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神域島ピルグリム、最後に望む願いごと編
21.監視するもの1
しおりを挟む『……ああ、そうか。お前達は“過去の俺”を、見つけてくれたんだな』
そう言いながら、キュウマは眼鏡を軽く上げる仕草をする。
平均身長より少し高い背丈で、取り立てて美形と言うほどではないが、整った目鼻立ち。髪色は黒に近い焦げ茶色で、目も俺と同じ濃い琥珀色だった。そんな顔に、彼は少し大きめなスクエアフレームの黒縁眼鏡を掛けている。
一般的な、俺と同じようにどこかで普通に暮らしていそうな……同年代の、男。
見間違えようがない。この世界の人間とは決定的に雰囲気が違う彼を、別の存在だと言えようがなかった。だってそのくらい……俺は、あの擬似映像装置のキュウマの事を強く覚えていたんだから。
だけど、どうして。どういう事なんだ。
何故過去の【黒曜の使者】だったキュウマがここに居る。
どうして、俺の頭の中に声を……いや、そもそも黒曜の使者ってのは、この世界に出現する時には一人だけで現れるんじゃないのか。
なんで、どうして。考える度に色んな疑問が湧きあがってくる。
問いかけたいのに、たくさん言いたい事が有り過ぎて言葉にならない。
そんな俺に、ダークマター……いや、キュウマは苦笑して肩を竦めた。
『……まあ、まずは落ちつけ。お前達が“どの俺”を見たのか俺には解らん。だから、落ち着くためにまず俺の分身とどこで出会ったのか話してくれないか』
「…………」
そうか。このキュウマは、擬似人格のキュウマじゃない。本体のキュウマなんだ。
だから俺達が【エンテレケイア】遺跡で何を話したのかも知らないんだろう。
そっか……あの時ダークマターは俺と話してなかったから、知りようが無いのか。
…………でも……。
「あの……キュウマ、さん……」
『なんだ、人を暗黒物質呼ばわりしてた時は敬称なんぞ付けなかったのに、今日はヤケにしおらしいじゃないか。気持ち悪いからやめろよ』
「……じゃあ、その……キュウマ、お前……本当にダークマターなのか……?」
そう問いかけると、キュウマは一瞬目を丸くしたが「さもありなん」と深く頷き、眼鏡を一度直した。どうやら仕切り直す時のクセらしい。
宙に浮いている相手を見上げていると、キュウマは地面の高さまで下りて来た。
『最初にお前とコンタクトが取れたのは、妖精の国だったな。確か……ええと、リングロンド……とにかく、そういう名前の土地。あの時は誤解してすまなかった』
「あ……」
『だが、それからはお前を何度も助けてやっただろう。……ったく、世話の焼ける今代の【黒曜の使者】サマだよ』
腰に手を当てて、呆れ顔半分で笑う相手。
何だかその姿が俺の頭の中で聞こえていた【ダークマター】の声と重なった。
……そっか……じゃあ、本当にキュウマが俺をずっと助けていた彼だったのか。
「話がよく見えんが……」
「あ、そっか……クロウはダークマターの件を知らないんだっけ……」
簡単に説明して「なんとなく分かった」と理解して貰うと、再び俺はダークマタこと、過去の黒曜の使者である伊王寺救真に振り返った。
今度は彼に「俺達が知っているキュウマ」を話す番だ。
そうして、俺達が出会った【エンテレケイア】のキュウマの話を語り、ついでに神族の島【ディルム】で聞いた話も話してやった。
相手はその話を嫌そうな顔をしたり、顔を覆ったりして聞いていたが、気を取り直すようにゴホンと咳を一つすると、腕を組んで俺達に近寄って来た。
相変わらず半透明だが、髪や服はふわふわと動いている。
シャツとスラックスという異世界でも俺の世界でも通用する格好だが、こうして見ると、やっぱりキュウマは俺より少しだけ年上なような気がした。
『とにかく……まずはお前達の本来の目的を果たさなければならんな。あの異形達を生成する装置について話そう』
「あっ……そ、そうだ! 俺達それを……っていうか……生成装置って事は、やっぱりクロッコが……」
一気に答えを言われてしまい思わず言葉尻が小さくなるが、なんだかんだ俺の事を理解してくれているらしいキュウマは、軽く何度か頷いて腰に手を当てた。
『……まあ、大体の予想はついてるみたいだな。それなら話は早い。俺がここで力を蓄えるために眠っていた時、あいつらがここにやって来た。そうして、いつだか遺跡の奥にモンスターの生成装置を設置し、怪しげな実験を繰り返していたんだ』
「見てきたように言うね」
ブラックが突っ込むと、キュウマは肩を竦める。
『さっきも言ったが、俺は力を蓄えていた。“箱”が近いからこうして輪郭を保てるが、そうでなければお前達は俺の姿すらも認識できない。今の俺はそれくらい希薄な存在なんだ。もちろん、この島以外どこにも行けない。……だから、あいつらも俺が漂っていようが気付かなかっただろうな』
「あ……もしかして、この島で変な事が起こるって兵士が言ってたのって……」
言うと、キュウマは少し妙な顔をした。
まるで悪戯が見つかったような……って、お前かい犯人は!
『そう睨むな。……それも少し前までの話だ。俺の力は、もう尽きかけだからな』
「え……」
『……ともかく、おかげで俺は……この遺跡内で、しかも微々たる時間だけだが……あいつらが何をしているのか知る事が出来た』
「それが……あの異形達を製造している姿だったと……?」
首を傾げながら言うクロウに、キュウマは目を伏せた。
その表情は明らかに肯定していたが……しかし、実際に目の当たりにした光景があまりにも凄まじい光景で、思わず思考が止まってしまったのだろう。
だが、冷静なキュウマはすぐに我を取り戻してこちらを見た。
『酷い光景だった。調整の為に生物とも言えない“異形”を生み出し続け……挙句の果てに兵士達の死体を使って、あんな醜い化け物を作り出したんだからな。……アレをどこで見つけて持って来たのかは知らないが……まさに神への冒涜だよ』
「……モンスターは、黒曜の使者が造ったってのにかい」
ブラックの言葉に、キュウマは一瞬眉根を寄せる。だがすぐに表情を戻した。
『似たような物だと、お前達は理解しているだろう。……俺の分身に話を聞いてなおピルグリムまでのこのこついて来たんだからな』
「……まあ、どうでも良いって言った方が適当だけどね」
今言った事が真実だと言わんばかりの気のない返事を漏らすブラックに、クロウもその通りだと頷く。……そう、二人にとっては神様なんてどうでも良いんだ。
でも、そんな二人だからこそ俺と一緒に居てくれる。今はそれが嬉しかった。
『……なるほど。最悪な仲間だと思っていたが、そう悪くも無いらしい』
「キュウマ……」
『アレを説明もなしに触らせるのはどうかと心配していたんだが……罠の解除もよくやってくれた。お前達なら、あの装置を壊せるかもしれない。……さあ、こっちだ。今から装置がある場所に連れて行ってやる』
冷静な声でそう言って、キュウマは俺達に背を向ける。
どこかへ案内してくれるらしい。
……だけど……なんだかその背中に素直について行く気が起きなかった。
いや、別にキュウマの事を信用していないんじゃなくて、なんというか……本物のキュウマは、俺が知っているキュウマやダークマターと違って醒めてるというか……その、実際に話すとあんまし話した事ない真面目な奴っぽいというか……。
『どうした。早く来いツカサ』
「あ、う、うん。……あ、そうだあの、なあキュウマ、この箱はなんなんだ?」
なんとかして会話を弾ませようと思って、まだ何も始まっていないのについつい関係のない事を問いかけてしまう。
しかしキュウマは嫌がりもせず、さらっと答えてくれた。
『ああ、それは……俺が昔作った物だ。自分の体から生まれる曜気の限界量が知りたくて、数百年の間“アニマ”を……ああ、そうか、今は“大地の気”だったな。その“大地の気”を溜め続けた物だ』
「え゛!?」
『その膨大な気のお蔭で、俺は今もこうして姿を保っていられる。ただ……もう、この箱の中身は残り少ないけどな』
お前に話しかける為に使い過ぎた、と指を刺されて、俺は思わず恐縮してしまう。
だ、だって、その……キュウマが助けてくれた事って、クロッコにグリモアの七つの悪心の事を無理矢理教えられた時だったり、俺が悩んでる時だったりしたし。
あの時は本当に助かったけど、今考えると恥ずかしくてたまらない。
ううう……だ、だって、テレパシーが通じている間は、俺の感情なんて筒抜けだったワケで、そうなると俺が何を考えていたか解ってしまうワケで……。
あぁああああぁ……穴が有ったら入りたい……。
思わず頭を抱えてしまうと、俺の様子をクールに見ていたキュウマは――――
意外な事に、クスリと笑った。
『本当にお前は判り易いな。……気にしてないから早く来い』
さっきとは少し違う、ダークマターの時みたいな声のトーン。
緊張がほぐれたのか、それとも何かキュウマの中で変わった事が有ったのか、俺には判別がつかなかったけど……でも、何だか急に安心してしまった。
……そっか。やっぱりキュウマはキュウマで、ダークマターなんだよな。
「なんだいアイツ、偉ぶっちゃって」
「ムゥ……ニオイもしない……」
キュウマの話を聞いているのかいないのか、ブラックとクロウは俺の隣に並びブチブチと不満を漏らす。まったくもって、いつもの光景だ。
だけど、そうしてくれるから、俺もまだ混乱せずにいられるのかも知れない。
ブラックとクロウが何物にも物怖じしないオッサンで良かったと今だけは感謝して、俺はキュウマの背中に続いて歩き出したのだった。
→
※今回も二話連続更新です!スミマセン…(;´Д`)
三月中に第一部完結を目指しているため、これから連続更新が
予告なしに多発するようになります…そうしないと間に合わなくて…
ほんま申し訳ないのですが、ここからは特に○話連続更新
などとは明記しませんので何卒ご了承ください…
(ツイッターでは○話連続とかちゃんと言います)
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