異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

文字の大きさ
上 下
23 / 1,264
ラクシズ泊、うっかり調合出会い編

7.ロクを探して三千里

しおりを挟む
 
 
【査術】
 感覚拡張による索敵、相手の能力を感じ取る術。
 風の術と五感拡張の付加術を基礎とし、熟練によって練度が上がる。
 術の素養がある者であれば、大抵の場合望む情報を見出せる。

 下記のいずれかの場合、査術を成功させるのは難しい。
 ・自分よりも格上
 ・自分よりも術の素養が高い
 ・術者自身が精神に異常をきたしている
 ・怯えや恐怖に支配され、または人間不信に陥り、対象を直視できない


 ほほ~、ありがとう【君にもできる、きっと出来る! 簡単必須初級術☆(リガルト著)】さん。
 本の題名の割にすっごい真面目に書いてあるのでビビったけど、これでブラックが何をしようとしているのか把握出来た。つまり、俺が読んだ異世界系小説で言う所の【鑑定】や【調査】スキルの合体版を使おうってコトなのね。
 曜術師じゃなくても使えるのなら、俺も練習したら出来るかな。
 「術の素養」って、恐らく「魔力のある人間」っていうのと一緒なんだろうけど、異世界に召喚されたんだし、それくらいの特典はきっとある……よな?

「ツカサ君、本を読んでないでこっち見ててくれよ」
「あ~、ごめんごめん」

 俺はブラックが貸出手続きをしてくれた本を閉じると、しっかりとローブの中に仕舞って周囲を見回した。
 ここは蛮人街の外門から出た所。奴隷屋が向こうに見える。
 蛮人街の入り口という割には綺麗な草原で、街の中のスラムな様相が嘘みたいな穏やかさだった。それくらい、みんな街の外に興味がないって事なんだろうけど……。

「じゃあ今から査術をかけるから、僕が指示した場所に行って探してみてくれ」
「あいよ、がってんでい」

 とりあえずお礼を考えるのは見つけてからでいい、なんて言われたのでホイホイついて来てしまったが、本当にロクが見つかったらどうしよう。
 嬉しいけど、絶対ロクなことにならなさそう……いや、駄洒落じゃない。
 もう二度とヤられたくないし、こうなったら別の薬でも開発しておくしか……。

 なんて俺が策略を巡らせていると、ブラックが目を閉じて集中しだした。
 彼の周囲に、何かが集まっていくのが見える。いつかの夜に見た、草原から出てくる光の粒だ。それがブラックの体に吸収され、彼を包むように薄い光の幕が出来た刹那、ブラックを中心にして、大きな光の環が周囲に広がった。

「ッ……!?」

 思わず顔を庇ったけど、一瞬のことすぎて遅かった。もう光は消えている。
 きょろきょろと確認してみたけど、もうどこにも環の片鱗はない。ブラックが微かに光を帯びているだけだった。本当に、じーっと目を凝らしてみないと解らないけど、ブラック光ってるよ。なんだコイツ。スーパーサイy……じゃないよな。

「この周辺にはいないみたいだね」
「あの……もしかして、術発動した?」
「うん。今も発動してるよ。魔物の反応はゼロだ」

 もしかして、術を発動し続けてると体が光り続けるのかな。
 不思議に思いつつも、俺はブラックに付いて捜索範囲を広げるために歩き回った。索敵とかの術は、自分を中心に範囲が決まっていて、範囲外になると相手を見失うんだ……とはブラックの弁。
 ってことは、俺がさっき見た光の環ってもしかしてブラックの索敵範囲ってこと? ちょっとまって、すっげーデカくて広かったんだけど。デカいのはナニだけじゃなかったのか、こいつ。

「ふむ……外門周辺にはいない……となると……」
「もしかして、街の中に入っちゃった……とか?」
「ありえるね。君の話だと、そのヘビは君に随分懐いてたみたいだし……どうしても会いたくて、臆病なりに隠れながら蛮人街に入ったのかもしれない」
「それ、ありえるの?」
「障壁はあくまで街の外のモンスターの侵入防止だから、既に障壁の中に居るモンスターには関係ないよ」
「そ、そっか……俺を探して……」

 ロク……なんて健気な子……!!
 頭の中にきゅーきゅー泣きながら俺を探しているロクの姿が一瞬で思い浮かんで、俺は思わず涙ぐんでしまった。早く探してやらなきゃ!

「でも……そうなると危険だな……」
「ずびっ、え、なんで?」
「蛮人街だと、腹を空かせてる奴が多いんだ。だから、ちょっと牙を抜けば食べるのには問題ないダハを見つけたりなんかしたら……」

 イコール。
 今日の、ばんごはん?

「あああああ!! ロクッ、ロクショウが食べられちゃうううう」
「まっ、待って待って、探す! 探すから、落ち着きなさい! 街に戻ろう!」

 急いで外門に戻り、蛮人街に踵を返す。手分けして捜索、っていうのが出来ないのが歯がゆいけど、ブラックの索敵は広範囲高出力で狭い蛮人街を根こそぎスキャンしていく。だけど、以前としてロクはみつからない。

 うううどうしよう、食べられてたら俺、相手の事殴っちゃうかも。
 別に食べるのは……そりゃ、食べるのは生きるためだからしょうがないけど、でも、俺にとっては大事なヘビだったんだ。首輪つけとけって文句言われるかもしれないけど、喧嘩も辞さないぞ。そうでもしないと、辛くて仕方ない。

 蛮人街の中は狭いなりに六番街まであって、元々が一般街の一部だったせいか建物の並びは複雑ではない。
 寝転がる人や物乞いの子を振り切って、俺とブラックは走った。
 いない。一番街にも二番街にも三番街にも。あと、残りみっつ。
 俺がいる湖の馬亭は、一般街への門が近い六番街だ。
 そこに行くまでに、いなかったら……。

「ろ、ろくぅ……」

 俺は、泣き上戸じゃない。この世界に来て今の今まで普通に泣いた事なかった。
 なのに何故か、今になって涙が出て来た。
 だって、あいつは俺を一番最初に助けてくれたモンスターなんだ。
 俺の事一生懸命気遣ってくれて、一緒に居たいって言ってくれた子なんだ。
 ちょっとだけの付き合いだったけど、でも。でも。

「ロクー!! どこだー!!」

 堪らなくなって、走りながら俺は叫んだ。
 生きてますように、誰かに食べられてませんように、そう願いを込めて。

 ――――すると。

「つ、ツカサ君、いた!」
「ふぁっ……!?」
「ダハの方から、僕の索敵を辿って感応能力でこっちに呼びかけてきたんだよ! そうか……術が掛かってる家の中にいたから、今まで反応が掴めなかったのか……! まさかダハにこんな能力があるとは……」
「かっ、かんの? どうでもいいからそこ急行!!」

 ブラックが振り返ったのは、五番街のある路地。
 蛮人街から一般街へとを貫く大通りを避けた場所には、あやしい店が並んでいる。女将さんが言うには、そこは人に害をなすものを販売する店が多いのだと言う。人に害。ってことは。

「おおおおれのロクってもしかして、実験動物に」
「ありえる話だ……急ごう」

 路地に入ると、そこには怪しい人間が大勢たむろしていた。大通りや湖の馬亭の近くで寝転がってる人達とは違う、どこか悪い雰囲気がある男達。見たことある。こいつら見たことあるぞ。
 娼姫のねーちゃんを追いかけまわしてるごろつきに、盗賊っぽい痩せた男達、俺と同じローブ姿でも、黒いオーラを背負ってる人達。どう考えても、カタギじゃない。近付きたくないこの人達!!

 だけど相手も自分達に関わると厄介だと思ってるのか、こちらを睨むものの近付いてきたりはしない。ホッとしつつ、俺はブラックと目的地へ急いだ。
 路地の一番奥。突き当りにある、うさんくさい店。
 そこには、朽ちかけた看板があって【蛇】とだけ書かれていた。

「な、なにココ……蛇屋さん?」
「多分、毒を専門に扱った店だね。非合法に持ち込まれた強力な毒物を売りさばくための店だろう。職業持ちの人間にしか扱えない毒を、審査もなしに悪人やワケアリの人に売ってるんだ。普通、毒物は悪用されないために審査してから渡されるものなのに」

 つまり、この店は、人間やモンスターを毒で苦しめたい人のための店ってことか。
 人間って怖い。
 思わず青ざめている俺をよそに、ブラックは平然と扉を開いた。

「ぶ、ぶらっ」
「さて、鬼が出るか蛇が出るか」

 その諺、この世界にもあったんですね。





しおりを挟む
感想 1,344

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

処理中です...