異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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廃荘ティブル、幸福と地獄の境界線編

10.好きにされるのも

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 ここで暮らして、今日で何日目だろうか。

 一週間も経っていないのは解っているのだが、どうにもここ数日が濃すぎて、もう何週間もこの廃虚の集落に居る気がする。
 それだけ俺がここでしか生活していないって事なんだろうが、そろそろ俺としても外に出たくなってきてしまっていた。

 元々俺はアウトドア派だ。いやオタクだけど、外で遊ぶのも好きなのだ。
 自然に混じってウホりたい野生スピリットも搭載したオタクなのだ俺は。

 まあ家庭菜園も料理も思い通りにうまく行くから楽しいし、なにより今はブラックと気兼ねなく過ごせている訳だから、別にそこに不満は無いんだけど……でも、俺はやっぱりこの世界では冒険者なのだ。
 出来れば見た事のない景色を見たいし、探索だってやりたい。
 それが出来ないなら、せめて自然の中を散歩でもしたかった。

 でも、ブラックにはこの家を出るなと言われたんだよなぁ……。
 だから我慢しようと思ったんだけど、ずっと閉じこもって暮らしているからか、日に日にその欲求は膨らんでしまっていた。けどそれも仕方ないよな。俺はディルムに行ってからここまでずっと、外で何かしたって事がほとんど無かったんだから。

 まあレッドの所では少しだけ外出気分が味わえたけど、それだって森の中限定で他の場所には行かなかったしなあ。それに、あの時の頭が真っ白になってた俺は、景色なんて全く興味なかったし……。

 うーむ……ブラックとの約束を破りたくはないんだけど、やっぱり退屈だ。
 どうにかして外に出る方法は無いかなあ。いやしかし、策をろうしてもブラックには絶対に看破されちゃうよな。その後に何をされるか考えたら動けないぞ。
 せっかくまた良い雰囲気に戻ったのに、怒られるような事はしたくない。

 いや、良い雰囲気は言い過ぎたかな。
 でも昨日はニンジンケーキで上機嫌だったし、その……夜のえっちだって、ベッドで一回だけで済んだし…………だ、だから、良いっちゃあ良いよな?
 …………い、良い……のかな。昨日は本当おかしかったしな、俺……。
 だって、なんか、軽めのエロ漫画で良く見る感じの事しかしないから、凄い普通だったし……それに行為の最中にずっと口にキスして来て、そっちにばっかり意識が行っちまってたから、すんなりヤッちゃったっていうか……気が付いたら、素っ裸で抱かれてて眠ってたって言うか……。

 ……いや、うん、普通そうなんだよ。
 変にスケベな事を言わないで、普通の教科書に載ってるみたいなえっちをするのが正しい事なんだよ多分。だから、それは良いんだけども……ブラックがそんな普通の行為をやったのだと考えると、妙な感じだった。

 だってアイツ、いつもなら凄く俺を虐めてくるんだもん。俺がやめろって言ってるのに気絶するくらい色々してきて、めちゃくちゃ泣かされるし。
 薬を飲んでいる今なら、そんな事をされたら絶対に憤死していただろう。

 しかしなんで今回は普通だったんだろう。気分が良かったから?
 それとも、キスばっかりしてたから言葉責めの余裕も無かったのかな。

 何にせよ、ケツ以外の負担は少なかったからありがたいんだが……あんな風だと、逆に俺の方が戸惑っちゃうって言うか……いや、本当はその方が良いんだけど、何かブラックらしくないっていうか……。
 いやっ、ダメだけどね、いつもの奴が駄目なんだけどね!?

 そ、それはともかくとして。
 とにかく今の状態を崩したくない。しかし、俺にも我慢の限界があるのだ。
 何かきっかけを作って、それとなく散歩くらい出来ないかなぁ。この集落の中だけでも、頼んだら歩かせてくれないだろうか。

 うーむ、散歩……散歩か……。
 そういえば、ディルムでは二人で散歩に出たっけ。そんで、その最後に……その、この指輪を貰って……いっいやあのそれは置いといて。
 でも、考えてみるとあの時は凄く良い雰囲気だったよな。
 そうか。二人で散歩か。それくらいならブラックも許してくれるんじゃないか?

 機嫌が良い今なら、デートだーとか言って喜んでくれるかもしれない。
 別にこの廃虚の外に出る訳でもないんだから、許してくれそう。

「よし……ちょっとブラックに掛け合ってみるか……」

 今まで家庭菜園の手入れをしていた俺は、抜いても何故か勝手に生えて来る野菜を再度抜き取りつつ、かごに盛りだくさんの収穫物を積んで家に戻る。
 すると、ブラックが白い光を纏いながらテーブルで何かをしていた。

「あれ、なにしてんのブラック」
「ん? ほら、ツカサ君が指輪を通す鎖が欲しいって言ってたから作ってるんだよ。まだもうちょっとかかるから待っててね」
「あぁ……」

 そのお願い、覚えててくれたんだ……。
 でもなんか、目の前でやられると照れ臭いな。だって、その、今やってる作業は、間違いなく俺のためなワケだし……。
 あっ、でも、片腕の状態で金の曜術って使えるのかな?

「なあブラック、その状態でも金の曜術って普通に使えるのか?」
「うーん……正直なところ、精度はちょっと落ちちゃうかな。でも、鎖をつくる程度なら集中して一つずつ練れば出来ない事も無いから平気だよ。鎖なんかの簡単なものだと、付加する属性とかは後から入れても大丈夫だし」

 そういう風に言えるのは、やっぱりブラックが器用だからなんだろうか。
 前に宝飾技師のお爺さんの所で色々やった時も、お爺さんに物凄く腕を褒められてたし、それがきっかけでブラックもあの人に色々教えて貰ってたからなあ。
 うーむ、もちろん努力して技術を習得したってトコが一番大事ではあるんだが、やっぱ天性のセンスとかが重要って事も有るんだろうな。

 仮に俺が金の曜術とかを使えるとしても、ここまで簡単には出来ないだろう。
 そう言う所はやっぱり凄いと認めざるを得ないんだろうなあ。
 ……なんかもう、ブラックの方がチートっぽいのは今更かも知れない。

 考えるとまた深みにはまりそうだったので、俺は気持ちを切り替えることにした。
 よし、とりあえず台所に野菜を置いてさっきの事を話そう。
 今ならきっとブラックも許可してくれる。まずは散歩から始めるんだ。

「な、なあブラック」
「んー? なーに?」

 相変わらずの子供っぽい言葉遣いで俺に返す相手に、ちょっと近寄って真剣に鎖を編んでいる顔を覗き込む。
 何故かドキッとしたが、薬の副作用でドキドキしやすくなっているからかも。いまは自分の感覚がちょっと大きくなっちゃってるからな。小さなことで心臓がギュッとなるのは、仕方がない事なのだ。

 なんとか自分を抑えて、俺は鎖を見つめている相手に声を継いだ。

「あのさ……えっと……散歩、しない?」
「散歩?」

 その言葉に、ブラックは不思議そうな顔をして俺の方を向いて来る。
 怒ってはいないようだが、やっぱりちょっと表情が気になってしまう。ブラックは外に出ないでほしいって最初に言ってたからな。
 しかし、俺だって欲求不満にはなるのだ。なんとか認めて貰わねばと思い直し……自分でもあざとくて気持ち悪いとは思ったが、あえて上目遣いでブラックを見た。

「あのさ、何かちょっと……気分転換がしたくなって。……でもさ、お前との約束があるだろう? だから、この集落の中だけで、アンタと二人でならどうかなって……」

 だめだろうか、と、媚び媚びで見つめてみると。

「…………散歩、したいの?」

 ブラックは、ちょっと不満そうな顔をして俺に聞き返してきた。
 今はもう白い光を纏っていないが、作業に戻ろうという感じではないと言う事は、期待しても良いのだろうか。少し心が出いて来て、俺は小さく頷いた。

 するとブラックは少し考えるような素振りを見せて。

「ふーん……」

 なんだか、意味ありげに声を漏らしてニヤリと笑った。
 ……うん。……うん?
 ちょっとまって、この笑い方嫌な予感がするんだけど。

「ぶ、ブラック?」
「別に散歩してもいいけど、言うこと聞いてくれる?」
「言うことって……」
「聞かないと、外に出ないよ」
「うぐ……」

 そう言われると、もう頷くしかなくなるじゃないか。

 だけど、こういう展開は絶対にロクな事にならないんだ。俺は知っているんだ。
 ここで頷いたら、絶対に後でとんでもない事をさせられる。でも外には出たいし、ブラックを怒らせるような事なんてしたくないし……。

 …………結局、頷くしかないのかなあ……。

「どうする?」
「……言う事を聞いたら、散歩させてくれるのか……?」
「うん。集落中を自由に歩いていいよ!」

 明るい調子で返してくる声が、どう考えても胡散臭い。
 だけど、結局それを受け入れるしかないんだ。俺には支配権なんてないんだから。

「…………分かった」

 素直に了承すると、ブラックは悪人のような笑顔でニヤリと笑った。














※あけましておめでとうございます(*´ω`*)
 今年も異世界日帰り漫遊記は漫画も小説もバリバリ更新しますので
 良かったら今年も応援して頂けると嬉しいです!

 というわけで、今年もブラックとツカサと仲間達をよろしくお願します!
 皆様にとってもこの一年が幸せの多い一年になりますように(*´ω`*)

 
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