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空中都市ディルム、繋ぐ手は闇の行先編
49.そんな場合じゃないんだが
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なんとかエメロードさんが助かった後、当然ながら王宮は蜂の巣をつついたような騒ぎとなって、その日は巡回隊がギアルギン……いや、元・女王の従者クロッコに首縄をかける為に、島中捜索するとんでもない事態になってしまった。
俺達はとりあえず待機という事で別荘に戻る事になり、シアンさんも状況が落ち着くまではと鳥籠に再び入る事になったが……今度の事は、きっとシアンさんの身にも危険が及ばないようにと考えての事だろう。
だって、シアンさんが必死にエメロードさんを助けた姿は、沢山の人が見ているんだから。それに、見張りの兵士達もシアンさんの体を心配してたしな。
……と、そんな訳で……俺達はエーリカさんと他数人の見知らぬエルフ達の警備の中で、別荘にカンヅメを余儀なくされる事になったのだが……――
「ツカサ君、もう体は平気?」
燦々と日が差し込む、王宮内にある別荘。の、一室。
俺が寝ているベッドの脇で首を傾げるのは、無精髭がだらしない赤髪のオッサン。相変わらずの格好だけど、昨日はあれから丸一日使い物にならなかった俺のお世話をしてくれた後だったので、むしろ逆に疲れから来る無精なのではと心配してしまう。
「なんとか自力で歩けるようにはなったけど……お前こそ大丈夫なの?」
上半身を起こしてそう問いかけると、ブラックは嬉しそうにニンマリ笑いながら、ベッドに乗り上げて来た。何をするのかと思ったら、俺を抱き寄せて唇の端をペロリと舐めてキスをして来ようとしやがる。
「っ、や……ばっ、ばかっ……! やめろっ! まだ昼……ッ」
ハァハァと荒い息を吐きながら端から口をベロベロと舐めて来るもんだから、何か熱くて湿った息が顔全体に拭きかかって来てつらい。
というか折角治りかけてるのに、口の周りがヨダレだらけになるほど舐められて、体がまたゾクゾクすると言うか痺れてしまいそうで、俺は必死にブラックを引っぺがそうとした。だけどブラックは一向に離れる事も無く、それどころか俺の顎を掴んで無理矢理キスをしてきて。
「はぁっ、は……つ、ツカサくぅん……っ」
「ん゛ぅっ、ん……んう゛ぅっ、んん~……っ!」
ばかばかばかそんな事してる場合じゃないだろ!
ヤメロと無駄に分厚い胸を叩くけど、ブラックは俺を離してくれない。それどころか、俺を更に煽るように今度は耳をねっとりと舐めはじめた。
「ぃ、やぁ……や、だ、それぇ……っ」
「これくらい許してよぉ……僕、昨日だけじゃなくて、ここ最近ずう~っとお預けを喰らってたのに我慢してたんだよぉ……?」
「しゃべ……っ、な……や、だ、ってぇ……」
くちゅくちゅと唾液を絡めて耳を舐められ、思わず声が変に高くなってしまう。
むず痒さとお腹の奥がぞくぞくする感覚が同時に襲ってきて、それだけでも恥ずかしいのに、耳穴を少しざらついた舌で煽られて外側を軽く噛まれると、ヤバい所だけじゃなくて下腹部から股間まで全体がきゅうってなってしまって。
「ツカサ君の体を拭くの手伝った時だって、頑張って可愛い乳首もおちんちんも触るのを我慢して拭いてあげてたんだからね! せっかく二人きりでいちゃいちゃ出来る機会だったのにさぁ」
「だ、かりゃって……いまっや、だっ、も……っ、だめ、だ、ったら……!」
そりゃ、助かったし、ブラックが我慢してるのは知ってたさ。
曜気を渡した後遺症で今まで体が上手く動かせなかった俺に対して、ブラックは鼻の穴を膨らませ「興奮してます」って顔を隠しもしなかったけど……それでも、俺の上半身を黙って拭いてくれてたんだもんな。嫌でも我慢してるって解ったよ。
でもさ、だからって少し動けるようになったらえっちな事してくるってどうなの。
だいぶ動けるようになったって言っても、俺まだへろへろなのにい!
「もぉ我慢できないよぉ……ツカサ君、セックスしよ? 恋人セックスしよおよぉ……。僕がツカサ君のこと、どろどろのぐっちゃぐちゃに気持ち良くしてあげるからぁ……。ツカサ君も太くて硬い僕のペニスが恋しいよね、ねっ?」
「ひぐっ、ぅ……耳っ、や、だぁ……っ」
「僕のペニスでお尻の穴をぎちぎちに広げられて、メス奴隷みたいに喘ぎながら頭がバカになるくらいにイキたいよねぇ……?」
「あっ、ぅ……うあぁあ……っ」
耳の穴を舌で弄られるのやだ、ぬちゅぬちゅ音がする。深く差し込まれる度に体がビクッと反応して、その反動で反応しちゃいけない所がどんどん熱くなってしまう。
そこはえっちな事をする部分じゃないのに、えっちする時みたいにブラックに舌を出し入れされたら、体がそれだけ反応して腰が動いてしまって。
だけど、体が気怠いから、もどかしくてどうしようもない。
「ツカサ君……セックス……ふっ、ふへへ……セックスしよ……?」
「だ、ぇ……ば、か……ばかぁあ……っ」
そんなことをしてる場合じゃないのに。動けるようになったら、エメロードさんやシアンさんの様子を見に行こうって思ってたのに、これじゃ出来ないじゃないか。
ぐちゃぐちゃになるレベルのえっちをしたら、また動けなくなっちまう。
このままじゃ、俺までどうしようもない状態になっちゃうよ。
なんで体が本調子じゃないのに、俺の愚息は先に元気になってんだ。冗談じゃないこんな事で休んでたまるか。
……だ、だけど…………今の俺じゃブラックを止めらんないよお……!
「ツカサ君の耳、真っ赤になってきたねぇ……。えへっ、えへへ、可愛くてすっごく美味しそう……。この分だと、おちんちんもおっきしてるかな~?」
だーっ、バカバカスケベオヤジ!!
変に子ども扱いしたようなこと言うなっ、なんだその言い方は!
ああもうやだっ、もう我慢出来な……っ。
「おい、そろそろ入っても良いか」
「い゛っ……」
ドアがコンコンって。この声って……く……クロウ……?
……も……もしかして……クロウ、ずっとドアの前に居たんじゃ……。
「う、ううううわぁああ!」
「あーもー何でこういう時に気が利かないかなあ、あのクソ駄熊……」
お前にとってはそうだろうけど俺にとっては充分気が利いてますうう!
毎回バレてるだろって解ってても、でも恥ずかし過ぎる。やっぱり自分の変な声を今まで聞かれてたって思ったら、思ったらああああ。
「ちぇっ、せっかく良い所だったのに……。でもツカサ君、一段落したらセックスしようね。約束は約束だからね!」
「や、約束……」
「そうだよ。真宮の外に出たらセックスして良いって、ツカサ君が言ったんじゃないか。忘れたなんて言わせないからね?」
「………………」
……そういや、そんな約束もしてましたね……。
こんな状況になるなんて思わなかったから言っちゃったけど、今となってはなんて事を言ってしまったんだと悔やむ気持ちしかないんだが。
せめて、もう少し体力が回復してからやれって約束すればよかった。いや、そんなもん予知できてたら、こんな事にはなってなかったから、もうどうしようも無いんだけどさあ。……はあ……今からじゃないだけマシか……。
マシって、ヤる前提なのは許容しちゃってる俺もどうかとは思うんだけど……まあその、恋人……だし……そこは、まあ……。
…………とにかく、アレだ。まずはエメロードさんの状態を見に行かないとな!
と、言う訳で、俺達は真宮……ではなく、何故か“枢候院”の仕事場にやって来た。
何故そこなのかというと、理由は簡単だ。真宮はクロッコに色々と内情を知られているし、王宮の内部も安全とは言い難いからだ。それに、王宮の普通の部屋では侵入される危険性もあって、とてもじゃないが女王様を完璧に守れるとは言い切れない。
だから、バリーウッドさんが居るあの植物園みたいな仕事場に匿って、木の周りをエメロードさんを守る人達で囲む事にしたのだ。
そうすれば、ライムライトさんの迷宮の力だけでなく、エメロードさんの従者の人達や枢候院の人達の力も加わって、より守り易くなる。バリーウッドさんもいるから安心だ。エメロードさんは少々不便かも知れないが、クロッコが捕まるまでは万全に万全を重ねて警護するしかないから、仕方がないよな。
それにしても……こういう時の神族の人達の団結力ってのは凄い。
微妙に対立関係にあった枢候院と女王側の人達ですら、すぐに手を組んで行動し始めたんだもんな。これが身内パワーという奴なんだろうか。
こういう時、血縁のみの一族というものは便利な物だ。街の家屋を対象とした一斉捜索もスムーズにこなされ、それどころか我らが敬愛する女王陛下を襲った謀叛者としてクロッコを探し出そうと、住民達までもが巡回隊に加わってクロッコを探し出すべく今日も捜索を行っていた。
でも、それほどまでに熱狂的だと、ちょっと怖くなってしまう。
あれから一日経過したが、混乱は収まったもののその騒ぎは全く治まっていない。
それどころか、日に日に彼らの怒りによる団結力は強固なものとなっている。
エーリカさんから教えて貰う情報は、どうも俺には寒気を覚えさせた。
……この怒りが、もし無実の罪を背負った人に向けられていたら。そう思うと怖くもあるが……でも結束力が固いってのは必ずしも悪い事じゃないからな。
今回は良い方向に繋がっていると思おう。
それにしても……改めて、エメロードさんの人気の凄さが解るよなあ……。
この世界の人達って基本的に自国の王様を素直に信じてるみたいだけど、それでも、この嫌気なんて一片も無い純粋な慕いっぷりは凄いと思う。
きっと、ディルムの住民達にとっては、エメロードさんの治世は決して悪い物では無かったんだろう。素直にそう思うくらい、すれ違う神族達は真剣な顔をしていた。
「しかし……昨日の今日で会って、本当に大丈夫なのかなあ……」
巨樹の上に作られている仕事場に下りて、今更ながらに心配になる。
そこでは今も文官の人達が事務仕事にいそしんでいるが、しかしそれもいつもとは少し違って、鬼気迫るような雰囲気になっている。
それは恐らく、バリーウッドさんの部屋で女王陛下が眠っているからだろう。
彼女の傷を慮って、それで彼らも怒っているのだ。
その光景を見ると、自分に向けられた怒りでは無くても少し怖くなってしまう。
だけど、俺達を案内してくれたエーリカさんは苦笑して俺達を促した。
「大丈夫ですよ。さきほども言いましたけど、陛下の怪我はツカサ様達のお蔭で既に完治していますし、陛下のお加減も貧血程度のものです。話をしても怪我に影響することはありませんので、ご安心ください」
「は、はい……。何かすみません……」
説明して貰ったのに、不安になって申し訳ない。
しかしその……実際のところ、エメロードさんが俺達に何て言うかってのも不安でなぁ……。だって、あんな風に「自分は犯人だ」と明かした訳だから……俺達とは顔を合わせにくかったりするんじゃないかと思ってさ。
それに、その事情も怪我に関連しているワケだし、ヘタに追及してエメロードさんが精神的に苦しんだりしちゃったら、俺としてはよろしくない。
女性に優しくって気持ちも有るけど……あの時のエメロードさんの言葉は半ば自白しているようにも思えたし、罪を認めているように見えた。だから、話して欲しくは有るけど、悔い改めようとしている人を揺さぶるような事はしたくない。
話すのが無理そうなら、今回は様子を見るだけで帰ろう。うん。
…………会ってくれなかったらそれも出来そうにないが。
「さ、どうぞ」
エーリカさんに案内されて机の列を縫うように進み、植物によって造られたバリーウッドさんの小部屋のドアをノックすると。
「おお、待っておりましたぞ。さあさ、お入り下さい」
ドアを開けてくれたのは、バリーウッドさんだ。
待っていたとはどういう意味だろうかと疑問に思いながら中に入ると。
「あ……」
思わず、声が出てしまった。
前に訪れた時は、部屋の真ん中に椅子や机があったのに、今はそれらを押しのけて豪華なベッドが接地されており、そこにはエメロードさんが座っていた。
豊かな美しい髪を降ろし、いつもよりもより少女めいた容姿で。
「…………こんな姿でお話をする事を、お許しくださいね」
そう言いながら謝るエメロードさんは、なんだか……俺よりも、幼く見えた。
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