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イスタ火山、絶弦を成すは王の牙編
事前準備は念入りに2
しおりを挟む※また遅れまして申し訳ない…_| ̄|○
まずは薬屋だ。
凝り性な設定のゲームだと、火山地帯では時間経過によって火傷と言う継続ペナルティが付く事が有るが、この世界でも大体似たような事が起こるらしい。
炎の曜気の多い場所は非常に発火しやすく、それでいて暑苦しい上に体の内部から焼ける事も有る危険地帯になってしまう。砂漠の気候にも似ているが、火山ではそれに加えて「曜気欠乏」という症状が起こるのだそうな。
簡単に言えば脱水症状みたいな物で、欠乏は……多量の炎の曜気に押されて、体内の曜気が出て行ってしまい、そのせいで極度の疲労状態になったり具合が悪くなったりすることもあるんだとか。
木の曜気や水の曜気が満杯のはずの森や湖ではそんな事なんて起きないんだけど、曜気の中では最も攻撃的だと言われる炎の曜気は、他の曜気に干渉してしまうことが有るんだとか。土の曜気もそこまで攻撃的じゃないけど、長時間洞窟の中や土の中にいると、息苦しくなったり他の属性の人は元気が無くなっちゃうんだって。
俺の世界で言い換えれば、酸素欠乏とかそういう感じなのかな。
人の体調を害するのは黒籠石や「魔素」だけだと思ってたけど、曜気も多すぎると悪影響になったりするんだなぁ……。
まあアイス食い過ぎたら腹壊すってのの過激版みたいなもんだろう。
とはいえ死ぬことも有るんだから、そこはちゃんと用意しないとな。
「ああ、ここだよ。ここが一番薬の材料が揃ってたと思う」
さきほどブラック達に教えて貰った事を反芻しながら付いて行くと、目の前の背中が急に立ち止まった。ここがそのお店なのかな。どこに着いたんだろうかと前に出ると、そこには……商店街によくある日よけを店先に伸ばして品物を並べるスペースを精一杯にのばしている、こじんまりとした店が見えた。
パッと見は乾物屋さんっていうか、草専門の八百屋さんみたいな感じなんだけど、本当にここが一番の品揃えなんだろうか。
いや、ブラックの情報を疑ってる訳じゃないんだが、どうも俺の世界のお店みたいでデジャブを起こしてしまってどうしようもない。この店に大根とか売ってたらどうしよう。安かったら買っちゃうかもしれない……。
「ツカサ君どうしたの」
「あ、い、いや。なんでもない。ここなら色々あるんだな! さあ行こうか!」
気を取り直して入店だ。
とりあえず、店主のちょっと魔女っぽい鷲っ鼻のお婆さんに相談して、回復薬などの定番素材以外の素材を出して貰う。
アドニスから提案された薬を作るには、ちょっと特殊な材料が必要だったのだ。
「ええと……シズクタケと、モドシタケ……それにシャラコ草と……あとはクラゲ粉だね。アンタ運がいいねえ、全部在庫があるよ。シャラコ草は最近使う奴もめっきり減っちまったから、もう在庫があるかどうかすらもすっかり忘れてたんだけどねえ。しかし買うのは良いけどね、干したものだから使い物にならないかも知れないよ?」
「あ、それは大丈夫です。でも、そんな事有るんですか?」
薬の材料って大体が干した物だったりするけど、何か不都合が有るんだろうか。
今更な事が気になって問いかけると、お婆さんは大きな紙袋に俺の注文した品を入れながら、丁寧に説明してくれた。
お婆さんが言うには、シャラコ草は大体が干した状態で流通するのだが、長い時間干したままで放置しておくと、薬効が薄れてしまうのだそうな。
そういう要注意の薬草はいくつかあるらしくて、俺が熱心に聞いていたのを好意的に受け取ってくれたのか、お婆さんは今思いつく数種だけだがと言いながら、何個か教えてくれた。俺はそう言う事などにはまったく思い至らなかったので、お婆さんに思わず強く感謝してしまった。
そっか、そうだよな。状態が変化すれば弱まるものだってたくさんあるんだ。
食べ物だって干したら旨味が増す物ばかりじゃないんだから、そう言う事もちゃんと勉強して行かないとな……。うーん、でも、こう言うのってやっぱり薬師の本とか学校とかで教えてくれるんだろうなあ。
異世界でも学校に行くなんてゲンナリするけど、魔法の薬を作るための勉強なら、俺でも耐えられるかなあ。とはいえ、専門的な部分になると逃げちゃいそうだが。
アドニスに教えて貰えたら家庭教師みたいで良いんだけどなー。
しかし今はそんな事を考えている訳にはいかない。俺達は早く火山に行かねば。
と言う訳で、お婆さんにお礼を言ってオマケなんかも付けて貰っちゃったりして、俺達はその足で道具屋に走った。
ここで購入するのは、ロープや耐熱性の鉤。それに炎に溶けにくい蝋燭など。炎の曜気が満ちる火山のダンジョンに入る場合、普通の蝋燭では濃い曜気の影響ですぐに溶けてしまうので、糸に灯された炎以外では解けないように調合された蝋燭を持って行かねばならないのである。
松明って手も有るんだけど、さすがに松明を燃やし続ける訳にはいかないし、それにいざって時にすぐ消せないと困るからな。
ブラックがいつも洞窟で灯してくれる【フレイム】も、一歩間違ったら曜気を遣い過ぎて攻撃呪文になってしまうので、逆に火山ではおいそれと使えないのだ。
うーん……実際にアタックするとなると、火山のダンジョンって意外とキツいんだな。縛りプレイは嫌いじゃないけど、ここまで物入りだとは思わなかった。
まあ、氷のダンジョンだって沢山用意するものが有るんだし、じゃあ反対の火山のダンジョンが手ぶらで良いなんて事はないよな。でもチート小説の火山って大抵竜と戦うイベントとかぐらいしかないから、あんまり色々考えなかったなぁ……。
アドニスやブラックが言うには、火山には他では見られない素材や植物も多く生息しているので、余裕が有れば取って行くといいとは言っていたけど、ここまで大変だったらなんかそんな余裕もなさそうだ。
まあ、今も買ったもので両腕が塞がってて余裕が無いんですけどね!
防具屋でも耐火性のローブを五着買ったし、とにかく荷物がかなり増えてしまった。後で荷物を整理して持って行く物を厳選するから、別に今この大荷物になっても構いはしないんだけど、さすがに両腕にデカい紙袋二つは持ちにくい。
困ったなあと思っていたら、ブラックとクロウが二つともとってしまった。
…………いや、うん。
まあ、二人からしてみれば、普通サイズの紙袋なんでしょうけど。軽々持てるんでしょうけども。でもこう言うのって、女の子がして貰う事で……いや、もう考えないようにしよう。荷物を持って貰って俺は楽が出来たからいいんだ。うん。
とにかく早く宿に帰って薬を調合しないとな。
ってな訳で、俺は早速部屋に籠って調合を始めたのだが……。
「なんで二人とも俺の部屋に居るの」
「えー、だってヒマだもーん。それならツカサ君のお尻みてたいよぉ」
「オレもツカサの調合する所がみたい」
「……静かにしてろよ」
クロウはいいとしても、ブラックの動機が不純で心配だ。
まあ、調合している途中でちょっかいを出しては来ないだろうけど……。
ここで薬品を零して床を変色させたら凄い罰金を払わされそうだから、ブラック達にも注意を配りながら薬を作らないとな。
「しかしツカサ君、今から何を作るの?」
ベッドに座って寛いでいるブラックが首を傾げるのを横目で見ながら、俺は調合セットを取り出しつつ答える。
「えっと……【斥炎水】っていう飲み物だよ」
「せきえんすい?」
「アドニスが言ってたんだけどさ、炎の曜気が充満した場所で長時間活動するには、その炎の曜気を拒む体力が無いといけないんだって。だけど、属性や体質によっては自力でそうする事が難しい人もいるから、薬とかで効果を付与して、誰もが外の曜気の干渉を受けにくいようにする事が必要で……」
「なるほど、それがセキエンスイという薬なのだな」
二人とも納得してくれたらしい口ぶりに、俺は頷いた。
ようするに、某ゲームのクー○ードリンクとか、使ったら力が強化されるポケットに入ったモンスターが使うあの薬品とかそういう感じのもんだ。
もっと簡単に言うならドーピング剤だな。斥炎水を飲めば炎の曜気を寄せ付けないほど元気になるって言うことだ。
でも、その作り方は少々厄介で、アドニスが言うにはかなり昔の時代の薬だって事だったから、多分今は作られてないっぽいんだよな。
アドニスは故郷の妖精の国にある古い書物などを読んでいるから、色々な薬の作り方を知っているけど、他の薬師は学校で習ったものや自分で開発した薬しか作らないらしいし……もしかしたら、これも失われた技術って奴なのかも。
それを考えると何だかワクワクしてしまったが、そんな場合では無いと気合を入れ直し、俺はまず回復薬の調合を始めた。
久しぶりに薬を調合するけど、回復薬を作る手順は簡単だから安心だ。それに手がやり方を覚えているのか、丁寧にやってもすぐに机には瓶がずらずらと並んでいく。どれも綺麗で透明な青色をしていて、俺の調合の腕は絶好調だ。
最初は「見ているだけ」だったブラック達も、回復薬が次々と出来上がって来ると気を効かせてくれたのか、瓶を別の場所に移すのを手伝ってくれた。
うーん、気遣いが嬉しい。やっぱこういう時は仲間がいるとありがたいなあ。
サクサクと三十本ほど回復薬を作って、ちょっとはカンを取り戻したかなと思った俺は、ついに【斥炎水】の調合を始めた。
材料は先程薬屋で購入した水色のシズクタケに、緑色のモドシタケ。それと干したシャラコ草に、ブランデーとクラゲ粉。あとはアマクコの実のドライフルーツだ。
まずはシズクタケを細かめのぶつ切りにして、アマクコの実と一緒に瓶に入れる。これはあとで使うのでしばらく放置して、モドシタケの軸を切ってカサの表面の緑色の部分を丁寧に剥ぎ取る。モドシタケは普通に食べたらその名の通りに胃の中の物をリバースしてしまうという恐ろしいものだが、その成分の多くは緑色の表皮の部分に多く含まれていて、ここを取り除けばかなり軽減できる。
モドシタケの真価は、この中の淡黄色をしたバナナババロアみたいで美味しそうな、ゼリー状のぷるんとした部分だ。
この部分には「毒を排出する」という効果があり、薬師の多くはこれを使って様々な毒消しの薬などを作ったりしているらしい。毒も薄めれば薬って奴だな。
前にアコール卿国で採って来た時は「こんな酷いキノコを何に使うんだ」と思ったけど、教えて貰うとなるほどって思っちゃうからちょっと悔しいなあ。
「えーと……次はシャラコ草を水でもどして……」
干物になったシャラコ草は、剣の刃先のような葉っぱをつけた水仙っぽい花だが、しかし今は藁の色よりも濃い枯れ色になっていて、なんというか……薬効があるのかどうか不安になってくる出で立ちだ。
お婆ちゃんが言うにはシャラコ草は水に漬けていたら戻ると言うんだけど。
「…………いつ戻るのかな……」
「ツカサ君もう調合しないの?」
「しないのか?」
桶いっぱいの水にシャラコ草を浸して腕を組む俺に、ブラックとクロウが無邪気な口調でそんな事を言う。そんな風に言われると、つっけんどんに返す事も出来ない。俺は二人に振り向いて肩を竦めた。
「シャラコ草がヒモノの状態から元に戻らないとムリなんだよ。……でも、まだ戻らなくってさあ。この分だともう少し待つ事になるかも」
動きが無い、と言う訳じゃないんだろうけど……非常に進みが遅い。
この待ち時間、サイズが大きいエロ画像をダウンロードしてる時みたいだ。もしくはパソコンでネトゲを始めようとした時に基本素材をダウンロードしている時レベルの遅さ。分かる人がいるのかどうかレベルだかとにかくもどかしい。
だけど動かすワケにもいかないしなあと考えていると……ブラックが、ベッドから俺の方に飛び込んできて、そのまま俺の手を強引に引いた。
「うわっ!? な、なにすんだよ!」
「そんなに待ち時間があるんならさ~、折角だから楽しい事しようよぉ」
「楽しいこと? なに、遊ぶの?」
「んも~。ツカサ君たらとぼけちゃって」
なにをとぼける必要があるんだと顔を顰めると、ブラックは俺を強引に抱きこんでベッドにダイブしやがった。
寝心地が良いマットレスに沈んで思わず泡を食っていると、あれよあれよという間に俺は組み敷かれ、ブラックに圧し掛かられてしまっていて……って、おっ、おい。お前まさかここでスケベな事する気じゃ……。
い、いや、落ち着け。そんな事はない。ないはずだ。
俺はそんなスケベ脳じゃない。きっとこれは何かの遊びなんだ。きっとそうだ。
しかし、見上げたブラックは、顔に陰を掛けながらニタニタと笑っていて。
「楽しい事っていったら……セックスに決まってるでしょ……?」
そう言うブラックに……俺は、思いっきり真顔になってしまった。
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