんだね。シュクルの実だって、普通グロウを掛けただけじゃこんな風に美味しく育たないんだよ」
「そう、なの?」
「うん。だからね、嬉しいよ。僕の教えた術をこんなに使いこなしてくれて。……でもね、今度は僕……ツカサ君のご飯が食べたいな」

 師匠としての喜びに、またもや邪な望みが混ざっている。
 このおっさん、隙あらばすぐこんな事を言って来るなと思いつつも怒れない。
 ブラックが俺を喜ばせようとしてるのが嫌でも判るんだもんな。
 このオッサンにまで励まされてたら世話ねーや、と俺は溜息を吐いた。

 そうだな、イケメンや自己中男は嫌いだけど、これから何日も一緒なんだ。
 怒るよりも慣れる事にしよう。俺はブラックからデザートを受け取ると、素直に礼を言った。

「ありがとな、ブラック」
「うん」

 だらしない顔でにっこりと笑うブラックを見て、何だか心が軽くなったような気がしたのは……気のせいだと思いたい。










 
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