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最果村ベルカシェット、永遠の絆を紡ぐ物編
24.絶望のものがたり1
しおりを挟む※すみません、諸事情でちょっと短いです…(;´Д`)
「ツカサ……」
レッドは、凛としてハッキリした声をしている。それは俺とは違う大人の男の声で、いつの間にか羨ましいなって思うようになっていた。
だけど今のレッドの声は、弱く震えている。きっと、レッド自身もそんな自分の声など聞きたくはないだろう。だから、俺はレッドを落ち着かせるために、しばらく何も言わずに彼の背中を撫で続けた。それが一番いいと思ったから。
すると、段々と夕方の日が落ちる頃になって、ようやくレッドは俺を離した。
「…………少し、落ち着いた?」
青い瞳を見上げると、レッドは小さく頷く。
なんだかそれが幼く見えて、俺は思わず笑ってしまった。
ブラックもそうだけど、二人ともなんで大人なのに子供みたいな顔をするんだろう。……とは言っても、俺は挿絵の子供しか知らないけど……でも、良く似てる。
挿絵の中の子供達はとても元気で、表情が沢山動いて、俺とは大違いだった。
そんな顔を見る度に、俺は何故だか手で触れたくなりいつも指先で挿絵をなぞっていて。何故だかはよく解らないけど、でも、その挿絵をなぞれば心が温かくなった。
だからなのか、レッドやブラックがそんな顔をすると、俺は笑ってしまうんだ。
「ツカサは……俺が情けない顔をしても、笑ってくれるんだな」
ぽつりと言われた言葉に、俺は笑ったままで答える。
「だって俺、レッドのそういう顔も好きみたいだから。……悲しい顔するのは、心が痛くなるけどな」
言いながらレッドの引き締まった頬を撫でると、レッドはやっと笑ってくれた。
まだ「情けない顔」が少し滲んでいたけど、元気になってくれたのかな。
見上げる俺に、レッドは少し沈黙したけど……俺の頬にキスをして、また俺をぎゅっと抱き締めてくれた。今日だけで何度抱き締められたか判んないな。
呑気にそんな事を考えながらレッドを受け入れていると、レッドが思っても見ない事を言い出した。
「ツカサ……お前に入るなと言っていた部屋が有ったが……そこに、行こう」
「え……。でも……いいの?」
「ああ。……お前には……話しておきたい」
二階に幾つかある、入った事のない部屋。
何があるのかと気にはなっても決して近付いた事は無かったが、今更開けちゃって良いのだろうか。あそこにはレッドが大事にしてる物があるんじゃないのかな。それか、何か……レッドが話したがらない両親に関係する物があったり……。
色々考えて心配になってしまったが、レッドは「構わない」とでも言うような少し寂しそうな微笑を浮かべて、俺を二階へと連れて行った。
レッドと一緒に寝ている部屋とは別にある、レッドだけが入る突き当りの部屋。
そこには何があるのかとドキドキしつつ、レッドがドアを開くのを見つめる。
「……さあ、入ってくれ」
ぎい、と軋むような音を立てて開いたドアの向こう。
そこには、何か沢山物が置かれているのが見えた。雑多に積み上げられていたりもするが、しかしただの物置と言う訳ではないようだ。
どんな部屋なのだろうかと首を傾げつつ少し薄暗い部屋に入ると。
「うわ……!」
その部屋の中には――――今まで見た事も無いものが、散らばっていた。
「何があるか解るか?」
問われて、俺は思わず腕を組んで唸る。
というのも、部屋に有る大半の物が、俺にはよく解らなかったからだ。
だけど、分かる物もある。宝石のような物が嵌め込まれた杖や、装飾が綺麗な弓。それに、革が張ってある大きくて古い高級そうな椅子や、レッドの趣味とは少し違う外套や、冒険する物語の挿絵で出てくるような鎧まで置かれていた。
他にも色々あるけど、俺に解るのはこれくらいだろうか。
それら全てを説明すると大変なので省略して、アレやソレは解る、と端的に言うと、レッドは軽く頷いて自分も部屋の中に入って来た。
だけど、なんだか浮かない顔をしている。もしかしてまた悲しくなったのだろうかと心配になると、レッドは弱く笑みを浮かべて俺の隣に立った。
「ここには……俺の父の物が全て押し込められている」
「レッドのお父さん……?」
見上げると、レッドはどこかを見たまま頷いた。
「俺の母が、全て押し込んだんだ。売ってしまう事も憚られてな」
「押し込むとか、売るとか……どういうこと……?」
レッドのお母さんがそうする意味が解らない。
話が見えなくて困っていると、レッドは俺を見て困ったような顔で微笑んだ。
「……俺が子供の頃、両親が不仲になってな。……それで、激昂した母がこの部屋に全て押し込んだんだ。……別荘に置いていた物だから売っても良かったんだが、母は対面を気にする人で……売れば噂が立つと思って、処分できなかったんだ」
「処分って……レッドのお父さんの物なのに、売ろうと思ってたの?」
「…………そう思う頃には、もう父はいなかったからな」
いない。ということは……離縁したのか、それとも死んでしまったのか。
どちらなのだろう。だけど、そう言うのって気軽に聞いちゃいけないんだよな?
レッドも最初は両親の事なんて話してくれなかったし……何か、言いたくない事情があるのは確かなはずだ。不用意に予想を口にすると、また悲しい顔をさせてしまうかも知れない。考え過ぎて閉口しまったが、レッドはそんな俺の態度で察したのか、自分から答えを話してくれた。
「ああ、すまない。少し誤解させたな。死亡したとか離縁したという事とは少しだけ違うんだ。……この別荘にはもう二度と一緒に来られなくなるくらい、父と母の仲は亀裂が入っていたと言いたかった」
「あぁ、なるほど……っていうか、ここってレッドの本当の家じゃ無かったんだな。村長さんに色々と持って来て貰ってるから、変だなとは思ってたけど……」
「よく見ているな、ツカサ。……その通り、ここは別荘で、俺は長い間ここには来ていなかった。そうだな……今回、数十年ぶりに訪れた事になる」
「そんなに長い間来てなかったのか……」
じゃあ、流石に俺もここには来てないよな。
もし俺がここに来ていたのだとしたら、レッドもそんな風に説明していただろう。それに、奴隷用の何かも用意されていたはずだ。村長さんとも知り合いだったはず。
なのに、俺は村長さんと初対面みたいだった。という事は、俺は最近レッドの奴隷になって、両親の不仲には関係ないって事なのかな……ううむ……。
そんな風に考え込む俺の肩をレッドの手が掴む。
そのまま引き寄せられて、俺は再びレッドを見上げた。すると……レッドは、何だかとても辛そうな……悲しそうな顔をしていて。
「昔は、ここによく来ていたんだ。……父に曜術や狩りの仕方を教えて貰い、母には一族の事や貴族としての振る舞いを教えて貰った。子供らしくダダをこねれば、小さな俺を膝の上に乗せて、一緒に本を読んでくれたんだ。……この別荘は……幼い俺にとって、唯一の逃げ場所だった……」
声も、さっきみたいに悲しみに掠れていた。
「レッド……」
思わず、肩に触れているレッドの手に触れる。
大きな手は少し震えていて……何かを堪えているかのようだった。
「ツカサ……少し長い話になるが、聞いてくれるか……? 俺の、家族の……いや、一族の話を……」
レッドの声が、この大きな手と同じように震えている。
悲しいのだろうか。それとも、怖いのだろうか。
それほど話すのが怖い過去なんて、レッドはどんな事を背負っているんだろう。
俺には解らないけど、でも……レッドが話してくれるのなら、知りたい。
恋人として、レッドが背負っている物を一緒に背負いたかった。
「話して。俺……全部、聞きたい」
決意を受け取って欲しくて視線を向けると、レッドは悲しそうに歪んでいた顔を、少しだけ嬉しそうに歪めて……小さく頷いた。
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