異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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廃荘ティブル、幸福と地獄の境界線編

28.サプライズは相手の表情を見るのが本題

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 一体どうしたのだろうか倉庫に入ると……そこには、思わぬ光景が広がっていた。

「こ……これは……」

 昨日までは悲しさと忙しさで満ち溢れていた倉庫の雰囲気が、まるで違う。
 俺の目の前に広がっている光景は、昨日見た寝床が広がっている光景ではなく――その半数の人が起き上がり……なにやら、黄金の色をした光るたまを受け取っている、とても不思議な光景だった。

 これは一体……いや待てよ、あの光のタマには見覚えがあるぞ。

 そう思って目を細めた俺に、シアンさんは嬉しそうに笑った。

「うふふ、気が付いたかしら。そうよ、あれは神族の島・ディルムにだけ生えている【神霊樹】の実なの。……ほら、前に貴方がお姉様を救ってくれたでしょう? あの時みたいに、実を与える事で大地の気をおぎなって貰っているの」
「じゃあ……」
「ええ。目が覚めた人達に関しては、もう問題は無いわ」

 優しく微笑むシアンさんに、俺は思わず女神さま……! などと言いたくなる。
 だって、神霊樹の実って神族にとっては大事な物なんだぞ。それを大盤振る舞いで人族の患者達に振る舞ってるんだぞ。それに、シアンさんは大っぴらに言わないけど、これは俺が無理をしないようにって取り計らってくれたんだろう。

 それを思うと申し訳なくなるし、いっそ俺の自惚うぬぼれであればいいなとも思うが……そう考えてしまうのは自分が至らないせいもある。
 ううむ……しかし、素直に喜べない……。やっぱ、無茶してるっぽく見せちゃったのはダメだったなぁ……。

 シアンさんにまで動いて貰ってしまっては、男として立つ瀬がない。
 こう言う事は、人に心配を掛けず自分一人で立派にやりげるのが理想なのに。
 本当に俺は肝心な所でポカをやらかすんだからなあもう……。

 ……いや、でも、ここで落ち込むのもダメだな。
 今はシアンさんの御厚意に心の底から感謝して、俺は元気で無理をしないように、出来る事をやらねば。

「シアンさん……ありがとうございます!」

 再び気合を入れてシアンさんにお礼を言った俺に、彼女は笑みを深めた。

「あら、私は何もしてないわ。ツカサ君が今まで頑張ってくれたから、お婆ちゃんも出来る事をしなきゃって思っただけだもの。ふふ……」

 んんん、微笑みが美し過ぎる……美人はお婆ちゃんになっても美人だ……。
 俺ってば本当、こんな綺麗な人にお婆ちゃんとか甘えちゃって良いんだろうか。
 でもシアンさんがイイって言ったから良いよな!
 
 あっ、じゃあ、もしかしてあの美女モードでも甘えて良いってこと!?
 えっちょっと待ってどうしよう、俺興奮せずにいられるのかな。ヤバい。

 感動したら気が緩んだのか変な事を考えてしまう俺に、またもや背後から不機嫌な声が飛び掛かって来た。

「ツカサ君なに一人で先に行っちゃってるのさ!」
「ムゥ、オレ達が不届き者をシメている間に……」

 今頃来たのか。まったくもう、オッサン達はのんびりし過ぎなんだから~……っておい、不届き者ってガーランドの事か。
 乱暴にあつかうんじゃない、そいつ元気だけど病み上がりなんだぞ。

 慌てて振り向くと、そこにはガーランドにヘッドロックを決めたクロウと、不機嫌ですと言わんばかりに顔を歪めているブラックが立っていた……いや止めてあげて。

「く、クロウ、ガーランドは病み上がりなんだから、もうそれくらいで……」
「いや。下等な人族は上下関係と言う物を認識しにくいからな。二番目の雄たるオレより更に下層の雑兵であることを今ここで教えておかねば……」
「なんで雑兵にする前提なの!!」
「え? コイツをもう一回モンスターのエサにするって話じゃなかったっけ?」
「お前はもうちょっと他人を大事にしてあげてよォ!!」

 だからその人病み上がりだって何遍なんべんも言ってるでしょ!!

 クロウもクロウだけど、ブラックも通常運転過ぎてガーランドが不憫すぎる。
 そいつ前は小悪党だったけど、今はちゃんと更生しようとって頑張ってるんだよ。お願いだからもうちょっと優しくしてあげて。

「うう、お頭ァ……おいたわしや……」

 ほらもう子分達が涙ぐんでるじゃないか。
 せめて彼らの前ではボコボコにしないでやってよプライドズタズタだよ。

「とにかく二人ともやめろってば! また昏睡状態になったらどうすんだ!」
「そうよ、ほら、ガーランドさんはお医者さんに渡すから離してあげなさい」

 俺にガーランドを助けさせるとまた喧嘩になると思ったのか、シアンさんがナイスアシストで手伝いの人にガーランドを引き渡してくれた。
 ああ、こういう風にスマートに人を助けられる大人になりたい。

「さて……とりあえず、するべき事をしてから話をしましょうか」
「そ、そうですね。……と言う訳で、お前らも手伝えよ!」
「えぇ~」
「ム、解った。オレはツカサを手伝うぞ」

 嫌がるブラックと、張り切った雰囲気で無表情ながらフンスフンスと鼻息を鳴らすクロウ。……こんな感じだが、上手く手伝ってくれるからムカツクんだよなぁ。
 色々と思う所は有ったが、俺もグッとこらえてまずは“黒い竜巻”を全ての人から取り除く事に注力する事にした。

 昨日はアクア・ドロウの加減が解らず一度や二度失敗する事も多くて、無駄に力を使ってしまっていたが、今日は違うぞ。
 渦を打ち消すように中心に力を入れつつ吸い込めば、驚くほど小さな力で竜巻を黒籠石に閉じ込める事が出来るって解ったんだ。この感じなら、今日は絶対にフラフラにならずに完遂できる!

 そんな訳で、俺は今日も支給された黒籠石を使って、残りの昏睡病患者から竜巻を吸い上げて行った。今回は慎重に、力を使い過ぎないように。
 回を増すごとにブラックとクロウの刺すような視線が強くなるのが困りものだったが、しかし俺は何とか力をコントロールし、残りの人達の竜巻を封印し切った。

「ふぅ……っ。なんとか全員取り除き切ったぞ……」

 あとは、医師の人達に託すだけだ。
 ずっと遠巻きにして俺達を見ていた医者っぽい白衣の集団に、手を上げて「こっちに来て下さい」とアピールしようとしたのだが……ブラックとクロウが俺を遮った。

「よしっ、終わったらシアンの所に行こうねツカサ君! さあ行こうっ」
「あとはアイツらが何とかしてくれるだろう」

 えっ、何、なんで俺抱えられて移動させられてんの。
 ちょっと倉庫から出ないで。人ごみ掻き分けないで。
 最後の仕上げなんだから医師の人達に託させてくれよ。画竜点睛を欠くだよ。

「な、なんで抱えてんだよ! 離せって!」
「ヤだよ。だってアイツらずっとツカサ君のコト見てたんだよ!? 絶対ツカサ君を視姦してたんだよ!! ああいやだっ、そりゃ苦しんでるツカサ君はヤらしくて最高だけどこんな時に視姦するなんてっ!」
「そりゃお前だけだ!!」

 アホな事を言うなと怒ると、並走していたクロウが無表情でキリッと眉を上げる。

「まあそれは冗談として、アイツらはツカサの口伝くでん曜術を珍しそうにみていた。目で盗もうとしていたのかも知れん。そんな不届きな輩は無視するに限る。それに、あのままだとツカサが質問攻めにされていただろうしな」

 あ、そうか……この世界では、オリジナル魔法……口伝曜術ってのはその人だけの術だから、覚えるにしても師事を乞わないといけないんだっけ。
 俺は今まで、誰かにオリジナルの曜術を見られて何かを思われるなんて事なかったから、その事をすっかり忘れてしまっていたな……。

 っていうか、ブラックとクロウが規格外過ぎて俺の曜術も「へぇ~すごいね!」としか言わなかったしなあ。あれ、実は俺達っておかしいのか……?
 いやでも別属性の曜術なんて覚えられない訳だから、そういう反応になっても変じゃないのかね。ううむ、よく判らん……でも、面倒事にならずに済んで良かった。

「とりあえず……ありがとう……?」
「疑問形」
「疑問形だな」
「ああもう、ありがとうございました!」

 だーもーこんちくしょうっ。こういう時だけ細かいんだから!
 つーかもう港に出てるんだからいい加減俺の事を荷物にすんな、離せ!

 一発暴れてやろうかと思いきり体を大きく膨らませようとする、と。
 波止場ぎりぎりの所に立ってこちらに手を振る人影が見えた。あのほっそりして、立ち姿だけでもう美女だと解る影は……シアンさんだ!
 と思ったら、横からエネさんが歩いて来る。なんか喋ってるな。

 どうしたんだろうと俺達は三人で顔を見合わせたが、近付いてみる事にした。

「ああツカサ君! みなさんを救ってくれて、本当にありがとう!」
「さすがはツカサさんです」

 えへへ……美女二人に褒められるとまんざらでもないなぁ。
 褒めて貰うためにやったワケじゃないけど、やっぱ美女にねぎらわれると良い事やって良かったぁってなるからイイコトはやめられないぜ!

「ツカサ君……」
「何故オレ達が褒めてもそう照れない」
「へぇへへ……え、えーと、それでお話ってなんですか!!」

 こういう時は話を流すに限る。
 背後で何か恐ろしいオーラを垂れ流してくるオッサン達を見ないようにしながら、シアンとエネさんを見上げると、シアンさんはクスリと笑った。

「うふふ、その前に……まずは、あちらを見て」
「え……?」
「なんだよ勿体もったいぶって……」
「ムゥ?」

 シアンさんが手を向けるのは、波止場から先の海原だ。
 何があるんだろうかと三人でアホ面をしながら頭を右へとむける、と。

「……え?」
「な……なんだ、あれは……!?」

 俺の声とクロウの驚いた声が同時に出る。
 だが、それも仕方のない事だった。

「あれが……今回話すことの重要な要素なのよ」

 どこか悪戯っぽく言うシアンさん。
 けれど、残念な事に俺は美しかったであろうその表情を見る事が出来なかった。

 だって。
 だって、俺達が見た、港の先に在る大海原には――――



 鋼によって武装した、青い光を放つ美しい戦艦が停泊していたのだから。













※と言う訳で、次回は新章です。
 新年度前までに第一部完結ということで残りも少なくなってきましたが
 きっちり一区切りしますのでよろしくおねがいします!(`・ω・´)

 
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