異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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廃荘ティブル、幸福と地獄の境界線編

27.頑張りすぎてもいけないらしい

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   ◆



 【アクア・ドロウ】――簡単に言えば、体内の悪いものを吸い取って、別のうつわなどに移し替える術だ。特に詳しい所まで決めてなかったけど、恐らくこの術の基本的な能力は、置換と言う部分にあるのだろう。

 この黒い竜巻がどんなモノで、どういう原理で出来ているのかは俺には判らないが、それでも今はアクア・ドロウの効果を信じるしかなかった。
 とにかく、出来る事をしなきゃって思ったんだ。

 だから俺は、クロウの時に出来た事を再現しようとした。
 呪い……のような物を吸い取る事が出来たんだから、これもイケるはずだ。

 そんな俺の願いにも似た思いは、幸いながらも昇華される事となった。
 早い話が、ドンピシャで予想が的中したのである。

 本当は一か八かの賭けだったんだけど、俺の緊張とは裏腹に【アクア・ドロウ】と黒籠石こくろうせきは簡単にガーランドに巣食う竜巻を吸い込んでくれた。
 むしろ黒い竜巻よりも威力があるのか、黒籠石に引っ張られて逆に渦を巻きながら消えてしまうほどで。……これは……俺の術の方が勝ったてことだよな……?

 ということは、俺は強い、チート主人公並に強いってことのはずだ!
 ふふふ。そう、俺は圧倒的強者なのだ!

 そうと解れば早い物で、俺は黒籠石が供給されるはしからどんどん昏睡こんすい状態の人達を呪いから解放して行った。もちろん、体力はズリズリと減っていくんだけども、俺がみんなを救えるんだと思ったら、そんな事はもう言っていられなかった。

 俺は後で完全回復するんだから問題ない。今はみんなを助けるんだ。
 早くしないと、手遅れになる人も出るかもしれないし、だから、頑張らないと。

 それに、仮にみんなの「黒い竜巻」を取り除けたとしても、俺にはまだまだやる事が有る。いまだに眠り続けている人達が早く回復できるように、大地の気を供給して元気にしてやらなければ。ガーランドもまだ目が覚めてないんだしな。

 シアンさんが言うように、防衛するための人員が足りないからってのもあるけど、俺は目の前で眠っている人達の家族や仲間が心配しているのを見てしまったからな……。出来るなら、なんとかしてやりたかったんだ。

 ……だけど、俺も意外と根性なしだったのか、半分ちょっとの数をアクア・ドロウで救った時点でもうヘトヘトになってしまって、シアンさんその他大勢からドクターストップが掛かってしまった。
 俺としては、あと三人くらいはイケるつもりだったんだけど、ガーランドの子分達まで「もういい……ッ、やすめ……ッ!」みたいな感じで俺を止めるので、それ以上倉庫に居られなくなってしまった。

 ガーランド達の経過観察もしたかったのに……と俺は内心納得が行かなかったんだけど、ブラックとクロウが怖い顔をして俺を抱えていたので、多分俺が思った以上に俺は疲れた顔をしていたのだろう。
 こういう時って、顔に出る体質は不利だ。ここでポーカーフェイスを出来てたら、俺も格好良くギリギリまで人を救えたかもしれないのに。

 でもまあ、ブラック達に心配させるのも悪い事だもんな。
 むしろ、大人ってのは自分の体調管理がきちんと出来ている奴を言うって聞いた事があるし、だったら俺はこの事に文句を垂れる筋合いはないのかも。
 でもなあ、限界までやる奴って格好いいと思うんだけどな……人に心配を掛けたくないけど、俺だって出来る限り格好良く立ち回りたいよ。人に心配されずに人を救う方法があればいいんだけどな。そんな都合のいいことなんてないか。

 ……ま、とにかく、こうなってしまってはどうしようもない。
 今は、ブラック達に迷惑を掛けないようにしっかり休む事が大事だよな。

 シアンさんが言うには、重傷の人達は俺が全員助けられたらしいので、他の人達は明日俺が回復してから作業を再開する事になった。
 俺には重傷の度合いが解らなかったけど、ずっと付きっきりで解放してくれていた医師団の人達が言うんだから、きっと間違いはないんだろう。

 そうとなったら、俺も一刻も早く休んで気力回復しないとって事で、早めに夕飯を済ませて宿屋の部屋にしけこみ、俺は今夜もオッサン二人に挟まれての就寝となった。オッサンの胸板で挟まれて眠るのは何度目なんだろう。
 なんかもう治るものも治らないような気がしたが、けっこう疲れていたらしい俺は何も言えず、その日はぐっすりと眠ってしまった。



 そして今日。
 たっぷり睡眠をとって朝食も美味しくいただいた俺は、昨日のように……とは行かなかったけど、そこそこ体力も回復して再び動けるようになっていた。

「ん~~~っ! よしっ、今日はさらいそがしくなるぞ……!」

 外に出て上体をぐりぐりと左右に回したり、腕を上げたりして運動しながら、俺は今から始まるデスマーチに備えて気合を入れる。

 外に出て見上げる空は今日も晴れていて、港へ続く大通りも相変わらず人っ子一人いないような有様だった。ううむ、やっぱり寂しい。だけど、今日たくさん頑張れば、みんな助かるかも知れないんだ。アクア・ドロウだけじゃなく、大地の気を全員に注入し切るためにも頑張らなくちゃ。

 …………しかし、俺の背後にひかえているオッサン二人は気合が入らないようで。

「ツカサくぅぅん、もうやめようよぉ……ツカサ君が無理する必要ないってばぁ」
「人を助けたい気持ちは解るが、少し頑張り過ぎだぞツカサ……」

 振り返ったそこには、あきれたようなゲンナリしたような顔で肩を落としたブラックと、悲しそうに耳を伏せてしかられたワンコのようになっているクロウがいた。

 対照的な格好だが、なんか大柄なオッサン二人がそんなカッコをしいてるのは、ちょっと面白くないでも……ゴホンゴホン。
 ま、まあ、二人とも俺を心配してるんだよな。昨日はちょっとやりすぎたから。
 でも、これは俺にしか出来ない事なんだ。止めてくれるなお二人さん。

 せめて元気いっぱいな姿を見せて安心させなきゃなと思い、俺は両腕を曲げてムキムキさせると、男らしい引き締まった顔で大丈夫だと見せつけてやった。

「大丈夫! 残りは半分だし、大地の気を渡すのは何度もやって慣れてんだ。今度は休憩も挟んで体調管理しながらやるから心配すんなって! ホレ、今日は昨日とは違って元気バリバリだしさ!」

 見てごらん俺のこの元気さを。ストレッチパワーがみなぎっているだろう。
 そんな自信満々のポージングだったんだが、オッサン二人はと言うと、肩どころか状態をガックリと落として心配そうに顔を歪めてしまった。

「ハァ……だからさぁツカサ君……」
「そういう所が心配なのだ……」

 なのだと言われても困る。何でコレで心配になるのだお前らはなのだ。

 俺がこんなに心から元気アピールをしていると言うのにと不満に思いつつも、大人しくなったオッサン達を引き連れて俺は再び倉庫へと向かった。

 しかし実際、倉庫の中には百人くらい確実に居たような気がするんだけど……その全員に大地の気を与えるとなったら、俺はどこまでやれるんだろう。
 今までは一人一人に毎回全力で気をそそいでいたけど、多人数に渡すとなると……うーむ、ここはやっぱり調整が必要なのかな。一人にあげ過ぎても無駄になるよな。

 怒涛どとうの勢いでやったら、俺の許容範囲も解らなくなるし……最初は小出しにして、時間を測って貰いながらどのくらいの量が必要なのか確かめた方がいいかも。
 人によって差は有るかも知れないけど、確かめた方が俺も制御しやすいよな。
 それに、無駄打ちして体力を減らさずに済むかも。よし、到着したらシアンさんに進言して手伝って貰おう。

 そんな事を思いつつ、今日も人だかりが出来ている倉庫へと近付くと……。

「あっ!! 救いの少年だ!!」
「本当だっ癒しの少年だあ!」

 …………ん?
 なんか違和感あり過ぎて耳からすっぽぬけるような言葉が聞こえたんだが?

「いやしのしょうねん?」
「まあ確かにツカサはオレの癒しだが」
「いやらしい少年じゃなくて?」

 うるさいそこのオッサンども。
 ちょっと待って、この感じ……もしかして俺ってば崇められてる……っ!?
 しかも女神とかじゃなくて普通に少年って言ってくれてる! あれっ、これはもしかして、今度こそ正当なチート主人公評価を受けて女子にモテモテという展開では!

 頑張って純粋な思いで人を治そうとした俺に、神様がついに幸運をくれたのか!?
 最初はそんなつもりは無かったのだが、おだてられるとお調子者の俺って奴はすぐに嬉しくなってしまって、思わずどんどん足が進んでしまう。
 いやぁ、みなさんの輝いた目がまぶしいですなあ。へへ……そんなつもりはなかったけど、やっぱり喜んで貰えるのは気分が良いや。

 俺に向かって称賛と感謝の声を上げてくれる人だかりに、手を振りながら近付いて行くと……その中から、ドスドスドスと何か物凄い轟音が聞こえて来て、俺は思わず立ち止まった。な、なにあの音。象の足音みたい。

 何が起こっているのか解らず立ちすくむ俺の目の前で、今度は人だかりの中の人達がワーワーと声を上げながら宙に巻き上げられて吹っ飛ばされていく。
 そのたびにドスドスという音が近付いてきて……あれっ、コレもしかして何かが俺に突進して来てるのでは……

「子猫ちゃぁああああん!!」

 ドスン、と目の前の人達が宙に吹っ飛ばされて、ついに俺の目の前に轟音の原因が現れる。思わず緊張した俺の真正面には……――目を爛々と輝かせた、屈強な美丈夫が……って、おっ、お前は……ガーランド!?

「えぇえ!? おっ、お前まだ眠ってたはずじゃっ」
「うおぉお俺のために一生懸命治療してくれたなんてっ、治療してくれたなんてっ! お前はやっぱり俺の花嫁だぁあああ!」
「ぎゃー!!」

 待て待て待て苦しいっ、抱き着くな死ぬっ間違いなく息が止まるぅうう!!

「この腐れ海賊ツカサ君に何しとるんだあああ!!」
「グルルルル!!」

 怒鳴り声と唸り声が聞こえるが、もうなんか意識が薄れてきた。
 ああ、何で俺ってば毎回男の筋肉で死にそうになってるの……。

「こらこら、三人とも落ち着きなさい! ガーランドさんもツカサ君を離して!」

 そう言いながら俺をむさくるしい腕から引き剥がしてくれたのは、老いても美しい美老女モードのシアンさん……あっ、あぁ、この優しい腕が嬉し過ぎるっ。
 お婆ちゃんはやっぱりどの世界でも俺を裏切らない……。

「シアンさんん」
「ああごめんなさいねツカサ君……痛くなかった?」

 よしよしと頭を撫でられて、思わず俺は気が抜けてしまう。
 今となっては恥ずかしくってしようと思わなかったけど、やっぱりお婆ちゃんに頭を撫でて貰うのはたまらなく好きだ。めっちゃ安心するし甘えたくなってしまう。

「おいコラシアン! バカは鎖で繋いどけ……っていうかツカサ君から離れろ!」
「ツカサ、今度はオレがナデナデしてやるからこっちに来い……」

 あーもー外野が怖い。
 シアンさんにひっついていたい。

「まったく貴方達と来たら……ツカサ君は疲れてるのよ。少しは自重なさい」
「ふぬぅ……シアン様、すんませんです……」

 意外にも、ガーランドが一番先に謝った。
 いや、意外でも何でもないか。この中ではガーランドが一番マトモだし……。
 ……あれ? でも、何でガーランドがこんなに元気なんだろう。

「シアンさん、ガーランドって、まだ大地の気が回復してなかったんじゃ……」

 大地の気が体の中を循環してないと、人は動けなかったんだよな?
 こんなに早く回復する物何だろうかとシアンさんを見上げると、相手は優しい笑顔でニッコリと微笑んで、俺の頭を再び撫でてくれた。

「ツカサ君が倒れる寸前まで頑張ってくれたんだから……私達も、協力しないとね。それに……貴方達には、急いでやって貰わなければいけない事が有るから」
「……?」

 何がどうなってるのやら。
 それに、俺達に急いでやって貰う事ってなんだろう。

 治療の他に火急の要件が出来ちゃったのかな。だとしたら、早く倉庫に行って残りの人達から黒い竜巻を除去しないと。
 そんな事を考えている俺に、シアンさんは微笑んだまま小さく首を傾げた。

「まあ、まずは倉庫の中へ。そうしたら何が起こっているのか解るから」

 そう言いながら俺を連れて歩きだしたシアンさんに、俺は素直について行った。
 ……なんか後ろで野太い声がブツブツ言っている気がするが、無視しとこう。












 
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