異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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神域島ピルグリム、最後に望む願いごと編

7.考え思うは人の常1

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 物見櫓ってのは、登るまでが大変だけどその景色はかなりの絶景だ。

 元々周囲を監視するための物なんだから当然と言えば当然だけど、それでも実際ちゃんと登ってみると、思っていたより視界が開けた感じで息が漏れる。

 そも、この世界はあまり背の高い建物が無くて、異常な高層建築と言えば国境の砦というのが一般的な世界なので、山にでも登らないとこういう景色は見られそうにも無かった。村だって基本平たい場所にあるからそうそうこんな高い櫓なんて作られていなあいしなあ……。

 とにかく、それだけこの異世界は意外と視野が低かった。
 だからこそ、だいたい三階建てのビルくらいのこの櫓も充分高く思えるのだが。

「うーむ……こうしてみると本当ジャングルみたい……」

 思わず呟き、俺は自分に見える限りの場所を見渡した。

 存外に狭い櫓の上から見渡すのは、底が広いワイングラスみたいな島の全景だ。
 しかし……俺はグラスの事なんて良く分からないけど、このきっちりした円形とこの広さだと、俺的には古そうなレストランとかで良く見かけるプリンアラモードとかアイスクリームを乗せるグラスっぽい器にしか見えないんだけどなあ。
 ああ、そんな事言ってたらアイス食べたくなってきた。蒸すしなあこの島……。

 …………じゃなくて。ゴホン。それは置いといて。

 俺達が上陸したのが西側のグラスの縁だとすれば、ここはそれよりほんの少しだけ中心寄りって感じだろうか。だけど、中央にはまだまだ遠い。
 東の縁を塞ぐように切り立った場所から生えている岩山は何故か薄ら青く、そこのどこぞから水が湧き出ているようで、中央から少し外れた所を川が流れているのが見えた。アレが島から流れ出る滝を作っていたんだなあ。

 ううむ、改めて見ると本当に不思議な島だ。

「やっぱりここからだと異形の動きは解らないねえ」

 隣でそうボヤくのはブラックだ。もちろん、反対側にはクロウもいる。
 そう、俺達は今三人で改めて島の全景を確認していたのだ。
 ……なんでかっていうと、ヒマだからです。うん。

 マグナが「すぐに制作に取り掛かる!!」とか言って素っ飛んでっちゃったから、俺達はすべき事が無くなってしまったのである。で、まあ、休んでるだけじゃ何にもならないって事で、とりあえず自分達でも調査してみようと三人で櫓に登ったのだ。

 なので、ブラックも一応は真面目に異形を探してくれているというワケ。

「そもそもアイツらはニオイがしない。近付いて来て初めて気配が解る有様だ。あれではまるでゴーストか幽霊だぞ」
「まあ、倒せば全部消えちまうから、そうと言えばそうだけどな」

 こ、怖い事言うなよお前ら。ありゃオバケじゃないああいう生き物だきっとそうだ。
 そもそもあの異形達がクロッコが作ったものなら、変なのも当たり前じゃないか。

「く、クロッコが魔物を作り出す装置で作ったなら、奇妙でも仕方ないんじゃないの」

 ちょっとどもってしまったがそう言うと、ブラックはニヤニヤと笑いながら俺を見て、転落防止の柵に肘をついた。

「そだねぇ~。そうなるとオバケじゃないもんねぇ~」
「ぐっ……だ、大体、この島には最初はモンスターすらいなかったんだぞ! だったらもう、絶対にこれはアイツの仕業じゃないか」
「まあ……見る限り、あの異形どもは生物として成立していないように見えたな」

 そう、クロウの言う通りだ。
 モンスターだって、ウサギにツノが付いてたりモコモコしていたり色々な種類がいるけれど、そのどれもが不必要なパーツをごてごて付けていたりはしなかった。

 人っぽい足に無数の節足動物の足が無意味に生えてたり、不必要に無数の目を付けたりはしていない。もしそんな物が生えている存在だとしても、意志が有る存在ならば、その部位を何らかのことに利用していただろう。
 モンスター達だって、彼らなりに思考する能力は持っている。立派な生き物として、その特徴を利用し生きているのだ。そこが異形達と決定的に違っていた。

 だからこそ、余計にあの異形達の「おかしさ」が際立つのだ。
 まるで趣味の悪いコスプレみたいに、ただぶら下げて使いもしないその様が。

「にしても……あれだけの異形を作り出して、何がしたかったんだろうねぇ」
「え?」

 不意に呟いたブラックを見やると、相手は再び密林を見て目を細める。
 無精ひげだらけだけど、その横顔は憎らしいぐらいに雄々しく整っていて、俺は少し喉がギュッとなってしまった。……べ、別に、心臓がキュッとかしてないからな。
 えっと、それでなんだっけ。何がしたかったって話?
 そうだな何がしたかったんだろう。えっと……。

「……何がしたかったかって、どゆこと?」

 ちょっと今の状態じゃ考えつかなくて問いかけると、ブラックは横目で俺を見た。
 うぐっ、ちょっ、ひ、卑怯! ばかっそれ卑怯!!

「うん、まあ、別に分からないでもないんだけど……目的が見えないっていうか」
「回りくどいな。簡潔に言え」

 ブラックに対してだけは長話だと文句を言うクロウに、ブラックは少し不機嫌そうに眉を歪めて口を尖らせた。

「チッ……。要するに、あの“影”を作るために異形達という試作品が出来たのなら、あんなゴテゴテした形には最初からしないはずだし、何か他の物を作るためだとすると、何故あんな生物であるかどうかも怪しい物をワザワザ一から作ったのか物凄~く気になるなあってことだよ」
「……確かに……。でも、異形達で研究した結果、シンプル……簡素なのが一番だと気付いて影にしたとかありえるんじゃないの?」
「それも考えられるけど、だったらあそこで大量放出したのが解せないよ。いま襲って来ない事を考えたら、どう考えても影はアレで全部だったんだろうし……」

 えっ、そうなの?
 いやでもそうだな。確かに言われてみるとこの状況で影が出てこないのは変だ。

 もし異形達が「影」を作るための試作品だったとしたら、完成品であるあの影をこの時点で出してこないはずがない。だって俺達は戦うので精一杯だったんだ。
 もしこの場で影に襲われていたら、兵士達を守る事も出来なかっただろう。
 狡猾なクロッコがそこを抑えて来ないだなんて、なんだか妙だ。

 それに、アイツからすれば無限の気を創出できる俺は格好のエサだ。どう考えても襲わない手は無い。なのに、あれから影が出てくる気配は全くない。
 ……と言う事は……影がアレで全部だったとも考えられる訳で……。

「来たる時の為に温存しているのではないのか。【神域】に辿り着いて油断させた所に、一気に仕掛ける気かもしれんぞ」

 うむむ、クロウの言う事も一理ある。
 だが、ブラックは首を振ってそれを否定した。

「もし僕達の曜気を奪う為に影を残しているのだとしても、それなら尚更今の状況で奪いに来ないのは変だ。あの異形どもは完全に僕達を食い殺そうとしていた。そんな奴に追いかけられ続けていたら、誰か一人は必ず食われるだろ。あの厄介なクソ男がそんな予想外の損失を良しとするかね」
「それは……」

 どうなんだろう……。クロッコって、完璧主義なのかな……。
 そもそも俺、アイツの事なんてマジで何も知らないから何とも言えないよ。
 対面したのだってほんの数度だし、そのほとんどが今考えたら敵意バリバリの嫌味な上から目線で、ギアルギンの時でもクロッコの時でも俺をいじめてきたし……。

 …………普通、敵の性格とか考えるものなのかな。戦だと普通なのかな?
 策士とかそういう心理戦を駆使するらしいもんな。ううむ俺にはよく解らん。

「とにかく、僕にはあの異形は“影とは違う別の目的”で造られたようにしか見えないんだけどね……」
「別の目的とはなんだ」
「それが判れば苦労はしねえっての駄熊が……。だけど、とにかく一つだけハッキリしている事が有る。それは、アイツが“大地の気を欲している”ってことだ。……何を目的として集めているのかは解らないけど……あの異形達を見ていると、イヤーな予感はするよなぁ……」

 ブラックの顔が、少し笑っているような焦っているような感じに歪む。
 大人がする曖昧な表情だ。真剣な表情であるせいか、どこか緊迫した感じがして、俺は思わず唾をゴクリと飲み込んでしまった。

 嫌な予感。大地の気を欲する目的……。
 そういえば、未だにクロッコの本当の目的はよく解っていない。
 何のために動いて、何のために黒籠石を使って、何をしようとして恐ろしい【機械】を作り出そうとしたのかすら、今も謎のままだった。

 ……そっか。そうだよな。大地の気を奪って終り、じゃないんだ。
 奪ったからには絶対に何かに使うつもりだ。そうでなければおかしいんだ。
 だったら……何に使うんだ。アイツはどうするつもりなんだ……?

「…………まあ、今考えたって仕方がない事かも知んないけどさ。仮に【神域】に辿りついたとしても、楽観出来なさそうって事だけは覚えておかないとね……」
「…………」

 ブラックが見つめる森を、俺も同じように見つめる。
 鬱蒼とした森に遮られているので解らないが、この島の中央には間違いなく【神域】が存在するのだろう。

 だけどそこに存在する何かを思うと、また背中を怖気が舐めるようで堪らなかった。














※なんか進展なくて申し訳ない(;´Д`)次は色々あります

 
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