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廃荘ティブル、幸福と地獄の境界線編
17.可愛いけれど、節度も大事
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あいつらどうかしてるぜ!
……という台詞は一度は言ってみたい言葉ではあるが、実際に使う場面になると、その“あいつら”とは絶対に接触したくないと言う思いが湧いてくるから不思議だ。
漫画の中のサブキャラ達も同じ気持ちだったのかなと今更考えるが、あれはなんか普通にはしゃいでたから、やっぱり俺とは違う気持ちなのかも知れない。
とにかく今の俺は、はしゃぐよりも恐怖を感じていた。
……オッサンとオッサンの間に挟まれて眠りながら。
「………………」
むさくるしい。おっさんくさい。熱い。胸筋がキツい。控え目に言っても死ぬ。
久しぶりにオッサン二人に挟まれて寝た事でよく解ったが、俺はよくこんな地獄のベッドインに耐えられてたな。いつか死ぬぞこれ。
しかしよく考えたら、俺はこの数週間、良い匂いのするイケメンかオッサン一人と添い寝の生活だったワケで、それを考えるとオッサン・俺・オッサンの地獄のサンドイッチは視覚と嗅覚と触覚的にとても辛い物が有る。
五感の内三つがアウトなんてサバイバルでは死を意味するぞ。殺す気か。
それに、二人ともよっぽど対面のオッサンと触れ合いたくないのか、俺の足をそれぞれぶっとい筋肉質な足で絡め取ろうとしてくるもんだから、俺は必然的に身動きもとれず寝返りも打てずの開脚状態になってしまう。
これがどれほど寝辛いかお分かり頂けるだろうか。お蔭で体が痛い。あと昨日の……その、色々とあったヤツのせいもあって、体中が痛い……。
あーちくしょうっ、本当にこのオッサンどもは迷惑ばっかりかけやがって!!
とりあえず仲直りが出来たっぽいのは良かったけど、頼むから俺を床ずれ予備軍にするのだけはやめてくれよ。いつか死ぬってば本当に。
しかしそうは言えど、半ば気絶するように眠ってしまった俺もまた、そんな二人の行動にノーも言えないまま眠ってしまっていて……ううむ、いかん。いかんぞこれは。俺だって、ブラックの恋人……である前に、旅をする同じ仲間なんだ。
恋人だからと言って甘やかす訳には行かない。このオッサンは普通のオッサンとは種類が違うんだから、俺がしっかりしなければ……。
「う、うぐ……しかし動けん……っ」
「うにゃ~……うあひゃふぅぅん……うむぅ」
「グゥ……グゥウ……」
無理に動こうとするのだが、ブラックもクロウも俺の足を解放してくれない。
それどころか、筋肉質な足にぎゅっと力を籠めて更に拘束しようとしてきやがる。ええい離せよっ、お前ら本当に熟睡してんのか!?
「ううっ、ううう……! もおっ、お前ら……っ。バカ……ッ!」
ああくそっ、ちっとも動かない。
相変わらず真正面に見えるのは天井だけで、動かそうとした尻は嫌な感じに筋肉痛を患っており、これはこれで床ずれ以上にヤバい。
どうやって起きようかと息を吐いた俺に、両側から息が掛かってくる。なんで俺はこんな所でグースカ寝てたんだろう。
両側から、その……オッサンの吐息が……頬にぶうぶう噴いて来るし……。
「………………」
なんでだろ。ほんの数週間前なら気にもしてなかったのに、寝ている二人の吐息が違う事も、漏れる音が全く違う事にも、不思議と意識が向いてしまう。
獣のように静かで、だけど時々獣の声が漏れるクロウに……体全体を動かして息をするけど、寝言以外は静かなブラック。視界を動かして見やる二人の寝顔は、全てが閉じた大人の顔と、子供みたいにだらしなく口が開いて涎を垂らしている顔だ。
全然違う。けれども、こんなに近い二人の顔は……やっぱり、凄く悔しいけど……素直に、格好良かった。
……ずるいよなぁ、本当……。
こんなに理不尽でクズいオッサン達なのに、なんで顔だけは良いんだろう。やっぱ顔面偏差値高いと得だよな。だって、大概の事は許して貰えるしさ。
俺が涎垂らして寝てたらウエッて言われるだろうし、普通に寝てたって別にキュンともされないだろう。こいつらは顔が良いせいで許され度が高すぎるんだ。
やってることは普通に酷いんだからな、俺は怒ってんだからな!
だから、うう、やっぱりこれじゃいかん。
俺だってこのくらいの意真面目は解けるようにならないと。ならないっ、と……
「ぐ、ぬ……ぐぬぬ……! ぬ……ぬ、ぅう…………た、助けてぇ誰かぁ……」
うううっ、無理っ、やっぱ無理ですうこの筋肉レッグスうう。
ああもう俺ってば非力でいいです、いいから誰か助けて本当に床ずれで死ぬ。
「ん~……ツカサくん……ちゅっちゅぅ……」
「つかさぁ……」
「んんっ!?」
俺が脱出しようとモゾモゾするのに気付いたのか、オッサン二人がそれぞれ寝言を漏らしながら、より良い体勢になろうと動き出す。
双方から顔が近付いて来て、ブラックは俺の頭に埋もれ、クロウは胸の方へと頭を摺り寄せて来る。しかし、おかげで足の縛めが解けた。すぐにすり抜けようとしたが……がっちりと二つの腕に固定され、動けなくなってしまった。
それどころか、クロウは服の上から俺の胸をちゅうちゅうと吸い出してきて。
「ちょっ、ちょっとぉ!!」
「ツカサくんん……せっくしゅしよぉ……」
「わーっ!!」
ブラックが俺の股間に的確に手を伸ばして握ってきやがる。
おいっ、お前本当に寝てるのか!?
「ちゅかしゃくぅ……」
「ばかっ、あっ、ば、かぁ……っ!」
クロウのばか、そこ膨らんでないのに吸ってんじゃねーよ。ブラックのばか、何を的確につかんできてんだ! てかちょっと強い、手加減しろばかああ!
ああもう、こんな事されたら下手に動けないじゃないか。握り潰されかねん!
恐ろしい……と、思ってるんだけど……俺の声は、掠れてて、揉まれたりするたびに、声がぶつぶつ途切れてしまう。ちくしょう、どう考えても体がおかしい。
「も、もうっ……だめ、頼むから……っ!」
マジ、もう、出ないんだって。もう痛いんだってば……!
頼むから手加減してくれと呟くが、どうしようもない。二人は本当に眠っている。眠っていて、本能で俺を弄っているのだ。んな馬鹿な。おい、お前ら本当に人類か。
くそ……どうしよう、このままじゃ昨日みたいに丸一日えっち三昧になっちまう。
こういう時こそ男らしく「ノー」して怒らなきゃ行けないのに……!
「うううう……っ!」
痺れてあんまり動かない足をジタバタしてみるが、まったくもって動かない。
こんちくしょう、俺にもうちょっと筋肉が有れば動くのに動かないっ!
なんで俺はこうも非力なんだ。最早逃れる術は無いのか……と、思っていると。
「ビビッ」
唐突にベッドの横にあるサイドチェストに置いていたバッグが……いや、バッグの横に付けていた根付けの宝珠が光り……そこから、俺の可愛い柘榴ちゃんが、ポンと出て来たではないか。
「ざっ、ザクロ……!」
「ビ~」
あっ、今日の分の蜂蜜を届けに来てくれたのね。ありがとう~は良いんだけど、あっ、あの、お願い助けてくれませんか。
頼む頼むと泣き付くと、可愛く優しいおっきな蜜蜂のザクロちゃんは、苦心して俺をオッサンの檻から引きずり出してくれた。おお、細腕なのになんというパワー。やっぱしモンスターとか龍の眷属は人より力が強いんだな……。
「ビィー?」
「ううう、ありがとうザクロちゃん……」
不思議そうに首を傾げるザクロを抱き締め、ふわふわの白い襟巻に顔を埋めるが、柘榴は何だか嬉しそうにビビビと笑うだけだ。
ああ、ありがとう柘榴ちゃん……ギュウギュウに抱かれて苦しい所を見せたのに、抱き締められてくれてありがとう……もふもふは世界を救うぅ。
「ビ~、ビィー?」
「あっ……ええと……あのね、これは、その、オッサン達が添い寝したいって言ってね、決して俺がやりたかったわけじゃなくてね」
ヤバい、柘榴もオッサンにサンドされた俺は流石におかしいと思ったのか、今のは何をしてるんだと疑問を持ってしまったぞ。
とりあえず真実を話してみたが、理解してくれただろうか。このオッサンサンドは俺の望みではないんだ決して。
そんな必死の訴えを聞いてくれたのか、中型犬くらいの大きさの可愛い蜜蜂な柘榴ちゃんは、首をかしげてチカチカと大きなお目目の光を明滅させたが、やがて俺の首に抱き着いて来た。
「ビビィ~! ビビビッビビィ~」
「えっ……ザクロも一緒に寝たいの!? えへっ、えへへ、ザクロは本当可愛いなぁ~! そんな風にお願いされたら断れないよぉ」
「ビィ~!」
うへへ、やっぱり動物に懐かれるのはたまりませんなあ。
こんな風に不思議な可愛い子に懐いて貰えるのも異世界の醍醐味だよなあ。
ああ、そうだ。俺ってば、狭い空間に居過ぎてすっかり忘れてたよ。こういう健全かつファンタジーな触れ合いが異世界の真髄なんだって……。
「あ~~、そうかそうか、そんなに俺と一緒にぐっすりしたいんだな~!」
「ビビィ~」
キャッキャと喜んでくれる柘榴は本当に可愛らしい。
今日はこのまま柘榴と遊んで過ごしたいなあと思っていたのだが……柘榴は何かを思い出したのか、ハッとしたような動きをして一度体を離してしまう。
温かみがなくなって寂しい俺に、ザクロはもふもふの襟巻から何やら取り出した。
「ん? どしたのザクロ。これくれるの?」
「ビィッ」
掌にくれたのは、内部に白い煙が閉じ込められたかのような水晶玉だ。
よく判らないけど……これはもしかして蜂龍さんが届けるように言ったのかな。
「これ、蜂龍さんが?」
「ビィ~……ビビビィ」
柘榴の様子を見る限りは、蜂龍さんが持って行けと言った物で間違いないみたいだが、柘榴は詳しい事を聞いていないらしい。
どういう物なんだろうなあと首を捻っていると、ベッドの中で動く音が聞こえた。
そして。
「うおおおっ!? 離れろクソ熊!!」
「ぐおぉっ!? あっ、悪夢か!?」
ばっと音がして、左右から豪快に床に落ちる音が聞こえる。
何が起こったのかと振り返ると……そこには、ベッドを挟んでマヌケな格好で床に転がっているオッサン二人が……って、何が有ったんだお前ら。
「つ、ツカサ君! なんでベッドにいないのさ!」
「ツカサ、酷いぞ……お蔭でむさくるしい中年と抱き合うハメになった……」
「え……そんな愉快な事になってたの……?」
やだ、ちょっとのぞけばよかった。
素直にそう思ってしまった俺に、起き上がった寝起きのオッサン二人は何か恨めしそうに睨んでくる。おい待て、俺は何も悪くないぞ。
「ツカサ君~……婚約者の僕と離れようなんていい度胸だねぇ~?」
「ツカサ……オレは悲しいぞ……慰める為にオレに構え……」
…………。
えーと…………。
「ビィ~……」
そうだね柘榴ちゃん、ワガママなオッサン達だね。
でもね、困った事にこいつらを止める抑止力が俺にはないんだよな……。
いつまでこの家にいるのかは解らないけど……やっぱり、俺も二人とは特別な絆で結ばれてるんだから、男らしくビシッと怒れるようになったほうが良い気がする。
なんとか出来ないモンかな……。
そうでもしないと、俺本当にこの家に居たら搾り取られて死んじゃうかもしれん。
寝起きからギラつく二人の目を見ていると、そう思わずにはいられなかった。
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