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ゴシキ温泉郷、驚天動地編
俺はとてつもない能力者だったようです 2
しおりを挟む「じゃあまずは、炎の曜気の個室ね」
「えっ、部屋別れてんの?」
「一つの曜気しか使えない人ばっかなのに、多数の曜気流しても仕方ないでしょ」
そりゃそうだな。
妙に納得しながら、ブラックに連れられて練習場の一角にある赤いエリアに行く。ボックスは属性ごとに色分けされていて、ぱっと見は綺麗だ。
炎の曜気が湧き出る場所に行くと、急に部屋が熱くなったように感じる。
空いてるボックスに入ると、存外狭い事に驚いた。縦四畳横二畳くらいの狭い部屋にはテーブルが一つある。その奥には、真っ赤な液体が噴き出している手洗い所みたいな装置があるだけ。なんだか不安な造りだ。
「ここから液体を汲んで……さて、始めようか」
テーブルに赤い液体を湛えた桶を置き、ブラックは気合を入れるように息を吐く。気合を入れるのは俺のはずなんだけど、まあいい。
「何をすればいいの?」
「基本的には昨日の夜に光を集めた時と一緒だよ。……ただ、曜術は感情のぶれに強く反応する。例えば……炎は攻撃の術が殆どなんだけど、それなりに攻撃的な気持ちでいないと炎の曜気は取り込めないんだ」
「ほー……つまり、怒ってる感じでいけってこと?」
「簡単に言えばそうだね」
「解った、やってみる」
炎は確かに強気なキャラとかに多いよな。よし、怒りか。
最近イラッとした事を考えつつ、赤い液体の中にある『炎の曜気』が指先に集まるようなイメージを作っていく。
火を集める、炎の固まり……そうだ、ファイヤーボールとか使ってみてーなー。
考えつつ、俺は人差し指を赤い液体に翳した。
と。
「うわっ!?」
赤い液体から瞬時に色が無くなった。そう、思った途端、俺の指先に炎の塊が渦を巻いて出現したのだ。おおっとこれ、もしかしてファイヤーボール!?
「つっ……ツカサ君、きみ……」
「はへ? えっ、なんかヤバかった?」
「ヤバいどころか凄いよ……! 初めてでフレイムを出現させるなんて……いや、待て、そうすると木の属性ではないということか……?」
なんかブツブツ言い始めたけど、よくわからん。とりあえず、一発で術使えちゃった俺って凄いってことだよな?
指の先で数センチ浮いた火の玉を、俺はしげしげと見つめる。
近付いても熱くはない。自分で作ったものだと、ダメージは受けないのかな。ためしに他の指で触ってみたが、火の中に指が入るだけで別に火傷もしなかった。なんか映像みたい。本当に術かなこれ。
「うーん……」
試しに、その辺に落ちていた紙屑を拾って近付けてみる。
すると紙屑はボッという音を立ててすぐに燃え尽きてしまった。ほっほー。やっぱ術なわけね、コレ!
やだ俺本当に術を使えちゃったよ! もしかしてここからチート伝説始まる?
俺ったら伝説の冒険者になっちゃったりするのかな?!
「ツカサ君、試しにちょっと他の場所にも行ってみよう」
「わかった。どんどんやろうぜ!」
もしかして俺、他の魔法も使えちゃったりするかも。
どこか不安げなブラックを仰ぎ見つつも、俺は有頂天だった。
その後水・金・土・木の個室に連れて行かれたが、やっぱり結果は同じ。
全部出せる。俺は全部の魔法が使えたのである。
ブラックは「そんなバカな……」とか言ってたけど、使えちゃったものは仕方ない。だって、ちゃんと「こんな魔法が使いたいな」って思ったら出るんだもの。
俺ったら全属性持ちだなんて、凄すぎ。
こんなチート能力があるなんて思わなかった。
いや。でも、この世界なら俺みたいに全属性使える人もいるかもな。
それに、俺にも出来ない事は幾つかあったし、チートじゃないかも。
まず、俺は金属を操れても加工する事は出来ない。炎はこれと逆で、曜気は取り込めても、元から燃えている火を操る事が出来ないんだ。水も炎と一緒。出せるけど出したもの以外操れないし、土や木も同様。
つまり、俺は金属以外、自分が作り出したものしか扱えないのだ。普通の曜術師だったら、そう言う事もちゃんと出来るらしいんだけど……。
「……これはちょっと…………厄介だね」
一通り実験し終えた後、ブラックが難しい顔をして呟く。
「厄介ってどういうこと?」
「複数の術を使える人は、いないわけじゃない。そういうのは使える属性によって【月の曜術師】か【日の曜術師】に分けられて、かなり高い地位に引き上げて貰えるんだけど……ツカサ君の場合、術の性質が特殊だし、五種全てを扱えること自体が異質過ぎるんだ。普通、曜術師はどんなに多くても三つまでしか属性を扱えない。だけど、キミは五つの属性全てを扱う事が出来た。そんな人間は、いままで存在しなかったんだよ」
「えっと……やったぜ俺って特別! ……ってワケにはいかないよな、やっぱ」
そんなのんきな話なら、ブラックも深刻な顔はしてないか。
なんだか雲行きが怪しくなってきたのを感じて肩身を狭くする俺に、ブラックは真面目な顔をして両肩を掴んできた。
「ツカサ君、いいかい。この事は他の誰にも言ってはいけない。術を学ぶなら、二つだけに絞るんだ。そうじゃないと、君は厄介な事に巻き込まれる」
「俺の力を狙う奴がいるってこと?」
「それもあるが……もしかしたら僕は、大きな勘違いをしていたのかもしれない」
綺麗な菫色の瞳が、暗い色に沈む。
ブラックは、今まで見たことの無い辛そうな表情で、俺を見つめていた。
「ブラッ、ク……?」
「僕が、また枷を外した……僕のせいで……」
何を言ってるのか解らない。なんだ。どうしたんだ。
どうしてそんなに辛そうな顔をする?
俺、お前に何かしてしまったのか?
「ツカサ君……すまない……っ」
苦しそうな声が、耳の側で聞こえる。
そう気付いた時には、俺はもう大きな体に抱き締められていた。
だけど、怒れない。
ただ強く俺を抱き締めてくるブラックに、俺は何も言えなかった。
どうしてコイツは、こんなに悲しそうなんだろう。なんで、俺に謝るんだろう?
わからない、わからない事だらけだ。
そういえば俺、コイツのこと…………なにも、知らないんだ。
ブラックのこと、俺はなんにも知らされていない。
どんな職業なのか、どうして冒険者をしているのか。
どうして俺に惚れてるのかすら――――俺には、解らない。
「ブラック……」
呼んでみるけど、相手は答えない。
狭い個室の中、ブラックは長い間俺を抱き締めていた。
→
※ちょっぴしシリアスですが、
更新日数二日程度(つまり二話)でしりあす終わります
このお話はしょうもないコメディなので…(´・ω・`)アカン
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