異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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空中都市ディルム、繋ぐ手は闇の行先編

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 不倶戴天ふぐたいてんの敵は無い。私の治世はまだ続くという事だろう。
 だが、人間を観測する事にも飽きてきた。


 何も無い。それは良い事だ。退屈するほどの平和は良い事なのだろう。
 世界に平和と愛があふれることが、人間の望みだと言う。だとすれば、物語上の幻想ではなく現実にそれを実現させた私こそが、ありとあらゆる世界において最上の神であると言う証なのだ。退屈とは平和だ。それを実感した事に意味が有る。


 しかし、退屈だ。
 我が治世は完璧であり、ジューザよりも素晴らしい。あの反戦思考の朴念仁ぼくねんじんには、ジレッタントたる私の思考は理解出来なかったらしいが、今は関係が無い。
 平和とは退屈、理解しているがつまらないものだ。


 エルフ達の仕事も今のところは無い。
 だが、彼らは“神兵”として私が一から創り上げた麗しい一族だ。森の民などという矮小わいしょうな場所でしか生きられないエルフよりも、私が作り上げたエルフは賢く尊い。
 天使と違わぬ容貌を持つ種族…創作者としては鼻が高いものだ。
 だが、従順すぎるのも考え物である。改変すべきかどうか迷う。


 ああ、退屈だ。
 私は食物に興味が無い。昔からそうだった。知識を蓄えておくべきだった。
 ノンフィクションを愛したがゆえの想像力の欠如けつじょとは、思っても見ない事態だ。
 あの塵芥ちりあくたの者達も馬鹿にしたものではなかったのだな。


 ――退屈。
 退屈、退屈、退屈。退屈。


 ――――何故ジューザの望みに従わねばならない?
 原始の生活が最も平和だったと言うなら、なぜ人は進化し文明を持ったのだ。
 闘争と決死の知恵を以って進化した存在が人間であれば、平和なる停滞はそれこそ種族としての死を意味するのではないか?

 ああそうだ。世界には“バタフライエフェクト”という言葉が有る。
 蝶のわずかな羽ばたきがやがて嵐を起こす可能性があるように、小さな石が水面を揺らす事で、海のクジラが死ぬことも有る。
 前任者の呪縛によって大きく動かす事は出来ずとも、小さな波紋をいくつも作れば、あるいは。面白い事が、起きるかもしれない。





 そうか、最初からそうすれば良かった。
 改変は「否」ではない。神たる私が神に出来る事を出来ないわけがなかったのだ。
 退屈だった時間が馬鹿らしい。どうせこの世界は明け渡された私の箱庭だ。
 もう充分魂は預かった。統治せよと言うのなら、私の良いように統治してやる。
 ジューザよ、指をくわえて見ているがいい。

 お前の時代遅れの思考はどの世界でも最早古臭い。この世界でもそうだ。
 進化と闘争と、高度な文明。
 それが世界の正しい在り方なのだと私が証明してやる。





 どうだ、見た事か。世界は土を分かち見事な国家となった。
 犠牲は払ったが、それも些細ささいな事だ。神兵は神のためにある。
 七日間などと言う突貫工事ではない。どの国にも、私が充分に愛情をそそぎ、素晴らしい別個の文化を持つ集合体に仕立て上げてやったのだ。
 やはり私は最高の神。既に替えが要らぬ完璧な存在なのだ。
 替えなど、いらない。


 全体的な平和を保つようにしたのは良いが、また退屈になって来た。
 私なりにオリジナリティのある設定を加えたは良いが、植物も、地形も、歴史も、文化も、やはり何かイメージが足りない。これではあっちの世界と同じではないか。
 何より、ジューザの基盤の上に成り立つ改変と言うのが気に入らない。

 完璧だと思うこの麗しき神兵たちも、やはり木偶でく人形か。
 足りない。もっと完璧な文明を造るためには、やはりファジーな部分が必要だ。
 足りない。科学に縛られない、戦争の起きない、個人の力を保つ世界のために。

 ああやはり、あの薄っぺらい夢想家たちの話くらいは聞いておくべきだったか。









 そうだ、知恵を借りれば良いではないか。
 やっと思い出した。■■年ぶりだ。あいつらが話していた物語に、別世界で勇者となる理解しがたい夢物語の話があった。
 馬鹿はいつも夢想に逃げるものだなと思っていたが、考えてみればあいつらも社会にとってはファジーな存在だ。低俗なものを遊ぶ物の意見も、時には必要だ。
 ありとあらゆる人間を、御するためには。


 成功だ。一人目がやっと訪れた。
 考えてみれば循環しているのだから、逆の事が出来ない訳が無かった。


 死んでしまった。この世界ではあちらの人間は脆弱なようだ。
 数人続くとさすがに気が滅入って来る。…そうだ、ならば、私と同じような超常的な能力を持たせればいいのではないか? それはいい。記録を付けよう。


 馬鹿だ。ははは、馬鹿どもめ。
 勘違いしおって。魔法などある物か。
 魔法。そうか。魔法と言う物が必要なのか。


 どうだ。お前達になじみ深い物を作ってやったぞ。
 だがさすがに疲れた…夢想もここまでくれば厄介だ…。
 全世界を改変する事がここまで大変だとは思わなかった


 順調だ。しかし良く死ぬな。
 召喚条件を絞ってみても、上手くいかない。能力を弱くしたのが原因か?
 それとも、つまらない人間ばかりを持って来たのが原因か。
 まあどうせあんなものを喜んでいる奴らだ。ほとんどがそうだ。
 貧弱なのだから簡単に死んでも仕方がないか。


 記録が溜まって来た。こうなると本にすべきだな。
 …………そうだ、これを【ロールプレイングゲーム】と名付けよう。
 馬鹿みたいに行列を組んで“ままごと”を楽しんでいた奴らに御似合いの記録だ。
 しかし、神とは本当に全知全能だな。
 あいつらのお蔭でだいぶん低俗な知識も溜まって来た。世界の改変に使える。
 どうせなら、神族達も“パワーアップ”とやらをしてやろう。









 嘘だ。そんな馬鹿な事が有るか。
 この幾年月、私がどれほどこの世界を進化させ、素晴らしい文明を築いて来たか解っているのか。こんな事が有ってたまるか。
 今までずっと来なかったではないか。何故今現れたんだ!

 神は私だ。私だけが神だ。私以外の神など要らない。
 私のコマを使うな、私の世界を改変するな、私の世界を造り変えるな!!!!!




 殺す事にした。この世界は私の世界。私以外の神は要らない。
 ……私を殺す存在? 馬鹿らしい。何を考えているのか。
 考えてみれば“あれ”は神ではない。ただ特殊能力を持った人間ではないか。
 私をあんな馬鹿どもと同じ存在だと思っているのか。
 ふざけるな。殺す。殺してやる。
 その力が、私に届く前に。


 何故だ。何故復活する。代わりが出てくる。
 あいつら あいつらがやっているのか。
 私を選んだのはお前達じゃないか。どうしてこんなことをする
 女だろうが子供だろうが殺す、神は絶対だ、揺るがない物だ、この世界は私の物、全ては私の為にあるんだ!!


 兵士だと。バカバカしい。
 バカの兵器など作り変えてやる。
 何も及ばない、夢を見てばかりの存在など、この高みに登る事すら出来ない。
 死ね、死ね 死ね


 何故死なない、最悪だなんだあの化け物は
 知らない、なんだあれはどう対処すればいいどうするあんなものは


 何故だ、何故あんな












 久しくここに来ていなかった。
 ディルムは最早どうしようもない。天上界は廃墟同然と化した。

 真祖しんその神族もほとんどどが死んだ。もう子供しか残っていない。
 観測台に残る真祖たるエルフ達も最早もはや両手で数え足りるほどになってしまった。

 だがそれでも、あの忌々しい存在と決着を付けることになるだろう。
 改変をほどこした真祖の子は生きるだろうが、それがどうしたというのか。これで私が死ねば、私の治世を体感し心酔する者は存在しなくなる。

 私の数万年の素晴らしい治世は、絶対に揺るがない。
 僻地へきちで這いつくばこまを育て、やっとここまで来た。今度も返り討ちにすればいい。

 私は神としてこの世界に君臨した。
 神ではなく、ただ“私を討伐するもの”として選ばれた黒曜の使者などに、神たる私がたおされる訳も無い。今度も、片手でひねる事が出来るはずだ。

 漫画やゲームなどという夢想の世界に浸り切った馬鹿な人間に、私の知識と経験が負ける訳が無い。搾取される知識は、ただ搾取されていればいいのだ。






 モンスターか、いい“歯車”を生んだものだ。それだけは褒めてやろうか。
 その化物も私が利用してやる。これでまた世界に変化が生まれるのだ。そこだけは“不倶戴天の敵”に感謝すべきか。
 そうだ。相手は敵でしかない。世界に平穏をもたらした私が負けるわけが無い。
 

 私は永遠にこの世界の神として君臨する存在。
 黒曜の使者は私を殺しに来るためだけの存在。


 神は次代の神を決める事が出来るが、黒曜の使者はそれを行う事が出来ない。
 これは私と殺戮者の明確な違いだ。すなわは次代の神ではないのだ。
 ならば、殺せる。今までも何度も殺して来たではないか。
 何千万もの人間と何千億もの力を行使すれば、また、平穏な時が訪れる。

 私は神だ。それを可能に出来る唯一の存在、唯一の尊い存在なんだ。

 神などまだ決めてたまるか。この世界は私の物だ。

 この、私のヽ ,














 
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