異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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最果村ベルカシェット、永遠の絆を紡ぐ物編

31.手がかりはどこに

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 全裸になっただけで許して貰えた!

 ……などと言うと、まるで俺が解消ナシの宿六みたいに思えるが、まあ実際奴隷としての状況に甘んじているので仕方ないと言えば仕方がない。
 だけど、俺が全裸になって許されたのは、レッドが騙されてくれたからだ。

 いやぁ本当、この色が混ざり合った瞳サマサマだよ。
 俺の記憶が完全に戻っているのではと言う確信を抱かせなかったのは、鏡の向こう側に見える俺の不可解な瞳のお蔭に他ならない。この瞳の説得力のお蔭で、レッドは俺の事を信用してくれたのだ。

 でなければ「記憶は戻ったけどブラックの事とかは思い出せません」なんて世迷言よまいごとが受け入れて貰える訳も無かったろう。俺だって疑うわそんな都合のいい話。
 けれどレッドは俺の内情を知らないし、クロッコにも“黒曜の使者”の詳しい事などは教えて貰ってないらしい。そこら辺の事もあったから、ひとまずは俺の説明で納得しようと考えたのだろう。本人がそう言うなら仕方ない、と言う訳だ。

 まあでも、これもレッドだから上手く行ったんだよな。
 レッドが俺の事を憎からず思っている存在でなければ、疑わしいから拷問して聞き出そうみたいな事もあっただろうし……。
 …………こういう時だけは、厄介な相手に好かれる展開もありがたいと思う。

 本当は嫌なんだけど。厄介な男に好かれるのとか本当に嫌なんだけどな!
 なんでこう、俺は美少女に好かれる展開がないんでしょうねえ!
 いやまあ実際、ヤンデレな女の子に付き纏われたら怖いと思うけども。

「はぁ……」

 溜息を吐いても、鏡の向こう側には俺一人だ。
 というか、こんな事をしてる場合ではない。折角レッドが騙されてくれたんだからこのチャンスを逃す手は無いだろう。
 気持ちを切り替えて、俺はやらねばならない事をしなければ。

「よしっ、とにかく……頑張って掃除するぞ!」

 レッドの過去の話を聞いた事で好感度をさらに稼いだのか、俺は二階にあるいくつかの「開かずの扉」を開く許しを貰った。
 とはいえ二階には四室しかなく、俺とレッドが寝ていた部屋を除くと許可されたのは二部屋だけなんだけど、まあ文句は言うまい。探索できる部屋が増えただけマシと言う物だろう。何も進まないよりはずっといい。

 それに、掃除と言えば書斎にも自由に出入りが出来る。……俺は今まで何にも気にしてなかったんだけど、もしかしたらここにブラックの腕を治す手がかりがあるかも知れない。天井近くまで本が有るし、植物図鑑も有ったんだから、そういう伝説とかが書かれた本だって存在するはずだ。

 レッドの誤解を解く事も必要だけど、なにより大事なのはブラックの腕だ。
 こっちの手がかりも見つけなければ。

「そうと決まれば……さっさと二階を掃除してしまおう!」

 書斎を調べるのは時間が掛かりそうなので、てっとり早く二階から掃除だ。
 掃除は毎日やってるから、いつも居る部屋はササッとやればいいし、レッドの親父おやじさんの部屋は出来るだけ動かさない方が良さそうだから……とりあえず、そっちをやってしまおう。そう決めると、俺はさっさと寝室を整えてレッドの親父さんの私物が押し込められている薄暗い部屋に入った。

「あー……でも、ホコリとかは無いっぽいな……?」

 そういえば、この世界って古い建物でもホコリがない場所とかあるんだよな。
 もしかしたらそういう魔法みたいな物があるのかな。それちょっと知りたい。
 今は旅ばっかりしてるから縁が無いけど、トランクルやラゴメラ村にもう一度滞在したいと思ってたし、家のホコリを失くす術が有れば掃除が楽だよなぁ。ブラックに聞いたら知ってるだろうか。

 そんな事を考えながら、俺はとりあえず床をきつつ汚れが無いか確認した。
 ……それにしても、レッドのお父さんってどういう人だったんだろう。
 何か凄い宝石が嵌め込んである杖だけじゃなくて、金細工がまぶしい弓やブラックの【宝剣・ヴリトラ】みたいに宝石が嵌まってる剣もあるし、槍とか鎧とかここは武器屋かよってレベルで色々なモノが有る。
 別荘にこれらが置かれていたって事は、これを全部使ってたって事だよな? 

 レッドいわく、子供の頃は親父さんを慕ってたらしいし……。
 なら、この部屋の武器や道具を使って、色々教えて貰ってたのかな。だとしたら、レッドはこの部屋にある武器は一通り使えたりするんだろうか。ううむ、レッドってやっぱり勇者タイプだな……。
 勇者って何気にすべての武器を装備で来たりするしな。ああ羨ましい。
 いや、こういうのは日々の鍛錬が物を言うのは解ってるけど、でもやっぱり色んな武器を使いこなせるってのは素直に格好いい。

「うーん……でも……今のところ、特に気になるモノは無いな……」

 ちょっと楽しんでしまったが、レッドの誤解を解くような物は見当たらない。
 縄でくくられている本には興味があったけど……勝手には見られないからなあ。

 俺も一応は奴隷なので、主人の意にそぐわない事をしてしまうと、首輪から電撃が出てお仕置きされてしまう。何が逆鱗に触れるか解らないから、勝手に行動するのはかなり危険だ。本については後で聞こう。
 それより、残った時間で書斎の本を調べるのだ。もう一室も手早く掃除するぞ。

 気合を入れ直し、俺は物置部屋を後にすると、ドアを開けてすぐ右の壁にある扉に入った。この別荘は案外二階の廊下が狭いので、掃除する時は助かる。
 そんな事を思いつつ、部屋の中を見渡すと。

「わっ……そっか、ここがレッドのお母さんの部屋か……」

 入った瞬間、上品な花の香りがふわっとただよって来て驚いてしまった。

 その上、鮮やかで柔らかい色が視界に一気に入って来て、俺は思わず周囲を見回す。女性の部屋と言うだけあって、ピンクやオレンジ、イエローと言った華やかな色が目に賑やかだ。さすがは女性の部屋だな。

 壁紙はうるさくない程度の薄いパステルカラーのピンクの花を使ったものだし、部屋の調度品もアンティークではあるが全体的に色味が明るい。
 乳白色を混ぜたオレンジやイエローの調度品や花瓶は、大きな窓から日が差し込むこの部屋を更に華やかにしていて、なんだかちょっと恐縮してしまった。
 いやだって、これが女性の部屋だよなあって思ったら、つい……。

 いや、女の人の部屋って異世界でもこんなに可愛い感じなんだなあ。
 もちろん貴族の淑女だからここまで可愛くそろえられるんだろうけど、しかしさっきの薄暗い部屋を見た後ではここが天国の花畑に見えてしまう。
 ベッドも天蓋付き……いわゆるお姫様ベッドだし、カーテンも女子っぽいし、家具がアンティーク調なのも「可愛い」趣味に合わせた結果なんだろうな。

 ……いや、ここ異世界だしアンティーク調とか関係ないんだっけ?
 でも、レッドの母親のセンスが可愛い系なのは確かだろう。うーむ、ご存命なら会ってみたかったな……きっと可愛らしい貴族の奥さまだっただろうに……。

「…………じゃなくて。さっさと部屋を掃除しなければ」

 そして、何か手がかりを見つけるんだ。
 考えてみれば、様子がおかしくなったのはレッドの母親の方だ。
 なら、もしかしたらこの部屋に誤解を解く証拠が有るかも知れない。よし、探すんだったらこの部屋だな。ちゃんと調べてみよう。

「えーっと……この部屋もホコリは無いな……。シーツもびしっとしてる……」

 ここに限っては部屋を掃除した方が汚くしてしまいそうだ。
 あまり触らない方が良いかなと思いながら、窓側に回ってベッドの周囲を確認すると……そこで、俺は有る違和感を覚えた。

「あれ……ここ……なんか日焼けの跡がある……」

 窓側の壁に、ノートぐらいの大きさの四角い跡がある。
 日焼けと言っても本当に薄らとしたものだったけど、その後の上に小さな穴の跡を見つけて、俺はこれが絵画であると確信した。
 この世界では写真が無いから、あるとしたら絵画で間違いないだろう。
 ……しかし……なんで外したんだろう?

「ここにあった物はどこに行ったのかな……探せばどっかに有るかな?」

 さしあたって、その可能性がありそうなのは……親父さんの物が詰め込まれているあの部屋と……最後の「開かずの部屋」だよな……。
 もし後者の部屋に有ったらどうしよう。やっぱ勝手に入ったら怒られるよな?
 でも、もしコレが手がかりになるとしたら、やっぱ約束を破る事も必要なのでは。
 電撃は我慢すれば良いけど、レッドにバレた時にどうなるのかが心配でなあ。

 …………ブラックに相談したら、どうにかならないかな……?

「ツカサ」
「うはひゃっ!?」

 う、うわあ、なんだいきなり呼び付けやがって!
 どこの誰だ……って、レッドか……そりゃそうだよな……。俺が考え事をしている内に、レッドが二階に上がって来ていたらしい。
 驚いて反射的に振り向いたドアの方には、レッドがちょっと面食らった感じの顔をしながら立っているのが見えた。何でお前が驚いてるんだよ。

「どうした、そんな変な声出して……」
「あ、い、いや、ついびっくりしちゃって……」
「考え事か?」

 部屋に入って来て俺に近付いてくる相手に、とりあえず頷く。

「夕飯は何にしようかなって思って……」

 角の立たない無難な返答を返すと、レッドは苦笑した。

「そんなの、軽いもので良い。今日は森で果実をたくさん摘んできて疲れただろう? 村長の妻に頼んで、簡単な物を持って来て貰おう」
「いつも申し訳ないなぁ……」

 ここに来てから、俺は女将さんにはだいぶ世話になっている。
 何も思い出せず奴隷としての仕事すら出来なかった時も、彼女は村長さんを通して美味しい料理を届けてくれていたのだ。その上、俺の面倒もよく見てくれる。

 俺もジャムとかをお返しに持って行ったりするけど、彼女の優しさを思うと、ジャムくらいでは礼を返せそうになかった。ここから逃げるにしても、なんかお礼をしてから立ち去りたいなあ……村長さん夫婦には足を向けて寝られないや。

 しかし、レッドは流石のお貴族様なので、村長さん夫婦に頼みごとをする事に何の引け目も感じてはいない。むしろ当然と言うような顔だった。
 ……まあ、そこは育ちが違うから仕方ないよな。大体、レッドは本当にこの国では位が高い貴族なんだし、村長さん達を使役するのも普通の事なのだ。
 しかし、本当いけ好かないよな……イケメンで貴族って……。ラスターもそうだけど、何で天はニ物を与えまくってるんだか……。

「それよりツカサ……その……夜の事なんだがな」
「っ?! え、あ……な、なに……?」
「もうそろそろ、あかりを付けても良いと思うんだが……どうかな」

 灯り。あ、ああ、そう言えばずっと薄暗い中で触られてたんだっけ……。
 …………まあ、レッドを安心させるために「恋人だと思ってる」って言っちまったんだから、その夜のお勤めも当然免除される訳が無いんだよな……。
 ブラックに何か言われると思うと憂鬱だが、こればかりは仕方ない。

 むしろ、レッドがまだ「灯りを」なんていう段階なだけありがたいと思おう。
 これでケツを触られ始めたら、さすがの俺もどうなるか解らないしな。

「ツカサ……」

 考え込んでしまった俺に、レッドは困ったような顔を見せる。
 ああ、いかんいかん。また考え込んでしまった。誤解を与えてしまうじゃないか。
 俺は首を軽く振ると、すぐそばに来ていたレッドを見上げた。

「わかった。……まだ恥ずかしいけど……頑張る」

 今はまだ、触るだけ。だから耐えられる。
 そう思いながらレッドに言い切ると、相手は凄く嬉しそうな顔をして、俺をぎゅっと抱きしめた。その喜びように俺は胸が痛んだが……どうしようもなかった。













※次、レッドとそう言う事をする上にツカサも体は喜んじゃうのでご注意を
 アンケ結果に忠実!というわけで挿入などはありませぬ(`・ω・)
 
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