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神域島ピルグリム、最後に望む願いごと編
9.気付かなかったフリをして
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「では、まずは試運転と言う事でこの砦を【白壁香】で覆ってみる」
「おう頼むぞ坊ちゃん」
マグナと艦長達がなにやら実験を行っている声が外から聞こえる。
しかし俺はと言うと何だか……今日は、何をやっているのか聞きに行くほどバカになれなくて、ずっと厨房に籠ってバターを作るべくシャカシャカと筒を振っていた。
「はぁ……」
頑張って振ってるんだけど、中々バターっぽくならない。
バロ乳を原料として脂肪分を代用するカンランの実の汁(オリーブオイル的な物が青いクルミの実の中に入っている感じ)を足して、ずーっと振ってるんだけど、俺の力不足なのかそれとも昨日の酷いえっちが響いているのか、ちっともバターになってくれなかった。はぁ、これじゃあ携帯食もロクに作れん。
「ここにロクやリオル達を呼べたらなぁ……。まあ、イカちゃんが途中から付いて来る事が出来なくなったから予想はしてたけど……ここも神族の島と同じ【モンスターを召還できない島】だったとはなぁ……」
さっき何度も試したので実証済みだ。
進化したロクショウはもちろん、リオルとマーサ爺ちゃんは完全にアウトで、藍鉄もダメ。頼みの綱のペコリアも出て来れない感じだった。最終手段である柘榴の根付けも試してみたんだけど、握った瞬間に「あ、呼べないな」と確信してしまった。
どうやらあの蜂龍さんから貰った根付けは召喚珠とは少し違う物らしい。
双方の意志がなんとなく分かる……テレパシー機能みたいな物があるんだろうか。まあ、どちらにせよ龍の眷属としてはまだ赤ちゃんの柘榴を戦闘に参加させる訳ワケにも行かないから、呼び出せなくて良かったとも言えるんだけど……。
とにかく、今俺には補助してくれる存在が誰も居なかった。
だからこんなに憂鬱なのだろうか。そう考えて――首を振った。
いや、そうじゃない。俺の気分がこんなに落ち込んでいるのは……よく、分からなくなってしまったからだ。
「…………マグナ、どうしたんだろう……」
そう。今朝からそうだった。
食堂で顔を合わせてからと言う物……なぜかマグナは俺の挨拶に返答せず、それどころか無視するように顔を背けて、以後ずっと喋ってくれなかったのだ。
……最初は俺も「気分が悪いのかな?」とか、徹夜してあんまり話したくないのかなとか思ったんだけど……出した朝食は普通に食べてくれたし食器も自主的に下げてくれたので、気分が悪いんじゃないと思う。
だけど、全然目を合わせてくれないし話しかけても黙ったままだし悪い時にはビュンと逃げるしでもう、これはもう、どうしたら良いんだよ。
俺何かした!?
何かしたなら言ってよ頼むから言ってよおお!
嫌われたならハッキリ言ってくれた方がましだよ、でもどこをどう嫌いになったのか言われないと、そんなの自分じゃ一生気付けないよ、だって俺なんでマグナに急に避けられてるのか解んないんだぞ!?
なんだ、俺マジで何したんだ、あれから気絶した後にアホなことしたの!?
いやでも俺夢遊病なんてケは無かったはずだし……うう……。
「…………ハッ! さては……俺がブラック達とえっちした事がバレてて、気持ち悪く思われちゃったとか……」
筒を振る手に力が入る。そうだ、ソレがあったじゃないか。
昨日、俺はオッサン二人と「曜気を分け与える」という大義名分のもと、半ば強制的にえっちをしてしまった。そのせいで朝起きるのがちょっと遅れたが……まさか、そのせいでマグナは気付いたってのか。
いやでも有り得る。そんで「この緊急事態に性欲発散とはけしからん!」って思って物凄く怒っているのかも知れない。俺なら怒る絶対怒る。だって正論だもん。
「うあぁああ……やっちまった……そうかそういう事だったのか……」
思わず手の中の筒を落としそうになって必死に握り締める。
つーか、考えてみりゃあそれしかないじゃないか。
ブラックは……そ、その……毎回綺麗に後処理してくれて、それは凄く感謝してるし自分でも情けないなと思ってるんだけど、でもその、時々キスの痕とか付けるから、一応起きた時に確認したけど、今回は見える場所には付けてなかった。
クロウも噛み痕を付けてなかったから、大丈夫だと思ってたんだけど……でも、体にアトが無かったからって、解らないって事は無かったんだよな。
そりゃそうだ。別の場所で寝て、しかも俺だけ遅れて起きたんだ。
解る奴には解るだろう。つーかコレだと他の人にも気付かれてない!?
大丈夫!? 大丈夫だよね!!
「あぁああ……本当あのオッサンどもぉおお…………」
いまブラック達は研究に協力と言う名目で外に出ているが、改めて考えると本当にアイツらの性欲にはムカつくほどに振り回されてばっかりだ。
くそう、昨日ブラック達が抑えてくれさえすれば、マグナに「不潔よ!」って嫌われずに済んだかもしれないのに……!
……いや、ちゃんと拒めない俺も悪いんだけど、でも力の差って物がありまして。
しかもデカい図体の男に二人掛かりで襲われて、俺が逃げられると思う?
ねえこれ俺が悪いの。俺が悪いの!?
ああでも実際マグナは俺を避けてるしぃい……。
う、うう……そうだよな……こういう時にキチンと言えないから悪いんだよな。
マグナだって、プレインで俺に散々説教くれるほどだったんだし、俺がしっかりして居ないから、こうしてブラック達にしてやられるんだろう……。
「はぁ……でも、どうやって謝ったらいいんだろう……」
俺がすぐに謝りに行っても、マグナは許してくれなさそうだよな。
アイツ結構そういう所は潔癖っぽいし、あの説教だって前に同じような事が有ってそれに対してのモンだったし。二度目はやっぱり無理なのかな。
でも不快な思いにさせたのは俺なんだから、謝らない訳にはいかないよな。
ああ……せっかく出来た友達を自分のスケベさで失うなんてバカ過ぎる。
友達のセックスなんて誰だって想像したくねえっつの、醸し出されたくねえっつの! それは俺だってイヤと言うほど解っていたはずなのにぃいい……!
「――――っ!」
思いきり懊悩しながらそれでも筒を振っていると、外から「おおお!」という大勢の歓声が聞こえた。何か上手く行ったのだろうか。でも俺には見に行く勇気が無い。
またマグナにあしらわれたらと思うと、怖くて近づけなかった。
「…………あ……ちょっとだけバター出来てる……」
悩みながらも一心不乱に手は動いていたのか、俺の腕力でもなんとかバターの塊が作り出せたようだ。その事に少し安心して、粛々と次の材料作りに取り掛かった。
せめて食事だけは、満足のいくものを食べて貰いたい。
……俺には今の所これしか出来る事が無いから、頑張らなければ。
でも、それも自己満足なんだけど。
「…………あーもう駄目だ駄目だ! こうなるのはダメだって解ってるだろオレ!」
ぶんぶんと頭を振って、ドンと筒を置く。
ちょっと中からバター液が零れたが、それがナンボのもんじゃと俺は顔を上げた。
そう。俺はもう一人でウジウジ悩むのは止めたはずだ。いや、ちょっとそこまで行けてないな。努力しようと思ったはず。だから、こういうのはイカンのだ。
つーか、俺は学んだじゃないか。相手と話し合わないと決着しないんだって。
それを実行したから、俺は今……その……ぶ、ブラックと、こっ、こ、婚約、とか……しちゃう所まで、行けたワケで……とにかく前に進めたんだ。
だから、マグナとも面と向かってきちんと話し合うべきなんだ。
悪いのは俺だから、マグナが絶交したいと思っていてもそれは仕方ない。だけど、それも話し合わないと解らないはずだ。マグナがどうして欲しいのかも、このまま顔を背けあったままでは分かりようがない。
とにかくまずは、会話だ。
ウザいと思われても会話をちゃんとしなければ……!
「よし、そうと決まったら何かきっかけを作ってマグナと……――――」
「俺がなんだ」
「んぎゃぁあ!?」
おおおおおおお!?
ちょっ、こっこここ声びっくりしたんですけど、なにっなっ、まっ、マグナ!?
いつの間に食堂に入って来たのなんで一人なのなんで居るの!?
「お、おい、そんなに驚くな。すまん、正面口から入って来たんだ、おいそんなに驚くな悪かった、俺が悪かったから」
「ひひひひぃい、い、い、いやだいじょうぶ……っ、って、正面口って……」
バツが悪そうに俺に謝るマグナは、そう言えば確かに少し遠い場所に居る。
厨房横の裏口じゃなくて、廊下に繋がっている扉のない入口に立ってるんだ。
って事は間違いなく正面口から入って来たって事だけど……あそこって、現場検証とかが必要だから、そのままにしてたんじゃなかったっけ。
なのに、マグナ……。
「そんな顔をするな。……もう大丈夫だ。一日経てば冷静に見る事が出来る」
俺はいつの間にか分かりやすい顔をしていたようで、マグナは苦笑して俺の方へ近付いてきた。その様子は、昨日と同じだ。朝の気まずさは欠片も無かった。
でもその事が何だか妙に思えて、俺は少し遠慮しながらマグナの方に向き直る。
「あの……マグナ……」
まず、謝らなきゃだよな。でもどう謝ろう。直球だとヤバいよな。
どう切り出すか困っていると、相手は苦笑したまま俺の目の前に立つ。
見上げた表情は、なんだか「仕方ないな」とでも言っているようなものだった。
「…………謝るのは俺の方だ。すまなかったな」
「え……」
「朝からよそよそしい態度を取ってしまってすまなかった」
あ、やっぱりその事を謝ってたんだ。
でも、どうして。何故マグナの方が謝るんだ。俺の方が悪いんだろう?
何だかワケが解らなくなってきて、どう言葉を切り出したらいいのか混乱してきた俺に、マグナは微苦笑したまま頬を掻いた。
「お前は悪くない。……言っただろう、自分が悪いと考えるなと」
「で、でも、俺……その……朝、遅れて来たのに怒ってたのって……あの……」
そういう、事だよな。
マグナは俺が昨日の夜何をしてたか知って怒ってたんだよな?
恐る恐る相手を見上げると、マグナは「否定もしないが肯定もしない」と言う感じで、ただ俺を見つめて首を振った。
「怒ってたんじゃない。いや、まあ……あの中年どもに腹が立ったのは事実だが……お前に悪い感情は抱いていない。むしろあの態度は俺の失態だ。お前に対して、凄く子供染みた態度を取ってしまった。……本当に、申し訳なかった」
「マグナ……。い、いや、マグナが悪いんじゃないよ! 俺がキチンとしてないから、不快な思いをさせたんだし……とにかく、俺もごめん。……本当にごめんな」
「ツカサ……」
マグナの顔が、少し歪む。なんだか悲しそうな表情だ。
心配になって思わずマグナの腕を掴もうとすると――――マグナは、俺よりも先に俺の腕をぐっと掴んでいた。
「ま、マグナ……?」
「……ツカサ。頼みがある」
「頼み? 俺に出来る事なら……」
何だろう。でも、頼んでくれるって事は、もう怒ってないって事だよな。
だったら、俺に出来るコトなら何でもやるぞ。今は出し惜しみしてる時じゃないし、何よりマグナの役に立てるんならそれだけで嬉しいからな!
何でも言ってくれと鼻息荒くマグナの顔を見た俺に、相手は何故か少し視線を泳がせると……俺の両肩を掴んで、顔を少し近付けて来た。おお、近い。
相変わらず美形な顔だなと思う俺に、マグナは言い難そうに告げた。
「俺にも……気を、与えて欲しい」
「え……」
気って……曜気の事? いや大地の気って事もありえるよな。
まあブラック達以外の人に気を送った事は何度も有るし、たぶんマグナにも送る事が出来ると思うけど……でも、何でだろう。
あ、もしかして今朝完成したって言う【白壁香】に関係してるのかな?
その俺の予想は当たっていたようで、マグナは小さく頷いた。
「今朝完成させた【白壁香】は、アレ単体では動かせない未完成品だ。本来ならば、改良を加えて【水琅石のランプ】のように誰にでも使えるようにしたかったんだが、今は動金機関の応用で金属に特殊な液体を……いや、これは説明しても仕方ないな。とにかく、アレを稼働させ続けるには使用者の気が必要なんだ」
「だから、えーと……俺が持っていればいいの?」
だって、今の説明だとそう言う事だよな。
しかしそれは間違った答えだったようで、マグナは首を振った。
綺麗な銀髪が揺れて、赤い瞳がじっと俺を見る。その視線は、何故だかいつもより真剣な感じがした。
「あの曜具は、俺でなければ白煙を出すように調節できない。……だから……お前には、常に俺の傍を離れずに金の曜気を送り続けて欲しいんだ。……他の奴に曜気を送る事が出来る【黒曜の使者】のお前なら、可能だろう」
なるほどそう言う事か。
つまり、マグナでないと微調整が効かないから、他の奴に任せられないんだな。
しかも話の流れからすると、その【白壁香】はかなり曜気を消耗するらしい。
そんなモンに気を流し続けていたら、曜気欠乏になってしまう。それを防いで出来るだけ長い時間森を移動できるようにしたい。だから、俺が必要ってワケだ。
だったら俺の返答は決まっている。
「そういう事なら協力するぜ! 移動中はマグナの傍にいればいーんだな?」
張り切ってそう言うと、マグナは少し頬を緩めて頷く。おお、嬉しそうだ。
きっと燃料切れの心配が無くなって嬉しいんだな。あっ、そうか、その心配も有ってマグナは今朝不機嫌だったのかな? なーんだ、良かった……!
だったらやっぱり謝らなくても良かったのに。誰だって機嫌が悪い時ってあるし、俺が悪くないなら謝る必要なんてないよ。
「……ふ……。お前は本当に分かりやすいな……」
「え? あっ、俺また変な顔してた……?」
マグナに掴まれた肩を動かして、顔を手でぺたぺた触る。
うーんマヌケ面ではあるけど、何か変な顔してたのかな……。
よく解らなくて悩む俺に、マグナは笑いながら俺の頭を撫で始めた。
「ちょっ……まっ、マグナ止めろって!」
「……本当に、変わらないな」
「?」
首を傾げると、マグナはクスクスと笑って更に頭を撫でて来る。
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でも頭を撫でるのはやめろ。
「…………ツカサ」
「な、なんだよ」
「あいつらが何と言おうが、俺の傍に居てくれ。……いいな」
「う、うん……」
そりゃあ、曜具の効果を継続させるためなら傍にいるよ。
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そうでなければ男が廃るってもんだ。
よし、マグナも怒って無かったし。曜具のお蔭でやっと出発できそうだし、順風満帆だな。そうと決まれば俺も料理に力を入れなければ!
戦場で大事なのはメシだ。体力確保の為に、上手い飯を作るのが俺の使命だ!
よーし、みんなのために美味しい飯を作るぞ、おー!
→
※次はわりと進みます
また遅れました申し訳ない……次こそリベンジ…!!
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追記:3.21
忙しさに落ち着きが見えそうなのでゆっくり更新再開します。需要があるかわかりませんが1人でも続きを待ってくれる人がいらっしゃるかもしれないので…。
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