896 / 1,264
イスタ火山、絶弦を成すは王の牙編
3.国王らしくない国王と1
しおりを挟むしかし、どうしてローレンさんが裁定員になってたんだ。
もうなんか驚くのも癪なので話題を変えてみると、意外にも二人はすんなりとその理由を応えてくれた。
ルガール国王が言うには、監察官であるローレンさんは貴族でありながらも権威はあってないようなもので、貴族としての権利が約束されている代わりに、国政などには口を挟めない契約になっているらしい。
しかし、その代わりにローレンさんはどんな貴族でも不正や悪事を働いていればしょっ引く事が出来るし、王様に直談判も出来る。
つまり、国を動かす権力はないが限定的に力を行使できる立場と言う訳だ。
そのうえ彼は国の中枢で働いている。だから、ルガール国王はローレンさんを選出したらしい。権力が無くとも正義を行使する立場の彼なら、世界協定の一員としても確実な成果を上げられると踏んで。……という、訳なのだが。
「にしても、だったら何で顔を隠してたんです……?」
「私は監査役ではありますが、それと同時に国王陛下の側近でもあるのです。故に、国の機密なども知らない訳ではありません。……そんな者が、従者も付けずに他国で顔や名前を曝していたら、何をされるか解りませんからね。他の裁定員の方々を信用していないとは言いませんが、出来るだけ用心はしておいた方がいいでしょう?」
「ううむ……確かに……」
これにはクロウも納得なようで、顎に手をやりながら深く頷いている。
ブラックもそれ以上何か言うのは無駄だと思ったのか、むくれたような顔で不機嫌に目を細めると、息を吐いて肩の力を緩めたようだった。
「まあ、ややこしい話は置いておくとして……まずは、イスタ火山の件について話をしよう。何やら黒籠石があるかもしれないという話だったが?」
「あ、はい……」
席に座る事を勧められたので、大人しく着席して今までの事を改めて話す。
エメロードさんを昏睡状態の“呪い”から救うには、黒籠石などの材料が必要であるという事と、その黒籠石を出来るだけ早く手に入れたい事。そして……もっとも早期に入手できそうな場所が、イスタ火山から入る事が出来る“黒籠石がちりばめられた道”であるということ……とにかく、隠すことなく全部を国王に話した。
相手は、何らかの手段を使って、ローレンさんからこの話を聞いているだろうが……俺達の話が正しい物であると確認して貰わなきゃいけないからな。
きっちり最後まで話し終えると、相手は腕を組んで椅子にふんぞり返った。
「ふむ……やはり話は確かだったか……。しかし、イスタ火山は以前調査させた事があるが、そのような通路は発見できなかったぞ?」
「黒籠石がそこかしこに埋まった道を通らせるような遺跡ですし、一見して通路だとは解らないように造ってあるんだと思います。前は知らなかったから探せなかったけど、知っている今なら結果は違ってくるかも知れません。だから、調査だけでも許可して頂けないかと……」
「まあ確かに、調べ直さねば判らんことだな……。それに、どこの国でも、国が管理している黒籠石を持ち出すには、様々な手続きと時間がかかる。急ぎであれば、それも仕方あるまいか」
無茶な申し出とは解っているが、しかし俺達の焦りを素直に肯定してくれる国王。解っていた事ではあるが、やっぱり各国が厳しく管理している黒籠石って、そんなに持ち出しにくい物なのだろうか。
「あの……ちなみに、普通に黒籠石が欲しいと国に申し出たら、手に入れるのにどのくらいの時間が掛かります?」
「恐らく一週間はかかるだろうな。最短でも一週間だ。最長は……そうだな、一か月以上になるやもしれん。黒籠石は使い方を間違えば大変な事になるがゆえ、お前達の身辺調査や検査なども行わねばならんしな。そうなると……色々と面倒な事になる」
「は、はい……」
そうだよなぁ。俺は異世界人のうえに黒曜の使者だし、ブラックやクロウだって、脛に傷が無いとは言えない立場だろう。探られて痛い腹なら、できるだけ探られたくない。それはルガール国王も解っているようで、フウと溜息を吐くと肩を竦めた。
「まあ、我々が認知できなかった場所の物であれば、発見した褒美として特例により黒籠石を渡せなくもないが……問題はヒルダだな」
「ああ、あのパーティミルの」
ローレンさんの言葉に、ルガール国王は頷く。
「あれは、黒籠石の事で息子を失った。であるのに、己の領地に黒籠石があると解れば、心中穏やかではあるまい。拒否をするような事はないと思うが……」
その言葉に、俺は顔を上げた。
黒籠石……そうだ、そうだよ。ヒルダさんの夫は、ハーモニック連合国で黒籠石の事を調べていて、その途中でモンスターに襲われて亡くなってしまったんだ。
意地悪国王がこうもハッキリ言うんだから、やっぱトルベールがくれた情報は正しかったって事なんだよな。なら、黒籠石が本当に密輸されていたのか聞きたいけど、聞いちゃっていいのかな。それって国家機密っぽいしなぁ……。
「やっぱり黒籠石の密輸を調べていたのか?」
「ぶっ、ブラック!」
おおおお前っ、人が聞きにくい事をそんなあっさり!
慌てて口を塞ごうとするが、意外にもルガール国王は気にせずに頷いた。
あ、あれ、聞いてよかったの……?
「ヒルダの夫……先代の勇者であるバルクート・パーティミルには、とある組織によって運び込まれていた黒籠石の出どころを調査する任務を与えていたのだ。黒籠石は加工する前ならそれほど害も無いが、加工してしまえば恐ろしい威力を発揮する。そんなものが大量に密輸されているのは、何か悪事を考えている者が居て、その者が不法に意思を持ち出しているという事に他ならない。もしどこぞの国の鉱山から掠め盗られた物なら、その国も黙ってはおるまい? ゆえに調べさせたのだ」
それはトルベールの予測通りだな。
やっぱり国同士の問題に発展しかねないから、唯一自由に動かせる【勇者】を出動させたって感じなのか。でも……バルクートって人は、帰って来る事は無かった。
きっと、ヒルダさんは彼の帰りを待っていただろうに。
「結局、出どころは解らなかったのか」
しょげた俺の隣で、何事も無くブラックが返す。
ルガール国王も、何事も無いかのように言葉を続けた。
「情報を持って帰る前に客死してしまったからな。しかしバルクートが死んでからは、不思議と黒籠石の流入も無くなり、組織も壊滅したようでな……まあ、別の所で動いていたのかもしれんが、ライクネスで悪さをしなければ我々には関係ない。故にこの事は今まで隠しておったのだ。出所不明の危険な道具など、在ると明かした所で争いの種にしかならんからな。他国から持ってこられたものという確かな情報だけを持っていても、そんな事など相手国に報告する程度で我々にはどうにも出来ん」
「まあ、確かに……」
他国で大っぴらに捜査なんて出来ないだろうし、それが唯一可能だった【勇者】が動けなくなったのなら、もう相手国に調査を頼むぐらいしかする事が無い。
色情教の人達みたいなニンジャ的な部隊がいれば別なんだろうけど、万が一それがバレたら、それこそ外交問題っぽくなっちゃうしなあ。
せっかくの平和な世界なんだから、そんな事はどの国でも避けたかっただろう。
……うん、まあ、プレインは置いといて。
「じゃあ、えっと……結局、ウヤムヤで終わってしまったんですね……」
「そう言う事だな。……ヒルダにはバルクートの真の任務は明かしてはおらんが……しかし、息子だけでなく夫もまた黒籠石の因果の餌食になった事を知れば、昏倒せずにいるのは難しかろう。おそらくイスタ火山の事にも心を痛めるに違いない」
「どうにか彼女に知られないように出来ませんか」
切実な思いを込めてルガール国王に問いかけると、相手はううむと唸っていたがゆっくりと息を吐いた。
「……解った、そちらは何とかしよう。すぐに書簡を用意するので、少し待て」
「あ、ありがとうございます」
色々と心配だったが、ルガール国王がなんとかまとめてくれるらしい。
良かった……これで一応はイスタ火山に入れそうだ。
ホッとした俺達の目の前で、ルガール国王は何かに軽く頷くと、ローレンさんを手で招いて何やらごそごそと耳打ちをし始めた。
「ローレン」
「はい」
言いながら、何やら一言二言交わすと、ローレンさんは俺達にお辞儀をして部屋を出て行ってしまった。なんだろう。何か用事を言いつけられたのかな。
不思議に思いながら彼が出て行った扉を振り返っていると、ルガール国王がゴホンと一つ咳を漏らした。
「さて、ここからが本題だ。ツカサ、お前はあの遺跡……【エンテレケイア】で何を見て何を知った? お前が持ち帰った物を教えて貰おう」
そ……そうだ。それを忘れていた。
色々とヤバい話ばっかりだったけど……でも、やっぱり話さなきゃ行けないよな。
俺達をあの遺跡に導いてくれたのは、目の前にいる国王の他にない。
恐らく普通に旅をするだけでは決して辿り着けなかっただろう所に、ルガール国王は目を向けさせてくれたのだ。色々といけ好かない相手だけど……そこにだけは、ちゃんと感謝をしなくてはいけない。
それに、彼は俺の事を異世界人だって知っているんだ。
もしかしたらあの遺跡で聞いた事を話せば、何か新しい情報を教えて貰えるかも。
俺は同意を求めるようにブラックとクロウとアドニスに向き直ると、三人はそれぞれに頷いてくれた。
「……で、では……お話します……」
あの遺跡で、聞いたことを。
→
16
お気に入りに追加
3,610
あなたにおすすめの小説
ウザキャラに転生、って推しだらけ?!表情筋を殺して耐えます!
セイヂ・カグラ
BL
青年は突如として思い出した。イベントで人の波にのまれ転び死んでいたことを、そして自らが腐男子であることを。
BLゲームのウザキャラに転生した主人公が表情筋を殺しつつ、推し活をしたり、勢い余って大人の玩具を作ったり、媚薬を作ったり、攻略対象に追われたりするお話!
無表情ドM高身長受け
⚠諸事情のためのらりくらり更新となります、ご了承下さい。
身の程を知るモブの俺は、イケメンの言葉を真に受けない。
Q.➽
BL
クリスマス・イブの夜、自分を抱いた後の彼氏と自分の親友がキスをしているのに遭遇し、自分の方が浮気相手だったのだろうと解釈してしまった主人公の泰。
即座に全ての連絡手段を断って年末帰省してしまう主人公の判断の早さに、切られた彼氏と親友は焦り出すが、その頃泰は帰省した実家で幼馴染みのイケメン・裕斗とまったり過ごしていた…。
何を言われても、真に受けたりなんかしないモブ顔主人公。
イケメンに囲まれたフツメンはモテがちというありがちな話です。
大学生×大学生
※主人公が身の程を知り過ぎています。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
【完結】ぶりっ子悪役令息になんてなりたくないので、筋トレはじめて騎士を目指す!
セイヂ・カグラ
BL
⚠縦(たて)読み推奨⚠
ひょろっとした細みの柔らかそうな身体と、癖のない少し長めの黒髪。血色の良い頬とふっくらした唇・・・、少しつり上がって見えるキツそうな顔立ち。自身に満ちた、その姿はBLゲームに出てくる悪役令息そのもの。
いやいや、待ってくれ。女性が存在しないってマジ⁉ それに俺は、知っている・・・。悪役令息に転生した場合は大抵、処刑されるか、総受けになるか、どちらかだということを。
俺は、生っちょろい男になる気はないぞ!こんな、ぶりっ子悪役令息になんてなりたくないので、筋トレはじめて騎士を目指します!あわよくば、処刑と総受けを回避したい!
騎士途中まで総受け(マッチョ高身長)
一応、固定カプエンドです。
チート能力ありません。努力でチート運動能力を得ます。
※r18 流血、などのシーン有り
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
愛されなかった俺の転生先は激重執着ヤンデレ兄達のもと
糖 溺病
BL
目が覚めると、そこは異世界。
前世で何度も夢に見た異世界生活、今度こそエンジョイしてみせる!ってあれ?なんか俺、転生早々監禁されてね!?
「俺は異世界でエンジョイライフを送るんだぁー!」
激重執着ヤンデレ兄達にトロトロのベタベタに溺愛されるファンタジー物語。
注※微エロ、エロエロ
・初めはそんなエロくないです。
・初心者注意
・ちょいちょい細かな訂正入ります。
俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~
アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。
これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。
※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。
初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。
投稿頻度は亀並です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる