異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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空中都市ディルム、繋ぐ手は闇の行先編

18.可愛い物は心を癒す

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「…………俺、なんでブラックの部屋にいるの……?」

 目が覚めて、何だか妙だなと思ったら、俺はブラックの部屋にいた。
 しかも全裸で。

「え……あれ……?」

 ベッドの上に全裸はまだ良いとしても、いやよくないが、なんでブラックの部屋?
 朝だというのに部屋には誰も居ないし、何故二晩でここまで部屋のニオイを変えてしまうのかと思うほどオッサンくさいし、しかも服は強奪されて着替えが無い。
 相変わらず事後処理はマメなようで、俺の体を綺麗に洗ってくれていたようだが、しかしどうしてこの部屋に連れて来たのだろう。

「いや、まあ、俺の服はズタボロにされたし全裸は仕方ないけど……」

 ああ、そうだった。どうしようあのズボン俺の一張羅いっちょうらだったのに。
 最早どうつくろっても「股間がなんか変な縫い目をしてるド変態ズボン」のそしりは逃れられないだろうズボンを思って泣いていると、ベッド横にあるサイドテーブルに俺のバッグが置かれている事に気付いた。

 ブラック、俺の荷物一式を持って来てくれたのか……。
 いやキュンとはしないけど。
 つーか怒ってるからね俺。冒険者用のズボンって安物でも良い値段するんだからなチクショウめ。路銀切り詰めて買う俺の身にもなれ。

 どうせブラックの野郎「僕が代えを買ってあげるから」とかハートマークを散らしながらいうんだろうけど、何が悲しゅうて家族以外から服を買って貰わなきゃいかんのだ。それじゃ俺がこの世界でも未成年みたいで屈辱じゃないか。

 俺は十七歳、こっちの世界ではもう大人だ。この異世界では十二三歳でもう大人の体になってたりする子も多いんだ。俺より子供なのに立派にオトナしてる奴がいるってのに、俺が扶養ふようされてちゃくやしいだろうが。俺だって一応異世界転移のチート野郎なんだぞ。同い年らしかったキュウマに出来て俺に出来ない訳が無い。

 くそう、何としてでも買ってやる。俺の稼いだ金で買ってやるうう!
 お前らオッサンなんか俺の扶養対象だばーかばーか! 大黒柱の俺にひれふせ!

「はー……。まあ、それはともかく……。ズボンは買うから良いとしても……とりあえず下着くらいはあるよな……何枚か予備持ってたし」

 物凄く屈辱だが、エーリカさんに何かズボンの代わりになる物を用意して貰うまではシーツをクルクル巻き付けていよう。
 それにしてもバッグが近くにあって良かった。下着は穿けるぞ。
 そう思いつつ、雑貨なんかを箱にまとめて収納しているスクナビナッツから、その箱を取り出して中身を確認したのだが。

「…………ん?」

 取り出して見て分かったのだが、なんか色々物が消えている。
 いや、消費したまま整理と在庫確認をせずに旅をしていたからってのもあるが……よく数えてみると、あったはずの物が多々無くなっていた。

 なにがって、布とか下着だ。蜂龍ほうりゅうさん達から貰った“虹の水滴”の糸玉も無事だし、こっそり編んでいたバンダナとかは別の所に厳重に保管していたので無事だったが、どうして他の布が無くなっているのか……。

「…………あれ……下着って買い足してなかったっけ……」

 いや、頻繁ひんぱんに洗濯するし、最近は給仕さんが居る場所に泊まりがちで、彼らが毎日洗濯してくれるから、三枚くらいのローテーションで充分で在庫とか確認してなかったけど……にしたって、もう一枚あってもよくないか?
 というか何かに使おうと保管していた安い布まで無いのはどういうことだろう。

 もしかして…………いや、他人を疑うのは良そう。
 どうせそうだったとしても「アイツならやる」としか言えないのだから。
 憎むべきはあんな変態おたんこなすと付き合っている俺だ。だから怒らない。怒ったら負けだ。とにかく、二人にあげるバンダナは無くなってなくてよかった……じゃなくて下着!!

「ど、ど、どうしよう……。シーツ巻いただけでエーリカさんの前に歩いて行くのもアレだし、かといってこの場所ではリオル達も呼べないし……」

 そんな事を言いながら困っていると――バッグの紐の根元にくくり付けていた綺麗な青い珠の根付けが急に光った。と。

「ビィー!」

 光の線が現れて空中に魔方陣のような物体が展開し、そこから勢いよくぷにぷにで可愛いでっかい蜜蜂……じゃなかった【天鏡てんきょう蜂】の柘榴ざくろが飛び出してきた。
 と思ったら、驚く俺の胸にどすーんとダイブしてくる。

「おおっ、ザクロ! お前出て来れたのか?」
「ビビッ! ビ~!」

 電子音のような独特な鳴き声を出しながら、柘榴はドームのような目の奥で赤い目を明滅させて嬉しそうに頬ずりをして来る。
 大福のようにぷにぷにした柘榴のほっぺたに思わずえつってしまったが、いやそんな場合では無い。柘榴の頭を撫でつつ、俺は彼……彼だったかな。とにかく柘榴の一列目の脇をもって抱えた。

「ザクロは神様の眷属だから、この王宮にも出て来られたのかな……。なあザクロ、気分は悪くない? 大丈夫か?」

 神様に従っていた「龍」の子供みたいな存在とは言え、人族と契約を結んでいたら何か不都合が有るかも知れない。あのほら、神聖性が人間との契約によって失われるとかそういう事もあるじゃん。だから、心配したのだが……柘榴は元気そうだ。
 不思議そうに小首を傾げて、しっとりとして金属のような不思議な丸いへら状の手で、俺のほっぺたを心配そうにぺたぺたしてくる。

 んんんんっかわっっいいっ!
 世界一可愛い蜂に認定せざるを得ないんですけど!!

「ザクロ~!」
「びびび~!」

 俺の気の抜けた声に合わせるように、可愛らしい鳴き声で俺の首に手を回して嬉しそうに目の奥の光を細める柘榴。だはーもーたまらんのですが。
 ここで永遠に遊んでいたかったが、そうするとブラックのばかもんが帰って来て色々厄介な事になりそうなので、早い所ズボンと下着の代わりを探さねば。

「あ、そっか……もしかして、ザクロは俺が困ってたから出て来てくれたのか?」
「ビビッ! ビビ~ビィッビビビ!」

 なんだかジェスチャーで俺に「こういうのを任せて!」ってやってくれてるみたいだが、残念ながら俺は蜂ジェスチャーを解読するスキルが低いので、よく解らない。
 でも、とにかく助けてくれる事だけは確かだ。

「ありがとな~ザクロ~! あ……でも、何も説明せずにザクロを紹介したら驚くかな、エーリカさん……」
「ビ?」
「ここはね、ザクロみたいに俺達人族とお話しできる子とか、ペコリアや藍鉄あいてつみたいなモンスターがいない所らしいんだよ。だから、ザクロみたいな可愛い蜂さんとも会ったことがないから、びっくりしちゃうと思うんだ」
「ビィ~」

 なるほどなるほどと言わんばかりに頷く柘榴ちゃん超可愛い。
 もふもふの純白えりまきと頭にお花飾ってお写真をとりたーいとかスイーツな事を考えつつも、俺は柘榴の頭を撫でて優しく説明を続けた。

「だから、びっくりさせないで仲良く出来るように、ちゃんと準備しておかなくっちゃいけないんだ。今から一緒に考えような」
「ビー!」

 本当は、俺がシーツを巻いて出て行けば済む事なんだけど……あの……さすがに「昨晩なにか有りました」という姿で出て行くのは恥ずかしく……。
 ううむ、何か案が無い物か……などと思っていると、不意にドアをノックされた。

「は、はい?」
「ツカサ様、起きていらしたのですね。ブラック様から『服を持って来て欲しい』と申し付かっておりましたので、持ってまいりました」
「えっ、そ、そうなんですか?!」
「ビビッ!?」

 あわわわどうしようさすがに柘榴を直で見せる訳には行かない……と思ったら、頭が良い柘榴ちゃんはカーテンの後ろにさっと隠れてくれた。
 ロク達もそうだけど、どうして可愛いモンスター達はこんなに頭が良いんだ……!
 可愛い上に賢いだなんて、向かうところ敵なしじゃないかっ!

「あのー、ツカサ様ー入ってもよろしいですかー?」
「あっ、はいはい! 申し訳ないです、どうぞ!」

 そう言うと、エーリカさんはニコニコしながら入って来た。
 俺は服を着ていないので、ベッドにもぐり込んで頭だけ外に出した状態で出迎えたのだが、寝たままってのはちょっと行儀が悪い気もする。でも体にキスの痕とか付いてたら恥ずかしいし、ここは許して頂きたい……。

「あの、ブラックとクロウは……」
「クロウ様は部屋で今日一日お眠りになるとの事なので、お食事の時以外は呼ぶなとおっしゃっておられました。ブラック様はアイスローズ様とのお約束で王宮の方へ行っていらっしゃいますよ。はい、こちらが新しい服です」
「へ~、そうなんですか……あっ。ありがとうございます」
「それでは、私は下の階におりますので」

 そう言いながら、エーリカさんはすぐに退場してしまった。
 俺がベッドから出てこない理由を察してくれたんだろうか。でも、それってつまり俺がブラックと何かやったって事を知られたって訳で……う、うぐぐ、か、考えるな。今は考えるんじゃない。よし、ちゃんと着替えるぞ。

「ビビ~?」
「んー、もう出て来ていいぞザクロ~」

 下着……が、ないな。まあ贅沢は言っていられない。
 とりあえず着替えるかと、柘榴と一緒に服を広げてみると。

「うん。………………うん……?」

 あれっ。そでを入れる所が見当たらないぞ。つか足入れる所もなくない?
 えっと……これ……。

「ビィ。ビビビ?」
「あっ、なるほどここが詰襟つめえり……なるほどなるほど」

 今度は俺が柘榴ちゃんに教えて貰いながら、純白の服を開いて頭からかぶる。
 そしてきちんと襟を積めて、俺は姿見すがたみに全身を映してみた。

「……うん……いやまあ、分かってたけどね……」

 詰襟の純白服。は、いいのだが、改めて自分が来てみるととても酷い。
 いや服はまったく酷くないし、コレを着た女の人は確実に可愛いなと思うのだが、俺が装備したって寧ろ気持ち悪いだけである。
 だってこれ、詰襟は良いんだけど、袖なしでタンクトップみたいに腕を通す所が広く取られていて脇の所とかガン見えだし、腰の所はぴったりと体に張り付く感じで、Tシャツが好きな俺には非常にキツい。何より……。

「なんだこのめっちゃくちゃキレてるスリット……」

 そう、持って来て貰った服はチャイナドレスのようなもので、よせばいいのに何故か足の付け根の所まで尋常じゃないスリットが入っており、少し動くだけでも股間が見えるんじゃないかとヒヤヒヤするような有様だった。

 いや、駆け回ったりするための服じゃないからコレで良いんだろうけど、でもコレを男の俺が着るってのは間違ってませんか……。
 そういえば詰襟から胸の部分に掛けて、白の刺繍で綺麗な模様が描かれているな。もしかしたら、本当に女物なんじゃないのか。ははーん、さてはエーリカさん、俺に持ってくる服を間違えたな?

 間違えてなくてもいいから、とにかくズボンをお願いするか服を変えて貰おう。
 こんなヒラヒラ服耐えられぬ。というか、俺は似合わないだろこれ……。この世界に来てから似合わない服ばっかり着せられてるような気がするが、何かのいじめなのだろうか。いやまあブラックなら有り得るけどな。

「ビィー?」
「ああ、何でもないよ! ちょっと外に出ようか。……でも、紹介してないからまだ不安だな……。そうだ。ザクロはぬいぐるみの真似とかできるかな?」
「ビビビッビ?」

 あ、そうか。柘榴は森に住んでたからそう言う物を知らないんだっけ。
 部屋にあった置物を例にとってぬいぐるみの事を説明したら、ザクロはすぐに理解してくれたようで、俺の腕の中にすぽっと入るとぬいぐるみになりきった。
 柘榴の大きさは小型犬よりちょっとだけ大きいくらいなので、抱いていても違和感は無い。が、俺が抱えて歩くとちょっと……その……なんていうか不審者……。

 こんな所俺を知ってる奴に見られなくて良かった。本当に良かった。
 柘榴は可愛いけど俺は可愛くないから本当にキツい。絵柄が。

 しかし、このキツい絵柄で歩き回るか変態にしか思えない姿でずっと居続けるかを選べと言うのなら、俺は迷わず前者を選ぼう。
 どうせクロウは寝てるしブラックは留守なんだ。何とかしてエーリカさんにズボンを貰わねば。そう心に決め、俺は若干じゃっかんふらふらする体で部屋を出た。

 うう……良く考えたらガツガツやられた後だった……体が酷く重い……。
 歩き続けると尻が変な感じになるし腰は痛いし足は筋肉痛だ。おまけに何故かうなじが痛い。そんなところ筋肉痛にするような事をしたっけなあ。

 不思議に思いつつも、俺は階段を下りてエーリカさんを探した。
 一階にいると言ってたけど、どこに居るんだろう。そう思って、玄関ホールを抜けて厨房にでも行ってみようかと思っていると――不意に、玄関の扉が開いた。

「おや、これはこれは随分と可愛らしい恰好をしていらっしゃる」

 そこにいたのは……お供も付けずにやってきた、この国の重鎮バリーウッドさんだった。偉い人がなぜここに。つーか見られた、このカッコみられたあああ!











 
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