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イスタ火山、絶弦を成すは王の牙編
26.イスタ火山―開門―
しおりを挟む※区切りの都合により面白味のない移動回です(;´Д`)スミマセン…
一晩過ごすと、やっと俺の足も自由に動くようになってくれた。
アドニスが言うには「体内の曜気の量が急激に変化したため、変調をきたさぬように体がほとんどの感覚を遮断したのではないか」との事だったが……要するに「曜気欠乏」みたいな症状に陥ってしまっていたという事なのだろうか。
もしそうだとしたら、凄く厄介な症状だ。
首から下があのような状態になるなんて、本当に恐ろしい。戦闘中にそんな状態になったら、逃げる事すら出来ないじゃないか。ゲームでMPがゼロになるのより数倍ヤバいって。現実シビアすぎんだろ。
……あ、でも……良く考えて見れば、貴族のリタリアさんも、黒籠石のペンダントのせいで「曜気欠乏」に陥っていたんだよな。あの時も、彼女はすごく弱っていて、ずっとベッドの上で過ごしていたんだっけ。あれより深刻な症状になると、俺と同じような状態になってしまっていたんだろうか。
だとしたら……本当にあのタイミングで救えて良かったんだな……。
でも、俺の症状が本当に「曜気欠乏」だとは限らないしなぁ。
ブラックが引き起こした謎の竜巻も、結局みんなよく分からなかったみたいだし、あの竜巻が原因だとしても俺達には判断のしようがない。
リングが壊れてしまった今、俺の気を測れるのはもうラスターしか居ないし、それだって表面上の事しか分からないんだ。俺がどういう状態になっているのかは、最早俺ですら解らない。正直、完治しているかどうかも判らなかった。
また気絶したらみっともないし、これからはより慎重に行動しなければ……。
そんな事を考えつつ、俺達は再び準備を整えてイスタ火山へとアタックを試みた。とはいえ、中腹程度ならそんなに距離はないしすぐに行けちゃうんだけどね。
歩きやすい火山で良かったと思いながら、俺達は途中で食事休憩を挟み、なるべく無理をしないようにしつつ問題の巨岩へと向かった。
「……わ……あれが問題の巨岩?」
リオルを横に従えて、前方にはブラックとラスター、背後にはクロウとアドニスという陣形で道を外れて進んだ先。
そこには、獣の牙を天につきたてたかのような岩がどんと鎮座していた。
見た目には本当に普通の巨岩だけど……よく見ると、牙のようになっている先端は丸みを帯びていて、他の岩とはちょっと違う。
よく周囲を確認したけど、他に丸みを帯びた場所が有る岩はなかった。
……確かになんか変だな、この岩。
「クロウ、ココだけ“視る”ことが出来なかったんだよな?」
軽く振り返りながら言うと、クロウは数秒遅れてこくんと頷く。
「巨岩の周辺だけがオレの術を通さなかった……それは、確かだ」
「そうか……」
……うぅ……やっぱまだ怒ってるっぽい……。
俺の作ったメシも残さずに食べてくれたし、喋りかけたら答えてはくれるけど……それは我慢して俺に対応してくれてるだけなのかもしれない。
でも、仕方ないよな。クロウがあんだけ怒るのって珍しいし、ということは、俺の事をそれだけ心配してくれてたって事だし……それをないがしろにしたら、そりゃ怒っても無理ない。人の好意を無にするような事を俺はやっちまったんだから。
だけど、クロウは大人として堪えてくれてるんだ。
俺だってその気持ちに応えて、やっぱりちゃんと謝らなきゃ行けないんだと思うんだけど……でも、普通に謝って許してくれるのかな。
許されるのなら謝り続けたいけど、でもそんなの俺の「ごめん」の押し売りだし、クロウだって気分が良くないだろう。しかし謝らなければ誠意は伝わらない。
伝わらないんだけど……謝ったってそれを「謝ればいいと思ってるんだろう?」と受け取られかねない事だってあるんだ。真剣に謝罪したって許して貰えない事は充分に有り得た。それを考えると、どうしたらいいのか分からなくなる。
俺が謝るのは当然としても、それ以上に「クロウに許して貰いたい」という気持ちを見せるような事をしなければ……。
…………うーん……でもそれも、なんか許しを目的にしてる感じがするなあ。
前もこう言う事を考えたけど、謝るって本当に難しい。
やっぱり、情けなくても全部を曝け出して、みっともなく縋るくらいに本心を出さなきゃ駄目なのかもしれない。人の心なんて、目に見える物じゃないんだから。
俺だって自分の事が時々わからなくなるんだもん。生半可な気持ちで謝ったって、クロウは許してくれない。俺が許して欲しいって真剣に向き合わなきゃ駄目なんだ。
……とは言え……今はそれも出来ないんだけど……。
「とりあえず、周辺を再度調べてみましょう」
「あ、じゃあ……俺達とブラックは岩を調べて良い?」
「ええどうぞ。何か気付いた事が有ったら知らせてくださいね」
アドニスに許可を貰って、俺とリオルとブラックは巨岩に近付く。
と、ブラックが片眉を寄せた。
「…………確かに、なんか変だねここ」
「判るの?」
「うん。なんだか炎の曜気が強いみたい。……僕が岩に触っても何の反応も起きないけど、ここに何かが有るのは確かだと思う」
「そうか……」
ブラックで駄目なら、俺が触れても何も起こらないかな。
でもまあ、試しに。
そう思って、俺も何の気も無しにぺたっと岩に触れてみると――――
「うおお!?」
唐突に、手がめり込んだ。
いや、感触なんて無かったぞ。これは一体どういう事なんだ。
「つ、ツカサちゃん!?」
「うわっ、なにそれ!? 大丈夫!?」
「大丈夫……だけど……もしかして、これが入り口って事かな……?」
だって、漫画とか映画じゃよくある仕掛けだよなこれって。
多分、このまま体を突っ込めば中に入れるはずだ。けれど、不思議な事にブラックやリオルが俺の手がめり込んでいる周辺を叩いても、彼らの手がめり込むような事は無かった。その間に俺は腕の先まで入れたり出したりしてみたけど、やっぱり二人の腕がめり込む様子は無い。
一応、アドニス達を呼び集めて俺と同じように岩に手を当てて貰ったが、三人の手も巨岩にめり込む事は無かった。
ということは……俺だけなんかおかしいって事だよな。
「えーと……どうしよっか……顔突っ込んでみる?」
「危ないぞツカサ」
すかさずクロウが心配してくれるが、そこにリオルが割って入った。
「いやいや、顔だけ入れてみるのは良いんじゃないっすか? 先っちょだけ入れて、危なそうだなって思ったら俺達ですぐに地引網すりゃマジカンペキですって」
チャラ男なのに地引網という単語を使うとは……。
クロウは心配そうだったが、しかし「自分達で引き上げる」という所に折れたのか、まあ良いだろうと了承してくれた。
と言うワケで、俺は四方八方から掴まれて、現行犯逮捕された凶悪犯のような姿になりつつも、慌てずに岩にゆっくりと顔を近付けた。
「う、うぐ……」
鼻先が岩に触れたが……やっぱり感触は無い。
なんというか……空中に投影された映像に入り込んでいるみたいで、気持ち悪いがこれと言って感じるような物は無かった。普通に息も出来るし、苦しくない。
恐る恐る岩の中身を覗くように、更に首を伸ばし一歩踏み込んでみた。
「……んん……?」
茶色くてごつごつした岩の中を通り、ずるずると進む。
すると前方にうすく別の色が見えて来て、俺は前のめりになって首だけを出した。
ごつごつとした岩の中からやっと解放された視界に飛び込んできた光景は。
「うおっ! ……おお……!」
あまりにも。
あまりにも……想像通り過ぎて、俺は思わず感動の声を上げてしまった。
これが感動せずにいられるか!
だって、俺の眼前に広がっていた光景は――――黄土色の石のブロックで四方をぎっちりと固められ、等間隔に蝋燭のような灯りが配置されており、まさに「おお、これぞダンジョン!」と言わざるを得ないシンプルかつ手堅いデザインのダンジョンの通路だったのだから……!!
「ツカサ君どーしたのー?」
「なんですか、何が見えました?」
「なんだ、ツカサ俺にも見せろ」
「うおおお!? ちょっ、だっ、ダンナがた、そんな前のめりになったら……!」
えっ、えっ、なにっ、何の話。
なんか急に体が傾いで……。
「うごおおお゛お゛!?」
体を引っ張ってくれていた腕の集団の力が緩んだと思ったら、俺の背中に何か凄い勢いのものがドーンと突っ込んで来て、俺は衝撃に押されカエルの如くびたーんと床に倒れ込んでしまった。
つーか重い、重いってばっ、なんだこれ!!
「って、お、お前らどけー!」
なんか凄く重いと思ったら、オッサン四人が思いっきり上に乗ってる!
そりゃ重いわ!
「うぅ~ん、ツカサ君もうちょっとぉ」
「こんな所でサカるなっつの! ……てか、みんな入って来る事が出来たんだな」
「どうもそのようですね。しかし、何故こんな事に……」
ブラックを押しのけながら自力で退いてくれた三人を見るが、彼らも不思議なようで自分の体をしげしげと確認していた。
どうやらみんな怪我はしてないみたいだけど、何故自分達が抜けられなかった岩を抜ける事が出来たのか不思議なようだ。もしや、俺に触れていたから入れたのか?
しかし……あっ、そういやリオルがいないぞ。
「うおーい、ツカサちゃ~ん! ナカ入っちゃったの~?! 俺だけおいてくとか、マジ悲しーんだけどー!!」
岩の向こうから、情けない声が聞こえてくる。やっぱりリオルは取り残されていたのか……さては、反射的に手を離しちゃったんだな。
ブラック達をその場に待たせて、また俺は行き止まりの壁と化している場所に手を当てる。すると、やっぱりそこは何の感触も無く俺の手を飲み込んだ。
こうなると最早答えを掴んだも同じである。岩の中のような空間をずんずん歩き、光が見える方へと上半身を出すと、そこには驚いたような表情で俺を見ているリオルがいた。少し泣きべそを掻いているみたいだったが、指摘しないでおいてやろう。
「つ、ツカサちゃ~ん……」
「リオル、お前俺から手を離しただろ。ほら、一緒に入ろ」
そう言って手を出すと、リオルはすぐに顔を明るくして俺の手を握った。
む、チャラ男と言ってもやっぱ男らしいゴツい手だな。
「ツカサちゃんの手ぇ、柔らかいねぇ。ますます可愛いな~」
「そ、そんなこと言ってる場合か! 行くぞ!」
リオルを引っ張ると、繋いだ手が岩の中に一緒に入ってくる。
外で「うおお!」と変な声が聞こえたが、俺が手をくいっと引いて促すと、リオルも岩の中に入って来た。おっかなびっくりと言った様子で、ちょっと可愛い。
オッサンに続きチャラ男にまで可愛さを見出してしまう自分にちょっと恐ろしさを感じつつも、俺はリオルの手を引いてやっとダンジョンへと侵入を果たした。
「おお……。やっぱり、ツカサ君の体に触れてると、ここに入れるみたいだね」
俺とリオルが入って来るなり感心したように言うブラックに、アドニスも頷く。
「ふむ。これは……黒曜の使者だから、という事でしょうかねえ。それとも、ツカサ君が言うように、本当に年齢制限でもあるんでしょうか。このダンジョン」
「そんなワケがあるか! 古代の英知であるダンジョンが、何故にそんな色ボケ爺のようなえり好みをせねばならん!」
ふざけるな、とでもいうように素っ頓狂な声を上げるラスターの横で、相変わらずの冷静無表情なクロウが静かに呟く。
「年齢で制限できるのなら、オレ達が紛れ込む事は出来ないのではないか?」
「そうですね、特定の年齢の者だけを選別するほどの高度な術式を組み込めるなら、付いて来ようとした存在を弾くくらいの対策も行っているでしょう」
「ということは……ツカサ君のような子と一緒に来ないと、ここには入れない……という事か? なんだか急に胡散臭くなってきたな」
ブラックの言葉に、頷かないまでも同意したようにクロウ達は居住まいを正す。
一見してシンプルなダンジョンだが、条件が無いと入れない場所となると……そのような仕掛けをしてでも隠しておきたいものが有るって事だ。
それが何なのかは分からないが……とにかく、行ってみるしかない。
「ツカサ君、このダンジョン、かなり炎の曜気が強いみたいだから……少し進んだら【斥炎水】を飲んでおこう。ここじゃ何が起こるか分からないからね」
いやに真剣になったブラックの言葉に、その場の全員が頷いた。
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