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曜力艦アフェランドラ、大海を統べしは神座の業編
28.貴方の全てを信じている1
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今回は三話連続更新です…
船は停泊しているらしく、揺れもあまり感じない。
今は凪だとマグナが言っていたけど、甲板に出てみると確かに波が動くような音は聞こえてこなかった。とはいえ、少しだけ風が吹いていて肌寒い。だけど、それほど肌寒くは無く、半袖でも十分に耐えられる気候だった。
そういえば、ここはもうプレインの領海なんだっけ。
国の境を数キロ越えるだけでこうも気候が違うのかと不思議だったが、それもまた異世界の……いや、そういう「設定」なのだと思うと、なんだか変な感じだった。
……俺はもう「神様ぶった奴が世界をそう設定した」って解ってるから、心が冷えるんだろうな。だけど、実際肌で退官すると、妙だとは思っても「そういうものだ」としか考えられなくて、なんだか頭がヘンになりそうだった。
現実に夢みたいな設定がくっついて存在しているなんて、異世界って本当に俺の世界からすれば奇妙だよな。
だけど、これがこの世界の当たり前なんだ。もしかしたら、俺達の世界の方が何もかも縛られ過ぎているのかも知れないとすら思えてくる。それもまた思考放棄なのかと考えたら、なんだかもうやんなっちゃいそうだった。
はあ……これも、思えば遠くへ来たもんだって奴だなあ。
「ツカサ、大丈夫か」
甲板に出て数秒ぼーっとしていたのか、マグナが心配そうに声を掛けて来る。
そういえば俺は今まで寝てたんだっけか。でも、マグナがゆっくり歩いてくれたお蔭で多少は体の自由が利くようになったので心配は無い。
大丈夫だと首を振って、少し先に居たマグナの隣に並ぶと、今もまだ少し心配そうな顔をしていた相手は少し微笑んでくれた。
「今は見張りくらいしかいない。……みんな色々と疲れたからな。交代で睡眠や食事を摂って、凶事に備えている」
「そっか……じゃあ、コソコソする必要はないな。あ、それで、イカちゃんは?」
「船首の方だ。お前のためなのか、ずっと前を向いて海を見張っている。……あれが守護獣でないというのが驚きだな」
えっ、イカちゃんこんな時間まで頑張ってくれてたの!?
慌てて船首の方へ足を速めると、そこには確かに水平線に浮かぶ島をじっと見続けている大きすぎる背中が有った。ああっイカちゃんごめん、ごめんよう!
「イカちゃん!」
呼びかけると、ずずずと音がして相手が振り返る。
と、思ったら、イカちゃんは急にぶるぶると震えはじめた。何事かと思った瞬間、徐々に目の前の大きな姿が縮んで行き……最後に、ぴょんと小さな影が船首に飛び乗って来た。それはもちろん小さくなってカトルセピアの姿になったイカちゃんだ。
「クィー!」
ぷるぷると体を震わせて自分の水けを取ると、イカちゃんは俺の方に跳んでくる。
慌てて両手を広げキャッチすると、イカちゃんは腕をスソソと登って来て、俺のほっぺたに小さくて可愛いお手手を当ててすりすりしてくれた。
あああむにむにしてて冷たくて気持ち良いぃい……!
「イカちゃん可愛い……最高すぎる……」
「おいツカサ、戯れるのも良いが話があるんじゃないのか」
「ハッ! そうだった! イカちゃんどこも怪我してないか、疲れてない?」
肩に乗っているイカちゃんを合わせた掌に移動させると、イカちゃんは素直にそこに乗って来る。そうして、俺の問いかけにぷるぷると頭を振った。
ンンー、猫の伏せた耳みたいな頭のヒレが動いて可愛いっ!
「クィー、クゥイー」
「お前の方を心配しているみたいだな」
不意にマグナが横から口を出して来たのに、俺はちょっと驚いてしまった。
「マグナ、イカちゃんが言ってる事が分かるのか?」
「いや、まあ、ほんのり……。というか、そのイカは判り易いだろう」
そうなのかな。改めてイカちゃんを見ると、彼はちっちゃくて可愛いお手手の役割の触手を、両方精一杯伸ばして俺の方に振っていた。
確かにー! たしかに解りやすぅい! 可愛さが解りやす過ぎてたまらんこれ!
……じゃなくて。ゴホンゴホン。イカちゃんは心配してくれてるんだから、大丈夫だと伝えなければ。
「俺はもう大丈夫だよ。イカちゃんも元気そうで良かった」
「クィー! クィッ、クィー」
俺の言葉が嬉しかったのか、イカちゃんは掌の上でぴょんぴょんと飛び跳ねる。
たこさんウィンナーレベルで触手が全部ちっちゃいから、どうやっても可愛いとしか言いようがない……どうしよう、さっきの大きいイカちゃんが本体だと考えたら、余計に可愛いとしか思えなくなってきたんですが……。
「……敬愛を示しているようだな。お前が海に居る限りは守るつもりのようだ」
「えっ、でも、このイカちゃんお父さんなんだよ。子供達の所に居た方がいいと思うんだけど……」
「それはそのイカの都合にもよるだろう」
そ、そうだよな。マグナは何となくイカちゃんの言っている事が分かるだけで、会話したりすることは出来ないんだ。
俺は改めてイカちゃんにその事を伝えると、イカちゃんはぷるぷると体を振った。
どうもイヤだと言っているらしい。んもー本当可愛いんだから!
……じゃなくて、そりゃ、一緒に居てくれるのは嬉しいけど……やっぱり、赤ちゃんが居るんだし、お母さんイカがいないんだから色々大変なはずだ。
これ以上迷惑かける訳にはいかないよ。
しかし、何度説得してもイカちゃんは聞いてくれなくて。
本当に恩に厚いイカちゃんすぎるぞと思わず涙ぐんでしまったが、しかしどうしたら理解してくれるんだろう。困っていると、マグナがさっきよりぐっと近付いてきた。
「…………」
「クィ」
イカちゃんの頭にそっと手を当てて、マグナはイカちゃんを見つめる。すると、イカちゃんの方もじっとマグナを見つめた。
もしかしてテレパシーなんだろうかと思っていると、イカちゃんが少ししょんぼりしたようにイカ耳のようなヒレを垂らして頭をちょっと項垂れさせる。だけど、俺に「クイッ」と両手を上げてアピールをすると、掌から飛び出して海に帰ってしまった。
「ああ、イカちゃん……」
「心配するな。あのクラーケンはお前がよほど好きなようだから、海に来ればいずれまた会えるだろう。……それに、今回はずっと船の周囲を見張るそうだしな」
「えっ……そ、そんな所まで解ったの!? マグナって、実はモンスターの言葉とか解っちゃう系の人……?」
そこまで細かく解るなんて、もうどう考えても動物言語スキルでも持っているとしか思えないんですけど。羨ましいんですけど!!
何故お前はそうも俺の欲しい物ばっかり持ってるんだと逆恨みで睨むと、マグナは呆れたような顔をしてポリポリと頭を掻いた。
「そんな物じゃない。……ただ何となく分かるだけだ。お前が普通はありえないくらいモンスターと仲良く出来るのと同じで、それ以外にはどうとも出来ん」
「それいつも言われるんだけど、仲良く出来るのは当たり前の事だろ? 仲良くしたいと思って接すれば、モンスターだって懐いてくれるんだって」
それに、俺だってモンスター全員と仲良く出来た訳じゃないぞ。
こっちを完全に敵視して来た鎧鼠ことミーレスラットや、かなり強敵なスライムとかは、全然話を聞いてくれなかったし凄まじい勢いで襲って来たからな。
ファイア・ホーネットもそんな感じだ。
相手が俺と対話しようとしてくれるから俺は仲良く出来るんであって、それは他の人でも変わらないだろう。俺が特別じゃないんだよ。
だけど、その俺の弁にマグナは難色を示す。
「それが出来んからお前がおかしいと言っているんだ。……モンスターの言葉が理解出来たとて、普通は仲良く出来るわけもないんだ。魔族だって、さっきのクラーケンのような純粋なモンスターとは相容れん事の方が多い」
「…………そういうもんなのかなぁ」
「お前に常識が無さすぎるだけで、そういうものなんだ」
「いでっ」
俺の言葉があまりにも非常識だと思ったのか、マグナが頭にチョップしてきた。
てめーこんちくしょう! 痛いだろこのっ!
とは思ったが、なんか友達らしいなと思うと不思議と笑みが込み上げてくる。
「なんだお前、急に笑って気色の悪い……」
「へへへ、いや、なんか……友達っぽいなあと思って」
「む……そ、そうか……」
なんで照れるんだよ。
あ、そっか。マグナはこういう事あんまりしないんだったっけ。
と言う事は、友達みたいな事をして照れちゃったのかな?
ふふふ、そうならそうと言えばいいのに照れ屋だなあこのイケメンは!
何だか微笑ましくてニヤニヤしながら暫し暗い海を眺めていると、不意にマグナが上を向いた。なんだろうかと釣られて空を見上げると……そこには、視界いっぱいに星が散りばめられた夜空が有った。
「おお……」
思わず声が出て、暫く瞬きをして眺める。
少し冷たい冷えた空気と、潮の匂い。風はそう言えば、普通の風とは違う潮風だ。
今更ながらに船の上に居るんだなと思っていると、不意にマグナが呟いて来た。
「……お前は、いつもあんな事をやっているのか」
「え?」
「今日の事だ。お前、普通なら死んでもおかしくない事をやっただろう!」
急にヒートアップした声で詰め寄られて、思わず声が引っ込む。
今日の事って……もしかして、タイダル・ウェイブのことか。
えっ、アレって死んでもおかしくなかったの!?
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追記:3.21
忙しさに落ち着きが見えそうなのでゆっくり更新再開します。需要があるかわかりませんが1人でも続きを待ってくれる人がいらっしゃるかもしれないので…。
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