異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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アコール卿国、波瀾万丈人助け編

7.異世界の魚料理は難しい

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「えーと…………おっ!」
「どうしたのー? 何かあったのかい?」
「こっちこっち! 川があるぞ、ブラック!」

 目ぼしい野草を見つけながらぼちぼち探索していると、綺麗な小川が流れている場所に出た。思わず駆け寄って水面を見やると、なんと魚がいる!
 しかも、ちょっと針を垂らせば爆釣間違いなしのレベルでうようよと!

 一応図鑑で調べてみたが、この川魚達は食べるのには全く問題はないらしい。
 寧ろ焼き魚推奨と書かれていた。焼き魚って言えば、串に刺して塩降って焚火でローストだよな。これぞ冒険、かなりテンションが上がる。
 やったー今日は久しぶりの焼き魚だぜ! とワクワクしている俺に、ブラックはまたもや嫌そうに顔を歪めた。
 あーそっか、この世界って魚が生臭いんだっけ……。

「ツカサ君……まさか魚食べるの?」
「いや、食べるけど……ブラックは旅の途中で食べたりしなかったのか?」
「だって、生臭いし内臓出すの面倒くさいし……」
「分かった分かった、アンタには出さないから安心してよ。今日は色々と見つけられたし野草だけで夕食作るから」

 嫌いなモンを無理して食べさせることもないよな。魚は俺が食べたいから釣るんだし。今日は面白いもん見つけたから、ブラックとロクにはその材料で腹にたまるメシを作ってやろう。
 俺は細い葉っぱを【グロウ】で成長させ尖らせつつ、図鑑を開いた。

 今日見つけたのは、お馴染みタマネギもどきのタマグサの他に二つ。
 【シダレイモ】と【クキマメ】だ。

 【シダレイモ】はその名の通り、柳のような枝から芋が直接生えている。
 といっても長芋のように細長くて、その様は木が根を地上に生やしたかのような地獄の生物っぽい恐ろしい姿になっている。図鑑によると煮たり焼いたりして食べるらしい。やっぱ長芋とは違うみたいだ。

 もう一つの【クキマメ】も中々ショッキングな姿だ。
 茎から直接謎の球体が生えているんだが、この中に小さな豆が沢山入っている。この球体は実は茎の一部で、色が変わって熟すと球が弾け、周囲に豆をまき散らして仲間を増やすらしい。その弾けて跳んだ豆の速さは結構なもので、当たるとかなり痛い。そのため、冒険者はあまりクキマメの木に近寄らないとのこと。

 ……この二つをよく食べようと思ったな、この世界の誰かさんよ。
 まあどちらも可食部分だけは俺の世界の食材に似てたので、採取したけどね。
 クキマメは普通にピンポン玉大の大豆っぽいし、シダレイモは長芋に似てるから多分大丈夫だろう。うん。

 それよりも今は釣りだ。俺は魚が食べたいのだ。

「……よしっ、うまいこと針っぽく出来たな。今度はこれを曲げる……」

 じわじわとしか曲がらないが、それでも小さな細い葉はゆっくりと形を変えていく。そうして一生懸命気を送っていると、針のようにまっすぐだった葉っぱは遂に「し」の字に綺麗に曲がってくれた。よっしゃー、これで完成だ!

「それ、釣り針?」
「大正解っ! これで魚を釣るんだよ」
「は~……グロウにこんな使い方が有ったとはね……」
「金の曜術でも出来るんじゃないの?」
「うーん、出来るとは思うけど……金属になるとそういう加工はかなりの精神力を使うからねえ……。鋳物師だとか鍛冶師だとかしか基本やらないし」

 やっぱ想像力頼りの魔法だから、呪文でチョチョイって訳にも行かないんだな。鉱物って言ったら植物よりも固いし、その分大変なんだろうか。
 ま、考えてもしょうがないから置いておくとして、今は魚だ魚。
 丈夫な木のツルと枝を細工して、しっかりと結ぶ。蔓に釣り針を巻きつければ、これで簡易釣竿の完成だ。

 あとは河原でレッツフィッシング。
 複雑そうな顔をしているブラックを背に、俺は干し肉の欠片を針につけ、出来るだけ遠くに向けて竿を振った。見よ、俺の田舎川釣りテクニック。

「おおっ、ツカサ君凄いね」
「ふふーん、だろ? 実は俺、釣りはけっこー得意なんだよね」
「君のいた世界ってそんなに貧しかったの?」
「ちがーう!! 漁師さん以外は、こういうのは趣味でやってたの! あと普通に俺の世界の魚うめーから!」

 ぐうう嫌な異文化コミュニケーションだなこれ!
 この世界では魚って貧乏人の食い物なのかね、俺の世界ではそんな事ないのに。魚めっちゃ美味いのに。くそういつかハマチと同じ位うまい魚食ってやる。玉ねぎみたいな草が常食されてんだ、きっとハマチだってあるはずだ。くそうくそう。

 そんな事を思っていると、いきなり竿がぐっと引き込まれた。
 うおお、凄い力強い。思わず強く引き上げてしまったが、それでも魚は食いついてきたようで、いとも簡単に河原に引き上げられた。

 慌てて水を入れた瓶に魚を移動させ、もう一度針を投げる。が、体勢を整える間も無くまたヒットしてしまった。なんだこれ、マジで爆釣だぞ。
 面白いように釣れまくるけど、あんまり釣っても仕方ない訳で……。

 取り過ぎはいかん、という婆ちゃんの言葉を肝に銘じつつ、俺はとりあえず身が厚そうな五匹だけを残してあとはリリースしてやった。思ったよりも簡単に釣れてしまってちと寂しいが、まあ、手間は少ない方がいいもんね。

 それに、これだけ釣れれば気分が良い。
 瓶の中の釣果をニヤニヤしながら見つめつつ、俺とブラックは洞穴に戻った。
 さて、クッキングタイム……の前に味の確認だ。火を焚き、それぞれ焼いて食べ比べてみる。魚は四苦八苦しながら内臓を出して、とりあえず開いて焼く。串焼きじゃないのが残念だが、そのまま焼くとどこがヤバそうか解らないもんな。

「さてさて、焼けたな」

 タマグサは一般的に出回っているけど、魚と他の二つの野草はどうも味が想像しにくい。魚は生臭いと忌み嫌われているからなおさらだ。
 まずシダレイモを食べてみる。

「……うーん……? 滑りのないサトイモ……?」

 ホクホクしてるけど柔らかくて、ジャガイモよりは里芋に近い。これはバターと醤油を付けてたべたいな……。そう言えば、ライクネスではジャガイモらしき食材が無かった。西方ではあまりイモは食べないんだろうか。
 不思議に思いつつ、次はクキマメを食べる。

「……ん? んんん……?」

 なんだろう、豆って言うより。これ……。
 ニンニク、みたいな臭いがする。ていうかニンニクじゃね、これ。
 潰してみるとより一層ニンニクのように見えて来た。どう見ても豆に見えない。
 いやでも考えようによっては物凄く素敵な物を見つけた気がする。ニンニクって肉料理の臭み消しにもなるし、ガツンと来る料理にゃうってつけだ。
 これ後でもっと採取しとこう。うまい。

 そして最後は魚だけど……。

「あー……うん、やっぱちょっと生臭い。直前まで生かしてたのになあ……捌き方が悪かったのかな?」

 日本で教えて貰ってた捌き方じゃだめなのかもしれない。まあ、俺もおおざっぱに捌いちゃったから、そのせいかも知れないけど。
 でも、やり様によっては美味く出来そうだ。

「やっぱそれ食べるの……?」
「まあ見てなって」

 野宿するだろうと思ってあらかじめザドの砦で買っておいたグッズがある。
 それは、携帯用の調理器具セットだ。調合器具を見ている時に見つけたのだが、鉄板の如く薄いフライパン(っぽいもの)やら折り畳めるなべとかがセットで箱に入っていたので、つい買ってしまった。

 いや、別に、道中食える物が有ったらすぐ調理したいからとかそういう事ではない。俺は食いしん坊じゃないぞ。再度いうが野宿の時に役立つと思ったからだ。
 ゴシキの時は中型の鍋を持って行ったけど、あれは短い旅だったし馬で移動してたからな。徒歩の旅では鍋はちょっと嵩張って困る。
 でもこれはリュックに収まる程度にコンパクトだったし。絞り器とか付いてお得だったし。俺の念願の甘いジュースがどっかで作れるかもしれないし……。

 と、とにかく、こう言う時の為に調理器具を買っていたのだ。
 今からこれで魚を食べられるようにしてみよう。

「えーと……まずはクキマメをすりつぶして」

 生のクキマメは充分に水分が出るが、これはどうやら油のようですり潰す度に油膜が張る。これは幸い。油とか買い忘れてたんだよな俺。
 フライパンに油を引いて、ぶつ切りにしたクキマメを炒める。焼き色が付いて来ると香ばしい匂いがして来た。ここで塩コショウを加える。
 味見をしたがわりと美味い。順調だ。
 
 さっき焼いた魚をその中に入れて、オイルを振りかけつつ焼き目が付くまで丁寧にひっくり返す。焚火だと火力が足りないから焦らず騒がずだ。

「……な、なんか良い匂いするね」
「キュ~」

 ふふふ、そうだろう二人とも。俺も腹が鳴っている。ニンニクの匂いつらい。
 我慢しつつ、最後にタマグサとイモを軽く炒めて完成だ。
 名付けてクキマメソースの川魚焼き……うん、そのまんまだな。センスないわ。

 でも俺のネーミングセンスなど物ともせず、ブラックとロクはもう涎を垂らさんばかりにフライパンの上の料理に夢中になっている。丈夫な葉の上に魚を乗せると、いつの間に持っていたのかブラックがフォークで魚の身を突き刺した。

「あっ、まだ味見してねーぞ!」

 大丈夫かな。生臭くても知らないからな。
 ちょっと不安になりつつ、魚を口一杯に頬張るブラックを窺っていると……
 ブラックは目を見開いて、興奮するかのように鼻を膨らませた。

「んんっ、うっ、うま……っ!! こ、これ凄いよツカサ君、川魚なのに何でこんなに美味しいの!? ああっ、酒が飲みたい……!」
「そ、そっか? ロクはどうだ」
「ウキュキュー!」

 どうやら美味く出来たらしい。良かった……流石はニンニク、男料理の味方だ。
 っておい全部食うなよ! 俺の分がなくなる!!

 慌てて二匹目の魚を焼いて作るが、それもまた二人に取り上げられる。
 焼くたび取られ、焼くたび取られの繰り返しだ。なんだこれ永久機関?
 という訳で、結局俺が食べたのは最後の一匹だけだった。
 うん、まあ、美味しく食べて頂けたならいいんですけどね……。

 嬉しいやら悲しいやら複雑な気持ちで俺も最後の一匹を食べてみると、確かに臭みが全くなく、それでいて魚に香ばしい風味が染み込んでいて中々に美味しかった。でも結構油っぽいので、油は薄めた方がよかったかな。
 野菜はガーリックソテーまんまで物凄く美味しいから、これも成功だ。でも塩はともかく、胡椒はこの世界でも当たり前に高いから、おいそれとは作れないかも。

 やっぱ魚については色々工夫しなきゃだめだな。

「ふぅ~、食べた食べた……久しぶりに腹にたまる食事だったね」
「キュキュ~!」
「まあ、宿では質素な食事だったもんな」

 大勢の食事を用意するんだから、そりゃ質素にならざるを得ない。
 でもやっぱ物足りない感じはしたから、今日のご飯は本当に満ち足りた感じだ。久しぶりに美味い魚が食えたし、イモも腹にたまるからな。
 これでスープとかあったら完璧だったんだが、つくづく惜しい。
 後処理をしつつ悔やむ俺だったが、ブラックは別の部分に少し引っ掛かりを覚えているらしく。自分の髪を嗅ぎながら、困ったように笑った。

「あの料理とても美味しかったけど……一つ問題があるとすれば、クキマメの匂いはちょっと残りそうってことかなあ」

 言われてみればそうだ。ニンニクって臭い残るんだよなあ。
 こんな所だけは俺の世界と一緒だ。
 それがなんだか面白くて、俺は笑って頷いた。

「あはは、それあるわ。それじゃ、やっぱ水浴びとかした方が良い?」
「水浴びか……うん、そうだね。匂いでモンスターに気取られる場合もあるから……今は日が長い季節だし、水浴びしておこうか」

 確かに、こんなにプンプン匂いをさせてると危ないかも。
 逃げるにしろ戦うにしろ、強い匂いをさせていたら居場所が判って不利になってしまう可能性がある。そういう部分も考えるべきだったな……冒険者的な目線から見ると、今回の料理はちょっと失敗だったかも。
 でも何かに使えそうだし、クキマメやシダレイモは少し多めに採っておくか。

「んじゃ、川に行こう。夕方になったら寒くなるし、はやめに洗っとこうぜ」
「そうだね。川に着いたら一緒に……」
「交代で見張りしような」
「は、はあい」

 お前の手口は解ってるぞ。誰が一緒に入るかこの野郎。
 焚火を一旦消して目印を付けると、俺達はまた河原へと向かった。







 
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