異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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イスタ火山、絶弦を成すは王の牙編

14.もうこいつらだけで良いんじゃないかな

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   ◆



 翌日、俺達は予定より少し遅れてイスタ火山へ出発する事になった。

 何が遅れたか、なんてもう言いたくもない。忘れさせてくれ。
 とにかく、日本で言う所の○○地獄みたいなものがある“罪獄の原”へと向かう道の途中から、枝分かれしている細い山道を通り、俺達はイスタ火山における一般人立入禁止区域へと向かった。

 イスタ火山の名物である“罪獄の原”は火口付近にあるのだが、実はその火口は火山の頂上では無く中腹辺りに位置している。
 そして、頂上にはまた別の加工が有るのだ。

 それを聞かされた時には、なんのこっちゃとキョトンとしてしまったが、よくよく考えると火口が二つある火山は俺の世界でも存在するんだよな。
 日本人的に最も有名なのは、やはり阿蘇山と富士山だろう。

 阿蘇山は頂上付近で常に煙を吐いている火口の他にも眠っている火口が有り、実は富士山にも俺達がパッと想像する場所にある火口だけでなく、別の場所にもう一つ、うもれた火口が存在するのだ。

 まあ、火口ってのは簡単に言えば「マグマが出る所」とか「水蒸気爆発なんかで穴が開いた所」とか「岩石とかお湯とかガスが尋常じゃない量で出ちゃう穴」みたいな物なので、考えて見れば頂上以外に火口が有っても何らおかしくはないんだが、そういう事を考えた事のない身としては何だか現実感が無い。

 アニメとかじゃ地表が割れてマグマがカーテン上にブワーッと吹き上がって来るシーンなんかも有ったけど、それだって火口とは結びつかないもんなあ。
 ……だもんで、最初に来た時には「へ~、ここらへんに火口があるんだ」と思っていたのだが、よくよく考えたら“罪獄の原”は頂上付近には無かったんだから、そりゃおかしいよな。アホか俺は。

 うーん、あの時の俺は観光に喜びまくってて特に何も考えてなかったが……チート主人公はこういう時にピンと来るんだろうな……なかなか難しい……。
 俺もこれからピンと来るような男に成りたいが、しかし……腰が、いたい。

「こ……ここから先はモンスターも出現する。いくら罪獄の原周辺が術でモンスターを退しりぞけていて、今年は脅威が少ないとはいえ、油断は禁物だぞ」

 先頭で道案内をするラスターが、少しどもりながら言う。
 出発してからこの方ずっと背後を振り向かないけど、耳が赤くなっているので確実に顔を合わせ辛いんだろうなと解ってしまう。

 アドニスも終始黙りっぱなしで、俺とブラックの間に入って機嫌が悪そうだ。
 一応俺には返事を返してくれるけど、やっぱり昨日の事が響いてるようだった。
 ……ああぁ……返す返すも申し訳ない……。

 朝食の時に謝ったら二人は許してくれたんだけど、でもやっぱ心情的には不快感が残ってるんだろうな……話しかけてはくれるけど、なんか目を見てはくれないし。
 はぁ……それもこれもブラックが……いや、人のせいにするのは男らしくないな。俺がブラックを止めさせることが出来なかったからこうなってしまったんだ。

 何で俺がという気持ちもあったが、なげいていたって仕方がない。
 でも、何をしたら二人に許して貰えるんだろうか……実際問題、原因の一人である俺が何かやっても二人が困るだけでは……うーん……。

「ツカサ、疲れてないか」

 悩んでいると、最後尾で警戒してくれているクロウが声をかけて来た。
 はぁあ、今はクロウが唯一の清涼剤だよ……思わず抱き着いてしまいたくなったが、ぐっとこらえて大丈夫だと頷く。

「まだ歩き始めたばっかだし平気だよ」
「だが、あの後ブラックと散々まぐわったのだろう? オレはツカサの尻が心配だ」
「だっ……」

 いっ、今そんなコトっ、ラスターとアドニスに聞かれたらどっ……あああ見てるっブラックだけじゃ無く二人も横目でこっちチラチラみてるううう!!

「ツカサ、顔が赤」
「大丈夫大丈夫何もない何もない何もないから気にすんなあああああ!!」
「だが尻」
「知りません本当何も知りませんから!! ラスター頂上まであと何日!?」

 そこそこの標高だから肌寒いはずなのに、何でこんなに暑いんだ畜生。
 ブラックニヤニヤするな、アドニスこっち見ないで、ラスターもビクッとするな。
 お願い放っておいてもううううう。

「なっ、何日? 何日なんて距離ではないが……そ、そうだな、半日あれば頂上には到着するだろう。探索は必要だが、まずは狭い範囲からの方が良い。裾野すそのりればりるほどモンスターは増えるからな。まあ、凶悪かどうかは個体にもよるが……」

 俺の勢いにつられてか、ビクッとはしたけどラスターは答えてくれる。
 その言葉にアドニスも頷きながら続けた。

「しかし、数が少ないと言う事は強いモンスターがいるという事にもなりうる。気を引き締めていかなければいけませんね」

 ほっ……なんとか二人が普通に話してくれるようになった……。
 今の会話は恥ずかしかったけど、クロウのおかげだな。
 ちょっと嬉しくなって、歩幅を緩めて背後のクロウの隣に並ぶ。そうして、小さな声で「ありがとう」と言うと、クロウは嬉しそうに微笑んでくれた。

 いつもは無表情か仏頂面かってクロウだけど、笑うと良い男だ。
 それに、やっぱり俺の為に気をかせてくれたんだなって思うと嬉しかった。
 クロウがいなかったらオロオロするだけだったなあ、俺……。

 よし、宿に帰ったら、クロウのために何か美味しい物を作ろう。せっかく美味しい蜂蜜が定期的に貰える事になったんだから、美味しいお菓子を作るんだ。ラゴメラ村で作れなかったアレを作ってみようかな……ううむ、そう思うと元気が出て来たぞ。
 そうとなればシャキシャキと歩かなければ。

 場の雰囲気がやわらいだ事でそれぞれ気が楽になったのか、それからは適当な雑談をしながら、俺達は頂上へ向かって草木が一本も無い道を登った。まあ、登らないとしょうがないからな。

 ブラックは相変わらず仏頂面をしていたけど、俺が話しかけて、そこに比較的話しやすいクロウやアドニスが入って来た事で、少し緩んだようだった。

 やっぱりこういう時は他の人の助けがいるなあ……うーん……本当なら、俺が丸く収めなきゃ行けなかったんだろうけど……誰かをたしなめるとか上手いこと普通の調子に戻すってのは、大人じゃないと無理なのかなぁ。
 自分で自分のケツを拭けないってのも、なんか情けない。

 ……ローリーさんなら、こういう時に丸く収める方法とか知ってるかな?
 一人で会うのはちょっと不安だが、機会が有れば御教授願いたい……。

 そんな事を思いながら、しばらく岩ばかりの山道を登っていると。

「…………ちょっと待て」

 ラスターが不意に立ち止まり、俺達は少し足を戸惑わせながら停止する。
 何かと思ったら、ラスターはこちらに振り向いて小声を放って来た。

「ファイア・ホーネットがうろついている。身を隠すために少し道を戻るぞ」
「……?」

 ファイア・ホーネットってなんだろ。
 こういう時には携帯百科事典だな。


【ファイア・ホーネット】
 別名:「火炎蜂」、または「火の玉蜂」など
 獰猛蜂ホーネット種、特に炎に関する属性を持つ物をファイア・ホーネットと呼ぶ。
 触角の先が赤く、また体全体が暖色系に染まっている。
 主に、火山の火口付近や、マグマが存在する所を好み、炎の曜気が湧き出る場所であれば寄ってくる。それは、彼らの主食が炎の曜気であるためだ。
 しかし勇蜂コルメナ種と呼ばれる蜂とは違い、非常に攻撃的で、自分の縄張りや餌場などを侵した存在を追い詰め攻撃する性質が有り、非常に危険なモンスターである。
 また、常に二匹か三匹で団体行動を行い、非常に大きい羽音を出すが、それは威嚇している時であり、仲間を呼ぶ事も有るのでその場合は素直に逃げたほうが良い。
 地域ごとに細かい違いはあるが、ファイア・ホーネットは能力値が安定しており、おおむねランク2からランク3で推移している。
 また、攻撃力が高く、炎による遠距離攻撃に加えて、毒針による近距離の攻撃にも対応しているため、経験のない冒険者などが遭遇する事は死を意味する。
 炎と毒に耐性を持ち、敏捷性も高いため、火山における厄介な相手として有名。
 しかしその羽根は炎に強い耐性が有るため素材として人気が有る。
 弱点は羽根だが、ファイア・ホーネットの体温は非常に高いため、水などは少しの量を掛けても意味が無いので注意。確実にしとめる方法は羽根をもぐことだ。


「なるほど……結構厄介な相手なんだな……」

 ラスターが軽く顎を向けた場所を見ると、確かに道の先にある小さな広場のような場所に、三匹ほどのファイア・ホーネットがいるのが見える。
 百科事典でもかなり危険と書かれているんだから、警戒して当然か。
 後退してファイア・ホーネットから離れながら言うと、ブラックが付け加えた。

「あいつ厄介なんだよなぁ……。中身がスカスカなせいか凄く早いし、素材なんて羽くらいしかないし。そもそも、あの体は凄く熱いから素手では殴れないし、半端な剣だとダメになる。炎だけじゃ無くて木属性も相性悪いし、金の属性はそもそも鉱石が無ければ使い物にならない。土属性は論外。水の曜術だって、準二級くらいは無いと圧倒できないんだよ」
「え……じゃあ、ブラックはどうやって倒してたんだ?  それだけ言うって事は、退治した事が有るんだよな?」

 隠れるように五人で岩陰にしゃがんで、問いかける。
 俺がそう言うと、ブラックは自信満々に鼻息荒く頷いた。

「もっちろん! 僕ならすぐにスパスパ切れちゃうよっ」
「まあお前かなり凄いもんな……」

 元伝説の冒険者というだけあって、ブラックは人間業じゃない身のこなしで相手をズパズパ斬っちゃうもんな。魔法剣士ってステータス的には器用貧乏になりがちなんだけど、ブラックの場合はどっちも凄いから当然だろう。
 それに、敏捷性ならブラックもファイア・ホーネットといい勝負だと思うし。
 だったら、ブラックに口火を切って貰いたくは有るのだが……。

「はっ! 冒険者ごときが見栄を張る物ではない。ツカサ、ここは俺が先陣を……」
「おやおや、木属性が役に立たないとはずいぶん見くびってくれますねぇ。火山では役立たず同然の炎属性などとは違うという事を私が見せてあげますよ」
「土属性は論外とはなんだ。オレは違うぞ」
「あーっうるさいうるさいうるさいなー! これだからいけ好かない奴らとの多人数パーティーは嫌だってんだよ!」

 ちょっ、ちょっとオッサンども声が大きい!
 これじゃファイア・ホーネットに気付かれ…………

「ワーッ!! 気付かれてるぅうううう!!」

 ホーネットがブンブン言ってこっち来ようとしているんですけどおお!
 ほらもうお前らが騒ぐから気付かれちゃったじゃないか!

 どうするんだこの状態と四人を見上げた所で、オッサン達は顔を見合わせて隠れるのを止めるように立ち上がった。
 そうして、今にも近付いて来そうなファイア・ホーネット達に立ちはだかると。

「我が盟約の種よ、よこしまな敵を戒めよ――【グロウ・レイン】!」
「眠る大地よ、怒り、我が血に応えろ――【トーラス】!!」

 アドニスとクロウが同時に強い声で呪文を発し、アドニスは種を指ではじいて真っ直ぐに敵へと飛ばす。クロウはというと地面に片膝をついて片手を押し当てた。
 瞬間、こちらへと突進して来たホーネット達の目の前で、緑の光を放つ種が一気に網状のつるへと展開して、先頭のファイア・ホーネットを見事に絡め捕る。
 同時に、土の曜気が一気に広がった範囲に入って来た蜂の一匹が、狙い澄ましたかのように土中から現れた鋭い土の尖塔に突き刺された。

「――――!!」

 うそ、ま、マジ……?

 だが、驚く俺を余所に素早く地を駆けるラスターが、蔓に絡め捕られて思ったように動けない蜂の首を一瞬で切り抜き、そのまま羽を一瞬で斬った。
 と、その蜂を越えるように動いた影が、残りのおののいた一匹の蜂に掛かり――――

 上空から現れたブラックに、視認すら出来ないほどの速さで細切れにされた。

「…………っ」

 動きが早過ぎて、理解出来なかった。
 でも、目の前では確かにブラックがファイア・ホーネットをバラバラにしたんだ。
 ……っていうか、ちょっと待って。あの、ファイア・ホーネットって、結構手強いモンスターじゃなかったっけ。初心者じゃ死ぬレベルの相手じゃなかったっけ……?

 あの、俺の体感が正しければ戦闘終了まで一分も掛かってないんですけど……。

「はーっ……たく。コイツ、下手したら体液が飛び散るから嫌なんだよなあ。どっかのバカが力任せに殺して、ツカサ君に汁が掛かったらどうしようかと思ったよ」
「フン、そんな愚か者は冒険者だけだろう。誇り高い王国騎士を舐めるな」

 ブラックとラスターが、同時に剣を振って体液を振り落す。
 どちらの剣も鍛冶師が丹精込めて打った剣だからか、振り落すだけですぐに綺麗になった。いや、そんな剣を使いこなす二人も凄いんだろうけど、あの、あのさ。

「私が拘束した獲物を倒しておいて、よく胸を張れますねえ。……まあ、これで一級以上の木の曜術師が戦える事は充分解ったでしょう?」
「……ムゥ……一匹か……やはり土の曜気があまりないとあの程度だな」

 うん、うん。凄かったよ。
 ブラックは木の曜術も相性が悪いって言ってたのに、すぐに捕えちゃって蜂を逃す事なんて無かったんだもん。さすがはアドニスだよ。
 クロウだって、捕まえにくい土の曜気であれだけ大きくて鋭い土の塊を出現させるなんて普通の奴じゃできっこないだろう。本当に凄い。
 でもさ、あの……。

「ツカサ君っ、見てくれた~?! ねーっ、僕凄いよねー!」
「ツカサ、華麗で優美な俺の剣が一番美しかっただろう。遠慮なく褒めて良いぞ」
「まったく……。木の曜術の素晴らしさすら解らず自画自賛とは、本当に困った人達ですねえ、ツカサ君」
「オレも一匹仕留めたぞ。ツカサ、どうだ」

 うん、凄いよ、四人とも凄いよ。でもさ。でもさ。

 一瞬で敵を倒すのって普通チート持ってる異世界人の役目じゃねえんですか!
 なんでお前らが活躍しちゃうんだよおおおおちくしょおおおお!!

 いやもう実際強いから仕方ないけど、仕方ないけどね!?

 でもこっち見ないで! キラキラした目でこっち見ないでったら!
 もうこれ、俺いなくてもいいのでは。こいつらだけで調査出来るんじゃないの!?

 ああもう自分のレベルの低さが悲しくなるから、頼むからそんな純粋に「凄い? ねぇ凄い!?」て期待するような目を向けるのはやめてくれぇ……。
 つーかこの場合俺何なんだよマジで。
 褒め係? 褒め係なの?
 別に褒めるのは良いんだけど、あの、頼むから俺にも活躍させて……。














※ちなみに曜術師だけのパーティーはこれの超険悪版になります
 ツカサがいるからみんな一応連携しているだけで
 いないとバラバラに戦うのでチームワークも何もあったもんじゃないです
 
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