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イスタ火山、絶弦を成すは王の牙編
事実と真実2
しおりを挟む「息子……?」
クロウが、ドービエル爺ちゃんの息子だって?
じゃあクロウが探していた父親がドービエル爺ちゃんだったってこと?
でも、クロウはドービエルなんて名前は知らないと言ってたんだぞ。母親だけではなく、仲が良いとは言えなかった兄弟のこともきちんと覚えていたんだぞ。
それなのに、父親の名前を忘れるなんて事が有るんだろうか。
だけど爺ちゃんはクロウを見て、明らかに目を見開いている。
最初は訝しげな視線だったのに、眉根を寄せて目を閉じているクロウの顔をじっと確認して、その表情に豹変したのだ。
そんなの、誰が見たって「何か心当たりが有る」って解る。
爺ちゃんは、まさか本当に……クロウの父親なのか?
でも、だったらどうして。どうしてあんな場所に居たんだろう。何故ヒルダさんの夫を殺したりなんかしたんだろう。どうしてそれを悔やんで……家族をほったらかしにして、死のうとしてたんだ。
「爺ちゃん、どういうことだよ!? 本当にクロウの父さんなのか!?」
首筋にナイフを当てられているが、そんな事より二人の関係の方が重要だ。
もし本当に二人が親子だとしたら、クロウが探し続けていた父親が見つかったことになる。そもそもどうして探していたのかは俺にも話してくれてないけど……でも、本当に爺ちゃんが父親だとしたら、クロウの願いは一つ叶うじゃないか。
こんな状況なのに、何故か期待したような声を発してしまう。
そんな俺に爺ちゃんは目を向けて、それから所在なさげに視線を逃した。
「しらばっくれても無駄よ」
ヒルダさんの声に、ドービエル爺ちゃんの耳が動く。
そんなつもりは無かっただろう。だけど、ヒルダさんは今何も見ても何を聞いても、それをそのまま受け取ろうとはしない。悪意と言うフィルターを掛けてしまう。
今の彼女には、真実を言おうがそれを真実とは受け取ってくれないのだ。
「……爺ちゃん。クロウが、探してたんだ」
俺の声に、その場の全員が注目する。
ドービエル爺ちゃんとヒルダさんだけではない。ギアルギンとレッドも、俺の事を見ていた。だけど、構っている暇はない。いや、ギアルギン達がまだ行動を起こそうとしていない間に、なんとかして糸口をみつけないと。
レッドの炎の壁は、ブラック達を通さない。だが、それは逆に言えば、レッド達はこの場から逃れられないということだ。クロウを確実に殺させるために壁を作ったとしても周囲にはブラック達が居る。壁を消せば一斉に飛び掛かられるだろう。
対策を考えるにしても、ドービエル爺ちゃんがいる今は迂闊に動けないはず。
どうやらギアルギンはドービエル爺ちゃんを侮ってはいないようだ。レッドは未だに状況が呑み込めていないみたいだけど、それも好都合だった。
この状況で、話をできる時間を作らなければ。
ヒルダさんが激昂しているのは、自分の考えにしか意識が行かないからだ。自分の思いだけしか見えていないから、それ以外の事を考えられないんだ。
だったら、ヒルダさんが入って来れない話題をこの場で出せば、彼女の意識がその話を理解しようとして冷静さが生まれるはず。更に激昂する可能性もあるけど、これ以上怒ったとしたら、それは周囲が見えなくなったのと一緒だ。ギアルギン達が言葉で牽制できないのであれば、俺が体を張って彼女を止めればなんとかなる。
人はいつまでも怒っている事は出来ない。
死なない体の俺なら、きっと彼女が冷静に戻るまで耐え切れる。
人質に取られて最も冷静になれている今が、勝負だった。
だから、もっと喋らなければ。喋って、流れを変えるんだ。
「クロウはずっと、父親を探してた。だから、俺達と一緒にいたんだ! なあっ、ドービエル爺ちゃんが本当にクロウのお父さんなのか……!?」
「わしは……」
「何を迷う必要があるの。貴方が父親なのは間違いないでしょう?」
冷ややかに言うヒルダさんの言葉に、爺ちゃんは少し俯いた。
「不甲斐ない、父と名乗る事すら出来ない男だ。……だが、血で表すのであれば……わしは、親だ。それは変えられん」
「どうしてそんな風に……」
思わず問いかけると、相手は軽く首を振った。
「……わしは多くの罪を犯した。そしてこの子にも……何も、してやれなんだ。最低の父親だ。そんなものが親と名乗っていいはずもない」
「そうね、最低ね。そして……私の夫も……バルクートも……殺した……」
「ッ……!」
首元に突き付けられた刃が、少し食い込む。
痛みを感じたが、口を噤む事しか出来ない。何か言わなければと口を開くと同時にヒルダさんが怒りを籠めた声を吐き捨てた。
「殺してやる、お前は絶対に殺してやる!! そこの男を殺した後で!!」
「ひっ、ヒルダさん、待ってよ! ドービエル爺ちゃんは、本当にヒルダさんの伴侶を……勇者を殺したの!? だって、爺ちゃんそんな事は何も……」
あの時、爺ちゃんはどこかから逃げて来たと言っていた。だけど、罪を犯したとか、そんな事なんて言ってなかったはずだ。
故郷に帰りたいと言っていた口ぶりからは、爺ちゃんが人を殺して悔いていたようには思えなかった。少なくとも、あの時は「帰る意思は有ったけど、どうにもできずに人生を悔いて死のうとしていた」という状態だった。
とても、人を殺して悔いているようには見えなかった。
…………だけど……この世界は、人の命が異様に軽い……。そのうえ、獣人族は俺達と価値観が違う。もしかしたら、誰かを殺した事は何でもないことなのかも。
だったら、余計にヒルダさんの怒りに油を注ぐことになる。
でも、じゃあ、ドービエル爺ちゃんの罪ってなんだ。どういうことなんだ?
よく分からない。ちゃんと話してくれないと、分からないよ。
「爺ちゃん、何が有ったのか話してよ! ちゃんとぜんぶ!! ヒルダさんも、本当は何が起こったか知らないんだよね!? だったら、聞かなきゃ……!」
「うっ……」
背後の声が詰まる。やっぱりそうだ。彼女も聞いた話でしか知らないんだ。
「何を言うんですか。この獣人が、勇者を殺した。それ以上に情報が必要ですか? 世迷言で時間を稼ぐ暇が有るのなら、命乞いでもしたらどうです」
ギアルギンがまた余計な事を言う。
だけど、ドービエル爺ちゃんは背後を一瞥すると、片方の前足を小さく上げて――ドン、と地面を叩いた。その刹那、俺達とドービエル爺ちゃんを囲むように分厚い土の壁が出現した。炎の壁の中に、二重に壁が出来たということか。
「あの炎の壁を出現させておる間は、この分厚い土壁を砕くのにも苦労するはずだ。……外野に煩わされる必要はない。知りたいと言うのなら話そう」
そう言いながら、爺ちゃんは一声吠える。すると見上げる程に大きかった巨体が徐々に縮み、普通の熊と変わらない程度の大きさになった。人化は出来ないと言っていたけど、体は自由に変化させられるらしい。
凄いなと思っていると、ヒルダさんが強張った声で一歩退いた。
「ふ……ふざけないで。私をこのまま殺す気?」
「嘘を言う気はない。気になるのであれば、ツカサに『自分を殺すな、真実を話せ』と命令させればいい。わしはツカサに剣となり盾となると誓った。召喚珠を渡したのがその証拠だ。命令をすれば、わしもモンスターと同様に扱える」
言いながら俺を見る爺ちゃんに、ヒルダさんは少し考えて、俺に命令した。
「ツカサさん、召喚珠で命令して」
「う、動いていいんですか」
「おかしな真似をしたら、貴方を殺さなければならなくなる。だから、従って」
言ってくれるだけ優しい。
俺は頷くと、胸ポケットから召喚珠を取り出し、ドービエル爺ちゃんの召喚珠だけを残して残りをポケットにしまった。そうして、珠を握り締めながら呟く。
「ドービエル・アーカディア……今から説明する事は全て真実のみを話し、ヒルダ・パーティミルに危害を加えないように命令する」
そう言うと、召喚珠が命令を受諾したのか光を灯してふわりと浮きあがった。
ここまでやったら信用されない訳はないだろう。
ヒルダさんも一応は納得したのか、俺の首に添えたナイフを少しだけ緩めた。
「……確かに命令は出来るみたいね。……では、話して貰おうかしら」
ヒルダさんの言葉に、ドービエル爺ちゃんは頷いて話しだした。
→
※進んでない上になんだか妙な事になってますが、もう少しで火山編も
やっと終わりますので、もう少しだけお付き合いいただけたら嬉しいです…
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