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イスタ火山、絶弦を成すは王の牙編
41.もう我慢しない1
しおりを挟む※ちょっと短めです。次回はクロウが酷いのでまた注意
居住エリアかそれとも制御エリアなのかちょっと呼び名に困るが、とにかくここには生活するための設備が有り、備え付けの家具などはそのままになっている。
ベッドも棚も、もっと言えば台所の設備もそのままだ。
しかも、誰も居なくなってから長い年月が経過しているだろうに、このエリアにはホコリ一つなく、今しがた誰かが掃除したかのようにピカピカだった。
キュウマの擬似人格映像装置が置かれていた【エンテレケイア】遺跡にはルン……いや、黒い円系のロボット掃除機がいて、ちょこちょこ掃除をしていたけれど、ここはそもそもホコリが落ちる余地が無さそうだ。
もしかしたら、掃除をしなくて良くなる術とかが掛かってるのかな。
チート小説とかだったらよくあるよな。生活魔法だっけ。
アレがあったら俺も汗臭さを心配しなくていいし、ブラックの気になる足の云々とかも解決するんだろうけどなあ。まあブラックがあのムサいオッサンみたいな恰好でめっちゃ石鹸のニオイするっていうのも何か微妙な感じではあるが……。
つーか、あの野郎あんなムサい格好してるってのに、男女限らずのメスっ子にモテてるんだぞ。これで石鹸の匂いとかになったら、嫉妬で俺が死ぬかもしれん。
いや、女の子がよくする「私の○○君を取らないで!」とかの可愛い奴じゃなく、美少女とか美女にモテモテなブラックに対して、憎しみにも似た感情というか……。
ええくそ考えるだけでムカムカするわい。
いくら付き合ってるとは言え、俺は美形に対しての憎しみは捨てないからな!!
美少女にモテモテになるその日までイケメンは敵だ敵!
「ったく俺なんか汗臭いだけでウワァみたいな顔で見られるってのに……」
俺だって顔は整ってる……とは思うんだが何故女子にもてないのか。
アレか、やっぱ下心がみえみえだからか。チクショウどうしてクールイケメンの方がモテるんだ。生物学的には俺のようなギラギラした奴の方が正解だってのに。
そういや俺の悪友の一人がそんなタイプだったなと思い出したが、考えて行く内にどんどん憎しみが増しそうだったので、ここらへんで考えるのは止めておこう。
とにかく俺は料理をするのだ。
クロウを労うためにも美味いモン作ってやらなきゃな。
……という訳で、ペコリアに台所らしき場所に案内して貰ったのだが……台所は思ったよりも普通な感じだった。
いや、この世界からしてみれば普通じゃないんだけど、かまどは二口コンロで普通にご家庭の台所っていう感じだ。キュウマがここを造ったのだとしたら、彼の実家はこういう台所だったのだろうか。なんかちょっと古くて親近感湧くな。
「うーん、流石に調理器具とかは残ってないか……コンロは点くみたいだから、俺が持って来た奴で作るしかないか」
材料は持って来ているので、火や水が使えれば後はどうでもいい。
最悪の場合自分で火を起こさねばと思っていたので、手間が省けて良かったよ。
そんな事を考えながら調理器具を取り出していると、一緒について来たペコリアがクゥクゥと声を上げて俺を呼んだ。何をしているのかと近付くと、ペコリアは流し台の下の収納を開けて中を覗きこんでいる。
何か見つけたのだろうかと思っていると、中から壺のような物を取り出した。
「壺?」
「クゥ~」
壺からは何か匂いがするらしくて、ペコリアは小さくて可愛い鼻を動かしながら首を傾げている。何があるのだろうかと硬いフタを開けてみると、壺の底の方に液体が溜まっているのが見えた。と、同時に、ふわっと香りが漂ってくる。
その香りに、俺は目を見張った。
「これ……醤油……!?」
慌てて深皿に壺の中身を取り出してみると、壺の中にあった液体は確かに琥珀色の液体を煮詰めて艶やかな黒色になったもので、恐る恐る味を見てみたが劣化など全くしていなかった。やべえ、これマジもんの醤油だ。
そうか、ここは異世界人が用意した施設なんだから、醤油があってもおかしくないじゃないか。それに、これほど頭の良さそうなシステムを作ってる奴なんだ、醤油を創るなんてのお手の物だったんだろう。
劣化してないのも、やっぱこの区域自体に何かの術が掛けられてるんだろうな。
惜しむらくは醤油がほとんど残っていない事だが、しかしこれでやっと俺が食べたかった料理が……ていうか和風の食事が作れるぞ……!
「ありがとうペコリア~! んもーお前達は俺の幸運のウサギちゃんだっ」
「クゥ~!」
抱き上げて撫でまくると、ペコリアは体をもふもふと動かして嬉しそうに頬ずりをしてくれる。あーもー可愛いっ、頭良くて可愛くて人懐こいってどんだけ最高なの!
小動物部門で一等賞取れるんじゃないのこのペコリアちゃんはっ!
「よ~しペコリアのお蔭で新しい美味しい物が出来るぞ~」
「クゥー?」
おいしいものってなにかなぁと首を傾げる超絶可愛いペコリアに癒されつつ、俺は【リオート・リング】の中から肉と蜂蜜を取り出した。これで何をするかと言うと、普通に蜂蜜を混ぜ合わせてお肉を漬け込むだけだ。今回は皮袋しかないが、しっかり閉じられるような袋なら何でもいい。
要するに、醤油の漬け込み焼きを作ろうと言うのだ。
クロウは醤油のような食品を食べた事が無いかも知れないから不安だが、焼いたら多少は醤油独特の味も和らいで、香ばしさが目立つようになる。
それに蜂蜜が塩気を中和して良い感じに味を調えてくれるはずだ。
とはいえ……時計が無いと何分付け込んだか分かり辛いな。
「時計か何かあったらいいんだけど……」
「クゥッ」
「ん、探してきてくれるの?」
「クゥー!」
ペコリアは時計が何か分かるのかな。でも心配するのも何か失礼だよな……。
とりあえず持って来て貰ってからにしよう。
「じゃあお願いするよ」
「ククゥー!」
頼むな、と頭を撫でると、ペコリアは合点承知と言わんばかりに胸を手でぽふんと叩き、颯爽と台所から出て行ってしまった。
手持無沙汰になってしまったが、まあこの間に食器とかを用意しておくか。
麦茶も沸かそうと思って火を点けると、足音が近付いてきた。
足音っつったらクロウだけだよな。
「何か騒いでいたようだが」
「実はさ、ここで醤油……俺の故郷で使う調味料を見つけたんだ。あ、見つけたのはペコリアなんだけどね? そんでさ、それを料理に使おうと思って……」
「ショウユ? それは使えるのか」
「うん。全然腐ってなかったからね。多分、なにかの術の作用で腐らなかったんだと思う。でさ、この世界で初めて出逢った俺の故郷の味だから使いたくって……もしかして、苦手だった?」
今更不安になって問いかけると、クロウは首を振る。
やっぱり醤油という存在自体を知らないらしくて、深皿にほんの少しだけ残ってたものを舐めると、クロウは目を白黒させていた。
「な、なんというか……塩が凄いな。だがまあ、風味は有るし……魚醤に似ているが、アレよりもニオイは大人しい。多量でなければ大丈夫だぞ」
「良かった……! じゃあ安心だな!」
俺の故郷の味だし、食べて貰えるならやっぱり一緒に食べて欲しい。
美味いと言ってくれるかどうかは未知数だけど……言ってくれたらいいなあ。自分の故郷の味を美味しいと言って貰えることほど嬉しい事は無いし。
まだ漬け込み始めたばかりだけど、どうか美味しく染みてほしい。
せっかく見つけた醤油だし、またいつ会えるかも判らないからな。
そんな事を考えていると、火にかけていたお湯が煮立つ音が聞こえた。
おっといけない。火を弱めて隙あらば麦茶を作っておかねばな。
目の細かい木綿の布で炒った麦を包み、お湯の中に入れる。茶こしが無いので、布で煮出すと言うのが苦肉の策だ。
五分ぐらい煮出してから火を止めるので、数を数えながらじっと鍋の中を見ていると……背後に人が立つ気配がして、俺は抱き締められた。
「く、クロウ? どした?」
抱き着かれるのは慣れてるけど、こんな急に抱えられると胸がぎゅうってなるっていうか、その……。
「ツカサ……」
「っ、ぁ」
首に唇で噛み付かれて、思わず息が漏れる。
地面に足が付いていないから、腹に回された手に体重が掛かって苦しくなった。
だけど、クロウは俺を離す事も無く、首に軽く歯を立てて来て。急所である首筋を何度も噛まれ体が波打つが、相手は離すどころか俺の腹に腕を食いこませて、逃がすまいと力を入れて来る。
「く、ろう……!?」
名前を呼ぶが、答えてくれない。
それどころか、空いている方の手で俺の足に手を這わせてきた。
「っ、な、なぁっ、クロウったら」
「今ここで“腹が減った”と言ったら、お前は喰わせてくれるか?」
「え……」
思っても見ない言葉に、一瞬思考が途切れた。
……腹が減った、って……。
いや、言っている意味は、分かる。だけど、何だろうこの違和感は。
どうして、いつも言われているその一言に強烈な違和感を感じるんだろう。
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