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最果村ベルカシェット、永遠の絆を紡ぐ物編
14.無知ゆえの愚かさ
しおりを挟む俺は、本が好き。
掃除をするのも好きだし、お風呂も好き。料理も好きで、レッドと一緒にベッドで眠るのも好き。レッドが嬉しそうにするから、きっとそれが正解なんだ。
だから俺は記憶を失くす前の俺に倣い、好きだと思うことにした。
正直、好きって気持ちを完全に理解したわけでも無いし、お話を読んでもよく解らないままだったけど、まずそう思おうとする事にしたんだ。
レッドに悲しそうな顔をさせたくなかったからな。
でも、言われてみれば確かに、本を読むときは「楽しい」し、掃除をすると胸がすっとして気持ち良いと感じるような気がする。村長さんに教えて貰う料理も、ヘタだけれど投げ出そうとも思わず最後まで集中して出来ていた。
卵をちゃんと綺麗な目玉焼きに出来た時は、心が温かくなって楽しいって気持ちが湧いてきたんだ。それって、良い感情を抱いてるって事だよな。
それに、レッドの事も「嫌い」じゃない。
レッドと風呂に入るのも、一緒のベッドで寝るのも、口付けするのだって拒否する気は起きない。抱き締められると暖かいし、膝に乗せられるのも、ちょっとモゾモゾするけど、レッドから逃げたくなる訳でもないし……。
だから、好きなんだと思う。俺は、ここ最近はそう考えていた。
だってさ、物語の恋人は、悪いと言われてる奴に触れられたり触られると、すぐに「イヤ!」と言って離れてたんだぞ。でもレッドにはそう思わないんだもん。
でもあれ、本当不思議だったんだよな。イヤッてなる気持ちが。
まあ今は解っちゃったけどね! ふふん。
俺は「何故物語のこの人は、イヤと言って人を突き放すのか」と長らく謎だったんだが、しかし、俺は或る時、掃除をしていてふと気が付いたのだ。汗が流れる感覚を「不快だなぁ、早く拭きたいなぁ」と思っている事を。
そう。これだ。きっとこれが「イヤ」という事なのだ。
つまり、イヤとは、体が不快感を覚えるような感覚を言っているに違いない。
夜に目が覚めて厠に行く時に寒いなと震えたり、早くベッドに戻りたいと思ったりする事が、俺にとっての「不快」という事。一刻も早く他の状態に移りたくて、居ても立ってもいられなくなることが「イヤ」という事なのだ。
だけど、俺は別にレッドの事はそう思わない。
抱き着かれて「離れたい」なんて思わないし、物語のお姫様とかみたいに「近寄らないで下さい!」と言いたくなる事も無い。だから俺はきっと、レッドの事が好きなんだろう。抱き締められると温かいし、レッドのにおいも嫌いじゃないしな。
まあでも、それだって不思議な事でもない。
俺は、記憶が無くなる前もずっとレッドと一緒に暮らしてきたらしいので、記憶が無い今もその名残でレッドの事を許しているんだろう。
他の人だとイヤって思うのかも知れないしな。抱き着かれたりするの。
……村長さんに頭撫でられるのはイヤじゃないけど、あのおじさんから感じるホンワカした気持ちは、レッドには思わない事だし……年齢からするとお父さんって感じだから、もしかしたらこのホンワカする感じは、お父さんに撫でられる時の気持ちなのかも知れない。
そう思うと、俺ってどこから来たんだろうとか、両親とか居るのかなあと思ったりするが、そういう話をするとレッドは悲しそうな怒ったような顔をするので、詳しく質問をする事は出来なかった。
だけど、レッドの気分を害してまで知りたいとは思わないんだよなあ。
物語の中だと奴隷の子供は両親に売られる事も多かったから、俺もそう言う感じでレッドの所に来たんだろうし。そんな悲しい話のような事をレッドにだけ思い出させて、今良くしてくれているレッドを悲しませたくない。
それに……両親の事を聞いてレッドが変な顔をするのは、レッド自身の両親の事もあるんだろうし……。
「…………レッド、両親と何かあったのかなあ」
ぐつぐつと煮詰まる鍋をかき混ぜながら、俺はぼんやり考える。
ここ最近、何だか考える事が増えて、俺は色々思案するようになっていた。
鍋の中には真っ赤でドロドロしたモノが時折泡を吹いているが、俺は構わず大きな木べらでゆっくりと掻き混ぜる。それがまた俺を考え事に没頭させて、昼の日差しの中で俺は眼をしょぼしょぼさせながら続けた。
「女の人の物っぽいのはあるのに、男の人の物って見ないし……まだ入ってない部屋に在るのかも知れないけど、レッドは入っていいって言わないから……やっぱ隠しておきたい……ん、だよな……?」
頭の中を整理するために、呟いてみる。
最近こんなに沢山考えるようになったから、ちょっと頭がついてかないんだ。
今まではレッドが教えてくれなきゃ何も解らなかったから、沢山質問して、レッドが教えてくれる事に従っていれば良かったけど……本を読むと、奴隷は自分で動いて仕事しなきゃダメみたいだからな。
だから、自分なりに考えて、そうして一人で掃除とかをしてると、自然と頭の中にとりとめもない事が浮かぶようになったんだ。
最初は戸惑ったけど、物語の中の人達も俺みたいに独り言を言ったり、考えてたりするから、変な事ではないだろう。
……じゃなくて。いかんいかん、両親の話だったな。
ええと……この家に居て、書斎の本を読んでる内に何となく気付いて来たんだけど……この家って、恐らく女の人の使う物っぽいのが沢山あるんだよな。
居間には鏡があるのに、小箱の中に綺麗な手鏡なんかがあったりするし、お風呂場にも花の香りのする石鹸とか色々あるし……。花って女の人の象徴なんだよな?
なんか、そんな感じで女性用の物が結構あるんだよな。
で、その品物のことを聞くと、レッドは「母様の物だ」と答えてくれるんだけど、そのお母さんは今はどこに居るのかと聞いても、凄く苦しそうな顔をして答えてくれないんだ。すぐに話を逸らしちゃうんだよ。
父親の事は、無言の圧力を感じるから聞いてないけど……もしこの家にその物品が有るとしても、隠されている訳だから……多分、訊かれたくないんだと思う。
もしかしたら、確執とやらが有るのかも知れない。
だから言いたくないんだろうなって思うんだけど、レッドが使うらしい髭剃りとかも、村長さんが改めて用意してた事を考えると、なんだかちょっと変な感じがする。
レッドは「この家で生活していた」と言うけど、それにしてはレッドの私物も俺の小屋みたいな物もないし……なんなら、服だって、村長さんが新しいのを持って来てくれたんだもんなあ……。
レッド、やっぱ両親……というか、お父さんと喧嘩したのかな。
だから、物を隠しちゃったんだろうか。それに俺も関わってるのかな。
もしそうだとしたら……なんだか、申し訳ないような……。
「ツカサ、なんだか焦げ臭いんだが……」
えっ。あれ。この声レッド?
焦げ臭い?
……って……。
「わっ、うわああ! ジャムがあああ!」
思わず大声を出してしまったが、そんな事より鍋の中が大変だ。
最初はあんなに綺麗な赤色だったのに、今見たら鍋の中は茶色というか黒い部分が有ると言うか、とにかく変なニオイで全然美味しそうじゃなくなっていた。
「あぁあ……」
自然と変な声が出てしまう。これ、あれだ、悲しいとか辛いとかの気持ちだ。
こんな事で泣く自分に驚いてしまうが、でも、せっかく村長さんに作り方を教えて貰って、ヒメイチゴと言う美味しそうな果実を沢山貰ったというのに、明らかに食べたくないような物にしてしまったなんて、悲しい。辛くて、自分を抓りたいくらいに何だかムカムカする。
「ツカサ、そんなに自分を責めるな」
俺の様子に気付いたのか、レッドが近付いて来て後ろから抱き締めてくれた。
責める。そうか、これが自分に怒ってるって奴なのか。
でもそりゃそうだよな。だって、人から貰ったものをこんなにしちゃったんだし。
「ごめん……ジャム、教えて貰ったから作ろうと思ったんだけど……」
「いいさ。誰にだって失敗は有る。村長には後から誤ればいい。まあ、村長は気にはしないだろうが、そうしないとツカサは治まらないだろう?」
「う、うん……」
確かに、謝りたいなっては思ってた。
レッドは本当に俺の事を良く知ってるなあ。さすがは俺のご主人様だ。
自分のよく解らない気持ちも的確に言い当てて貰えるのは、やっぱり心が温かくなって、ホッと息が出る。
でも、いつまでもレッドに迷惑をかけてばかりじゃなあ。
レッドは奴隷の俺に優しくしてくれてるし、美味しい食事もくれるし、ベッドだって一緒に使わせてくれている。その上、恋人だって言ってくれるんだ。
本当は床で寝たり、他にも色々しなきゃ行けない仕事もあるだろうに、レッドは俺に命令したりしない。物語の中の恋人と同じように、俺に接してくれている。
奴隷の首輪に鎖を付けるような事はしなかった。
だからこそ、俺も物語の中の恋人達のように相手が喜ぶ事をしたかったし、レッドに迷惑をかけないような感じになりたかったんだ。
でも、ジャム作りも満足に出来ないなんて、ダメな奴だなあ、俺は……。
「ツカサ」
がっくり来ていると、レッドが俺の肩に顔を埋めて来る。
思わず反応すると、頬に息が掛かって「ちゅっ」と軽い音がした。
「れ、レッド」
「可愛いな、お前は……」
レッドの声が直接耳に吹き込んできて、体がびくっと反応してしまう。
くすぐったくて思わず身を竦めると、レッドは抱き締めた手を動かして、俺の服の中に手を差し込んできた。
「っ、ぁ」
これ、されたことある。
夜に、たまにレッドが荒い息になって、俺の体を触って来る事があるんだけど……今は昼だし、これって夜にやる行為じゃないのかな。
「ツカサ……俺のために、料理をしてくれるなんて……本当に嬉しいぞ……」
レッドの声が、いつもより低い。
ベッドの中でたまに聞く声と一緒だ。これは、俺の体を触って来る時の声だ。
それが何だか妙に体をゾクゾクさせて、俺は反射的に足を閉じてしまった。だけどレッドはそんな俺に、熱い息を吹きかけて来て。
服の中に入った手が、ゆっくりとズボンの中にも入って来た。
「レッド、これ……夜にする奴じゃ、ないの……?」
昼間にすると、何だか違う感じがして戸惑ってしまう。
そんな俺の反応に対して、レッドは急に吐息をハァハァと何だか妙な感覚で途切れさせた。夜の時より、なんだか息が変だけど……苦しくないのだろうか。
「ああ……だ……だが、恋人なら、二人きりの時はしてもいいんだ……」
「そう、なんだ……」
これも、恋人同士でする事なのか。
お臍の下の所を大きな手でずっと触られていて、何だか足がもじもじしてくるんだが、どういう行為なんだろう……。口付けよりも凄い行為ってのは解るんだが。
その、だって……臍の下を撫でられてると、股間が妙に変な感じになるし……。
「お腹を撫でるのは、どんな意味があるの?」
何だか俺まで心臓がどきどきして来て、レッドに問いかける。
すると、レッドは何だか歪んだような笑い声を漏らした。
「これは……準備、みたいなものだな」
「準備」
「お前が嫌がるといけないと思って、ずっと我慢していたんだが……」
呟くように言うレッドに、何だかよくわからなくて俺は問いかける。
「準備した後って、何をするんだ?」
そう言うと、俺の肩に顔を乗せていた相手がゴクリと唾を飲み込んだ音がした。
「それは……まあ……夜に教えてやる」
「…………?」
レッドがそう言うなら、まあ……今は良いか。
……あれ、そう言えば、俺はジャム作りで失敗して悲しかったのに、いつの間にかレッドがする事の方が気になってしまってるな。
もしかして、レッドは俺の気分を変える為にこうしてくれたんだろうか。
でも、なんだか、こういうのは体がむず痒い……。
どんな気持ちなのかは解らないけど、でも嫌だとは思わないから、きっとこれも「恋人」に対する気持ちなんだよな。
でも、夜に教えてくれるって、なんで夜なんだろう。
体を触る以上の事って、何をするのかな。
→
※またも遅れて申しわけないです(;´Д`) 修正は明日…
BL大賞今年も参加しました(*´ω`*)
クズ中年×17DKという属性を好きな方が更に増えて欲しい!ので
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