異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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アコール卿国、波瀾万丈人助け編

11.この世界のオッサンは8割変人なのだろうか

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 ギルドの奥にある応接室に通された俺達は、サニアさんが震える手で持ってきてくれた白湯を飲みつつ話を聞く事にした。
 いつの間にかサニアさんの隣にいかついおっちゃんが居たけど、俺の目にはサニアさんしか見えていなかったのでいつやって来たかは不明。
 多分この感じだとギルドマスターとかだろうな。お約束展開だと大抵厳つい中年男はギルマスだからな。

「で、ツカサ君に個人依頼をしたい人っていうのは?」
「あ、あ、あの……そ、そ、それが……」
「サニアお前は喋るな、らちが明かねえ。……依頼主は、このセーナスで大規模な商会を営んでいるタナク・ガトーという人物だ」
「田中加藤さん?」

 そりゃまたエキゾチックジャパンなお名前で。

「ちがーう、タナク・ガトーだ! 坊主おめぇガトー商会知らねえのか!」

 す、すみません不勉強なものでして。
 厳ついオッサンのツッコミに思わず萎縮してしまったが、相手は俺達が旅人であるのを思い出したのか、頭を掻いてすまんと謝った。
 と言う事は、ガトー商会はアコール卿国限定で有名な会社なのね。
 把握しましたと頷き、俺は話を続けるように促した。

「で、そのガトー商会の会長さんがなんで木の曜術師を探してたんです?」
「それがなあ……俺達も良くは知らんのだが、娘の為にある物の探索を一緒にして欲しいとかなんとか……」
「探索って……いったいどこを」

 娘の為にってのもナゾだけど、どこに付いて来いと言うのか。
 首を傾げる俺とブラックに、厳ついオッサンは困ったような顔で肩を竦める。

「そりゃ俺にも解らねえ。だが、場所はそう遠くないらしい。一日ありゃ行けるんだと。けど、付いて来る人間はどうしても木の曜術師じゃないと駄目らしくてなあ……報酬ははずむというし、そう難しい事でもないそうだから……とりあえず、話だけでも聞きに行ってくれないか?」
「話って……いや、その依頼、危険はないんですか」

 そこが重要なんだが。後から「危険だよ!」とか言われても困るぞ。
 俺が訊くと、ギルマスは腕を組んでうーむと唸ったが。

「恐らく?」
「恐らくってなんですか」
「熟練の術師とか言わなかったから、初心者のお前さんでも大丈夫だろう。別属性とは言え、隣に熟練したお連れさんがいるし戦闘は恐らく大丈夫」
「恐らくってなんですかああああ」

 人の話聞け!!
 この世界のオッサンの耳にはノイズキャンセラー機能でも付いてんのかこら!
 ちょっとおい勝手に話終えるな、俺を引き摺るなあ!

「どこ連れて行くんじゃいコラァ!」
「ガトー商会まで連れて行ってやるよ、お前ら来たばっかで場所分かんねーだろ。おお俺ってば優しい男」
「がっちり捕まえて引き摺ってんのにどこが優しいんだよ! ブラック助けろ!」
「楽にお金が入るならまあいいんじゃないかなあ」
「話が分かるねあんちゃん。持ちつ持たれつで行こうぜ~」
「おーまーえーらー」

 なんでそこ意気投合してんの。なんですんなりついて来てるのブラック!

「シャーッ!」
「お、何だこの蛇。イテテ、兄ちゃん珍しいもん飼ってるなー」
「シャッ……キ、キュゥウ~……」

 泣くなロク、ありがとう、ありがとうな。俺の味方はお前だけだ。
 弱毒でも良いんだよ、ダメージゼロなのはきっとこのオッサンがギルマスだからだ。めっちゃ強いからなんだよ。あれ、じゃあ俺結局逃げられなくね?
 ギルマスに捕まったらどうしようもないってか……おかしいな、良くあるネット小説だったら俺の方がギルマスを圧倒してる展開なんだけどな。
 まさか首根っこひっつかまれてドナドナされるとは……。

「うわっ、俺のレベル低すぎ……?」
「何言ってんだ兄ちゃん、俺でも見破れねぇ程度には能力が強ぇえのによ」
「はい?」

 何言ってんだろ。能力が強いって、日の曜術師だからかな?
 まあ俺みたいなガキがそんな珍しいジョブってのは見破れないだろうけどね。
 うーん、やっぱ俺、体も鍛えないとだめだよな。引き摺られっぱなしはちょっとヤバいぞ。俺この世界で何回引き摺られてんだよ。
 そんな事を悶々と考える間にも、俺はガトー商会へと連れて行かれるのだった。







 で、結局俺がどうなったかと言うと。

「さーぁ、それではガトー探検隊出発いたしますよ~! 怪奇極まる森に挑む我々の目の前には、如何なる驚愕が現れるのか! いざ行かんガトー探検隊!!」

 先がくるんと曲がったお髭のナイスガイが、ゴツい甲冑をガシャガシャと言わせつつ勢いよく剣を上げる。
 その光景を見てわあわあ言ってる御付きの人達を見ながら、俺はもうどうしたらいいのか解らず両手で顔を覆うしかなかった。

「うぅっ、うっ……こんなテレビの企画みたいな依頼いやでござるぅ」
「ツカサ君、泣かないで。これが終わったら金貨百枚だよ」

 ブラックが横で俺の肩を抱くが、殺意しか湧いてこない。てめこのやろ、さっき助けなかったくせして変わり身早過ぎんだよこのー。
 俺の気持ちを察してか、ロクが容赦なくブラックの手を噛んでくれるが、最近めっきり面の皮も手の皮も厚くなったのか、ブラックはびくともしない。
 本当ごめんなロク、オッサンの手噛むより美味しい干し肉噛もうな。

「それより本当大丈夫かな、僕達とガトーさん一行だけで【腐食の森】に行くって……モンスターもいるだろうにね」

 ブラックが目の前のバカ騒ぎを見つつ、呆れたように言う。
 そう、そうなのだ。俺が泣いていたのもそのせい。

 このテンションがおかしい甲冑おじさん……ガトーさんの依頼が、あまりにも身の丈に合わなさ過ぎるうえ、依頼主がこんな調子なもんだから、もうどう反応していいか解らず俺は泣くしかなかったのだ。

 だって、会って数分でこんな事になるなんて予測できるか?
 ガトー商会に引き摺られて行って、くるんと曲がったカイゼル髭が特徴のガトーさんとご対面したまでは良かったさ。まだ冷静で居られたさ。
 だって、商会の屋敷ではガトーさんは紳士然としていたんだ。
 加えて、ガトーさんが「初心者の俺でも大丈夫」というので安心してしまったのが運の尽き。

 あれよあれよと言う間に依頼を受ける方向に持っていかれ、ガトーさんが甲冑を着て興奮し始めて、そのまま街の外まで連れ出されて。
 そこで初めて依頼の内容を聞いたのだから、事後承諾も甚だしい。

 断ろうと思ったって、これじゃ無理だ。
 例えそれが「モンスターが徘徊する【腐食の森】にガトーさんと一緒に向かい、森の最深部に咲いている【ティタンリリー】を入手する」……とかいう初心者には難しすぎる依頼でも、受けない訳には行かなかった。

 って言うかお願いだから依頼内容は行動する前に言って。
 人間出来る事と出来ない事ってあるでしょーが。

「さて、それでは参りましょうか。ツカサさん、ブラックさん」

 荷物を背負ってる従者三人を後ろに控えさせ、ガトーさんはガシャガシャ音を立てながら俺達に向き直る。うーんその意気や良し。
 でも本当勘弁してください。ブラックはともかく俺は護衛とか無理だって。

「ツカサ君、しょうがないよ。ここまで来たら受けるしかない。……街の有力者に睨まれたら色々面倒だし……すぐに街から追い出される可能性もある」
「何だよソレ、結局俺達には断る選択肢が無かったってこと?」
「まあそういう事だね。でも大丈夫、戦闘は僕がやるから」

 そりゃ、ブラックだったら何とかなるだろうけど……一般人四人と足手まといの俺一人って、幾らブラックが強くても大変じゃないのか。
 あーあ……本当憂鬱な依頼引き受けさせられちゃったな……。
 本当この世界の金持ちってロクな奴がいねえ。

「ツカサさん、ブラックさん、どうしましたかな。参りますよ」
「あ、は、はい」

 俺達の返事を聞くと、ガトーさんはガシャリと大きく頷いて待機させていた馬車に乗り込む。明らかに自信満々な相手に不安を抱きつつ、俺達も彼に続いた。
 行先は南東の方角。連なる山脈の真下にある深く覆い茂った怖い森だ。

 馬車で行けば片道一日程度で行ける森だが、人気は無い。
 ガトーさんの言う事にゃ、腐食の森は名前が恐ろしげなせいもあるが、目ぼしい発見もなく小遣い稼ぎができる要素もないので、誰も近寄らないらしい。
 まあ【腐食の森】って名前だもんね。いいもの有りそうには無いよね。
 モンスターもいるんだから、気軽に花摘みって訳にも行かないし。

 でも、そんな所に木の曜術師を連れて行きたいって、一体どういう事なんだろ。こうなりゃもう覚悟を決めるっきゃないと思い、俺は大きく深呼吸すると、気合を入れてガトーさんに向き直った。

「あのー……ガトーさん、その腐食の森で俺は何をやればいいんですか」
「おお、それを話すのを忘れておりましたな! 率直に申しますと、ツカサさんにはティタンリリーの蕾にグロウをかけて頂きたいのです。開花する手前までね」
「それはどうして?」
「ティタンリリーはとても繊細な花でしてね、開花するとそりゃもう……ゴホン。すぐに散らざるをえなくなり、屋敷へ持って帰ることが困難になります。その上、ティタンリリーは外部からの刺激がないと開花しない特殊な花でして……剣や打撃などの刺激がないと開かないのです」

 剣や打撃で刺激するって、結構強そうだな。
 でも咲いてすぐに散ってしまうなんて儚い。花の命短すぎじゃん。
 本当ファンタジーの世界って不思議な植物が沢山あるなあ。

「ティタンリリーって、繊細で不思議な花なんですね」
「ええ……なので、ツカサさんにはグロウで成長を操って頂き、花が開花する直前まで刺激を与え、そして収穫して無事に持って帰れたらなあと。そうしたら、屋敷で娘に渡す時分に丁度花が咲くようになるので」

 なるほど。何か台詞回しに違和感を感じるけど、俺にしてほしい事は解った。
 娘さんに一番綺麗な状態の花をプレゼントしたいから、俺を雇ったんだな。
 うん、その親心ってば素晴らしいじゃないか。
 テンションおかしい中年とか思ってごめんなさいガトーさん。俺も頑張るよ!

「分かりましたガトーさん、俺も精一杯やらせて頂くんで頑張りましょう!」
「おおっ、ありがとうございますツカサさん!!」

 がっしりと握手を交わす俺とガトーさん。
 三人の従者は揃ってパチパチしてくれたが、ブラックはなんとなく納得いかないような顔をして、肩を竦めていた。

「腐食の森に花……ねえ……」

 何事かブツブツ呟いていたが、残念ながら俺にはその意図は解らなかった。









 
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