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廃荘ティブル、幸福と地獄の境界線編
6.異世界の畑の作り方1
しおりを挟む困った事になった。
いや、いつも困ってはいるのだが、今回は特に困っているのだ。
何故なら……薬の効果が、強すぎたからだ。
あまりに強すぎて、料理や庭いじりをする暇がない。辛うじてブラックに草木灰を作って貰ったけど、それ以外は最早どうする事も出来ず、俺は股間を腫れ物のように扱いじっと座っている事ぐらいしか出来なかった。
これには流石のブラックも「効き過ぎちゃったね、ごめんね」とは言っていたが、今更謝られても困る。薬は飲んでしまったんだし、このヤバい感覚があと一日は続くのだ。そんなの耐えられない。
だけど、もう飲んでしまったものは仕方が無いワケで。
ブラックが言うには「慣れるしかない」という事だったから、必死に抑えてみたんだけど……残念ながら夜になっても収まらなくて、俺はもう情けないやら悔しいやらで泣いてしまった。なんかもう、いっぱいいっぱいだったのだ。
そんな俺を見かねてか、ブラックは意外にも「今日は我慢する」と言ってくれた。
この状態で夜にえっちしたらと思うと俺も怖かったので、その申し出はとてもありがたかったんだけど……それでも結局、夜は……その……ブラックのを、宥めたり、その間ずっとお尻を弄られてて、寝たって言うか失神してやっと寝られたみたいになってしまったわけで……。
…………お、俺が悪いんじゃないんだからな。
ブラックが「嫌なら僕のも大人しくさせて、明日挿れやすいように弄らせて」って言ったんだぞ。だから、俺がそうして欲しいって言ったんじゃないんだからな!
はぁ、はぁ、お、落ち着こう俺。熱が上がるとまた愚息が反応する。
……とにかく、夜半までベッドで色々やった結果、数発撃った事でようやく眠れた俺だったのだが……朝も朝で本当にもう大変だった。
起きたら朝勃ちしていたのでトイレで必死に自力で処理し、ブラックに「朝の一番搾りは絶対飲みたかったのに!」とか最低な文句を言われ、もう流石に股間が痛いと嘘をついてブラックに朝食を用意して貰っている間に休憩時間を勝ち取って……本当に、ほんっっとぉおおに大変だったのだ……。
幸い、こんな状況でも活路と言う物は存在するわけで、なんとか勃起しないようなギリギリの歩き方などを会得したのだが、まだ油断はできない。
何故なら、ブラックは今日こそはえっちをするぞと俺との再戦を望んでいるのだ。気を緩めたら何を仕掛けられるか分かったもんじゃ無かった。
精力が増強されていようが何だろうが、俺の喉も腰も限界だ。あと、デカい指で小一時間弄られ続けたケツがおかしい。もうこの際えっちするのは仕方がないとしても、二度と昨日みたいなヒドい状態にはならない! …………はず。
とにかく、今日こそは野菜を植える畑を整えて、生活基盤を整えるのだ。
そんな悲痛な覚悟を胸に、俺は体に刺激を与えない歩行方法を慎重に行いながら、ダイニングキッチンのテーブルに物を並べていた。
「内腿に力を入れない、内腿に力を入れない、内腿と下腹部に力を入れずに気合で屈伸運動頑張れ俺のふくらはぎ……!!」
「ねえツカサ君、だいぶムリなこと体に強要してない?」
「うるさい、俺は早急に種をまかねばならんのだ!」
元はと言えばお前が厄介な薬を飲ませたってのに、何を悠長にツッコミいれとるんじゃ貴様ぶん殴るぞてめぇおぉん。
イラッとしつつもその罵倒は口に出さずに俺は昨日おつかいして来て貰った野菜をテーブルに並べる。ロコン(とうもろこし的野菜)、タマグサ(たまねぎ的な奴)、マーズロウ(回復薬の原料の一つ。臭み消しにも使える薬草)……等々が所狭しとテーブルを占拠している。しかしその中に見慣れない物が有った。
「えーっと……これなに?」
赤みが強いオレンジ色の、太い根っこみたいなもの。
形はアリの巣みたいになっててちょっと怖いが……なんか見覚えがあるな。
においを嗅いでみると、記憶を揺さぶる独特な香りが漂ってきた。
「ああ、それはルベルボーフっていう野菜だよ。野性味があるから僕はあんまり好きじゃないけど、煮たらそれなりに柔らかくなるから食べる奴もいるみたいだね。あとなんか、栄養も有るみたい。僕はあんまり好きじゃないけど」
なんかヤケに好きじゃない好きじゃない言うなコイツ。もしかして嫌いなの?
よく判らないけど、ルベルボーフとやらの匂いを嗅いで「これは以前食べた経験がある野菜だ」と悟った俺は、水洗いして細い先っぽを少しかじってみる。と。
「……ん? これって……ニンジンか……?」
噛むたびにカリコリと硬い音が鳴っているが、味は確かにニンジンだ。
とはいえ、婆ちゃんの家で食べたみたいなニンジン独特の味が強くて、スーパーで買うような物よりも数代前の昔味のニンジンって感じだが……。
そういえば、昔はニンジン嫌いな人が多かったとかいう話だったな。こんな感じの味なら、確かに嫌がる子供もいるかもしれない。
「いや、待てよ。これが嫌いって、ブラック……」
まさか、あのオッサンたらニンジン嫌いなの? ニンジン嫌いなの!?
あの年にもなってニンジンが嫌いとか……いや、人の好き嫌いにどうこう言ってはいかんな。でもしかし、オッサンがニンジン嫌いってなんか……ちょっとこう、凄く面白いというか、可愛いと言うか。
「……よし、これは絶対に植えて増やそう」
「なに、ツカサ君なんか言った?」
「いやいや何でもない。えーっと……やっぱ薬味系は無かったかぁ。……ブラック、アコール卿国で見かけた【クキマメ】とか、【黒辛粉】や【ニオイタケ】みたいな感じの調味料……っていうか、味にひと手間加える為の物はなかったのか?」
テーブルに戻りながら聞くが、ブラックは難しい顔をして顎を擦る。
「んー……どうだろう……。クキマメは野生植物だし、他の二つはわりと高価なモノだからなぁ……。ニオイタケぐらいなら、薬屋にあったのかも」
「えっ、薬屋にあるの?」
「そうだよ。あれには催淫効果があるって聞かなかった?」
アッ、そうだった。アドニスの野郎がホロロゲイオンで食い物に使わせやがったんだっけか。でも、あの時は媚薬も入れたって言ってたな……ああ、そう言えばアイツなら媚薬も作れるんだったな……。そうか、俺が飲んだ精力増強剤とかもアドニスが作ったって可能性もあるのか……。ああチクショウめ、俺はまんまとアイツの大人のオモチャに振り回されてるってワケか死にたくなってきた。
こんなこと、絶対にアイツには言えないぞ。言えば「あの薬を使ったんですか(笑)使用感はどうでしたか?(笑)」とか語尾に一々嫌味なカッコワライを付けて、俺の事を虐めて来るに違いない。アドニスの馬鹿、マッドサイエンティスト!!
「ツカサ君なに百面相してんの」
「な……なんでもない……じゃあ、薬味はお預けってことか……うーむ……。まあ、ボチボチ野菜を育ててから探すっきゃないよな。よしブラック、畑を耕すぞ」
「は? 何で僕?」
思っても見ない事を言われた、と言わんばかりに目を丸くするムカツクオッサンに、俺は力いっぱい睨み付けて俺は低い声を出した。
「誰のせいで俺が自由に動けなくなったと思ってんだ? あ゛?」
「…………畑を耕すだけでいいんダネ」
ああよ、解ってくれればそれでいいんだ。
恐らく人殺しでもしそうな目で見ているだろう俺から目を反らしながら、ブラックは裏庭へと向かった。俺も慎重に動き、鍬を持って、畑を作るために紐で囲ってある場所に近付く。丁寧に草を刈ったおかげで少しは柔らかくなっているが、しかし長年手入れもされていなかったせいでまだまだ硬い。
「こんな土を耕すの?」
「そう……とは言っても、お前は片腕だからまだ無理か……」
治って来ているとは言われたけど、長袖のヒラヒラ具合からするとまるで再生していないようだ。これは流石にブラックには荷が重い。
……今はあんまり動きたくないけど、仕方がないよな。俺がやるしかないか。
だが、このまま耕してもいいもんかな。
「ツカサ君、畑を作るなら少し水を撒いて土の気を集めたほうが良いよ。出来れば、大地の気もあったほうが……」
「あ、それなんだけどさ、どんな効果があるの?」
クロウに聞いた時も要領を得なかったのでスルーしてたんだが、ブラックまでそう言うって事は何か本に記されるレベルの理由があるんだよな。
ブラックなら簡単に説明してくれるだろうかと見上げると、相手は少し得意げな顔になって、鼻の下を擦りながら答えてくれた。
「ふふ……。ツカサ君の世界では違うかも知れないけど、この世界では良い畑を作るには大地の気が必要不可欠なんだ。大地の気ってのは、僕達の体の中にも流れている自己治癒を促す物だろう? その力が植物の中の木の曜気を活性化させて、より良く成長させるんだよ」
「へー……」
「もちろん、生育には土の曜気も必要だけど……土の曜気を木の曜気に変化させるのにも、大地の気が効果的なんだ。まあ、大地の気が限りなく少なくて足りなかったとしても、植物自身が自分で吸い上げて変化させるんだけどね」
「ふーむ……? というコトは、大地の気が溢れるくらいに出てくる場所なら、そこに生えてる植物は早く強く成長する……みたいな?」
「そんな感じかな。ほら、だから、大地の気が少ないプレイン共和国も草木がまばらに生えた場所が多かっただろ」
確かに……。
なるほど、大地の気っていうのは色んな物の源であり、成長や治癒を助ける存在なんだな。無属性の力だとばかり思ってたけど、俺の世界で言えば「万能な栄養素」みたいな物なのか。そう考えると色々と納得が行く部分もある。
「じゃあ、とりあえず土の曜気と大地の気をたくさん注げばいいんだな」
「うん。大変かもしれないけど、とりあえずやってみようよ」
「よしっ、じゃあ早速始めるか!」
とにかく……まず必要なのは土の曜気だな。
たっぷり注いで、良い畑になって貰おう!
→
※小休止そのに(;´Д`)
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