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空中都市ディルム、繋ぐ手は闇の行先編
38.月は秘め事の監視者1
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結局その日、俺達は部屋から出されることも無く、夕方までぐだぐだと無駄に時間を過ごしてしまった。
本当は残りあと少しのバンダナを完成させたかったんだけど、ブラックがいるから縫い物は出来ないし、薬の調合をしようにも材料が無いからなあ。
お蔭で無駄に麦茶を消費してしまったが、それもまた仕方のない事だろう。
ブラックも最初はえっちするとかふざけた事を言っていたが、ドアの向こうに嫌いな奴がいるという事を思い出したら萎えたのか、俺に抱き着いて来たり膝に乗せたりとじゃれつきはするが、やらしい事をしてこようとはしなかった。
えらい、えらいぞブラック。お前はなんて大人なんだ。
「嫌いな奴にツカサ君の声を聞かせたくない」とか何かよく判らん事を言っていたが、それもまあいい。我慢したという事が大事なのだ。
クロウに俺を取られたら取っ組み合いの喧嘩をしようとしたのは頂けなかったが、それは監禁されてフラストレーションが溜まってるからだろう。不問にしよう。
微妙に狭い部屋の中で、男三人で何時間も待機させられてたんだから、苛々してもしょうがない。俺はお茶とかする事が有るから良いけど、ここに来る時に武器を取り上げられちゃってるから、ブラックは武器の手入れも出来ないし、クロウに至っては所持品なんてないし、オッサン達はする事が無いんだもんな。
だから、俺も二人の気が紛れるならと、ブラック達がしたいようにさせてたんだが、どうも俺を玩具か何かのように取り合いするので、最終的には俺も参ってしまい何をトチ狂ったか二人に相撲を教えてみたりしてしまった。
凶暴なオッサン二人が目の前でがっぷり四つに組んでいる姿を見て麦茶を啜るのは言い知れぬ気分だったが、権力者のお姉さんはこんな事をして楽しんでいるのだろうか。俺はお姉さんの隣ではべりたい。
……ごほん。
とまあ、色々ヒマを持てあまさないために努力しながら時が過ぎるのを待っていたのだが、結局俺達が外へ出る許可を頂けたのは、窓の外の空がうっすらオレンジ色を含んできた頃だった。もうそろそろ夕方じゃん。
どんだけヒマを潰してたんだろうと思うと、時間を無駄にした感がハンパなかったが、しかし部屋から出て良いと言うのなら喜んで出よう。
エーリカさんによると「夕食のため」とのことで、本格的に許可が出るのは明日だと言われたのだが、本当にそうなんだろうか。これからエメロードさんと食事をするらしいが、不安感がハンパない。
ていうか女王陛下とお食事ってなんだよ。なんでそんな話になるんだ。
危険人物なうえに危険が及びそうな人物だから部屋に監禁されたんだろうに、それがどうしてエメロードさんと一緒に食事って話になるんだ。
こういう時って普通は部屋に食事が運ばれてくるんじゃないのか。
それも、エメロードさんの考えが有っての事なのか? ああもうよく判らない。
色々と不安で仕方が無かったが、招かれてしまったんだから行かなきゃ何も始まらない。そんなワケで、俺達はドレスコードも何も説明されずに、食堂らしき細長いホールのような場所に案内されてしまった。
「ようこそ、こちらへどうぞ」
エメロードさんが着席している所は、ホールに見合った細長い縦長のテーブルだ。
お城の食堂とかによくあるアレだな。
俺達はエーリカさんに誘導されて、上座から少し離れた場所に着くと、とりあえずは食事をしましょうと言われて、しばし菜食中心のコース料理みたいな物を胃に詰め込んだ。なんというか、料理は薄味で優しく仕上げてあるせいか、健康過ぎて俺には正直よく味が解らず、お野菜の緑色が綺麗ですねみたいな感想しか出てこない。
何を食べたかも片っ端から忘れてしまうような、ヘルシー過ぎる食事だった。
ジャンクフード大好きな俺にはちょっと荷が重い食事だなあ……。
まあ、誰に感想を求められる訳でもないからいいんだけども。
食後の緑茶をティーカップで頂きながら、量だけは驚くほどあった菜食料理をぼんやり思い返しなんとか思い出そうとしていると、不意にエメロードさんが話しかけて来た。
「長い間部屋に閉じ込めて申し訳ありませんでした。さぞ退屈だったでしょう?」
少し申し訳なさそうに顔を歪めていうエメロードさんに、ブラックは不機嫌そうに顔を顰めて、エメロードさんの方を見ないようにしながら茶を啜る。
「別に。ツカサ君が居るから平気だったけど」
マナーも何もあったもんじゃないし、臣下が周囲に沢山居るのに女王様になんて口をきいてんだと思わず肝が冷えたが、しかしエメロードさんは気にせず微笑んだ。
「それは良かったですわ。恋人と一緒なら、どこでも楽しいものですものね」
「で、僕らは出歩いて良いのか?」
「あら、そんな性急な……」
「いいから早く言えよ」
これだけ聞いたら大人の会話とは思えないが、しかしエメロードさんは嫌な顔一つせずに、微笑んだままで頬に手を当てて小首をかしげた。
「出歩いて……というのは少し危険かも知れませんねえ。ある程度調査をしたのですが、未だに犯人は解らないままですし、それにエネの行方も解らないままなので……ブラック様とお二人はまだ危険な事に変わりがないのですよ。ですから、おいそれと自由に出歩かせるわけには……」
「じゃあどうなるんだ」
「条件付きで、外出を許します。クロッコかエーリカを同行させることと、別荘にはもう近付かないこと。それに……さきほども言いましたが、明日から三日でわたくしとの約束を果たすこと。これに頷いて頂ければ、許しましょう」
その言葉に、ブラックは眉間に皺を寄せて訝しむようにエメロードさんを見やる。
「三日という期限に、何か意味はあるのか?」
それは俺も気になっていた。急に三日って言われたもんだから、やっぱし何か意味が有るんじゃないかって思っちまうよな。
だけどエメロードさんは微笑むだけで、その問いには答えてくれなかった。
「……真宮には遮るものなど何も無いので、美しい月が良く見えますの。あと三日、もしよろしければブラック様もわたくしと一緒に月を愛でてみませんか?」
「………………」
おい、ブラック、嫌そうな顔をするな。
ていうか女性にこんだけ言われるって本当はすごい事なんだからな。
でも、まあ……ぶっちゃけこれって俺の目の前でまたブラックを誘惑してる訳だし、良い気がしないっちゃそうなんだけど……それよりも、美少女な美女に誘われているブラックに男として嫉妬してしまうので、なんかもう自分でもよく判らない。
相手が美女とかそういうんじゃなかったら、俺もまともに嫉妬してたのかな。
ううむ、なんだかよく判らない……。
だってそもそも、ブラックは前からメスっ子な女の子にはモテモテだったし、妖精の女の子達にもモテモテだったし、もっと言うなら俺と出会う前からもう娼館で男も女もとっかえひっかえだったんだし……モテるのは、仕方ないって言うか……。
モヤモヤするけど、うーん……何だか自分でも本当に何とも言えない。
自分の心に手を当てて考えてしまったが、その間にエメロードさんはブラックに更なる誘惑を囁きかけていた。
「夜の時間と言うのは、秘め事の時間です。昼に口を噤まねばならないことを、夜に行う……。そう、秘密を共有する時間でもあるのです」
「…………」
「ブラック様なら、秘密を共有しても構わないと……わたくしは思っております」
それは……どういう意味だろうか。
言葉通りの意味ならとんでもない誘い文句だけど、でもエメロードさんの笑顔の奥にある瞳は、なんだか真剣な光を帯びているような気がした。
とても率直で、聞いている方が何か良からぬ事を考えて勝手に赤面してしまうようなセリフだったけど、でも、今までのエメロードさんの事を考えると……。
「……もしよろしければ、いつでもお待ちしておりますわ。三日の間、ずっと」
潤んだような瞳で見つめている、エメロードさん。
その目は、本当はどういう意味を込められたものなんだろう。
考えてみるけど、よく解らない。ブラックとクロウの事なら不思議とよく解ったりするのに、どうして他人となると解らなくなっちまうんだろう。
うーん…………なんか催して来た。麦茶をガブ飲みした後に夕食に直行して、最後に緑茶を飲んでたもんだから、なんだかヤバい事になって来たぞ。
どうしよう。こういう時はやっぱりエーリカさんに言った方が良いんだろうか。
困ってしまい背後に控えていた二人に振り向くと、クロッコさんが近付いてきた。
「どうしました、ツカサさん」
「あの、ちょっと席を外したくて……」
さすがに「厠に行きたい」とは言えないよな……。
なので、しどろもどろでそう言うと、クロッコさんは俺がドコに行きたいか解ったのか、エメロードさんに実に恭しくお辞儀をして、退席の胸を伝えると、俺の椅子を引いて案内してくれた。
ブラックとクロウは、立ち上がった俺を見て自分達も席を立とうとしたようだが、エーリカさんが「お客人の離席は、順番に行うのがマナーです」と二人を怪力で押し留めたので、席を立つ事が出来なかった。
「ご、ごめん。ちょっと先に戻ってるな」
「ツカサくぅん……」
「ムゥ……」
ごめん、ごめんってば。でも俺も尿意には勝てないの。
表情で謝りながら、俺は息苦しい空間から一足先に脱出した。
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