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ラクシズ泊、うっかり調合出会い編
7.ロクを探して三千里
しおりを挟む【査術】
感覚拡張による索敵、相手の能力を感じ取る術。
風の術と五感拡張の付加術を基礎とし、熟練によって練度が上がる。
術の素養がある者であれば、大抵の場合望む情報を見出せる。
下記のいずれかの場合、査術を成功させるのは難しい。
・自分よりも格上
・自分よりも術の素養が高い
・術者自身が精神に異常をきたしている
・怯えや恐怖に支配され、または人間不信に陥り、対象を直視できない
ほほ~、ありがとう【君にもできる、きっと出来る! 簡単必須初級術☆(リガルト著)】さん。
本の題名の割にすっごい真面目に書いてあるのでビビったけど、これでブラックが何をしようとしているのか把握出来た。つまり、俺が読んだ異世界系小説で言う所の【鑑定】や【調査】スキルの合体版を使おうってコトなのね。
曜術師じゃなくても使えるのなら、俺も練習したら出来るかな。
「術の素養」って、恐らく「魔力のある人間」っていうのと一緒なんだろうけど、異世界に召喚されたんだし、それくらいの特典はきっとある……よな?
「ツカサ君、本を読んでないでこっち見ててくれよ」
「あ~、ごめんごめん」
俺はブラックが貸出手続きをしてくれた本を閉じると、しっかりとローブの中に仕舞って周囲を見回した。
ここは蛮人街の外門から出た所。奴隷屋が向こうに見える。
蛮人街の入り口という割には綺麗な草原で、街の中のスラムな様相が嘘みたいな穏やかさだった。それくらい、みんな街の外に興味がないって事なんだろうけど……。
「じゃあ今から査術をかけるから、僕が指示した場所に行って探してみてくれ」
「あいよ、がってんでい」
とりあえずお礼を考えるのは見つけてからでいい、なんて言われたのでホイホイついて来てしまったが、本当にロクが見つかったらどうしよう。
嬉しいけど、絶対ロクなことにならなさそう……いや、駄洒落じゃない。
もう二度とヤられたくないし、こうなったら別の薬でも開発しておくしか……。
なんて俺が策略を巡らせていると、ブラックが目を閉じて集中しだした。
彼の周囲に、何かが集まっていくのが見える。いつかの夜に見た、草原から出てくる光の粒だ。それがブラックの体に吸収され、彼を包むように薄い光の幕が出来た刹那、ブラックを中心にして、大きな光の環が周囲に広がった。
「ッ……!?」
思わず顔を庇ったけど、一瞬のことすぎて遅かった。もう光は消えている。
きょろきょろと確認してみたけど、もうどこにも環の片鱗はない。ブラックが微かに光を帯びているだけだった。本当に、じーっと目を凝らしてみないと解らないけど、ブラック光ってるよ。なんだコイツ。スーパーサイy……じゃないよな。
「この周辺にはいないみたいだね」
「あの……もしかして、術発動した?」
「うん。今も発動してるよ。魔物の反応はゼロだ」
もしかして、術を発動し続けてると体が光り続けるのかな。
不思議に思いつつも、俺はブラックに付いて捜索範囲を広げるために歩き回った。索敵とかの術は、自分を中心に範囲が決まっていて、範囲外になると相手を見失うんだ……とはブラックの弁。
ってことは、俺がさっき見た光の環ってもしかしてブラックの索敵範囲ってこと? ちょっとまって、すっげーデカくて広かったんだけど。デカいのはナニだけじゃなかったのか、こいつ。
「ふむ……外門周辺にはいない……となると……」
「もしかして、街の中に入っちゃった……とか?」
「ありえるね。君の話だと、そのヘビは君に随分懐いてたみたいだし……どうしても会いたくて、臆病なりに隠れながら蛮人街に入ったのかもしれない」
「それ、ありえるの?」
「障壁はあくまで街の外のモンスターの侵入防止だから、既に障壁の中に居るモンスターには関係ないよ」
「そ、そっか……俺を探して……」
ロク……なんて健気な子……!!
頭の中にきゅーきゅー泣きながら俺を探しているロクの姿が一瞬で思い浮かんで、俺は思わず涙ぐんでしまった。早く探してやらなきゃ!
「でも……そうなると危険だな……」
「ずびっ、え、なんで?」
「蛮人街だと、腹を空かせてる奴が多いんだ。だから、ちょっと牙を抜けば食べるのには問題ないダハを見つけたりなんかしたら……」
イコール。
今日の、ばんごはん?
「あああああ!! ロクッ、ロクショウが食べられちゃうううう」
「まっ、待って待って、探す! 探すから、落ち着きなさい! 街に戻ろう!」
急いで外門に戻り、蛮人街に踵を返す。手分けして捜索、っていうのが出来ないのが歯がゆいけど、ブラックの索敵は広範囲高出力で狭い蛮人街を根こそぎスキャンしていく。だけど、以前としてロクはみつからない。
うううどうしよう、食べられてたら俺、相手の事殴っちゃうかも。
別に食べるのは……そりゃ、食べるのは生きるためだからしょうがないけど、でも、俺にとっては大事なヘビだったんだ。首輪つけとけって文句言われるかもしれないけど、喧嘩も辞さないぞ。そうでもしないと、辛くて仕方ない。
蛮人街の中は狭いなりに六番街まであって、元々が一般街の一部だったせいか建物の並びは複雑ではない。
寝転がる人や物乞いの子を振り切って、俺とブラックは走った。
いない。一番街にも二番街にも三番街にも。あと、残りみっつ。
俺がいる湖の馬亭は、一般街への門が近い六番街だ。
そこに行くまでに、いなかったら……。
「ろ、ろくぅ……」
俺は、泣き上戸じゃない。この世界に来て今の今まで普通に泣いた事なかった。
なのに何故か、今になって涙が出て来た。
だって、あいつは俺を一番最初に助けてくれたモンスターなんだ。
俺の事一生懸命気遣ってくれて、一緒に居たいって言ってくれた子なんだ。
ちょっとだけの付き合いだったけど、でも。でも。
「ロクー!! どこだー!!」
堪らなくなって、走りながら俺は叫んだ。
生きてますように、誰かに食べられてませんように、そう願いを込めて。
――――すると。
「つ、ツカサ君、いた!」
「ふぁっ……!?」
「ダハの方から、僕の索敵を辿って感応能力でこっちに呼びかけてきたんだよ! そうか……術が掛かってる家の中にいたから、今まで反応が掴めなかったのか……! まさかダハにこんな能力があるとは……」
「かっ、かんの? どうでもいいからそこ急行!!」
ブラックが振り返ったのは、五番街のある路地。
蛮人街から一般街へとを貫く大通りを避けた場所には、あやしい店が並んでいる。女将さんが言うには、そこは人に害をなすものを販売する店が多いのだと言う。人に害。ってことは。
「おおおおれのロクってもしかして、実験動物に」
「ありえる話だ……急ごう」
路地に入ると、そこには怪しい人間が大勢たむろしていた。大通りや湖の馬亭の近くで寝転がってる人達とは違う、どこか悪い雰囲気がある男達。見たことある。こいつら見たことあるぞ。
娼姫のねーちゃんを追いかけまわしてるごろつきに、盗賊っぽい痩せた男達、俺と同じローブ姿でも、黒いオーラを背負ってる人達。どう考えても、カタギじゃない。近付きたくないこの人達!!
だけど相手も自分達に関わると厄介だと思ってるのか、こちらを睨むものの近付いてきたりはしない。ホッとしつつ、俺はブラックと目的地へ急いだ。
路地の一番奥。突き当りにある、うさんくさい店。
そこには、朽ちかけた看板があって【蛇】とだけ書かれていた。
「な、なにココ……蛇屋さん?」
「多分、毒を専門に扱った店だね。非合法に持ち込まれた強力な毒物を売りさばくための店だろう。職業持ちの人間にしか扱えない毒を、審査もなしに悪人やワケアリの人に売ってるんだ。普通、毒物は悪用されないために審査してから渡されるものなのに」
つまり、この店は、人間やモンスターを毒で苦しめたい人のための店ってことか。
人間って怖い。
思わず青ざめている俺をよそに、ブラックは平然と扉を開いた。
「ぶ、ぶらっ」
「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
その諺、この世界にもあったんですね。
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