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イスタ火山、絶弦を成すは王の牙編
50.状況をすぐに理解するのは難しい
しおりを挟む※遅れて申し訳ない…もう少しで決着つくです…_| ̄|○
「クロウ!!」
叫ぶが、クロウは応えてくれない。
苦しそうに唸りながら倒れ込んだまま、こちらを見てもくれない。
明らかに何かヤバい状況になっている。もしかしなくてもギアルギンが何かをしたに違いない。でも、何をやったんだ。あの謎の黒い玉が何か関係してるのか?
何をやったのか聞こうと思い背後を振り返ろうとした、と、急にクロウが先程よりも強い声を上げて目を見開いた。明らかに、様子がおかしい。
「ッ、ぐ……!」
苦しそうで、もう見ていられない。
なんとかしてクロウに近付かないと。その一心でギアルギンから逃げ出そうとするが、相手に腕を取られて後ろに捻られてしまう。
思ったよりも回復が遅くて成すがままになってしまうが、だからって抵抗しない訳にはいかない。ジタバタともがいていると、背後から笑い声が聞こえた。
「フフ、いま貴方に近付かれては困るのですよ。まあもう少し傍観して居なさい」
「は……!?」
なにそれ。どういうこと。
まさかコイツまだ何かする気なのか。
「お前っ、一体何をッ!」
させてたまるかと必死にもがくが、相手はそこまで体格がいい訳でも無いのにビクともしない。ヤバイよ、傍観なんてしてたら絶対にヤバい事になる。解っているのに、なのに、何も出来ないなんて情けなさすぎる。
くそっ、せめてあっちにいる二人に曜気を送れたらいいのに……!
「ラスター、アドニス……っ」
思わずつぶやいた俺の声を、ギアルギンが拾う。
「今の彼らでは少々厳しいのでは? 彼らは覚醒している訳ではないのですから。まったく、貴方も残酷ですね」
「残酷って、なにが……」
「ほらほら、ごらんなさい。貴方の眷属の様子がおかしいですよ」
何かよく解らない事を言われて問い質そうとしたが、しかしクロウに何か怒ったと言われそちらを振り向く。するとそこには……光の帯で何重にも縛られているクロウがいた。さっきまで何も無かったのに、なんで?!
「なに、あれ……」
光の帯は、古代文字のような紋様を刻んでいる。いや、文字が帯となっているんだ。だけどどうしてあんなものが。やっぱりギアルギンが持っている玉が悪いのか?
何とかしなきゃ、何とか……そ、そうだ……!
「ペコリア!!」
破れかぶれで俺がそう言った瞬間、俺の胸ポケットが輝き白煙がぼうんと現れる。完全に虚を突かれたらしいギアルギンは俺を拘束する手を一瞬緩めたが、離すまでは行かない。しかしそれを完全に断ち切るように「クゥー!」と鳴き声が聞こえて、煙の中でドンと腕に衝撃が走った。途端、体が前のめりになる。
「うおおっ!」
「クゥッ、クゥー!」
倒れそうになった俺の体を、もふりと何かが支えてくれる。
そうしてそのまま俺を乗せて走り出した。これってペコリア達が助けてくれたんだよな! 煙から抜けると、俺を引っ張って走り出したペコリアちゃん達が現れた。
ああっ、ありがとう、ありがとうペコリアちゃん達!
「クッ……! 雑魚如きが……!!」
背後から苛ついた声が追ってくる。
だけど振り返る事も出来ず、俺はペコリア達と共にクロウの所に走る。
今はギアルギンには構っていられない。そう思ったのだが――背後から急に衝撃が来て、俺の体は一瞬浮き上がった。が、すぐにペコリア二匹が俺の体を地面へと引き戻してくれる。今回は俺が焦ったのが悪かったのか、二匹だけしか出て来られなかったみたいだが、それでも俺を守ってくれていると思うと涙が出そうだった。
「ありがとうペコリアぁあ」
「クゥ~!」
「クク~!」
恐らく風弾か何かを打ちこまれているんだろうが、俺が振り返る間もなくペコリア達が攻撃を耳で察知して「こっちに避けて」と教えてくれる。
ギアルギンがなんの攻撃をしているのかは解らないけど、ペコリア達のお蔭で怖くないぞ。このままクロウの所にレッツゴーだ。
「このっ……! いい加減くたばれ!!」
「こっちの台詞だ!!」
視界の端では、ブラックとレッドが未だに戦っている。黒籠石がばらまかれている中でも元気に罵り合っているが、しかし……やはりブラックはいつものような勢いがないようだ。本当にどうしたんだろう。
もしやブラックの問題じゃなくて、レッドが急に強くなったって事なのか?
でも、それならブラックと剣を合わせて拮抗状態なんてことないだろうし……ああもうよく分からん。とにかくクロウを先に助けなければ!
「クロウ!」
文字列の帯に何重にも縛られ酷く苦しんでいるクロウは、俺の声に反応するように必死で首を上げる。
だが目を苦しそうに歪めると、そのまま、光の帯に包まれ切って――――
「――――!!」
光が一気に飛び散り、そこに現れたのは……元の姿に戻った、クロウだった。
角も牙も爪もない、熊の獣人の姿。だけど……なにか、嫌な予感がする。
「クロウっ、大丈夫か!?」
トライデンスの残骸が飛び散った凄惨な場所に横たわるクロウに駆け寄り、重たい体を必死に抱き起こす。
一瞬、息をしていないのではと怖くなったが、クロウの体は微かに動き呼吸をしていた。良かった……体に異常はないみたいだけど……でも、体の中の曜気とかはどうなんだろう。慌てて“視て”みるが、クロウの体に異常はないようだ。
……とすると……あの術はただクロウの真の姿を解除するための術だったのか?
「ウ……グ……」
「クロウ! 大丈夫か!?」
みんな大丈夫じゃないけど、一番ヤバいのはクロウだ。
黒籠石がばらまかれても平気だったのに、明らかに変な術を掛けられて元の姿に戻ってしまったんだぞ。俺達の中で一番ダメージを負っているのは間違いなくクロウだろう。体に何も異変は起こってないようだけど……でも、あの詠唱や謎の黒い玉の事を考えたら、まだ油断はできないよな……。
「つ、かさ」
「平気か?」
「ゥグ……な、なんだか……体が重い……」
体が重い……?
あの黒い玉の効果だろうか。クロウの状態を起こすが、なんだか夢現と言うか……動きが緩慢で頭がぼやけているようだった。
「クロウ……」
「お……オレは、大丈夫だ……。それより、ツカサ……ブラックがあのレッドという男を引き付けている内に、あの眼鏡達を復活させるんだ……ッ。あいつは、罠を……」
「え……罠……!?」
アイツって、レッドか。それともギアルギン?
クロウの言葉が要領を得なくて再度聞こうとするが、クロウは首を緩く振り、後悔しているとでも言わんばかりの顔で眉間に皺を寄せた。
「オレは……バカだ……ッ、こんな、誘惑に、負けて……ッ」
「クロウ……?」
何を言ってるんだ。さっぱりわからないよ。
説明してくれとクロウの顔を覗き込むが、答えてくれない。震える腕で懐から何か小さなモノを取り出した。
それは……ギアルギンが持っている黒い玉と同じ……いや、二回りほど小さな形の黒い宝玉で……どうしてクロウがこんなものを持っているんだと目を見張ると、相手は心底情けないとでも言いたげにぎゅっと目を閉じて首を振った。
「お前、を……ツカサを、信じきれず、でも、てにいれたくて。そしたら、あの、男が…………ニオイで気付くべきだったんだ……けれど、オレは、愚かにもお前の事で頭がいっぱいで、気付けずに……コレを、受け取ってしまった」
「これ、なに……? 受け取ったって、クロウはギアルギンと会ったの!?」
「コレは、アイツに渡された……。話を、して、お前を奪おうという気持ちを何故か掻き立てられて、それで、その時に、お守りと言われて貰ったんだ……」
ギアルギンと話をした?
それで俺を奪おうと言う気持ちが掻き立てられた?
ちょっと待って、ということは、クロウがギアルギンにこの玉を貰ったのは、紫狼の宿ってことじゃないのか。おい、諸悪の根源が居たなんて聞いてないぞ。
それに、タイミングからして多分、アイツがクロウに接触したのは喧嘩した時だ。
という事はアイツは既にゴシキ温泉郷に潜伏してたってのか。でも、なんで。
だったら、俺達に接触して来たっておかしくなかったのに……。
い、いや、今はそんな事を考えている場合じゃない。
とにかくこのヤバそうな宝玉はさっさと捨てさせないと。
「クロウそれ貸して!」
「どうするんだ……」
「割って捨てる!!」
クロウの手から玉を奪い取り、踏んづけて割ってやろうと思い立ち上がる。
だが、俺が何をしようとしているのかに気付いたのか、少し離れた所にいるギアルギンは余裕そうな声を発した。
「ハハハ、壊しても構いませんよ? 遠慮なくどうぞ。どうせもう、その宝玉に用は無い。封印は既に終わってしまっているんですからねえ!」
「封印!?」
「それより、貴方はもっと別の事に気を配った方が良いんじゃないですか?」
ギアルギンがそう言った瞬間、何か細かい物が這うような嫌な音が聞こえる。
恐る恐る、音のした方を振り返ると――そこには。
「なっ……!? 倒したはずじゃ……!!」
そう。
俺が振り向いた先には、トライデンスの死体があるはず、だったのだが……そこに存在していたのは、胴体を裂かれているのにまだ立ち上がり、首も無いのに付け根の筋をびくびくと動かす、紛れもない生きた死者の姿だった。
「こ、れは……」
根元だけ残った三つ首が、鉄板が焼けるような音と泡が膨れ上がるような音を混ぜながら、ボコボコと蠢いている。
しかもその蠢いている切断された部位は――首を取り戻そうとでも言うかのように、膨れ上がったり伸びあがったりしていた。これって、もしかして……自己再生して元の姿に戻ろうとしているのか!?
思わず苦労を抱き抱えてなんとか後退った俺達の目の前で、トライデンスは赤い鱗を光らせながら次々に失った部位を補って行った。
あまりにも、非現実的な光景だ。肉が皮ごと膨れ上がり、鱗が次々に生える。
生々し過ぎて怖気を誘う様に硬直していると、トライデンスは徐々にその首を長く伸ばし、そうして……遂には、すっかり元の状態に戻してしまった。
「そんな馬鹿な……!」
「う、うそだろ……っ」
今、この状態で復活って、そんなのアリかよ。
この状態でどう戦えって言うんだ!?
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