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イスタ火山、絶弦を成すは王の牙編
10.下手に取り繕うと危ない事になる
しおりを挟む※遅れた上に進んでないです…:(;゙゚'ω゚'):
「おい、明日探索に行くんだぞ! 冗談はよせ!」
「今までだってセックスした後すぐに冒険してたじゃない! 大丈夫大丈夫、ねっ、一発だけヤらせてよツカサくぅ~ん」
「わーっ脱がすなァ!! くっ、クロウ助けてっ」
この部屋にはクロウもいるんだぞ、と言わんばかりに俺は助けを求めるが、クロウはと言うと、何故かむすっとしたような顔をしてこっちを見ているだけで。
どうしてそんな顔をするのか解らず困惑していると、ブラックは業を煮やしたのか俺の服を強引に脱がし始めた。必死で脱がせまいとするが、それが成功しているなら俺はそもそもベッドに組み敷かれることも無い訳で。
結局、抵抗虚しく上着はスポッと脱がされてしまった。
「ちょっ、もう、駄目だって、薬作ってる途中なんだってば……っ!」
「じゃあ余計にセックスする機会が減っちゃうじゃないか。折角もう我慢しなくてもよくなったのに、これ以上おあずけされたら僕の身が持たないよ!」
「ち、ちっとの期間くらい我慢出来んのかお前は!」
て言うか、そもそも今はえっちしてる場合じゃないだろうが! なんでこんなタイミングでサカッてくるんだよお前はー!
ちくしょう、もうこうなったら徹底抗戦だ。
ズボンと腹の間に手を突っ込んで俺の最後の砦を奪おうとするブラックに、必死の思いで抵抗する。相手の手は大きくて力も強いが、両足を閉じて踏ん張り、更には手で上にあげようとすれば、なんとか対抗できた。
相手も「力が入り過ぎて俺のズボンを破かないように」と考える程度にはまだ理性が残っているからか、強行突破と言う所までは焦ってはいないようだった。
これならゴネてたら押し通せるはず……それにクロウの助力さえあれば、ブラックも完全に引いてくれるかもしれない。つーか、俺はアンアン喘いでるヒマなんて無いんだってば。薬がまだ出来てないなんてことになったら、アドニスに何を言われるか解ったもんじゃないんだぞ。
それにラスターだって仕事をしろって怒るかも知れない。
何にせよ、このままえっちしたら絶対ロクな事にならないっての!
「クロウ頼むっ、助けて!」
「しかし、邪魔をすると怒られる……」
「俺が怒らせないから頼むー!」
不満げな顔でしょんぼりと耳を伏せるクロウに必死で助けを求めると、ブラックは俺のズボンをぐいぐいと引き下げようとしつつ、頬を膨らませてぶーたれる。
「ツカサ君ひどいっ、恋人であろう僕とのいちゃいちゃちゅっちゅなセックスの時間を自ら引き裂こうだなんてっ」
「だーかーらー! 今は駄目なんだって!! アドニスにお小言言われる俺が見たいのかお前はー!」
「それはー……あのクソ眼鏡のこと殺したくなるから嫌だけどぉ……」
俺のその心配事には流石に「どうでもいい」とは言えなかったらしく、ブラックはズボンを降ろそうとする手の力を緩める。
たぶんこの場合は、俺が怒られるのを見るのが嫌なんじゃなくて、俺とアドニスが二人でギャーギャー言い合ってるのが気に入らないだけだろう。しかし、結果的にはどちらでもいい。これならもうひと押しすれば……。
「な、なあブラック。俺だってさ、その……お前のことを何が何でも拒否したいってワケじゃないんだぞ?」
「ホント……?」
わざとらしくションボリして、上目遣いでこっちを見て来る無精髭のオッサンに、俺は内心ツッコミを入れたくなりながらも真剣な顔で頷いてやる。
「ホントだって。たださ、俺達は一刻も早くエメロードさんの呪いを解かなきゃいけないだろ? え……えっちは、その……いつだって、出来るんだし……だったら、い、今じゃ無くたっていいだろ?」
「えー? 本当に後でやってくれるぅ? うーん怪しいなぁ。ツカサ君ってウソつく時は饒舌になるからなぁ」
「んんっ? そ、ソウカナー?」
ま、まさかそんな事は。
いやでもそうなのかな。言われてみれば話に整合性を持たせるために考えながら色々と喋っちゃったりしてるかも……い、いや、騙されてはいけないぞ。そんな事は無いはず。ブラックの野郎、俺を迷わせるトラップをしかけたな。
その手には乗るもんか、俺はいつだって饒舌なんだからな!
「とか言ってツカサ君冷や汗かいてるけど」
「ぐぬっ、そ、そんなワケ……」
「あるじゃないか。ねぇツカサ君、しようよぉ……。僕もう欲求不満でズボンにシミつけながら火山を探索するような事になっちゃうよぉ~」
「お、お前なあ!」
そんなバカな事、いくらなんでも…………いや、コイツならやりかねん……。
性春まっさかりな俺よりも性欲が底なしの絶倫大魔王なんだ。これ以上焦らしたらそんなみっともない事になりかねない。
なんせ、ブラックはどうでもいい奴らだらけの所では、マナーなんてお構いなしな奴なんだ。さすがに街の大通りでそんな事は避けるだろうけど、ダンジョンなどの人がいない場所なら、自由気ままに股間にテントを張ってたって不思議ではない。
そんなの、またアドニスやラスターに「駄目中年だ」って言われる元じゃないか。
それは絶対に駄目だ!!
ブラックは恥ずかしくなかろうが俺が恥ずかしいし、第一、その……そんな恥ずかしい恰好して、ラスター達にグチグチ言われるブラックなんて見たくないし……。
だって、そりゃ、ブラックは……恋、人……なんだからさ。俺だってブラックには格好良い姿でいてほしいっていうか、そんなブラックを見て欲しいって言うか、他の奴に貶されたらムカツクっていうか……んん゛っ、ゴホン。とにかくヤなんだよ!
だからそれだけは絶対やめさせなければ。
でもシてる時間は惜しいし、シャラコ草がちゃんと戻ってるのか知りたいし。
となると……回避方法はもうアレしかないような……。
…………し、仕方ない……背に腹は代えられないんだから。
「ねー、ツカサく~ん」
ズボンをグイグイひっぱりながら俺に甘えた声を出すブラックは、至近距離で俺をじいっと見つめて来る。その顔はもう既に蕩け始めていて、俺に拒否されるとか全く考えてない顔で……。
「ブラック……」
このばか……。そんな顔されたら、言いにくいだろうが。
……でも、クロウも見てるし、恋人なら、尚のことぴしゃりと突っぱねるのも大事だと思うし……ああもう、仕方ない。どうせ恨まれたって俺が一人で泥を被るんだ。
ちゅうちゅうと頬に吸い付いて、ちくちくした無精髭だらけの頬を擦りつけて来るブラックに、胸がぎゅうぎゅうと痛くなりる。でも俺は必死に理性でこらえて相手の大きな肩を押し返そうとした。
「だ、だめ……今は、駄目だって……っ、頼むから……」
「ツカサ君……っ。あぁ……ちょっと汗かいてる? たまんないなぁこの匂い……」
そんな事を言いながら、ブラックは俺の首筋に顔を移動させて来る。
ウェーブがかった髪がふわふわと纏わりつくようでくすぐったい。思わず気が緩んでしまいそうになるけど、でも、それではいけないと俺はなんとか口を開いた。
「え、えっちじゃなくて、抜くの……っ、抜くのは口でも手でも手伝ってやるから、今日は勘弁して……っ! 今日中に薬作らなきゃ駄目なんだってホントに!」
そう言いながら必死でブラックを見やると、相手はちょっとムスッとしたような表情をして俺を見返していたが……やっと俺の立場を解ってくれたのか、大きな大きな溜息を吐いて、鼻先まで顔を近付けて来た。
「ホント? 僕のしたいようにしてくれるの?」
「あ、後でな……でもえっちすんのは駄目だぞ、尻は使わないからな」
「じゃあ……今は我慢するよ……。でも、薬を作り終わって夕食も食べたら、今夜は僕の部屋で一緒に寝ようね? そうじゃないとうんって言わないよ」
「わ、解った……」
そのくらいは譲歩せねばなるまい。
つーか、何で俺の方が譲歩しなきゃ行けないんだよと思ってしまうが、しかし俺とブラックの力量差を考えたら俺が下手に出ない訳には行くまい。
どんなに理不尽でもこうするしかないのだ。あれ、これなんて全方位罰ゲーム。
「んじゃまあしょうがないか……ふ、ふふ、夕食まで待つよ……」
「何故嬉しそうなんだ」
今までの攻防をハタから見ていたクロウが、やっとツッコミを入れる。
しかしブラックはニタニタした顔を崩さずにベッドを降りて眉を上げるだけで。
どう見ても何かよからぬことを企んでいる顔だったが、約束してしまった手前最早どうすることもできない。ブラックが何にニタニタしているのかは解らないが、もうこうなったら腹をくくろう……時間が出来ただけありがたいと思わねば……。
とにかく、薬を作ってしまおう。
そう思ってベッドから降り、シャラコ草が戻っているかを確認したのだが。
「……うーん……駄目っぽいかもなあ、これ……」
桶の水の中に沈めていたシャラコ草は、最初の枯草のような色から少しは元々の色であろう色彩に戻って来ているが、しかしその色味はとてもくすんでいて鮮やかではない。自ら引き上げてみると、力なくクタッと曲がってしまう有様だった。
うーん……乾物ってこんな感じだったっけ……?
「どうしよう……これちゃんと使えるのかなぁ」
そんな事を言いながら迷っていると、クロウが後ろからアドバイスをくれた。
「曜気の有無を調べてみたらどうだ? オレにはよく分からんが、生気に満ち溢れている植物なら木の曜気があるはずだ」
「あっ、なるほど」
そうか。そういう手が有ったな。
どういう原理かは知らないが、乾物にされたら木の曜気がぎゅっと籠るんだろうか。よく解らないが、一応見てみて損はないよな。
気合を入れて曜気を見ようと思いつつシャラコ草を見てみると……――
「……あっ、駄目だ……全然何にも感じない……」
そもそも植物自体見た目からして死んでるみたいだし、どうしようこれ。
迷っていると、ブラックが妙な事を言い出した。
「曜気が無いならあげればいいじゃない」
なにそのマリーアントワネット的な発言。
思わず振り向くと、ブラックは気楽そうな顔で肩を軽く竦めた。
「だって、ツカサ君は曜気を与えられるんだろ? 草だって生やせるし、だったらその植物にも曜気を与える事だって可能なんじゃないのかい」
「あ……確かに……」
そう言えば俺、オーデルでは似たような事をやってたな。
生気が無い土や植物に曜気を流して蘇らせたなんて言うチート能力持ちらしい事をして、ちょっと鼻高々だったわけで……。だったら、今だってやってやれない訳じゃないだろう。
うむ、じゃあやってみるか。
「えーと……確か、水の曜気、木の曜気、大地の気……だっけ……」
皇帝が住む彩宮・ゼルグラムでは、木の曜気と大地の気だけで植物を蘇らせたんだけど、あの時はそれほど完璧では無かったように思う。
たしか、水の曜気でもあればよかったんじゃって考えていたはずだ。
それを考慮して、今度はそれらを三つ同時に流してみる。
……にしても難しいなコレ。三つ同時ってちょっとどう考えればいいの。
俺は並列思考なんてスキルは持ってないし、えーとえーと……そ、そうだ、まずは大地の気を籠めて安定させて、それから曜気を流し込んだらいいんじゃないか?
三つ同時は頭が付いて行かなくても、一つと二つならなんとかやれそう。
「よーし……」
まずは、手に持ったシャラコ草全体に大地の気が行き渡るようにイメージしつつ、力を籠める。すると、俺の両腕にはすぐ金色の光の蔦が何本か絡みついて来て、その蔦の先端がシャラコ草に触れてぐるぐると巻き付いて行った。
……今思えば、パワー的なものが光の蔦っていう視認できる物体で示されてるのは解りやすくて良いよな。イメージの補助にもなるし、これなら曜気を籠めるのも簡単に出来そうだ。
大地の気を保持しながら木の曜気を加え、次にゆっくりと水の曜気を加えて行く。さすがに三つとなると腕がじんじんと痛くなってきて、疼くような痛みが肌の下からじわじわと俺を苛んで来るが、今更後には引けない。
いつのまにか額に汗をかいているのに気が付いたが、俺は掌の上のシャラコ草に命が戻るようにとずっと曜気を注ぎ続けた。
そして、どのくらい経ったのか……恐らく、数分も経っていないと思うのだが……目の前の元気が無かったシャラコ草が、急に自力で淡い光を発し始めた。
「おっ?」
「なんだ、光ってるぞ」
この光はブラックとクロウも見えたようで、ガタッと背後で音がする。
ということは……成功したのかな……?!
そう思った瞬間一気に力が抜けてしまい、光の蔦が霧散してしまったが……目の前のシャラコ草は光り続けていた。
いつの間にか葉はつやつやと光っていて、スイセンのような形の花々は全て鮮やかな薄紫色と水色の混ざった色を取り戻している。なにより……シャラコ草の花弁は半透明で透き通っているようで、とても綺麗だった。
うおお……もしかしてこれが本来のシャラコ草……!?
「うわー、ほんとに凄いねツカサ君……乾物を元に戻しちゃうなんて」
「まさか出来ると思わなかったぞ」
「お、おい、口から出まかせだったのかよ!!」
ひどいこのオッサン達!
さては失敗しても絶対に責任取らなかったな!?
でもまあいい、これでシャラコ草は元に戻った訳だ!
よーしこれでちゃんと調合が出来るぞー、と思ったら。
「あ、あれ?」
急にシャラコ草が枯れ始めて、その枯れ草からコロコロと綺麗な乳青色の種が二つ三つ転がり出て来た。
あれ。なにこれ。なんで種が出て来るの。
困ってしまって固まっていると、横からブラックが覗きこんで来た。
「……もしかして、元気にしすぎて種を作って枯れさせちゃったってことかな?」
そ、そんなバカな。
元気にさせ過ぎて命を全うさせちゃうなんて事あるの?
いやでも実際にそうなっちゃったし、俺は種と枯草を持ってるわけだし……。
「ううむ……ツカサの黒曜の使者の力も全てが上手くいくという訳ではないのだな」
これにはクロウも困惑していて、俺もさもありなんと思いながら肩を落とす事しか出来なかった。
ああ、これじゃもう、どっちにしろアドニスを呼ばなくちゃ……。
こうなってしまっては、俺にはどうにも出来ないもんな。だって、種からでも薬が出来るのかどうかは俺には判らないし、これ以上貴重なシャラコ草を消費してしまう訳にもいかないんだから。こういう時は独断で動くより、上の人の指示を待った方が言いに違いない。
はぁ……にしても憂鬱だなぁ……。
絶対アドニスにチクチク言われるんだろうなぁ……。
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